シンガポール銀行・金融セクター月次レポートー金利上昇は安定しているー
シンガポール | 銀行・金融セクター | アップデート
セクター投資レーティング:オーバーウェイト(継続)
原文:グレン・ツーム(Glenn Thum)
フィリップ証券シンガポール
銀行・金融セクター・リサーチアナリスト
原文公開日:2023年2月6日
本レポート作成日:2023年2月14日
レポートサマリー
- 1月の3ヶ月物-シンガポール・オーバーナイト金利平均(SORA)は前月比3bps減の3.05%で、21年8月以来初の低下。12月のシンガポール国内融資は前年同月比0.30%減、予想を下回る、香港国内融資は前年同月比2.99%減。当座預金・普通預金(CASA)残高は20.4%とやや低下。
- 22年第4四半期の税引き後少数持ち分調整後純利益(PATMI)の予想は、DBS(20.2億S$)、UOB(15.9億S$)、OCBC(20.3億S$)。22年4Qの各行の純金利収入(NIM)は3Qよりさらに34bps上昇すると予想。OCBCの現在の株価は最も魅力的で、配当によるアップサイドサプライズは最も大きくなる可能性がある。
- セクター・レーティングはオーバーウエイトを継続。銀行・金融部門に対して好調であるとの見方を継続。各行の配当利回りは4-5%と魅力的であり、過剰な自己資本比率の見直しによりROEの向上へ動くことによるアップサイドサプライズが出る可能性がある。そのほか、シンガポール証券取引所(SGX)も金利上昇の恩恵を受ける企業とみている。 [SGX, 買い, 目標株価 S$11.71]
略語リスト | |
NIM – 純金利収入 | HIBOR – 香港銀行間貸出金利 |
SIBOR – シンガポール銀行間貸出金利 | DDAV – デリバティブ日次平均出来高 (Derivatives Daily Average Volume) |
SORA – シンガポール・オーバーナイト金利平均 | SDAV – 株式日次売買代金 (Securities Daily Average Value) |
SOR – スワップ・オファー・金利 | PATMI – 税引き後少数持ち分調整後純利益 |
3ヶ月物SORAと3ヶ月物SIBORの成長率は1月に平坦化した
1月に入り金利はフラット化し始めた。3ヶ月物のシンガポール・オーバーナイト金利平均(SORA)は前月比3bps低下の3.05%、3ヶ月物シンガポール銀行間貸出金利(SIBOR)は前月比1bps上昇して4.25%となった。SORAの前月比低下は2021年8月以来のことで、前月比で2桁bpsの上昇が8ヵ月続いた後であり、SIBORの前月比上昇は前月の23bpsから22bps低下している。1月の3M-SORAは前年同月比285bpsの改善となり、22年第4四半期の3ヶ月物SORA平均2.68%を37bps上回った。1月の3ヶ月物SIBORは前年同月比381bpsの改善となり、22年4Qの3ヶ月物SIBOR平均の3.96%から29bps上昇した(図1)
【図1】23年1月の金利の動きは平坦化して推移した
引用元: ブルームバーグ, フィリップ・セキュリティーズ・リサーチ
シンガポール国内の融資額の成長は12月中に低下した
シンガポール居住者向け融資総額(あらゆる通貨建てを対象とする)は、12月に前年同月比0.3%減の814億S$となった。金利上昇が消費者に本格的に浸透し始めたことから、2022年内において1桁台半ばの成長率とする弊社の予想を下回った。しかし、10月と11月における月次融資額の伸びが12月での落ち込み分を引き上げる様になり、22年第4四半期の融資額は前年同期比0.8%増となった。
【図2】 対前年 シンガポール国内融資成長率
引用元: CEIC, フィリップ・セキュリティーズ・リサーチ
12月の事業用途融資は、前月比1.49%減となり、前年同月比では0.82%減となった。セクター単独での最大の融資額となる建築・建設部門向け融資は、前年同期比0.74%増の1,690億S$となったものの、製造部門向け融資は12月に前年同月比1.01%減の259億S$で着地した。
消費者ローンは、住宅分野の旺盛なローン需要に支えられ、12月は前年同月比0.56%増の3,129億S$だった。消費者ローンの約70%を占める住宅ローンは、12月は前年同月比3.60%増の2,225億S$となった。
ノンバンクを対象としたあらゆる通貨建てでの預金残高総額は、22年12月に前年同月比7.32%増の1兆7,160億S$に達した。高金利環境を背景に定期預金への移行が続いたため、当座預金・普通預金(CASA)の割合は預金残高総額に対して20.4%(10月22日:20.7%)の3,510億S$となり、僅かに減少した。
香港国内の融資額の成長率は継続して低下した
12月の香港金融機関の国内向け融資額の成長率は前年同月比2.99%減、前月比0.82%減となった。12月にみられた年次ローン成長率の減少は、11月に観測された年次成長率3.02%減とほぼ同水準であるが、一方で月次でみたローン成長率の減少は0.82%であり、11月の月次ローン成長率の減少0.35%より47bps高い。
【図3】:香港国内の融資額成長率は12月に低下した
引用元: CEIC, フィリップ・セキュリティーズ・リサーチ
*CEICの発表する香港国内融資額は、香港金融管理局より認可を受けた金融機関による香港国内向け融資を対象としています。
PSRによる各行の22年4Qの業績予想
