【投資戦略ウィークリー 2025年8月25日号(2025年8月22日作成)】”エヌビディア決算発表、ステーブルコイン、ヒト型ロボット”
■エヌビディア決算発表、ステーブルコイン、ヒト型ロボット
- 日経平均株価はソフトバンクグループ(9984)を牽引役として8/19に4万3876円まで上昇後、年次経済シンポジウム「ジャクソンホール会議」でのパウエル米FRB(連邦準備制度理事会)議長の講演を8/22に控えて調整色が窺われる。米国利下げ期待が後退するのではないかとの懸念とともに、米政府が半導体産業を強化する目的の「CHIPS法」に関連して主要半導体メーカーの株式を取得して経営に介入するのではないかとの不安、および「ChatGPT」で知られるOpenAIのアルトマンCEOがAI(人工知能)投資バブルの可能性を示唆したことも背景にある。一方、8/27に米半導体エヌビディア(NVDA)の5-7月期決算発表を控えていることから、週明け8/25以降にはAIに関する半導体やデータセンター関連インフラ銘柄が再び注目される可能性もある。
- 米国で米ドルの価値に1対1で連動する暗号資産であるステーブルコインに対応するための規制枠組みである「GENIUS法」が7/18に成立。日本でも8/18、フィンテック企業のJPYCが「資金移動業者」に登録され、国内初の日本円で1対1で連動するステーブルコイン(電子決済手段)を発行可能な資金移動業者となった。これを受けて、JPYCに出資しているアステリア(3853)や、ステーブルコイン決済送金基盤の構築を目指す電算システムホールディングス(4072)の株価が高騰した。ブロックチェーンと呼ばれる基盤に取引を記録することで、国際送金も含めて銀行を介さず、小口取引であっても低コストで迅速に決済できるなど金融の仕組みを根本から変える可能性を持っている。
- 中国・北京市で8/15-17の3日間、ヒト型ロボットの世界スポーツ大会が開催された。米モルガンスタンレーは2月、ヒト型ロボットの開発や生産に関わる世界の上場企業100社のリストを「The Humanoid 100」にまとめた。同社はヒト型ロボット産業を以下の3つのセグメントに分類した。①ブレイン:AI(人工知能)チップ、ソフトウェア、半導体など、ロボットの知能を支える技術を提供する企業。②ボディ:アクチュエータ、センサー、バッテリーなど、ロボットの物理的構造に関わるコンポーネントを提供する企業。③インテグレーター:ロボット全体の設計や統合を担う企業である。
- 100社の中には、ソニーグループ(6758)、日本精工(6741)、ファナック(6954)、安川電機(6506)、三菱電機(6503)、キーエンス(6861)、ハーモニック・ドライブ・システムズ(6324)などの日本企業も含まれている。中国企業がコスト競争力で勝るものの、日本企業は、減速機、ベアリングなどの高精度部品で世界的な競争力を持つ点、産業用ロボットのノウハウ、ヒト型ロボットの知能や環境認識に関するAIとセンサーの技術で強みを持っている点に特徴がある。関節部品に関する減速機とベアリングの分野が注目されそうだ。(笹木)
本日号は、デンカ(4061)、三井化学(4183)、ハーモニック・ドライブ・システムズ(6324)、日本精工(6471)、バンコク・エクスプレスウェイ・アンド・メトロ(KEP)を取り上げた。
■主な企業決算の予定
- 8月25日(月):ジャパン・ホテル・リート投資法人、インヴィンシブル投資法人、(米)PDDホールディングス
- 8月26日(火):
- 8月27日(水): タカショー、ダイドーグループホールディングス、(米)クラウドストライク・ホールディングス、エヌビディア
- 8月28日(木):(米) マーベル・テクノロジー、オートデスク
- 8月29日(金):トリケミカル研究所、ラクーンホールディングス
■主要イベントの予定
- 8月25日(月):
・暗号資産関連の国際カンファレンス「WebX」開催(26日まで)、14:00 景気先行CI・一致指数(6月)、14:30 東京地区百貨店売上高(7月)
