【投資戦略ウィークリー 2025年12月1日号(2025年11月28日作成)】”コーポレートガバナンス・コード改訂~現金保有と親子上場”
■コーポレートガバナンス・コード改訂~現金保有と親子上場
- 金融庁は10/21、「コーポレートガバナンス・コードの改訂に関する有識者会議」を主催。この会議は6/30に公表された「コーポレートガバナンス改革の実質化に向けたアクション・プログラム2025」を基盤としている。コーポレートガバナンス・コードは2026年の改訂が予定され、稼ぐ力の向上(現金保有、人材戦略)、投資家との対話促進(株主総会、開示)、取締役機能強化(取締役の独立性)、市場環境上の課題解決(政策保有株式、開示ルール違反の罰則、親子上場)、サステナビリティ(サステナビリティ開示、セーフハーバールール)の5つの主要論点を中心に議論が進むと見込まれる。その中でも、注目されるのは、①多額の現金保有、②親子上場の2点である。
- ブルームバーグによれば、金融業を除くTOPIX(東証株価指数)構成銘柄の現金総資産比率は、2014年度の12%から2025年度の17%へと上昇している。同様に、利益準備金純資産比率も2014年度の63%から2025年度の77%に上昇している。見通しにくい政治経済情勢に対応したリスク対応や将来の投資を目的に現金をため込むことまでは否定されるものでないことから、現金保有の増加についてその目的を説明することが求められるようになると考えられる。現金総資産比率と利益準備金純資産比率の高い企業は、アクティビスト(物言う株主)の標的にされやすくなると予想される。
- 2025年11月時点で、TOPIX構成企業のうち親子上場の関係にある企業は66社に上る。著名アクティビストのストラテジックキャピタルが日本製鉄(5401)の株主総会において子会社管理の見直しを提案した際にPBR(株価純資産倍率)に言及していたことが注目される。特に低PBRの上場子会社については、企業価値や資本効率の底上げ戦略の具体的な立案と実行、および少数株主保護の考え方や施策の説明が必要になるだろう。
- 米アクティビストファンドのサファイアテラ・キャピタルが11/14、伊藤忠商事(8001)の上場子会社である伊藤忠食品(2692)の取締役会に対し、非公開化による親子上場の解消を提案したと発表。金融庁や東証が余剰現預金や親子上場について厳しく言うようになってきたことを背景に、アクティビストが攻勢を強めている。サファイアテラは、三陽商会(8011)に対しても主要株主の三井物産(8031)への身売りを提案する書簡を送っていた。親子上場ではないが、不動産売却や在庫圧縮で手許現金が増えて過剰資本となっていることが低PBRの原因とし、株主還元で過剰資本を圧縮して資本効率を高め、長期的な事業拡大のため大手資本の傘下に入るべきだとした。2026年はコード改訂を契機とし、余剰現預金と親子上場を放置している企業グループに対してアクティビストが要求を強めそうだ。(笹木)
本日号は、JSP(7942)、ふくおかフィナンシャルグループ(8354) 、イオンフィナンシャルサービス(8570)、三菱地所(8802)、インドフードCBPスクセス・マクムール(ICBP)を取り上げた。


