【投資戦略ウィークリー 2025年6月16日号(2025年6月13日作成)】”日経平均株価チャート分析、日銀と財務省の国債関連政策 ”
■日経平均株価チャート分析、日銀と財務省の国債関連政策
- 最近の日経平均株価の推移は、チャート分析上、参考になる動きが見られた。4/7に3万0792円の年初来安値を付けた後、同日から5/13の高値3万8494円を付けるまで24営業日を要した。株価(終値)が上昇、下落のどちらの勢いが強いかを計測するテクニカル指標の「14日間のRSI(相対力指数)」を見ると、4/7に9%と極端な売られ過ぎだったのが、5/14に96.0%と極端な買われ過ぎになった。5/13以降、3万7100円台~3万8500円近辺の狭い価格帯で推移していた中、5/13から数えて24営業日目の6/13、中東でイスラエルがイランの核施設に先制攻撃をしたこともあり、一時前日終値比632円安の3万7540円まで下落。一般的には「地政学リスクに反応した、やむを得ない下落」と受け取られるものだろう。
- ところが、5/13までに要した日数と同程度の日数で横ばい続いた間、RSI(相対力指数)14日間は低下基調だったことから、時間経過に伴う買いの勢い減退(日柄調整)が株価下落に伴う「価格調整」に先行していたとの解釈も可能だった。株価の上昇、下落まで予測することは容易ではないものの、横ばいのこう着状態から価格変動性の高い状態へ転換する時期として上記の「同程度の日数」を予め見ておく余地があったと考えられる。チャートの横軸(時系列)に注目する分析手法は今後も注目される。
- 自民党は、物価対策として「バラマキ」批判を受けて一度は見送られた現金給付策を正式に打ち出した。財政拡張懸念から長期・超長期国債が売られれば日本株の上値を重くする要因になると考えられる。一方、財務省が6/20に開催する「国債市場特別参加者会合(プライマリー・ディーラー懇)」では、超長期国債の減額も視野に、2025年度の国債発行計画の年限構成を再検討、あるいは過去に発行した低利率の国債を買入消却する案が浮上している。また、6/16-17に開催される日銀金融政策決定会合でも、金融政策の正常化に伴う国債の買い入れ額の減額幅を縮小するのかどうかが議論される見通しだ。
- 6月下旬は、米国の中間決算期特有の資金回帰に伴うドル買い需要、夏の賞与支給に伴う新NISA(少額投資非課税制度)の買い、および3月末決算銘柄の配当支払いが再投資に回る可能性など、日本株投資にとってプラス要因が多い時期だ。日銀と財務省による日本国債に関連した政策動向がそのプラス要因を加速させるのか、帳消しにしてしまうのかが注目される。
金融庁は不動産投資信託(REIT)の対象に新たにデータセンター(DC)設備の組入れを認める方針と報じられた。DCに設置する冷却装置や非常用電源も組み入れ対象になると想定され、それらを扱う企業の業績にも好影響を与えると期待される。
■主な企業決算の予定
- 6月16日(月): NTT都市開発リート投資法人、Terra Drone、TOKYO BASE、tripla、アセンテック、いちごオフィスリート投資法人、システムディ、プロレド・パートナーズ、星野リゾート・リート投資法人、投資法人みらい、梅の花グループ
- 6月17日(火): KDX不動産投資法人、トーセイ・リート投資法人
- 6月18日(水): コーセル、サンオータス
- 6月20日(金):西松屋チェーン、サツドラホールディングス、(米)アクセンチュア
■主要イベントの予定
- 6月16日(月):
・日銀金融政策決定会合
・G7首脳会議(加アルバータ州カナナスキス、17日まで)、OPEC月報
・米ニューヨーク連銀製造業景況指数(6月)、中国新築住宅価格(5月)、中国小売売上高・工業生産・都市部固定資産投資(5月)
- 6月17日(火):
・日銀金融政策決定会合(15:30 植田総裁会見)
・米FOMC(18日まで)、 EU環境相会合(ルクセンブルク)
・米輸入物価指数(5月)、 米小売売上高(5月)、米企業在庫(4月)、米鉱工業生産(5月)、米NAHB住宅市場指数(6月)、独ZEW期待指数(6月)
- 6月18日(水):
・ジャパン・エナジー・サミット&エキシビション開幕(東京ビッグサイト、20日まで)、三井物産株主総会、08:50 貿易収支・輸出・輸入(5月)、08:50 コア機械受注(4月)、14:00 地銀協会長会見、16:15 訪日外客数(5月)
・米FOMC最終日(パウエルFRB議長記者会見・声明と経済予測発表)、スウェーデン中銀とブラジル中銀が政策金利発表、モバイル見本市「モバイル・ワールド・コングレス(MWC)上海」(20日まで)、サンクトペテルブルク国際経済フォーラム(21日まで)
