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投資戦略ウィークリー 2024年9月2日号(2024年8月30日作成)】”災害リスク対応、資本コストと株価意識経営は新次元へ”

 

災害リスク対応、資本コストと株価意識経営は新次元へ

  •   8/30現在、台風10号が日本列島に上陸。新幹線ほか主要交通網で計画運休実施など災害リスク対応で日本経済への影響も出ている。今月は8日に発生した宮崎県の日向灘を震源とする地震発生後、気象庁が「南海トラフ地震臨時情報」を初めて公表し、1週間の注意呼びかけが継続された。16日に台風7号が関東に接近した際も、異例の主要交通網計画運休が実施。政府も能登半島地震発生後の断水長期化を受けて水道管耐震化対策を打ち出している。東京都内でもそのための工事が目に見えて増えている。防災・減災、国土強靭化への予算も今後一層拡充されよう。自民党総裁候補の石破氏も「防災省」設立を強く打ち出している。
  •   国民の危機意識も高まっているようで全国的にコメの品不足が発生している。亀田製菓2220が防災意識の高まりを受けた長期保存食の需要増が業績を押し上げているとしているほか、包装米飯製品のサトウ食品2923も8月に株価が大きく高騰している。
  •   アクティビスト(物言う株主)の動きが加速している。調剤薬局首位のアインホールディングス9627は香港投資ファンドのオアシス・マネジメントが攻勢をかけている。アインHDに対してはオアシスが約15%保有するほか、セブン&アイHD3382も約8%を保有し提携強化に動いている。オアシスは以前、保有していたツルハHD3391株式をイオン8267に売却してドラッグストアの業界再編を主導したことがある。株価が動意づく下地は窺われよう。
  •   米鉄鋼大手のUSスチール買収手続き中の日本製鉄5401傘下の企業に対する動きも激しい。シンガポール拠点の3Dインベストメントは日鉄ソリューションズ2327の大株主として登場。ストラテジックキャピタルは大阪製鐵5449の買い増しに動いている。日本製鉄は他にも子会社の山陽特殊製鋼5449に加え、筆頭株主となっている共英製鋼5440合同製鐵5410など、株価が低PBR(株価収益率)の割安に放置された関連企業を擁する。日本取引所グループ標榜の「資本コストや株価を意識した経営」の観点からは再編による企業価値向を目指す可能性もあるだろう。
  •  電子情報技術産業協会(JEITA)は8/27、7月のパソコン出荷台数が前年同月比38%増の57万9千台(出荷台数の約9割のノートPCが43%増)と発表。Windows10の来年10月サポート終了対応に加え、新型コロナ禍の在宅勤務推進で導入が進んだノートPCの買い替え需要が牽引。校務システムに強い内田洋行8057は小中学校に1人1台ずつ端末を貸与する「GIGAスクール構想」に係る「ネクストGIGA」が追い風だろう。また、データセンターを経由せずに生成AI(人工知能)が使えるAI半導体の需要増にも繋がろう。(笹木)

9/2号は、ライト工業(1926)、ウェザーニューズ(4825)、愛知製鋼(5482)、萩原工業(7856)、セントラル・パタナ(CPN) を取り上げた。

 

■主な企業決算の予定   

  • 92日(月): 伊藤園
  • 93日(火):内田洋行、不二電機工業
  • 94日(水): アインホールディングス、ティーライフ
  • 95日(木): ファースト住建、泉州電業、積水ハウス、フジ・コーポレーション、ロック・フィールド
  • 96日(金):日本駐車場開発、アイル、エイチーム、クミアイ化学工業、日本ハウスホールディングス、カナモト

主要イベントの予定

  • 92日(月)

・08:50設備投資・企業売上高・企業利益(2Q)、09:30 auじぶん銀行日本製造業PMI(8月)

・米休場(レーバーデー祝日)、 ユーロ圏製造業PMI(8月)、中国財新製造業PMI(8月)

 

  • 93日(火)

・財務省の10年利付国債入札、08:50 マネタリーベース(8月)

・チリ中銀が政策金利発表、東方経済フォーラム(ロシア・ウラジオストク、6日まで)

