【投資戦略ウィークリー 2026年7月6日号(2026年7月3日作成)】”投資の後半戦開始、AI・半導体分野からの資金シフトの背景”
■投資の後半戦開始、AI・半導体分野からの資金シフトの背景
- 7月相場がスタートした。12月を決算月とし、毎年の運用成績を問われる国内外の機関投資家、ヘッジファンドにとっては、前半戦(上半期)の運用成績を振り返り、後半戦(下半期)に向けて投資戦略を練り直す時期だろう。昨年末から今年6月末までの騰落率は、日経平均株価が+39%、TOPIX(東証株価指数)が+17%である。AI(人工知能)・半導体株相場を代表する日米の指数である日経半導体株指数とフィラデルフィア半導体株指数(SOX)はそれぞれ現地通貨ベースで、+149%、+101%である。
- AI・半導体関連銘柄は、市場全体の動きに対する感応度(ベータ値)が高く、価格変動リスクが相対的に高い。利益を確定するうえでは、無理にポジションを維持する必要はなく、短期的に大きく値上がりした高ベータの銘柄やポートフォリオを縮小し、バリュー系、ディフェンシブ系といった価格変動リスクの相対的に小さい低ベータ値銘柄の比率を高めていくのが客観的に見て妥当な選択肢となるだろう。現在、米・カナダ・メキシコで開催されている「FIFAワールドカップ2026」でも、前半戦で大きくリードしていれば、後半戦は攻撃的選手をベンチに下げて守備的な選手をピッチに送り込むのが代表チームの一般的な戦術のように見受けられる。それと同じことが投資運用のプロの世界でもある程度は当てはまるのではないだろうか。
- 投資運用の世界では、後半戦は運用担当マネージャーが夏休みや年末年始の長期休暇をとりやすいことも考えると、一般的には前半戦よりも保守的な運用スタンスになりやすい面があるように思われる。しかも、今年は米国の大統領選挙サイクルで2年目となる中間選挙年である。選挙を11月上旬に控え、トランプ米大統領の支持率上昇の兆しが見られない中、4年サイクルの中で相対的に米国株のパフォーマンスが劣るというアノマリー(経験則)もある。早めに含み益を実現し、焦らず、米中間選挙後に期待される「年末ラリー(クリスマスラリー)」に備えたほうが得策と考える投資家も少なくないだろう。
- 日本でも国会の会期終了が近づくにつれ、成長戦略が改めて注目され始めている。焦点となるのは高市政権で初となる経済財政運営と改革の指針「骨太の方針」だろう。6/30に示された案では、2027年度を「責任ある積極財政元年」と位置付け、政策転換を宣言。「日本成長戦略」の「戦略17分野」に選定されている産業・技術領域は、AI・半導体、量子、バイオ、宇宙・航空、海洋・港湾、食料・農林水産業、資源エネルギー(核融合等)、蓄電池・新素材、資源循環(サーキュラーエコノミー)、防衛産業、サイバーセキュリティー、社会インフラ・国土強靭化、サプライチェーン強靭化、物流・モビリティ(自動運転、ドローン等)、医療・ヘルスケア、金融・資本市場である。(笹木)
本日号は、イオンリート投資法人(3292)、日立製作所(6501)、川崎重工業(7012)、Synspective(290A)、YTLコーポレーション(YTL)を取り上げた。