・米韓首脳会談(ホワイトハウス)、米ニューヨーク連銀総裁と米ダラス連銀総裁がメキシコ中銀創立100周年カンファレンスで講演、英休場(バンクホリデー)
・米新築住宅販売件数(7月)、 独IFO企業景況感指数(8月)
- 8月26日(火):
・08:50 企業向けサービス価格指数(7月)、14:00日銀・基調的なインフレ率を捕捉するための指標
・米リッチモンド連銀総裁の発言
・米耐久財受注(7月)、米FHFA住宅価格指数(6月)、米主要20都市住宅価格指数(6月)、米消費者信頼感指数(8月)
- 8月27日(水):
・日銀の国債買い入れオペ、月例経済報告(8月)
・米リッチモンド連銀総裁の発言、APECエネルギー担当大臣会合(韓国・釜山、28日まで)、ベネチア映画祭(9月6日まで)
・中国工業利益(7月)
- 8月28日(木)
・財務省2年利付国債入札、ヤゲオとミネベアミツミによる芝浦電子へのTOB期限、08:50 対外・対内証券投資(8月 22日)、10:30 日銀の中川順子審議委員が山口県金融経済懇談会で講演(14:00 記者会見)
・米ウォラーFRB理事が講演、ECB議事要旨(7月開催分)、EU非公式国防相会合(29日まで)、韓国中銀とフィリピン中銀が政策金利発表
・米GDP(2Q、改定値)、米新規失業保険申請件数(8月23日終了週)、 米中古住宅販売成約指数(7月)、欧州新車販売台数(7月)、ユーロ圏マネーサプライ(7月)、ユーロ圏消費者信頼感指数(8月)、ユーロ圏景況感指数(8月)
- 8月29日(金):
・08:30 東京CPI(8月)、08:30 失業率・有効求人倍率 (7月)、08:50 鉱工業生産(7月)、08:50 小売売上高・百貨店・スーパー売上高(7月)、14:00 消費者態度指数 (8月)、14:00 住宅着工件数・戸数(7月)
・ECBのユーロ圏CPI予想 (7月)、EU非公式外相会合(30日まで)、サモア総選挙
・米個人所得・支出(7月)、米PCE価格指数(7月)、米卸売在庫(7月)、米ミシガン大学消費者マインド指数(8月)、独失業率(8月)、独CPI(8月)、印GDP(2Q)
- 8月31日(日):
・上海協力機構(SCO)首脳会議(中国・天津、9月1日まで)、中国製造業・非製造業PMI(8月)
(Bloombergをもとにフィリップ証券作成)
※本レポートは当社が取り扱っていない銘柄を含んでいます。
■ユナイテッドヘルス・グループ
米医療保険サービス大手ユナイテッドヘルス・グループ(UNH)の株価は4/11高値から8/1安値まで約61%下落。その後、著名投資家バフェット氏が率いるバークシャー・ハサウェイが4-6月に同社株を取得したことが報じられ、株価が一時上昇。
株価下落要因としては、高齢者向け公的医療保険メディケアの不正請求疑惑に関する刑事捜査が行われていると報じられたことだけではなく、同社が強みを持つメディケア・アドバンテージ(MA)事業で医療費率上昇に伴う業績悪化などが挙げられる。さらに、トランプ政権のヘルスケア政策も歳出削減や規制強化に重点が置かれ、同社へ逆風となっている。それでも、米ヘルスケア保険市場最大手の同社は、米国の高齢化に伴うメディケア加入者数増加の追い風が中長期的に見込まれる。
【ユナイテッドヘルス・グループ~バークシャー・ハサウェイが2Qに新規投資】
■米中古住宅と新築一戸建て販売
米中古住宅販売件数は価格が記録的水準にあり、借入コストも高い中、低迷が続いている。在庫は増えているものの、多くの住宅所有者は低金利で借り入れたローンを手放すことに消極的なこと、および過去数年にわたる供給不足などが住宅価格を押し上げている。
一方で、住宅建設のペースがバイデン政権下での移民流入などに伴う人口増加に追い付いておらず、住宅建設業者が新築住宅の供給を増やす動きが見られた。さらに、木材価格の安定化に伴う建設コストの一部低下や新築住宅の在庫増加に対して価格を引き下げて販売する動きもみられたことから、新築一戸建て販売の中間価格が中古住宅販売の中間価格を下回る動きがみられる。住宅建設業者に追い風となる面もあるだろう。