・米ISM製造業景況指数(8月)、米製造業PMI(8月)、米建設支出(7月)、ブラジルGDP(2Q)、南アGDP(2Q)

 

  • 94日(水)

・09:30 auじぶん銀行日本サービス業・複合PMI(8月)

・米地区連銀経済報告(ベージュブック)、カナダ中銀とポーランド中銀が政策金利発表

・米自動車販売(8月)、米貿易収支 (7月)、米求人件数(7月)、米製造業受注(7月)、ユーロ圏サービス業PMI(8月)、ユーロ圏PP (7月)、豪GDP(2Q)、中国財新サービス業PMI(8月)

 

  • 95日(木)

・財務省の30年利付国債入札、10:30 高田創日銀審議委員が金融経済懇談会(石川県金沢市)に出席・14:30 記者会見、08:30  毎月勤労統計-現金給与総額 ・実質賃金総(7月)、08:50 対内証券投資・ 対外証券投資(8月 30日)

・マレーシア中銀が政策金利発表

・米ISM非製造業総合景況指数(8月)、米ADP雇用統計(8月)、米新規失業保険申請件数 (8月31日終了週)、米サービス業PMI(8月)、ユーロ圏小売売上高 (7月)、独製造業受注(7月)、韓国GDP(2Q)

 

  • 96日(金)

・11:00 小泉元環境相が自民党総裁選で出馬会見、08:30 家計支出(7月)、14:00 景気一致指数(7月)、14:00 景気先行CI指数(7月)

・米ニューヨーク連銀総裁が基調講演、IFA/国際コンシューマ・エレクトロニクス展(ベルリン、10日まで)

・米雇用統計(8月)、ユーロ圏GDP (2Q、確定値)、独鉱工業生産(7月)

 

  • 97日(土)

・ 中国外貨準備高 (8月)

(Bloombergをもとにフィリップ証券作成)

※本レポートは当社が取り扱っていない銘柄を含んでいます。

西暦偶数年の米国株・秋の動向

8月までの米国株相場は堅調に推移。ダウ工業株30種平均が8/26に史上最高値を更新するなか、4年毎の米大統領選を11月上旬に控えて先行き不透明感からの警戒が広がるのではないかとの見方が強まるのも無理はないだろう。米国は財政年度が10月から始まることから9月は財政執行面での支援が期待しにくい要因もある。また、大統領選から2年ずれて連邦議会の中間選挙も同じ時期に行われる。

S&P500指数(終値)について2012年以降2年毎の年初からの日次推移を見ると、急激な金融引締め局面だった2022年を除けば、2014年、16年、18年、20年と、10月近辺で年初と同水準。18年を除けばその後年末に向けて上昇するものの、今年は8月までの年初来騰落率が特に高いことから調整があれば要注意な面もあろう。

【西暦偶数年の米国株・秋の動向~大統領選と中間選挙年における季節性】

 

■新NISAの7月まで:証券会社10社

日本証券業協会が証券会社10社(大手証券5社、ネット証券5社)について公表した今年1~7月までのNISA口座開設・利用状況によれば、月別口座開設数は7月まで6ヵ月連続で前月比増加。買付金額は成長投資枠がつみたて投資枠の3倍以上に上り、投資信託が国内個別株を上回る。月毎の買付金額では、成長投資枠は6月まで5か月連続で前月比減少だったが、7月にプラスに転じた。夏のボーナス支給に伴う買付が推察される。

つみたて投資枠については、暦日数が少なかった2月を除き、年初来累計の口座開設数増加に伴って月毎に買付金額が増加。4月~5月にかけては新社会人効果、6月~7月にかけては成長投資枠と同様に夏のボーナス支給効果からの伸び加速が窺われる。

【新NISA7月まで:証券会社10社~つみたて投資枠買付と口座開設増】

 

■日本株の買い手主役は事業法人

日本取引所Gが公表する投資部門別売買動向によれば、事業法人の買い越し加速で年初からの累計買い越し額が8月3週で4兆円超えと、2022年および23年を大きく上回るペースだ。事業法人による自社株買いは株主還元として自己資本を減らし、自己資本利益率(ROE)を改善する効果がある。「PBR(株価純資産倍率)1倍割れ」の企業を含めて東証が「資本コストや株価を意識した経営」を強く推進するなか、たROE向上への意識の更なる高まりにより自社株買いを通じた買い越し額の一層の増加が期待される。

