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シンガポール銀行セクターレポート・8月①-純金利マージン増加と配当成長

 

原文:グレン・ツーム(Glenn Thum)

フィリップ証券シンガポール

銀行・金融セクター・リサーチアナリスト

原文公開日:2023年8月11日

本レポート作成日:2023年8月22日

【レポートサマリー】

  • 7月の3ヶ月複利のシンガポールオバーナイト貸出金利平均(3M-SORA)は前月比(MoM)で5bps上昇の69%、3ヶ月複利の香港銀行間取引金利(3M-HIBOR)はMoMで26bps上昇の5.10%となった。
  • 6月のシンガポール国内融資額はYoYで02%減と予想を下回った。MoMでは安定的に推移しており、増加傾向を2カ月連続で記録したのは10ヶ月ぶり。当座・普通預金(CASA)比率(%)は18.9%(5月:18.8%)と16ヵ月ぶりにMoMで増加。
  • オーバーウェイトを継続:シンガポール地場銀行に対してはポジティブな見方を継続する。銀行の配当利回りは約0%と魅力的で、過剰資本比率の是正によるROE向上の動きがあれば、配当による上方サプライズの可能性がある。SGXも金利上昇の恩恵を得る企業の一つであると我々はみている(SGX SP、買い、目標株価 11.71 S$)
DBSグループ・ホールディングス (DBS) オーバーシー・チャイニーズ銀行(OCBC) ユナイテッド・オーバーシー銀行 (UOB)
買い(継続) 買い(継続) 買い(継続)
ブルームバーグコード DBS SP ブルームバーグコード OCBC SP ブルームバーグコード UOB SP
最終取引値 (7/1) SGD 34.15 最終取引値 (7/1) SGD 12.28 最終取引値 (7/1) SGD 28.30
予想配当額 SGD 1.86 予想配当額 SGD 0.85 予想配当額 SGD 1.75
目標株価(PSR) SGD 41.60 目標株価(PSR) SGD 14.96 目標株価(PSR) SGD 35.90
配当利回り 5.45% 配当利回り 6.46% 配当利回り 6.02%
トータルリターン 27.26% トータルリターン 20.23% トータルリターン 29.43%

3M-SORAの成長は横ばいを継続も、3M-HIBORは7月に反発した。

7月のシンガポール金利は若干上昇した。3ヶ月複利のシンガポールオーバーナイト金利平均(3M-SORA)は前月比(MoM)で5bps上昇して3.69%、YoYで(YoY)では265bpsの上昇となった。3M-SORAのYoYでの成長率は過去8ヵ月で最小となった。7月の3M-SORAは23年2Qの3M-SORA平均3.62%より7bps高い。

香港の金利は23年2Q中から7月にかけて上昇を続けており、23年1Q中に続いていた低下傾向から逆転した。3ヶ月複利の香港銀行間取引金利(3M-HIBOR)は前月比26bps上昇の5.10%となり、2022年12月の3M-HIBOR 5.29%以来の高水準となった。7月の3M-HIBORは前年同 期比324bps改善し、23年2Qの3M-HIBOR平均の4.28%を82bps上回った(図1)

図1:7月にSORA成長は横ばいとなったが、HIBORは回復を継続

引用: ブルームバーグ, フィリップ・セキュリティーズ・リサーチ(PSR)

シンガポールの融資額成長の低下傾向は、6月にさらに落ち込みを見せた

6月のシンガポール居住者向け融資額(全通貨建)はYoYで5.02%減の7,990億S$となった。金利上昇が消費者に本格的に浸透し始めたことから、2023年を通じての融資額成長率は1桁台前半(%)から1桁台半ば(%)とするPSR予想を下回った。しかしMoMでは安定して推移しており、5月と6月で、過去10ヵ月で見て、2カ月連続での増加傾向を示している。

6月の事業者向け融資はYoYでは6.92%減少した。最大の融資先となる事業部門である建築・建設部門向け融資額は、同1.36%減の1,710億S$、製造部門向け融資額は同19.25%減の237億S$となった。

6月の消費者向け融資額はYoYで1.85%減の3,100億S$となった。複数の消費者向け融資セグメントにおいて借り入れの落ち込みが見られる中で、住宅ローンセグメントにおける旺盛な借り入れ需要は落ち込みを若干相殺している。住宅ローンは消費者向け融資額の約 70%を占め、6 月はYoYでは 1.18%増の 2,230 億 S$となった。

ノンバンク顧客向けの預金残高合計(全通貨建てが対象)は、6月にYoYで3.62%増の1兆7,560億S$となった。当座・普通預金(CASA)の総預金に対する比率は18.9%(23年5月:18.8%)、当座預金総額は3,330億S$となり、CASA比率はMoMで16ヵ月ぶりに上昇した。

図 2: シンガポール国内融資成長率(YoY)推移

2022-2023年 融資額成長率 (YoY)
2023年4月 -5.86%
2023年3月 -3.98%
2023年2月 -3.10%
2023年1月 -1.89%
2022年12月 -0.30%
2022年11月 0.67%
2022年10月 2.13%
2022年9月 4.38%
2022年8月 6.67%