■主な企業決算の予定
- 12月1日(月):伊藤園
- 12月2日(火):(米)マーベル・テクノロジー、クラウドストライク・ホールディングス
- 12月3日(水):内田洋行、(米)セールスフォース
- 12月4日(木):積水ハウス
- 12月5日(金):日本ハウスホールディングス、エターナルホスピタリティグループ、日本駐車場開発、日本スキー場開発、ロック・フィールド、アイル、エイチームホールディングス、サイバーソリューションズ、カナモト
■主要イベントの予定
- 12月1日(月):
・ツルハホールディングスがウエルシアホールディングスとの経営統合について会見開催、BRANU(460A)が東証グロースに新規上場、08:50 設備投資・企業利益・企業売上高(3Q)、09:30 S&Pグローバル日本製造業PMI (11月)、10:00 植田日銀総裁が名古屋市での金融経済懇談会で講演(14:00 記者会見)、16:00 日銀債券市場サーベイ(11月調査)
・米国がG20の議長国に就任、米サイバーマンデー(感謝祭翌週の月曜日)、EU外相理事会(防衛、ブリュッセル)
・米S&Pグローバル製造業PMI(11月)、米ISM製造業景況指数(11月)、ユーロ圏製造業PMI(11月)、中国RatingDog製造業PMI(11月)、トルコGDP(3Q)
- 12月2日(火):
・財務省10年国債入札、Nomura Investment Forum2025(奥田社長がプレゼン)、08:50マネタリーベース(11月)、14:00消費者態度指数 (11月)
・米自動車販売(11月)、ユーロ圏失業率(10月)、ユーロ圏CPI(11月)
- 12月3日(水):
・2025国際ロボット展が東京ビッグサイトで開催、09:30 S&Pグローバル日本サービス業・複合PMI(11月)
・ポーランド中銀が政策金利発表、エジプト下院選
・米ADP雇用統計(11月)、米輸入物価指数(9月)、米鉱工業生産(9月)、米S&Pグローバル・サービス業・総合PMI(11月)、米ISM非製造業総合景況指数(11月)、ユーロ圏サービス業・総合PMI(11月)、ユーロ圏PPI(10月)、中国RatingDogサービス業・総合PMI(9月)、豪GDP(3Q)、韓国GDP(3Q)
- 12月4日(木)
・財務省30年国債入札、08:50 対外・対内証券投資(11月23-29日)
・米新規失業保険申請件数(11月29日終了週)、ユーロ圏小売売上高(10月)、ブラジルGDP(3Q)
- 12月5日(金):
・FUNDINNO(462A)が東証グロースに新規上場、08:30 家計支出(10月)、14:00景気先行CI・一致指数(10月)
・ロシアのプーチン大統領がインド訪問、インド中銀が政策金利発表
・米ミシガン大学消費者マインド指数・速報値(12月)、 米個人所得・支出 (9月)、米個人消費支(PCE)価格指数(9月)、米消費者信用残高(10月)、ユーロ圏GDP(3Q)、独製造業受注(10月)
- 12月7日(日):
・香港立法会(議会)選挙
(Bloombergをもとにフィリップ証券作成)
※本レポートは当社が取り扱っていない銘柄を含んでいます。
■米国株はバイオシフトの可能性
米半導体銘柄を代表するフィラデルフィア半導体指数(SOX指数)は、AI(人工知能)関連の過剰投資が懸念され、10月下旬以降は調整下落局面にある。一方でバイオ医薬品開発企業から構成されるナスダック・バイオテクノロジー指数は堅調に推移。米半導体大手エヌビディア(NVDA)の株価がSOX指数と同様のタイミングで調整下落局面となる中、製薬大手のイーライ・リリー(LLY)の株価は上昇を加速し、11/21の時価総額1兆ドルを突破した。
バイオ技術分野で米国と激しい覇権争いを繰り広げる中国では、香港ハンセン・バイオテック指数がハンセン指数をアウトパフォームしている。トランプ米政権がバイオ医薬品業界の国際競争力を維持・強化するため一連の改革を推進していることは、米バイオ関連銘柄へ追い風だろう。
【米国株はバイオシフトの可能性~バイオ技術の米中覇権争いが追い風】

■国内10年実質金利のゼロ超え
物価連動国債利回り(TIPS)は、名目金利から期待インフレ率を差し引いた実質金利を表す。上昇基調にある日本国債10年物の実質金利は、10月半ば以降にプラス圏に入った。一方、米国債10年物のTIPSは今年1月の2.3%台から直近の1.8%台と低下基調で推移している。日米の実質金利差が縮小すれば、金利面からは円高ドル安要因になると考えられるものの、米FRB(連邦準備理事会)高官から利下げに慎重な発言が相次いでいること、および日銀が積極的に利上げをしにくいのではないかとの懸念から、足元では円安ドル高が進行している。
日本国債10年期待インフレ率は1.7%近辺と日銀が目標とする2%を超えていない。インフレ加速を織り込んだ債券市場の売りスタンスは行き過ぎの面もある。
【国内10年実質金利のゼロ超え~日米実質金利差縮小でも、円安ドル高】