・米新規失業保険申請件数(6月14日終了週)、米住宅着工件数(5月)、対米証券投資(4月)、ユーロ圏CPI(5月)、英CPI(5月)、ロシアGDP(1Q)
- 6月19日(木):
・財務省5年利付国債入札、08:50 対外・対内証券投資 (6月8-14日)、10:00 ホンダ定時株主総会、14:00 首都圏新築分譲マンション(5月)、15:15 全銀協会長会見、16:45 地銀協会長会見
・ 米休場(奴隷解放記念日「ジューンティーンス」の祝日で)、英中銀・スイス中銀・ノルウェー中銀・ トルコ中銀が政策金利発表、ユーロ圏財務相会合(ユーログループ、ブリュッセル)
・ニュージーランドGDP(1Q)
- 6月20日(金):
・伊沢タオルが東証スタンダードに新規上場、08:30 全国CPI(5月)、08:50日銀金融政策決定会合議事要旨(4月30日・5月1日分)、10:00 ニデック定時株主総会、15:30日本取引所グループの山道CEO定例会見、15:40植田日銀総裁が全国信用金庫大会であいさつ、三菱商事・伊藤忠商事・住友商事・丸紅・大和証グループなどの株主総会、財務省国債市場特別参加者会合、日銀の国債買い入れオペ
・中国1年・5年物ローンプライムレート(LPR)、ECB経済報告、EU財務相理事会(ブリュッセル)
・米景気先行指標総合指数(5月)、ユーロ圏マネーサプライ(5月)、ユーロ圏消費者信頼感指数(6月)
- 6月22日(日):
・通常国会会期末、東京都議会議員選挙、日韓基本条約調印60周年
(Bloombergをもとにフィリップ証券作成)
※本レポートは当社が取り扱っていない銘柄を含んでいます。
■量子コンピューティング新時代
エヌビディア(NVDA)は開発者会議「GTC2025」(3/17-21)において量子コンピューティングをテーマに「Quantum Day」を3/20に初開催。有力スタートアップが集結する研究拠点を新設するとともに、同社のGPUやソフトウエアの普及を図る目的だ。
米国の量子コンピューティング関連銘柄の株価は「Quantum Day」以降、堅調に推移している。2025年1-3月の売上高は、イオンキュー(IONQ)が前年同期比0.2%減の756万USD、Dウェーブ・クオンタム(QBTS)が同6.1倍の1500万USD、リゲッティ・コンピューティング(RGTI)が同52%減の147万USD、クオンタム・コンピューティング(QUBT)が同44%増の39万USD。まだ小規模だが、量子コンピューターとスーパーコンピューターのハイブリッド型が普及すれば業績拡大の前倒しが期待される。
【量子コンピューティング新時代~エヌビディア「Quantum Day」がキックオフ】
■防衛関連銘柄は欧州情勢に追随
防衛予算増額に伴う受注増を受けて防衛関連銘柄は日本株を牽引するセクターとなっている。その代表的銘柄である三菱重工業(7011)は6/12終値で、市場予想PER(株価収益率)が38.7倍、PBR(株価純資産倍率)が4.92倍、予想配当利回りが0.70%と、足元の株価はファンダメンタルズ面から見て割安ではない。
ウクライナ情勢に対してドイツやイギリスが米国に頼らない安全保障体制の構築を目指し始めたこともあり、防衛関連セクターの世界の中心が欧州にシフトしつつある。そのような中で、三菱重工業の株価もFTSEオールシェア航空宇宙・防衛指数との連動性が高まっている。同指数の日々の動向は、三菱重工業をはじめとする日本株の防衛関連の株価動向を予測する上で参考になる可能性がある。
【防衛関連銘柄は欧州を見て動く~FTSE航空宇宙・防衛指数と三菱重工業】
■J-REIT用途別と6・12月決算銘柄
東証上場のJ-REIT(不動産投資信託)57銘柄のうち6月・12月決算期銘柄は8銘柄。J-REITは税法の要件を満たせば利益のほぼ全てを分配金として支払うことができ、相対的に高分配金を期待できる中、投資口価格も堅調に推移している。
時価総額を、不動産鑑定価格ベースの純資産価値で割った「NAV倍率」は引き続き1倍割れが中心だが、J-REIT時価総額首位の日本ビルファンド投資法人(8951)は1.1倍まで上昇。また、インヴィンシブル投資法人(8963)のように高い予想分配金利回りであっても値上がりにつながらない点は注意が必要だ。さらに、用途別東証REIT指数を見ると、首都圏物件を中心に含み益を分配金に反映させやすいオフィスが堅調の一方、住宅は5月以降、勢いが鈍化している。
【J-REIT用途別と6・12月決算銘柄~分配金と値上がり益のバランスが重要】
