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シンガポール銀行セクターレポート・9月-シンガポール金利と当座・普通預金比率は安定している-

 

原文:グレン・ツーム(Glenn Thum)

フィリップ証券シンガポール

銀行・金融セクター・リサーチアナリスト

原文公開日:2023年9月8日

本レポート作成日:2023年9月21日

■シンガポール地場銀行・フィリップ・セキュリティーズ・リサーチ(PSR)投資レーティング

略語リスト:  
NIM – 純金利収入 DDAV – デリバティブ日次平均売買代金
SIBOR – シンガポール銀行間貸出金利       (Derivatives Daily Average Volume)
SORA – シンガポール・オーバーナイト金利平均 SDAV – 株式日次取引高
SOR – スワップ・オファー・金利             (Securities Daily Average Value)
HIBOR – 香港銀行間貸出金利 PATMI – 税引き後少数持ち分調整後純利益

■レポートサマリー

  • 8月の3ヶ月複利シンガポールオーバーナイト金利(3M-SORA)は前月比(MoM)で1bps上昇の69%、3ヶ月複利香港銀行間貸出金利(3M-HIBOR)はMoM12bps低下の4.98%。23年2Qのシンガポール地場銀行の収益は弊社予想を上回った。
  • 7月のシンガポール国内融資残高は前年同月比(YoY)で15%減少し、予想を下回った。融資額の減少幅は前月からやや拡大した。当座・普通預金比率(CASA比率)は横ばいの18.9%(23年6月:18.9%)。
  • オーバーウェイトを継続:銀行に対しては引き続きポジティブ。シンガポール地場銀行の配当利回りは7%と魅力的で、過剰な自己資本比率是正によるROE向上を目指す動きがあれば、配当などの還元による上方サプライズの可能性がある。シンガポール取引所(SGX)も金利上昇の恩恵を受ける企業の一つであるとみている(SGX SP、買い、目標株価 11.71S$)。

 

■8月のシンガポール金利成長は横ばいも、香港金利は低下した

シンガポール金利は8月に横ばいの動きを見せた。3ヶ月複利シンガポールオーバーナイト金利(3M-SORA)は前月比(MoM)で1bps上昇の3.69%となった。8月の3M-SORAは前年同月比(YoY)では227bpsの急上昇となり、23年2Q中の3M-SORAの平均値3.62%(1Q23:3.20%)を7bps上回った。

香港の金利は低下し、過去数ヵ月間の上昇からやや反転した。3ヶ月複利香港銀行間貸出金利(3M-HIBOR)はMoMで12bps低下の4.98%で、7月におけるMoMで26bpsの上昇から反落した。

しかしながら、3M-HIBORは2023年初来で2番目に高い水準に達したことになる。8月の3M-HIBORはYoYで256bps改善し、23年2Qの3M-HIBOR平均の4.28%を70bps上回った(図1)

図1:8月のHIBORは低下したがSORAは横ばい

引用: ブルームバーグ, フィリップ・セキュリティーズ・リサーチ(PSR)

 

■シンガポール融資額成長は7月に急減した

7月のシンガポール居住者向け融資(シンガポール居住者向けの全通貨建の融資額が対象)はYoYで6.15%減の7,860億シンガポールドルとなった。金利上昇が消費者に本格的に浸透し始めたためで、2023年の融資額成長率は1桁台前半となるとした弊社予想を下回った。7月のビジネス・ローンはYoYで8.75%減少した。最大の事業セグメントである建築・建設業向け貸出はYoYで2.46%減の1,690億Sドル、製造業向け貸出はYoYで22.75%減の213億Sドルとなった。消費者ローンは7月、YoYで1.84%減の3,090億Sドルとなったが、これは他のセグメントにおける落ち込みが、住宅セグメントにおける旺盛なローン需要によって若干相殺されたためである。消費者ローンの約 70%を占める住宅ローンは、YoY 1.09%増の 2,230 億 S ドルとなった。ノンバンク顧客向けの全通貨建預金を含む預金・残高合計は、7月にYoYで3.25%増の1兆7,510億Sドルとなった。当座預金・普通預金(CASA)の比率は横ばいの18.9%(23年6月:18.9%)、預金残高は3,300億Sドルだった。

図2: シンガポール国内融資成長率(YoY)推移

2022/2023

 融資額成長率(YoY)

2023年7月 -6.15%
2023年6月 -5.02%
2023年5月 -4.88%
2023年4月 -5.86%
2023年3月 -3.98%
2023年2月 -3.10%
2023年1月 -1.89%
2022年12月 -0.30%
2022年11月 0.67%
2022年10月 2.13%

引用: CEIC, フィリップ・セキュリティーズ・リサーチ(PSR)

香港の融資増加率は引き続き低下

7月の香港国内融資額成長率はYoYで4.73%低下、MoMで0.98%低下した。2023年6月におけるYoYでの4.20%低下とMoMでの0.98%低下を、それぞれ2023年6月の0.03%を上回った。

香港の7月の国内融資額成長率はYoYで4.73%減、MoMでは0.98%減となった。2023年6月にみられたYoYでの融資額成長率4.20%減、およびMoM融資額成長率0.03%減のいずれも上回る結果となった。

図3:香港の融資額成長率は7月に入ってさらに低下した

引用: CEIC, フィリップ・セキュリティーズ・リサーチ(PSR)

市場の中国懸念を反映して、ボラティリティは拡大

8月の株式日次平均売買代金(SDAV)速報値はYoYで4%減の10億6,100万ドル(図4) と前月のYoY成長率増加からやや反転した。8月のVIX(S&P500)の平均は15.9と前月13.9から上昇。デリバティブ日次平均出来高(DDAV)は98万枚となり、YoYで1%、MoMで5%の減少となった。