DBS が 2月13日、UOB が 2月23日、OCBC が 2月24日にと、各行22年4Q 決算が発表される予定である。(括弧内はコンセンサス予想値)
- DBS の 22 年第 4 四半期の予想総収益は9 億S$(45.5 億S$)、予想PATMI は 20.2 億S$ (21.6 億S$)*実績値は下記参照
- UOB の22 年第 4 四半期の予想総収益は2 億S$(32.6 億S$)、予想PATMI は15.9 億S$(13.2 億S$)
- OCBC の22 年第 4 四半期の予想総収益は4 億S$(33.1 億S$)、予想PATMI を 20.3 億S$(16.4 億S$)
市場センチメントが抑制される中でボラティリティは低下した
1月の株式日次売買代金(SDAV)の速報値は、マクロ経済要因から2023年初頭の市場センチメントが低調に推移し、前年同月比4%減の1,146百万S$(図4)となった。1月のS&P500のVIX平均は20.2と前月の21.8から低下、デリバティブ日次平均出来高(DDAV)は12月の0.92百万枚と前年同月比8%上昇したもが、11月の1.09百万枚から前月比15.6%減少した。
【図4】株式とデリバティブの売買代金実績および前年比(%)
引用: シンガポール証券取引所, ブルームバーグ, フィリップ・セキュリティーズ・リサーチ
株価指数先物取引の出来高上位5銘柄は、FTSE中国A50指数先物やFTSE台湾指数先物の取引高が減少したことなどから、1月は前年同月比13.2%減の13,020万枚となった(図5)。Nifty50指数先物は前月比10.8%増の237万枚、日経平均先物は前月比23.9%減の96万枚となった。
【図5】株価指数先物の取引高上位5種
引用: シンガポール証券取引所, ブルームバーグ, フィリップ・セキュリティーズ・リサーチ
銀行・金融セクターへの投資行動に関する示唆(セクター・レーティング)
オーバーウェイトを継続:我々は銀行に対してポジティブな見方を維持している。銀行の配当利回りは魅力的であり、現在の過剰な自己資本比率の見直しとROEの上昇へと是正する動きがあれば、アップサイドサプライズが期待できる。安定した経済情勢と金利上昇は引き続き銀行セクターの追い風となる。シンガポール証券取引所も金利上昇の恩恵を受ける企業の一つだと考えている。
【図6】各行の過去5年間におけるPBR(時価簿価比率)推移
– OCBC銀行は最も割安な水準にある –
引用元:ブルームバーグ, フィリップ・セキュリティーズ・リサーチ
【図7】シンガポール地場銀行各行の目標PBR(時価簿価比率)
引用元:ブルームバーグ, フィリップ・セキュリティーズ・リサーチ
- 上場有価証券等のお取引の手数料は、国内株式の場合は約定代金に対して上限1.265%(消費税込)(ただし、最低手数料2,200円(消費税込)、外国取引の場合は円換算後の現地約定代金(円換算後の現地約定代金とは、現地における約定代金を当社が定める適用為替レートにより円に換算した金額をいいます。)の最大1.10%(消費税込)(ただし、対面販売の場合、3,300円に満たない場合は3,300円、コールセンターの場合、1,980円に満たない場合は1,980円)となります。
- 上場有価証券等は、株式相場、金利水準等の変動による市場リスク、発行者等の業務や財産の状況等に変化が生じた場合の信用リスク、外国証券である場合には為替変動リスク等により損失が生じるおそれがあります。また新株予約権等が付された金融商品については、これらの権利を行使できる期間の制限等があります。
- 国内金融商品取引所もしくは店頭市場への上場が行われず、また国内において公募、売出しが行われていない外国株式等については、我が国の金融商品取引法に基づいた発行者による企業内容の開示は行われていません。
- 金融商品ごとに手数料等及びリスクは異なりますので、お取引に際しては、当該商品等の契約締結前交付書面や目論見書又はお客様向け資料をよくお読みください。
免責事項
- この資料は、フィリップ証券株式会社(以下、「フィリップ証券」といいます。)が作成したものです。
- 実際の投資にあたっては、お客様ご自身の責任と判断においてお願いいたします。
- この資料に記載する情報は、フィリップ証券の内部で作成したか、フィリップ証券が正確且つ信頼しうると判断した情報源から入手しておりますが、その正確性又は完全性を保証したものではありません。当該情報は作成時点のものであり、市場の環境やその他の状況によって予告なく変更することがあります。この資料に記載する内容は将来の運用成果等を保証もしくは示唆するものではありません。
- この資料を入手された方は、フィリップ証券の事前の同意なく、全体または一部を複製したり、他に配布したりしないようお願いいたします。
アナリストのご紹介 フィリップ証券リサーチ部
笹木 和弘
フィリップ証券株式会社:リサーチ部長
証券会社にて、営業、トレーディング業務、海外市場に直結した先物取引や外国株取引のシステム開発・運営などに従事。その後は個人投資家や投資セミナー講師として活躍。2019年1月にフィリップ証券入社後は、米国・アセアン・日本市場にまたがり、ストラテジーからマクロ経済、個別銘柄、コモディティまで多岐にわたる分野でのレポート執筆などに精力的に従事。公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト(CIIA®)。