■主な企業決算の予定
- 7月6日(月):トーセイ、薬王堂HD、ネクステージ、ユナイテッドスーパーマーケットHD
- 7月7日(火):サンエー、セントラル警備保障、パルグループHD、サーラコーポレーション、ハニーズHD、わらべや日洋HD
- 7月8日(水):TAKARA & COMPANY、ツルハHD
ベルシステム24HD、アサヒグループHD、ミニストップ、ライフコーポレーション、吉野家HD、エービーシー・マート
- 7月9日(木):MrMaxHD、イオンフィナンシャルサービス、ウェザーニューズ、オンワードHD、キャンドゥ、キユーピー、クリーク・アンド・リバー社、スギHD、セブン&アイ・HD、トレジャー・ファクトリー、ファーストリテイリング、フジ、ローツェ、大黒天物産、大阪有機化学工業、乃村工藝社、三協立山、(米)ペプシコ
- 7月10日(金): イオン、イオンファンタジー、イオン北海道、オーエスジー、コーナン商事、コシダカHD、ジンズHD、ダイト、チヨダ、ディップ、ベルク、ヨンドシーHD、リソー教育グループ、リンガーハット、安川電機、技研製作所、古野電気、進和、竹内製作所、北興化学工業、(米)デルタ航空
■主要イベントの予定
- 7月6日(月):
・日銀の国債買い入れオペ
・米S&Pグローバルサービス業・総合PMI (6月、確報値)、米ISM非製造業総合景況指数(6月)、ユーロ圏小売売上高(5月)、ユーロ圏PPI(5月)、独製造業受注(5月)
- 7月7日(火):
・財務省30年利付国債入札、毎月勤労統計-現金給与総額・実質賃金総額・ 家計支出(5月)、14:00 景気一致指数・先行CI指数(5月)
・米3年債入札、北大西洋条約機構(NATO)首脳会議(トルコ・アンカラ、8日まで)
・米貿易収支(5月)、独鉱工業生産(5月)、中国外貨準備高(6月)
- 7月8日(水):
・08:50 貸出動向 銀行計(6月)、08:50国際収支:経常収支・貿易収支(5月)、14:00 景気ウォッチャー調査 現状判断・先行き判断(6月)
・米FOMC議事要旨(6月16、17日開催分)、米10年債入札、ポーランド中銀とルーマニア中銀とニュージーランド中銀が政策金利発表
・米卸売在庫 (5月)、米消費者信用残高(5月)
- 7月9日(木)
・財務省5年利付国債入札、日銀支店長会議・地域経済報告(さくらリポート、7月)、08:50 対外・対内証券投資 (6月28日-7月4日)、08:50 マネーストックM2・M3(6月)、11:00 東京オフィス空室率(6月)、15:00 工作機械受注(6月)
・米30年債入札、米ニューヨーク連銀総裁が討論会に参加、米ダラス連銀総裁がパネル討論会の進行役を担当、ECB議事要旨(6月開催分)、ユーロ圏財務相会合(ユーログループ、ブリュッセル)、ペルー中銀が政策金利発表
・米新規失業保険申請件数 (7月4日終了週)、米中古住宅販売件数 (6月)、中国CPI・PPI (6月)、中国経済全体のファイナンス規模、新規融資、マネーサプライ(6月、9-15日に発表)
- 7月10日(金):
・08:50 国内企業物価指数(6月)
・EU財務相理事会(ブリュッセル)
・独CPI (6月)
(Bloombergをもとにフィリップ証券作成)
※本レポートは当社が取り扱っていない銘柄を含んでいます。
■米S&P500の平均月間騰落率
米S&P500の月別平均騰落率には歴史的な季節性のアノマリーが見られる。2・8・9月が相対的に弱く、4・7・10・11月が相対的に強い月として知られる。7月が強い要因としては、2Q(4-6月期)決算発表に加え、6月における四半期末調整後の回復力が挙げられ、「サマーラリー」に結び付きやすい。一方で、その後の8月は取引参加者が減る「夏枯れ相場」となり、9月は夏休み明けから復帰した運用担当者が四半期末および米財政年度(10月開始)期末要因からのポートフォリオのリバランスや利益確定売りが出やすいことから弱い月になりやすい面がある。
「セル・イン・メイ」というウォール街の有名な相場格言・アノマリーも、「5月に株を売り、秋(9月頃)まで市場から離れろ」というのがもともとの意味である。
【米S&P500の平均月間騰落率~7月は2Q末調整後の回復力と2Q決算発表】

■6月日銀短観の業種別業況判断
日銀が7/1に発表した6月全国企業短期経済観測調査(短観)で大企業製造業の景況感が民間エコノミストの悪化予想に対し、5ポイント上昇のプラス22とまり5四半期連続で改善した。一方、先行きの景況感がプラス17と、5ポイント悪化。
大企業・製造業のうち先行きの景況感が足元(最近)を上回っている業種は、石油・石炭製品、窯業・土石製品、繊維、生産用機械、鉄鋼、非鉄金属の6業種である。窯業・土石製品におけるセラミック、繊維におけるガラス繊維、生産用機械における半導体製造装置、非鉄金属における光ファイバー(電線・ケーブル)は、半導体やデータセンターといったAI(人工知能)関連需要の拡大が加速していることの追い風を受けて先行きの景況感改善につながっている。
【2026年の主体別売買動向~ナフサ問題や半導体製造向けの素材・材料】