【米国中古住宅と新築一戸建て販売~新築価格が中古価格を下回る事態へ】
■個人の売り加速と信用倍率低下
2025年の投資主体別売買動向では、事業法人は一貫して買い越し、海外投資家は年初来累計で7月第2週以降に買い越しに転じて以降、買い越しを続けている。一方で、個人投資家は年初来累計で6月第4週に売り越しに転じて以降、売り越し額の拡大が加速している。
個人投資家の日本株売りは、現物株の売却や信用取引の売り決済のほか、信用取引の新規売り建て増加が考えられる。現物株を売却すれば次の買い待機資金となる。信用取引の新規売り建ては将来的には決済のための買い需要となる。個人投資家の売り越し拡大は、現物買いの待機資金増加、および信用倍率の低下によって日本株市場の需給改善につながっている。これは今後の相場見通しで考慮すべきポイントだろう。
【個人の売り加速と信用倍率低下~指数が高値更新しながら需給が改善へ】
■銘柄ピックアップ
デンカ(4061)
2264.5 円(8/22終値)
・1915年設立の総合化学品会社。化学肥料・セメントの軍配印の商標が有名。電子・先端プロダクツ、ライフイノベーション、エラストマー・インフラソリューション、ポリマー・ソリューションが主要事業。
・8/7発表の2026/3期1Q(4-6月)は、売上高が前年同期比8.4%増の952億円、営業利益が同68.7%増の47億円。主な事業別営業利益は、電子・先端プロダクツ(売上比率23%)が6%増の22億円、ライフイノベーション(同8%)が88%増の8億円、ポリマーソリューション(同34%)が2億円へ黒字転換.
・通期会社計画は、売上高が前期比7.9%増の4200億円、営業利益が同34.6%増の180億円、年間配当が同横ばいの100円。同社は世界首位の合成ゴムであるクロロプレンゴムで、赤字続きだった米国工場を停止する荒療治により利益回復を急ぐ方針。さらにAI(人工知能)半導体製造で需要増加の半導体封止材で使われる球状シリカ、次世代高速通信向けの放熱材料の成長が見込まれる。
三井化学(4183)
3692 円 (8/22終値)
・1997年に旧・三井化学工業と三井東圧化学が合併。ライフ&ヘルスケアソリューション、モビリティソリューション、ICTソリューション、ベーシック&グリーン・マテリアルズを主な事業セグメントとする。
・8/7発表の2026/3期1Q(4-6月)は、売上収益が前期比7.6%減の4153億円、コア営業利益が同11.8%減の266億円。コア営業利益の内訳は、ライフ&ヘルスケア(売上比率13%)が5%増の62億円、モビリティ(同31%)が5%減の146億円、ICT(同17%)が45%増の90億円、ベーシック&グリーンは赤字。
・従来未公表だった通期会社計画は、売上収益が前期比2.2%減の1兆7700億円、コア営業利益が同9.0%増の1100億円、年間配当が同横ばいの150円。同社は石油化学事業(ベーシック&グリーン・マテリアルズ)の構造改革を進め、2027年目標で分社化を検討。次世代露光装置に対応した「ペリクル」(半導体回路の原版を保護する薄い膜材料)や光学材料などの成長分野も注目される。
ハーモニック・ドライブ・システムズ(6324)
2539 円(8/22終値)
・1970年に長谷川歯車と米国USM社の合弁事業で設立。長野県安曇野市に穂高工場がある。減速装置とその応用製品(アクチュエータ・制御装置等メカトロ製品)関連の精密減速機事業を営む。
・8/6発表の2026/3期1Q(4-6月)は、売上高が前期比3.8%増の134億円、営業利益が前年同期の▲2億円から1億円へ黒字転換。製品別売上高は、減速装置が11%増の108億円、応用製品が17.4%減の26億円。用途別は車載が減収の一方、産業用ロボット、半導体製造装置、ギアヘッドが増収。
・従来未公表だった通期会社計画は、売上高が前期比2.4%増の570億円、営業利益が15億円(前期600万円)、年間配当が同横ばいの20円。同社はヒト型ロボット向け精密減速機へ100億円の戦略投資を実施。2026年度に同減速機で100-200億円の売上高を目指している。同社の波動歯車減速機は世界シェア6割のほか、競合他社と比べてコンパクトであり、小型ロボット向け関節部品で優位。
