【投資戦略ウィークリー 2025年8月12日号(2025年8月8日作成)】”戦後日本社会を支えた仕組みの大転換~日本株市場へ影響”
■戦後日本社会を支えた仕組みの大転換~日本株市場へ影響
- 戦後の日本社会を支えていた仕組みが大きく変わりつつあり、その動きが日本株市場にも影響を及ぼし始めている。第1に、7月の参院選における与党大敗と、1955年の自民党結党以来初となる衆参両院の少数与党化だ。石破政権は野党の協力を得なければ、予算や法律を成立させられない苦しい状況となった。野党は物価高対策としてガソリンを減税する法案を提出している。消費税減税や現金給付については各党でスタンスが異なる中、野党の主張を取り入れざるを得なくなる可能性は高い。物価上昇による税収上振れや実際の歳出が年度予算を消化し切れていないことが多いことから、剰余分を国民に還元することが財政規律を損なうことにはならないようにも思われる。
- 第2に、防衛装備品の輸出拡大である。防衛装備品の輸出や国際共同開発については、2014年1月に制定された「防衛装備移転三原則」の下、「完成装備品」は用途を「救難」、「輸送」、「警戒」、「監視」、「掃海」の5つに限定される一方、共同開発・生産の対象であれば殺傷力のある装備も輸出可とされている。オーストラリアへ輸出する方向となった「もがみ」型護衛艦改良型は共同開発・生産の形をとっている。米・英・豪の3ヵ国間の軍事同盟である「AUKUS」、日・米・豪・印の4ヵ国間の戦略的対話である「QUAD」、日・英・伊の3ヵ国による次期戦闘機の共同開発など、日本とその周辺を取り巻く防衛を巡る枠組みの下、世界的な防衛予算拡大の中で防衛装備品の輸出は新しい産業として日本株投資でも主要テーマとなりつつあるところだ。
- 第3に、「コメ増産、輸出も拡大」への政策転換である。作付面積削減を要求する「減反政策」は1970年頃から2018年まで続いた。その後も政府は麦や大豆、飼料用米を生産する農家への転作助成金として予算を計上してきた。主食米の生産を安定させるには特に飼料米への転作助成金の見直しとともに、増産期における米価下落への対応として、収入保険の拡充や一定額を補助金として出す「直接支払い」の検討が必要だろう。JAグループがコメを集荷する際に農家に一時的に前払いする「概算金」は夏から秋にかけて提示されることが多い中、今年は例年より早く金額を引き上げる動きが相次いでいる。
- 日本株を巡る需給は、年初来の累計で海外投資家が7月に買い越しに転じた一方、個人投資家は売り越しとなっている。信用取引における買い残高の売り残高に対する割合である「信用倍率」が7月下旬に0倍と、2024年2月以来の低水準となるなど改善の方向にある。東証プライム市場の値上がり銘柄数と値下がり銘柄数の比率で市場の過熱感を見る「騰落レシオ」の25日ベースでは、8/6以降に140%を超えるなど買われ過ぎの兆しが見られる。決算発表が一巡した後の調整局面に要注意だろう。(笹木)
本日号は、すかいらーくホールディングス(3197)、クミアイ化学工業(4996)、新明和工業(7224)、AZ-COM丸和ホールディングス(9090)、タイ・ユニオン・グループ(TU)を取り上げた。]
■主な企業決算の予定
- 8月12日(火): ミライト・ワン、ワコールホールディングス、ショーボンドホールディングス、上組、横浜ゴム、サワイグループホールディングス、GMO インターネットグループ
- 8月13日(水):サンケン電気、オープンハウスグループ、アルバック、ネクソン、日本電子、マツキヨココカラ&カンパニー、スズケン、光通信、アシックス、リゾートトラスト、ラクス、(米)シスコシステムズ