■日経平均株価の平均月間騰落率
日経平均株価の平均月間騰落率を見ると、米S&P500と異なり、6月が相対的に強く、7月が弱い傾向となっている。6月に強い要因としては、株主総会シーズンで配当金の支払いに対する再投資が見込まれることに加え、株主総会に合わせて自社株買いの発表や増配などの株主還元策の発表が増えることが挙げられる。株主還元の強化が海外投資家の資金流入を促しやすいことも6月の日本株買いに寄与しているとみられる。
7月に弱い要因としては、ETF(上場投資信託)決算に伴う分配金捻出の売り需要や株主総会シーズン関連の買い要因に対する反動としての利益確定売りに加え、1Q(4-6月期)決算の本格化で業績下方修正や保守的なガイダンスが出やすい時期であることなどが挙げられる。
【日経平均株価の平均月間騰落率~7-9月はパフォーマンスがよくない月】

■銘柄ピックアップ
イオンリート投資法人(3292)
124400 円(7/3終値)

・小売大手イオングループをスポンサーとするJ-REIT。大規模商業施設80%以上、その他商業施設20%以下、物流施設10%以下のポートフォリオ方針。海外でもマレーシアの商業施設2件を所有。
・3/17発表の2026/1期(8-1月)は、営業収益が前期(2025/7期)比1.2%減の213億円、営業利益が同2.6%減の79億円、1口当たり分配金(利益超過分配金を含む)が同0.4%減の3400円。2025年2月に取得した底地5物件の収益寄与、および改修工事等に伴う賃料増額などで内部成長を図った。
・2026/7期(2-7月)会社計画は、営業収益が前期(2027/1期)比横ばいの213億円、営業利益が同11.9%減の70億円、1口当たり分配金(利益超過分配金を含む)が同0.3%減の3390円。7/2終値で2027/1期までの会社予想分配金利回りが5.34%、NAV(純資産価値)倍率が0.76倍。イオングループ各社を借主としたマスターリース契約に基づく固定賃料により継続して賃料収入を確保している。
日立製作所(6501)
4615 円(7/3終値)
・1910年設立。「デジタルシステム&サービス(DSS)」、「エナジー」、「モビリティ」、「コネクティブインダストリーズ(CI)」の4セクターを成長分野と位置付ける。デジタル技術を活用する「ルマーダ」を推進。
・4/27発表の2026/3通期は、売上収益が前期比8.2%増の10兆5867億円、調整後EBITAが同21.0%増の1兆1992億円。調整後EBITA率が1.3ポイント上昇。事業別調整後EBITAはDSS(売上比率27%)が14%増、エナジー(同30%)が65%増、モビリティ(同12%)が14%増、CI(同30%)が6%増。
・2027/3通期会社計画は、売上収益が前期比4.8%増の11兆1000億円、調整後EBITAが同8.3%増の1兆4200億円、年間配当は未定。事業別調整後EBITAでは、エナジーが送電網設備の堅調な需要の継続と受注残の着実な売上転換により15%増の5000億円を見込んでいる。パワーグリッド関連の海外同業他社(GEベルノバ、シーメンスエナジーなど)と比べて株価の出遅れ感が目立っている。
川崎重工業(7012)
2820 円(7/3終値)
・総合重機大手。1878年に川崎正蔵が造船所を創業。航空宇宙システム、車両、エネルギーソリューション&マリン(ES&M)、精密機械・ロボット、パワースポーツ&エンジン(P&E)の5事業を主に展開。
・5/12発表の2026/3通期は、売上収益が前期比8.5%増の2兆3112億円、事業利益が同1.4%増の1451億円。受注高は4%増の2兆7391億円。主なセグメント別事業利益は、航空宇宙システム(売上比率27%)が12%増の624億円、ES&M(同19%)が24%増の550億円。P&E(同29%)は53%減。
・2027/3通期会社計画は、売上収益が前期比10.8%増の2兆5600億円、事業利益が同17.2%増の1700億円、株式分割考慮後の年間配当が同5.8円増配の40円。7/1、公募増資とCBを組み合わせて総額2000億円規模の資金調達で最終調整中と報じられた。また、同社は日立とともに、JR東日本の次世代新幹線車両「E10系」の製造を担う。E10系はインドの高速鉄道での導入が検討されている。
Synspective(290A)
1290 円(7/3終値)