■半導体メモリー・スポット価格急騰
今年10月以降、NANDフラッシュとDRAMのスポット価格が急騰している。需要面の要因は、半導体メモリー製造で世界2強を占める韓国のサムスン電子とSKハイニクスが10月、米AI(人工知能)大手OpenAIが主導するプロジェクト「スターゲート」を支援するため、大型契約を発表したことが大きい。供給面の要因は、米マイクロン・テクノロジー(MU)を加えた半導体メモリー世界3強が生産ラインを広帯域メモリー(HBM)に大幅にシフトしたためNANDフラッシュやDRAMの生産量が減少していたことが挙げられる。
過去の赤字に対応した投資不足で大手メーカーが増産に応じる余地は限定的で価格高騰が続くと見込まれる。NANDフラッシュ大手のキオクシアホールディングス(285A)には追い風だろう。
【半導体メモリー・スポット価格急騰~AIインフラ特需と供給制約・在庫積み】

■銘柄ピックアップ
JSP(7942)
2355 円(11/28終値)

・1962年に現在の三菱瓦斯化学(4182)の出資により、発泡技術を主体としたプラスチック製品関連事業を営むことを目的として日本スチレンペーパーを設立。押出事業およびビーズ事業を展開。
・10/31発表の2026/3期1H(4-9月)は、売上高が前年同期比1.5%減の703億円、営業利益が同4.0%減の30億円。事業別営業利益は、押出事業(売上比率35%)が建築・住宅向けの貢献により8%増の8.6億円、ビーズ事業(同65%)が自動車分野の販売減と人件費増が響き10%減の26億円。
・通期会社計画は、売上高が前期比0.2%減の1420億円、営業利益が同12.9%減の60億円、年間配当が同横ばいの80円。同社は2023年に三菱瓦斯化学との資本業務提携を解消し持分法適用会社に移行したものの、三菱瓦斯化学グループの保有比率は2025年6月時点で約48%と高い。PBR(株価純資産倍率)0.6倍近辺の低評価であり、コーポレートガバナンスの観点から対応が望まれる。
ふくおかフィナンシャルグループ(8354)
4807 円 (11/28終値)

・2007年に福岡銀行と熊本ファミリー銀行(現在は熊本銀行に改称)の統合により設立。同年に親和銀行を経営統合。2019年に十八銀行を経営統合後、2020年に長崎県で十八親和銀行を発足した。
・11/10発表の2026/3期1H(4-9月)は、銀行合算ベースのコア業務純益が前年同期比6.2%増の706億円、信用コストが18億円と前年同期の▲25億円から増加、純利益が同2.4%増の511億円。金利上昇による貸出金利息増加に加え、有価証券ポートフォリオ見直しに伴う国債等債券損益も改善した。
・通期会社計画(銀行合算ベース)は、コア業務利益が前期比7.8%増の1284億円、経常利益が同12.9%増の1170億円、年間配当は同35円増配の170円。同社株価は1989年高値6442円および2005年高値5375円より低位で推移。傘下のモバイル専業銀行「みんなの銀行」のフルクラウド型銀行システムが今年5月、三菱UFJ銀行が新設するデジタルバンクの基幹システムに採用された。
イオンフィナンシャルサービス(8570)
1566 円(11/28終値)
・1981年にジャスコ(現イオン(8267))子会社として設立。イオングループの金融サービス事業を展開。国内部門(リテール、ソリューション)と国際部門(中華圏、メコン圏、マレー圏)から構成される。
・10/9発表の2026/2期1H(3-8月)は、営業収益が前年同期比8.7%増の2781億円、営業利益が同4.3%増の283億円。セグメント別営業利益は、国際部門(営業収益比率59%)が6.8%増の187億円、国内部門(同41%)が0.3%増の95億円。主にソリューション、中華圏、メコン圏が増益に貢献。
・通期会社計画は、営業収益が前期比6.9%増の5700億円、営業利益が同7.3%減の570億円、年間配当が同横ばいの53円。国内ではイオングループの都市型店舗「まいばすけっと」が、海外ではイスラム金融を手がけるイオンバンク(マレーシア)が好調。業績が堅調に推移し、海外展開も順調な中、11/27終値でPBR(株価純資産倍率)は0.75倍。親子上場が今後のテーマとなる可能性がある。
三菱地所(8802)
3685 円 (11/28終値)