- 8月14日(木):電通グループ、朝日インテック、荏原製作所、クレディセゾン、SOMPOホールディングス、サンドラッグ、トリドールホールディングス、マブチモーター、すかいらーくホールディングス、(米)アプライド・マテリアルズ、ディア
- 8月15日(金):日本リート投資法人、日本ビルファンド投資法人、日本プライムリアルティ投資法人
■主要イベントの予定
- 8月11日(月):
・中国経済全体のファイナンス規模、新規融資、マネーサプライ(7月、15日までに発表)
- 8月12日(火):
・08:50マネーストックM2・M3 (7月)
・豪中銀が政策金利発表、OPEC月報
・米CPI(7月)、米財政収支(7月)、独ZEW期待指数(8月)、英ILO失業率(4-6月)、シンガポールGDP(2Q)
- 8月13日(水):
・財務省5年利付国債入札、アクセルスペースホールディングスが東証グロースに新規上場、08:50 国内企業物価指数(7月)、15:00 工作機械受注(7月)
・米シカゴ連銀総裁と米アトランタ連銀総裁がイベントで講演、タイ中銀が政策金利発表、独CPI(7月)、ロシアGDP(2Q)
- 8月14日(木)
・日銀国債買い入れオペ
・米リッチモンド連銀総裁が全米企業エコノミスト協会(NABE)会長とウェビナーで会談、ペルー中銀とノルウェー中銀が政策金利発表
・米新規失業保険申請件数(8月9日終了週)、米PPI(7月)、ユーロ圏GDP(2Q)、ユーロ圏鉱工業生産(6月)、 英GDP(2Q)、英鉱工業生産(6月)、豪雇用統計(7月)
- 8月15日(金):
・全国戦没者追悼式、08:50 GDP(4-6月期速報)、08:50 対外・対内証券投資 (8月3-9日)、13:30 鉱工業生産・設備稼働率(6月)
・英国モーターショーが開幕(ファーンバラ、17日まで)、英国の対日戦勝80年記念日、韓国の光復節、インドの独立記念日
・米輸入物価指数(7月)、 米小売売上高(7月)、米ニューヨーク連銀製造業景況指数(8月)、米鉱工業生産(7月)、米企業在庫(6月)、対米証券投資(6月)、米ミシガン大学消費者マインド指数・速報値(8月)、中国新築住宅価格(7月)、中国小売売上高・工業生産・都市部固定資産投資(7月)、マレーシアGDP(2Q)、台湾GDP(2Q)、香港GDP(2Q)
- 8月17日(日):
・ボリビア大統領選
(Bloombergをもとにフィリップ証券作成)
※本レポートは当社が取り扱っていない銘柄を含んでいます。
■パランティア・テクノロジーズ
データ解析ソフトの米パランティア・テクノロジーズ(PLTR)が8/4に発表した2025年4-6月期決算は売上高が前年同期比48%増の10.03億USD、純利益が2.4倍の3.26億USD。トランプ米政権に接近して米軍との契約を増やしているほか、民間企業向けのAI(人工知能)関連サービスが伸びたことを受け、全体の7割を占める米国売上高のうち政府向けが53%増、米民間企業向けが93%増と拡大している。
同社は技術者を客先に派遣して顧客の課題解決に伴走する、密着型販売手法をとり、単価が高く解約されにくい。米陸軍は、同社と今後10年間で最大100億USDのソフトの調達契約を結んだ模様。これまで75に分かれていた契約を同社に一本化することでコスト削減と同時に米兵がデータを扱いやすくする効果を見込む。
【パランティア・テクノロジーズ~官民一体AI推進策、米商業の伸び加速】
■香港IPO市場の復活と香港取引所
香港のIPO(新規株式公開)市場が堅調に推移している。2025年1-6月の資金調達額は1000億HKD(約1兆8000億円)を超え、上半期で世界首位に返り咲いた。香港取引所(0388香港)の1-3月業績も、人気銘柄の大型IPOが相次いだことを契機に、中国本土投資家のストックコネクト経由での売買に牽引された現物株式の売買増加を受けて回復している。