■銘柄ピックアップ
セック(3741)
5560 円(6/13終値)
・1970年に渋谷区代々木で設立。リアルタイムソフトウェアの提供が主体のリアルタイム技術専門会社。社会基盤システム、宇宙先端システム、モバイルネットワーク、インターネットの4事業を展開。
・5/12発表の2025/3通期は、売上高が前年同期比20.6%増の102億円、営業利益が同22.2%増の17億円。モバイルネットワークが減収も、インターネット(売上比率13%)が16%、社会基盤システム(同48%)が50%、宇宙開発・サービスロボットを含む宇宙先端システム(同30%)が9%の増収。
・2026/3通期会社計画は、売上高が前期比3.9%増の107億円、営業利益が同2.6%増の18.4億円、年間普通配当が同6円増配の111円。同社は宇宙関連銘柄として他社のロケット打上げ失敗時に株価が連れ安する傾向があるものの、成長分野で好バランスの事業ポートフォリオを擁する。同社は量子コンピューター分野に注力。同分野で世界最大規模となる基本ソフトウエア群を公開している。
イムラ(3955)
1048 円 (6/13終値)
・1950年に井村荷札封筒を現・奈良県葛城市に設立。パッケージソリューション事業(各種封筒の製造販売)、メーリング&デジタルソリューション事業(ダイレクトメール等の発送代行)を主として営む。
・6/11発表の2026/1期1Q(2-4月)は、売上高が前年同期比8.7%増の56億円、営業利益が同46.3%増の5億円。パッケージソリューション(売上比率70%)は0.6%減収、営業利益が14%増の4億円。メーリング&デジタルソリューション(同22%)は28%増収、営業利益が1.7億円(前年同期が0.1億円)。
・通期会社計画は、売上高が前期比2.9%増の215億円、営業利益が同15.9%減の11億円、年間配当が同横ばいの30円。戸籍法改正に伴って5/26から戸籍に氏名のフリガナを記載する新制度がスタート。本籍地の市区町村から戸籍に記載される予定のフリガナが郵便で通知される。日本の戸籍の数は2022年3月末現在、5226万3682戸籍。政局次第では国政選挙関連の需要増も期待される。
ウェザーニューズ(4825)
3845 円(6/13終値)
・1986年設立。気象を含む自然現象データを顧客と共に収集・加工し、コンテンツとして提供。BtoB(法人向け)の気象予測に基づく業務支援、およびBtoS(社会向け)の情報コンテンツ提供を行う。
・4/7発表の2025/5期9M(6-2月)は、売上高が前年同期比4.6%増の174億円、営業利益が同37.1%増の31億円。航海(売上比率27%)が8%、航空(同6%)が10%、陸上・環境(同29%)が9%の増収。BtoSのモバイル・インターネット(同36%)が5%増収。AI(人工知能)活用が利益率向上に寄与。
・通期会社計画は、売上高が前期比5.7%増の235億円で据え置きに対し、営業利益を同28.4%増の42億円(従来計画38億円)へ上方修正。年間配当が同10円増配(株式分割の影響考慮後)の70円。同社はこれまで顧客企業への報告を人手に頼ってきた中、AIで報告書作成など業務の一部を自動化し、月に7000時間の削減を達成。社内アイデア吸い上げによる自社仕様AIの構築が強み。
ワークマン(7564)
5890 円 (6/13終値)
・1982年に群馬県伊勢崎市で設立。作業服および関連用品の専門店チェーン。ショッピングセンターやホームセンターを擁する「ベイシアグループ」の中核企業。フランチャイズ展開を主軸とする。
・5/12発表の2025/3通期は、営業総収入が前期比3.2%増の1369億円、営業利益が同5.4%増の243億円。PB(プライベートブランド)商品のチェーン全店売上比率が0.7ポイント上昇の68.5%、粗利率が1.8ポイント上昇。チェーン全店既存店売上高は1.1%増、期末店舗数は純増40店の1051店舗。
・2026/3通期会社計画は、営業総収入が前期比7.5%増の1471億円、営業利益が同6.6%増の260億円、年間配当が同横ばいの73円。2025年6月より、労働安全衛生規則の改正に伴い、職場における熱中症対策が罰則付きで事業者に義務付けられた。同社は「暑熱四大リスク(気温、湿度、輻射熱、風)を軽減できる新製品「XShelter暑熱軽減ウェア」を投入。円高メリットの側面も注目される。
キャピタルAブルバド(CAPITALA)
市場:マレーシア 0.905 MYR (6/12終値)
・トニー・フェルナンデス氏が2001年に創業した「エアアジア・グループ」が22年1月に社名変更。航空事業(「エアアジア」ブランド)、物流、アプリ、デジタル・エンジニアリング部門の3事業を営む。