引用元: CEIC, フィリップ・セキュリティーズ・リサーチ

 

香港の融資増加率は引き続き低下

香港の6月の国内貸出増加率はYoYで4.20%減、MoMで0.03%減となった。23年6月におけるYoYでの減少幅は2023年5月に観測されたYoYでの4.33%減よりも緩和された。MoMでの減少幅は同0.03%減と、2023年5月に観測されたMoMでの0.63%減よりも緩和された。

図3:香港の融資額成長率は6月に入ってさらに低下した

引用: CEIC, フィリップ・セキュリティーズ・リサーチ(PSR)

市場の混乱からの回復が続き、ボラティリティは低下

7月の株式日次平均売買代金(SDAV)速報値はYoYで13%増の10億1,400万ドル(図6) となった。これは市場心理が改善し始めた2022年2月以降では最大の伸びとなった。7月のVIX(S&P500)の平均は13.9と前月の14.0からやや低下し、デリバティブ日次平均出来高(DDAV)はYoYで6%減の103万枚となったが、前月比では6月の98万枚から5%増加した。

株価指数先物取引高上位4銘柄の7月の取引高は、日経平均先物とFTSE中国 A50指数先物の取引高が減少したため、YoYで3.5%減の1,104万枚と小幅に落ち込んだ (図表7)。MSCIシンガポール指数先物はMoMで13.7%増となったが、日経平均先物はMoMで40.3%減と最も減少した。

 

4: デリバティブ出来高と株式売買代金の前年比推移

株式

日次平均売買代金

(百万$)

 

YoY

デリバティブ

日次平均取引高

(百万枚)

 

YoY

2023年7月 1,014 13%
2023年6月 1,174 1% 1.03 -6%
2023年5月 1,032 -31% 0.98 -13%
2023年4月 969 -24% 0.96 -12%
2023年3月 1,216 -22% 1.04 -11%
2023年2月 1,105 -33% 1.01 -5%
2023年1月 1,159 -4% 1.08 +6%
2022年12月 935 10% 0.92 +8%
2022年11月 1,239 -8% 1.09 +27%
2022年10月 1,154 0% 1.22 +23%
2022年9月 1,171 -5% 1.05 +2%
2022年8月 1,105 -12% 0.92 +2%

引用:シンガポール取引所(SGX), ブルームバーグ, フィリップ・セキュリティーズ・リサーチ

5: 株価指数先物の取引高上位5銘柄は前年同期比(YoY)で低下した

株式指数 Jul-22 Jul-23 YoY
FTSE China A50 Index Futures 7,826,742 7,418,652 -5.2%
Nikkei 225 Index Futures 1,106,121 961,941 -13.0%
MSCI Singapore Index Futures 1,127,196 1,174,471 4.2%
FTSE Taiwan Index Futures 1,381,739 1,482,793 7.3%
Sub-total 11,441,798 11,037,857 -3.5%

引用:シンガポール取引所(SGX), ブルームバーグ, フィリップ・セキュリティーズ・リサーチ

 

投資行動への示唆

オーバーウェイトを継続:シンガポール銀行セクターについては引き続きポジティブな見方を継続する。シンガポール地場銀行の配当利回りは魅力的な水準にあり、過剰資本比率の是正によりROEを向上させる動きがあれば、上方サプライズも期待できる。安定した経済情勢と金利上昇は銀行セクターにとって引き続き追い風である。SGXも金利上昇の恩恵を受ける企業の一つであると我々は見ている。

図6: 過去5年のシンガポール地場銀行のPBR推移

引用: ブルームバーグ, フィリップ・セキュリティーズ・リサーチ(PSR)

図7: 各行の目標PBR

(単位:倍率) DBS OCBC UOB
過去最高値

過去最低値

1.62

0.81

1.50

0.73

1.43

0.79

5年平均値 1.17 1.09 1.12
現在値 1.34 1.02 0.97
目標値 1.36 1.27 1.17
目標株価(S$) 41.60 14.96 35.70

 

図8: 東南アジア地域金融機関の競合比較

引用: ブルームバーグ, フィリップ・セキュリティーズ・リサーチ(PSR)

 

 

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アナリストのご紹介 フィリップ証券リサーチ部

笹木和弘プロフィール笹木 和弘
フィリップ証券株式会社:リサーチ部長
証券会社にて、営業、トレーディング業務、海外市場に直結した先物取引や外国株取引のシステム開発・運営などに従事。その後は個人投資家や投資セミナー講師として活躍。2019年1月にフィリップ証券入社後は、米国・アセアン・日本市場にまたがり、ストラテジーからマクロ経済、個別銘柄、コモディティまで多岐にわたる分野でのレポート執筆などに精力的に従事。公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト(CIIA®)。

 

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世界経済のけん引役と期待されるアセアン(ASEAN:東南アジア諸国連合)。そのアセアン各国で金融・証券業を展開し、マーケットを精通するフィリップグループの一員である弊社リサーチ部のアナリストが、市場の動向を見ながら、アセアン主要国(シンガポールタイマレーシアインドネシア)の株式市場を独自の視点で徹底解説します。

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