今まで日本株買いの主役だった海外投資家は現物・先物合計ベースで買い越し額が昨年から急減速している。年初来の累計では8月にマイナスに転じた。為替円高ドル安の影響が大きいだろう。

【日本株の買い手主役は事業法人~自社株買いでROE/PBRの向上ニーズも】

 

■銘柄ピックアップ

ライト工業(1926)      

2174  円(8/30終値)  

 

・1948年に仙台市で設立。技術力に定評がある専業土木工事(斜面・法面対策工事、基礎・地盤改良工事、補修・補強工事、環境修復工事)、一般土木工事、および建築・その他工事を営む。

・8/7発表の2025/3期1Q(4-6月)は、売上高が前年同期比1.4%減の254億円、営業利益が同21.3%増の20.98億円。受注高は建築事業分野で複数件の大型マンション工事受注も前年同期の米国での大型地盤改良工事の反動減から同3.8%減(472億円)。採算性の向上が利益増に貢献。

・通期会社計画は、売上高が前期比3.1%増の1210億円、営業利益が同21.8%増の137億円、年間配当が同5円増配の75円。8月に入り台風7号および10号と日本列島に近づくか上陸後に発達度合いを高めるなど従来と次元が異なる様相を呈している。防災・減災、国土強靭化の政府建設投資は政府による政策の優先順位が高まると見込まれ、予算の重点計上など同社へ追い風となろう。

ウェザーニューズ(4825    

5740 8/30終値) 

・1986年設立。気象を含む自然現象データを顧客と共に収集・加工しコンテンツとして提供。BtoB(法人向け)の気象予測に基づく業務支援、およびBtoS(社会向け)の情報コンテンツ提供を行う。

・7/8発表の2024/5通期は、売上高が前期比5.3%増の222億円、営業利益が同0.4%増の32.70億円。BtoBで航海気象(売上比率26%)が同6%増収、航空気象(6%)が2%増収、陸上気象(15%)が9%増収、環境気象(5%)が13%増収。BtoSではモバイル・インターネット気象(37%)が5%増収だった。

・2025/5通期会社計画は、売上高が前期比5.7%増の235億円、営業利益が同16.2%増の38億円、年間配当が同10円増配の130円。IT開発人材強化に伴う人件費増も天候に応じた柔軟な広告投資戦略は利益率向上に寄与しよう。大型台風や南海トラフ地震臨時情報等に対応した交通網の計画運休などに対し同社の業種特化型「ウェザーニュース for business」などのサービス需要増が見込まれる。

愛知製鋼5482)          

3270 円(8/30終値) 

         

・1940年に豊田自動織機製作所より分離独立。自動車向け特殊鋼大手でトヨタ自動車(7203グループ企業。鋼材事業、ステンレス鋼事業、鍛造品事業、電磁品事業、およびその他の事業を展開。

・7/31発表の2025/3期1Q(4-6月)は、売上高が前年同期比2.5%減の719億円、営業利益が同51.6%減の14.85億円。販売数量減と販売価格下落に伴い営業大幅減益も、上期会社計画(13億円)を1Qで超過。売上比率15%ステンレス(4.7%増収)は堅調も同37%の鋼材が8.3%減収だった。

・通期会社計画は、売上高が前期比1.2%増の3000億円、営業利益が同32.5%減の70億円、年間配当が同30円減配の70円(配当性向37.3%)。トヨタグループが政策保有株式縮減を打ち出すなか足元のPBR(株価純資産倍率)0.25倍と低位にとどまる。自動車メーカーと厳しい価格交渉を行う日本製鉄5401が同社の第2位株主。少数株主利益の観点から「物言う株主」の動きも注目されよう。

萩原工業(7856            

1591   8/30終値) 

  