・5/30発表の2025/12期1Q(1-3月)は、総売上高が前年同期比0.5%増の52.65億MYR、EBITDAが同7.1%増の11.06億MYR。主力の航空事業は減収も、物流部門、デジタル・エンジニアリング部門の増収が補った。航空事業の燃料費減が利益率改善に貢献。EBITDAマージンが1.3ポイント上昇した。
・同社は財務悪化により取引所から速やかな財務改善が求められる警告銘柄に指定されていた中、傘下の長距離LCC(格安航空会社)エアアジアXの持株会社「エアアジア・グループ」を新設し航空事業を統合する計画を掲げる。同グループへ出資比率を18.4%にとどめ、デジタル金融・配車・物流強化へ舵を切る事業再編計画の終了、および取引所による警告銘柄の指定解除は7月末の見通し。
■アセアン株式ウィークリーストラテジー
(6/16号「タイ株不振とタイ建設最大手の経営混迷」)
シンガポールのストレイツ・タイムズ指数、マレーシアのクアラルンプール総合指数、タイのSET指数、インドネシアのジャカルタ総合指数における6/11終値での2024年末以降の騰落率を見ると、タイSET指数が▲18.4%と不振が目立つ。その背景には、米国が4/2に発表した輸入品への相互関税の税率(36%)が高いほか、タイ建設最大手イタリアン・タイ・デベロップメント(ITD)の経営不安がある。
同社は既に2024年度まで6期連続の赤字を計上する中、24年度は最終赤字が57億THBと前期の10億THBから拡大。負債資本倍率(DEレシオ)も25年3月末時点で9.8倍に上った。3月下旬にミャンマー中部で発生したM7.7の地震により、バンコクで建設中の高層ビルが崩壊。捜査当局は建物が建築基準に違反していたとして、建設に関わったITDの社長に対して逮捕状を請求している。
- 上場有価証券等のお取引の手数料は、国内株式の場合は約定代金に対して上限1.265%(消費税込)(ただし、最低手数料2,200円(消費税込)、外国取引の場合は円換算後の現地約定代金(円換算後の現地約定代金とは、現地における約定代金を当社が定める適用為替レートにより円に換算した金額をいいます。)の最大1.10%(消費税込)(ただし、対面販売の場合、3,300円に満たない場合は3,300円、コールセンターの場合、1,980円に満たない場合は1,980円)となります。
- 上場有価証券等は、株式相場、金利水準等の変動による市場リスク、発行者等の業務や財産の状況等に変化が生じた場合の信用リスク、外国証券である場合には為替変動リスク等により損失が生じるおそれがあります。また新株予約権等が付された金融商品については、これらの権利を行使できる期間の制限等があります。
- 国内金融商品取引所もしくは店頭市場への上場が行われず、また国内において公募、売出しが行われていない外国株式等については、我が国の金融商品取引法に基づいた発行者による企業内容の開示は行われていません。
- 金融商品ごとに手数料等及びリスクは異なりますので、お取引に際しては、当該商品等の契約締結前交付書面や目論見書又はお客様向け資料をよくお読みください。
免責事項
- この資料は、フィリップ証券株式会社(以下、「フィリップ証券」といいます。)が作成したものです。
- 実際の投資にあたっては、お客様ご自身の責任と判断においてお願いいたします。
- この資料に記載する情報は、フィリップ証券の内部で作成したか、フィリップ証券が正確且つ信頼しうると判断した情報源から入手しておりますが、その正確性又は完全性を保証したものではありません。当該情報は作成時点のものであり、市場の環境やその他の状況によって予告なく変更することがあります。この資料に記載する内容は将来の運用成果等を保証もしくは示唆するものではありません。
- この資料を入手された方は、フィリップ証券の事前の同意なく、全体または一部を複製したり、他に配布したりしないようお願いいたします。
アナリストのご紹介 フィリップ証券リサーチ部
笹木 和弘
フィリップ証券株式会社:リサーチ部長
証券会社にて、営業、トレーディング業務、海外市場に直結した先物取引や外国株取引のシステム開発・運営などに従事。その後は個人投資家や投資セミナー講師として活躍。2019年1月にフィリップ証券入社後は、米国・アセアン・日本市場にまたがり、ストラテジーからマクロ経済、個別銘柄、コモディティまで多岐にわたる分野でのレポート執筆などに精力的に従事。公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト(CIIA®)。