図 4: デリバティブ出来高と株式売買代金の前年比推移

株式

日次平均売買代金

(百万$)

YoY デリバティブ

日次平均取引高

(百万枚)

YoY
2023年7月 1,014 13%
2023年6月 1,174 1% 1.03 -6%
2023年5月 1,032 -31% 0.98 -13%
2023年4月 969 -24% 0.96 -12%
2023年3月 1,216 -22% 1.04 -11%
2023年2月 1,105 -33% 1.01 -5%
2023年1月 1,159 -4% 1.08 +6%
2022年12月 935 10% 0.92 +8%
2022年11月 1,239 -8% 1.09 +27%
2022年10月 1,154 0% 1.22 +23%
2022年9月 1,171 -5% 1.05 +2%
2022年8月 1,105 -12% 0.92 +2%

引用:シンガポール取引所(SGX), ブルームバーグ, フィリップ・セキュリティーズ・リサーチ

株価指数先物取引高上位4銘柄の8月の取引高は、YoYで7.1%増の 1,228万枚となったが(図5)、これはFTSE台湾指数先物と FTSE中国A50指数先物の取引高が増加したためである。特にFTSE中国A50指数先物はMoMで17.8%増、日経平均先物は同 10.2%減となった。

5: 株価指数先物の取引高上位5銘柄は前年同期比(YoY)で低下した

      単位:枚数
株式指数名 22年6月 23年6月 YoY 増減
FTSE China A50 Index Futures 7,826,742 7,418,652 -5.2%
Nikkei 225 Index Futures 1,106,121 961,941 -13.0%
MSCI Singapore Index Futures 1,127,196 1,174,471 4.2%
FTSE Taiwan Index Futures 1,381,739 1,482,793 7.3%
各部合計 11,441,798 11,037,857 -3.5%

引用:シンガポール取引所(SGX), ブルームバーグ, フィリップ・セキュリティーズ・リサーチ

シンガポール銀行関連ニュース

  • 8月29日、ブルームバーグ・ニュースが確認した犯罪記録によって、シンガポール最大の金融機関であるDBSグループ・ホールディングスと、OCBC銀行のプライベート・バンキング部門であるバンク・オブ・シンガポールが、10億ドル以上の資産をめぐる大規模なマネーロンダリング疑惑で8月初めに逮捕・起訴された人物に関連する投資会社の債権者であったことが報じられた。これらの銀行は、マレーシアのCIMB銀行、シティグループの現地法人、ドイツ銀行などとともに、マネーロンダリング疑惑の容疑者とつながりのある金融機関のリストに加わった。
  • 8月28日、OCBCはデジタルバンキングとカードバンキングのチャネルに影響を与える短時間の障害に見舞われた。午前9時43分、同行は企業フェイスブックページの投稿にて「技術的な問題でバンキング・チャンネルに影響が出ている」と告知した。約1時間後の午前10時37分、OCBCはカードと支店サービスが復旧し、続いてATMサービスも復旧したと発表した。
  • シンガポール金融管理局(MAS)は8月7日、刷新された金融セクター・テクノロジー・アンド・イノベーション・スキーム(FSTI 0)の下、3年間で最大1億5,000万シンガポールドルを拠出すると発表した。FSTI 3.0 は、金融機関における最先端技術の活用や地域との連携などを目的としたプロジェクトをMASが支援することで、イノベーションの加速と強化を目指す。その中でMASはコミットメントを倍増していき、金融セクターのための活気あるテクノロジー・エコシステムを促進していく狙いである。

 

投資行動への示唆

オーバーウェイトを継続:シンガポール銀行セクターについては引き続きポジティブな見方を継続する。シンガポール地場銀行の配当利回りは魅力的な水準にあり、過剰資本比率の是正によりROEを向上させる動きがあれば、上方サプライズも期待できる。安定した経済情勢と金利上昇は銀行セクターにとって引き続き追い風である。SGXも金利上昇の恩恵を受ける企業の一つであると我々は見ている。

図:6過去5年のシンガポール地場銀行のPBR推移

引用: ブルームバーグ, フィリップ・セキュリティーズ・リサーチ(PSR)

図7: 各行の目標PBR

(単位:倍率)

DBS

OCBC

UOB

 過去最高値

 過去最低値

1.62

0.81

1.50

0.73

1.43

0.79

 5年平均値 1.17 1.09 1.12
 現在値 1.34 1.02 0.97
 目標値 1.36 1.27 1.17
 目標株価(S$) 41.60 14.96 35.70

引用: ブルームバーグ, フィリップ・セキュリティーズ・リサーチ(PSR)

図8 : アジア競合金融機関比較

引用:ブルームバーグ・フィリップ・セキュリティーズ・リサーチ

 

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アナリストのご紹介 フィリップ証券リサーチ部

笹木和弘プロフィール笹木 和弘
フィリップ証券株式会社:リサーチ部長
証券会社にて、営業、トレーディング業務、海外市場に直結した先物取引や外国株取引のシステム開発・運営などに従事。その後は個人投資家や投資セミナー講師として活躍。2019年1月にフィリップ証券入社後は、米国・アセアン・日本市場にまたがり、ストラテジーからマクロ経済、個別銘柄、コモディティまで多岐にわたる分野でのレポート執筆などに精力的に従事。公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト(CIIA®)。

 

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世界経済のけん引役と期待されるアセアン(ASEAN:東南アジア諸国連合)。そのアセアン各国で金融・証券業を展開し、マーケットを精通するフィリップグループの一員である弊社リサーチ部のアナリストが、市場の動向を見ながら、アセアン主要国(シンガポールタイマレーシアインドネシア)の株式市場を独自の視点で徹底解説します。

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