・1937年に三菱合資会社より貸事務所経営部門を継承し、丸の内ビジネスセンターを整備拡充。商業不動産、丸の内、住宅、海外、投資マネジメント、設計監理・不動産サービス等の事業を展開。
・11/10発表の2026/3期1H(4-9月)は、営業収益が前年同期比15.9%増の7432億円、営業利益が同7.7%増の1075億円。米国不動産投資等の海外事業は金利の高止まりで回復が鈍かった一方、東京・丸の内を中心としたオフィス賃料収入が伸びた。東京都心の高額分譲マンション販売も堅調。
・通期会社計画は、営業収益が前期比17.1%増の1兆8500億円、営業利益が同5.1%増の3250億円、年間配当が同3円増配の46円。三井不動産(8801)の11/27終値(1855円)は2007年の最高値を39%上回る。住友不動産(8830)の11/27終値(7574円)は2007年の最高値を44%上回る。一方で、三菱地所の11/27終値(3662円)は2007年の過去最高値を10%下回る。出遅れ修正が期待される。
インドフードCBPスクセス・マクムール(ICBP)
市場:インドネシア 8550 IDR (11/27終値)

・2009年に親会社のインドフード・スクセス・マクムール(INDF)から分離・独立。親会社はインドネシア財閥のサリムグループ企業。即席麺「インドミー」はインドネシアの国民食として親しまれている。
・10/31発表の2025/12期9M(1-9月)は、売上高が前年同期比1.4%増の56.2兆IDR、営業利益が同6.2%増の12.7兆IDR。低価格かつ手軽にアレンジできる即席麺「インドミー」の需要が国内で堅調。粗利益率が悪化も、販管費率が改善。外国為替換算損益の悪化が響き、コア純利益は4%減益。
・インドネシアでは、イスラム教の戒律に従う「ハラル認証」制度が大きく変更され、2024年10月より飲食品についてハラル認証の義務化がスタートし、他の品目についても2027年10月までに順次義務化が進む予定だ。「インドミー」はハラル認証の食品としてイスラム圏へ輸出が拡大。9Mのアジア・アフリカ諸国への売上高は前年同期比7%増。粗利益率は小麦相場の動向に左右されやすい。
■アセアン株式ウィークリーストラテジー
(12/1号:東南アジアで拡大するイスラム金融)

イスラム教の教義にのっとった「イスラム金融」が東南アジア全域で拡大している。イスラム金融はシャリア(イスラム法)に準拠し、利子を取らず、アルコール、ギャンブル、武器販売など特定の業界を排除している。資産にはスクーク(イスラム債)、「タカフル」と呼ばれる保険などがあり、すべてイスラム法に従って組み立てられる。イスラム民間開発公社と英ロンドン証券取引所グループの報告書によれば、イスラム金融の世界市場規模は2023年時点で4兆9千億ドルに上り、そのうち東南アジアが約17%を占めた。マレーシアは世界最大のスクーク市場で世界のスクーク発行残高の約4割を占める。日本のイオンフィナンシャルサービス(8570)傘下のイオンバンク(マレーシア)は2024年にデジタルのイスラム銀行を開設。小売り主導の独自のアプローチをイスラム金融に取り入れている。
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アナリストのご紹介 フィリップ証券リサーチ部
笹木 和弘
フィリップ証券株式会社:リサーチ部長
証券会社にて、営業、トレーディング業務、海外市場に直結した先物取引や外国株取引のシステム開発・運営などに従事。その後は個人投資家や投資セミナー講師として活躍。2019年1月にフィリップ証券入社後は、米国・アセアン・日本市場にまたがり、ストラテジーからマクロ経済、個別銘柄、コモディティまで多岐にわたる分野でのレポート執筆などに精力的に従事。公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト(CIIA®)。