日本精工(6471)
766.9 円 (8/22終値)
・1916年設立のベアリング(軸受)メーカー。一般産業向けの軸受や精密機器関連を扱う「産業機械事業」、自動車および部品メーカー向けの軸受やステアリングなどを扱う「自動車事業」を展開。
・7/31発表の2026/3期1Q(4-6月)は、売上高が前年同期比2.4%減の1957億円、営業利益が同18.4%減の47億円。産業機械事業(売上比率46%)は2%減収、営業利益が41%減の15億円。自動車事業(同51%)は2%減収、営業利益が16%増の35億円。為替の円高推移が業績に響いた。
・通期会社計画は、売上高が前期比4.6%減の7600億円、営業利益が同22.7%減の220億円、年間配当が同横ばいの34円。同社は超小型・高精度ベアリングや低摩擦ベアリングの開発で世界を主導。特にヒト型ロボットの関節に求められる高トルク・軽量・コンパクトな技術に強みを持つ。自動車事業を通じ、米テスラや中国自動車メーカーなどヒト型ロボット開発の先端企業を幅広く取引先とする。
バンコク・エクスプレスウェイ・アンド・メトロ(BEM)
市場:タイ 5.40 THB (8/21終値)
・バンコクおよび周辺の高速道路を管理運営するバンコク高速道路と、バンコクで地下鉄を運営するバンコクメトロが2015年に合併し設立。高速道路事業、鉄道事業のほか商業開発事業を展開する。
・8/13発表の2025/12期2Q(4-6月)は、サービス収益が前年同期比0.6%減の39.97億THB、純利益が同1.0%減の9.93億THB。鉄道事業が増収・増益だった一方で、高速道路事業は今年3月に発生したミャンマー中部地震に伴って建設中の高層ビルが倒壊した影響を受けて、減収・減益となった。
・2024年7月にタイ大量輸送公社(MRTA)との間でバンコクの東西を走る地下鉄路線MRTオレンジライン・プロジェクトの営業権の協定に署名。権利有効期間が東側の商用運営開始日から30年とされている中、東側区間の開業目標が当初の2028年から2027年後半へ前倒しとなった。また、タイ政府は国民への現金給付第3弾の予算枠である1570億THBを経済対策に充当する景気刺激策を実施。
■アセアン株式ウィークリーストラテジー
(8/25号:タイ経済の現状と今後の見通し)
8/18にタイ国家経済社会開発評議会(NESDC)が発表した2025年4-6月期のタイの国内総生産(GDP)は、輸出が米国関税全面発効前の駆け込み要因もあり伸びたものの、外国人観光客の減少が響き、前年同期比(季節調整済み)2.8%増と、1-3月の同3.2%増から鈍化した。NESDCは、今年の輸出伸び率予想を1.8%から5.5%へ引き上げた一方、外国人観光客予想を従来の3700万人から3300万人に引き下げた。タイ政府は、国民への現金給付策のデジタルウォレット第3弾の予算枠1570億THBを経済対策に充当する景気刺激プロジェクトに取り組んでおり、財務省ではプロジェクト実施によりGDPを0.4ポイント押し上げ、740万人以上の雇用を創出すると試算している。一方、駆け込み輸出の反動や家計債務が経済に与える圧迫から、経済成長率が減速するとの見方が根強い。
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アナリストのご紹介 フィリップ証券リサーチ部
笹木 和弘
フィリップ証券株式会社:リサーチ部長
証券会社にて、営業、トレーディング業務、海外市場に直結した先物取引や外国株取引のシステム開発・運営などに従事。その後は個人投資家や投資セミナー講師として活躍。2019年1月にフィリップ証券入社後は、米国・アセアン・日本市場にまたがり、ストラテジーからマクロ経済、個別銘柄、コモディティまで多岐にわたる分野でのレポート執筆などに精力的に従事。公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト(CIIA®)。