・1962年に岡山県倉敷市で糸用ポリエチレン糸の製造販売で設立。ブルーシートやコンクリート補強繊維の「合成樹脂加工製品事業」、および産業機械スリッターの「機械製品事業」を主に営む。

・6/10発表の2024/10期1H(11-4月)は、売上高が前年同期比2.8%増の163億円、営業利益が同25.8%増の12.71億円。売上比率82%の合成樹脂加工製品は、包装資材用途「メルタック」およびコンクリート補強繊維「バルチップ」が海外堅調。ブルーシートは能登半島地震の復興需要へ優先対応。

・通期会社計画は、売上高が前期比2.4%増の320億円、営業利益が同11.2%増の22億円、年間配当が同14円増配の50円。建築現場の資機材野積みカバーで使われるブルーシートで同社は国内シェア約9割。土嚢の布袋でも高シェア。防災シートも軽量・高防音性の高技術。バルチップはコンクリート耐久性を高める資材として世界シェア2割。人工芝は商業施設やオフィスでの導入が広がる。

セントラル・パタナ(CPN)  

市場:タイ    59.50  THB8/29終値)

・1980年設立。タイ有数の財閥のセントラルグループ傘下の商業不動産開発最大手。9月末現在、大型ショッピングセンター41件、オフィスタワー10棟、ホテル9棟、住宅プロジェクト33件を開発管理。

・8/14発表の2024/12期2Q(4-6月)は、総収益が前年同期比21.1%増の134.83億THB、調整後純利益が同24.7%増の42.06億THB。訪タイ外国人観光客増加を背景にショッピングモール賃貸関連およびホテル運営が伸びたほか、コンドミニアム引渡し件数増に伴う住宅用不動産販売が大幅に伸長。

・同社は2024-28年に1210億THB(内6割が新規開発)を投資する5ヵ年計画をベースに同5年間の年平均複利成長率目標を10%以上とする。既に住宅およびホテルのプロジェクトを2023年に集中してローンチしたことに続き、今年の後半もラヨーン県のホテルに加え、バンコク市内の主要4エリアを繋ぐ複合施設プロジェクト「デュシット・セントラルパーク」の内、257部屋のホテルがオープンの予定。

■アセアン株式ウィークリーストラテジー

9/2号「タイは観光に本腰~最大60日のビザ免除」)

タイ政府は経済活性化を目的とした新たなビザ施策を7/15より施行。①観光目的・短期ビジネス向け最大60日間滞在のビザ免除(30日間延長も可能)、②入国時に空港・港で到着ビザを取得するビザ・オン・アライバル(VOA)制度(最大15日間の滞在が可能)、③デジタルノマド向けビザ(DTV、④学生ビザの拡充が含まれる。ビザ免除対象国は従来の57ヵ国から93ヵ国に拡大した。日本人は観光で最大60日まで、短期就労目的は最大15日、商用目的は最大30日の商用ビザ免除とされている。

タイは6~10月の約5か月間が雨季とされる。足元で各地で大規模な洪水が発生し、観光産業や農業への打撃が懸念されるも、11~2月は乾期で雨が殆ど降らず日中気温は25~30度ながら朝晩は20度近くと過ごしやすい。高齢になると身体に堪える冬をタイで長めに暮らすのも悪くないだろう。

 

 

 

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笹木和弘プロフィール笹木 和弘
フィリップ証券株式会社:リサーチ部長
証券会社にて、営業、トレーディング業務、海外市場に直結した先物取引や外国株取引のシステム開発・運営などに従事。その後は個人投資家や投資セミナー講師として活躍。2019年1月にフィリップ証券入社後は、米国・アセアン・日本市場にまたがり、ストラテジーからマクロ経済、個別銘柄、コモディティまで多岐にわたる分野でのレポート執筆などに精力的に従事。公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト(CIIA®)。

 

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世界経済のけん引役と期待されるアセアン(ASEAN:東南アジア諸国連合)。そのアセアン各国で金融・証券業を展開し、マーケットを精通するフィリップグループの一員である弊社リサーチ部のアナリストが、市場の動向を見ながら、アセアン主要国(シンガポールタイマレーシアインドネシア)の株式市場を独自の視点で徹底解説します。

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