・2018年設立。政府の革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)の成果を社会実装するために設立された、大学発の宇宙スタートアップ。小型SAR衛星「StriX」の開発・運用・データ解析などを展開。
・5/15発表の2026/12期1Qは、総収入(売上高+補助金収入)が前年同期比35.4%減の7.46億円、営業利益が前年同期▲9.07億円から▲16.13億円へ赤字幅拡大。3月末時点で、衛星運用機数が昨年末比1機増の8機、受注残が昨年末比5.0倍の1244億円。防衛省関連などの新規受注が急増。
・2026/12通期会社計画は、総収入が前期比2.6倍の160億円、営業利益が前期の▲41.3億円から▲54.6億円へ赤字幅拡大。1Qは継続案件に加え、防衛省「衛星コンステレーション整備・運営等事業」(契約額960億円)や宇宙戦略基金の第2期「次世代地球観測衛星に向けた観測機能高度化技術」などの新規案件を受注。6/27に自社10機目の小型SAR衛星の軌道投入・アンテナ展開に成功。
YTLコーポレーション(YTL)
市場:マレーシア 2.08 MYR(7/2終値)

・1955年創業の総合インフラ開発企業でマレーシア大手コングロマリットの一つ。1996年にアジア系で初めて東証に上場したほか、2010年に北海道のニセコビレッジを買収してリゾート開発に注力。
・5/28発表の2026/6期3Q(1-3月)は、売上高が前年同期比3.4%増の75.68億MYR、営業利益が同9.2%減の12.94億MYR。シンガポール上場のNSL社を買収した効果によりセメント・建築資材事業が堅調だったものの、売上比率63%を占める公益事業では、発電部門の電力販売量減少が響いた。
・シンガポールのNSL社は、マレーシア、ドバイ、フィンランド、シンガポールで事業を展開し、特にシンガポールでは化学廃水や油性廃水の処理と物流サービスを提供。また、傘下のYTLパワーが注力しているデータセンター事業は、ジョホール州で「YTLグリーン・データセンター・パーク」を2023年末にオープン。米エヌビディアとの協業を通じて生成AI(人工知能)の基盤開発の加速が見込まれる。
■アセアン株式ウィークリーストラテジー
(7/6号:東南アジア企業が香港市場のIPOを目指す)

インドネシア金鉱大手ムルテガ・ゴールド・リソーシズが6/26、香港市場に上場した。ムルテガは2025年にインドネシア証券取引所で新規株式公開(IPO)し、今回は既存株式を裏付けとする香港預託証券(HDR)を上場させた。同社はインドネシアのスラウェシ島北部で国内最大級の埋蔵量を誇るパニ金鉱山を運営。東南アジア企業の香港上場は今後も続くと見込まれている。
インドネシアのフィンテック企業で、三菱UFJフィナンシャル・グループなどが出資するアクラクも香港上場を準備中。母国市場の低迷も香港上場を目指す動機となっている。フィリピン外食最大手ジョリビー・フーズが海外事業を香港に上場させるとの観測が浮上しているほか、タイでも大手スーパーであるビッグCおよび暗号資産取引所運営のビットカブが香港で上場する方針と報じられている。
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アナリストのご紹介 フィリップ証券リサーチ部
笹木 和弘
フィリップ証券株式会社:リサーチ部長
証券会社にて、営業、トレーディング業務、海外市場に直結した先物取引や外国株取引のシステム開発・運営などに従事。その後は個人投資家や投資セミナー講師として活躍。2019年1月にフィリップ証券入社後は、米国・アセアン・日本市場にまたがり、ストラテジーからマクロ経済、個別銘柄、コモディティまで多岐にわたる分野でのレポート執筆などに精力的に従事。公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト(CIIA®)。