香港取引所は23年3月、収益・利益要件を満たせない成長段階のハイテク企業上場促進を目的として「専門的テクノロジー企業」(STC)向けの特別上場枠「チャプター18C」を導入。23年11月、IPOの決済プロセスをデジタル化し迅速化するためのプラットフォーム「FINI」を導入。公開価格決定日からのIPO決済期間を5営業日後から2営業日後に短縮した。
【香港IPO市場の復活と香港取引所~チャプター18Cとプラットフォーム「FINI」】
■実質賃金の伸びマイナスで推移
8/6発表の6月の毎月勤労統計調査(速報、従業員5人以上)によると、物価変動の影響を除いた実質賃金が前年同月比1.3%減少。2025年の春闘による平均賃上げ率が前年比5.25%と2年連続で5%を上回ったほか、6月の夏の賞与など「特別に支払われた給与」が3.0%増加したものの、物価上昇に届かず6ヵ月連続のマイナスとなった。「特別に支払われた給与」が前年同月の7.8%増から伸びが鈍化したことも響いた。
食料品を中心にインフレ率の高止まりが続く中、実質賃金の伸び率を引き上げるには政府による物価高対策が重要となっている。衆参両院で少数与党となった石破政権は、政権枠組み変更も視野に入れつつ、物価高対策で野党の要求に応じるスタンスが求められるだろう。
【実質賃金の伸びマイナスで推移~名目賃金上昇が物価上昇に追いつかず】
■銘柄ピックアップ
すかいらーくホールディングス(3197)
2955.5 円(8/8終値)
・1962年に現在の西東京市ひばりが丘団地で「ことぶき食品」を設立。すかいらーく、ジョナサン、バーミヤンなどのブランドを展開。2006年にMBOで非上場化して経営再建後、2014年に再上場した。
・5/15発表の2025/12期1Q(1-3月)は、売上収益が前年同期比16.8%増の1116億円、事業利益が同29.6%増の82億円。既存店売上高は9.7%増、新規出店10店舗(うち海外が4店舗)、店舗改装が40店舗。粗利益率が0.9ポイント上昇の66.7%。一方、売上高販管費率が1.7ポイント低下の59.3%。
・通期会社計画は、売上収益が前期比10.9%増の4450億円、事業利益が同13.4%増の275億円、年間配当が1.5円増配の20円。既存店売上高増収率(前年比)は、4月が9.2%増、5月が7.6%増、6月が3.9%増、7月が7.7%増と堅調に推移。客数、客単価ともにプラスの伸びとなっている。衆参両院で少数与党政権となる中、野党の要求に応じて財政支出が拡大すれば消費増加が見込まれる。
クミアイ化学工業(4996)
846 円 (8/8終値)
・1928年に静岡県清水市(現・静岡市清水区)で創業。全農を通じた国内販売および同社グルーフ゜による海外販売の「農薬・農業関連事業」、「化成品事業」を主に営む。海外売上比率が6割弱。
・6/6発表の2025/10期1H(11-5月)は、売上高が前年同期比9.2%増の961億円、営業利益が同6.9%増の94億円。農薬・農業関連(売上比率82%)は9%増収、営業利益が5%増。化成品(同13%)は生成AI(人工知能)サーバー向け電子材料の拡大を受けて7%増収、営業利益が124%増。
・通期会社計画は、売上高が前期比1.1%減の1593億円、営業利益が同8.4%減の104億円、年間配当が同横ばいの34円。売上比率約4割の抵抗性雑草の除草剤「アクシーブ」はアルゼンチン向けが出荷減の一方、米国・豪州・ブラジルで出荷増。コメの国内生産拡大への政策転換により国内向け水稲用箱処理剤の殺菌剤「ディザルタ」、水稲用除草剤の「エフィーダ」等の拡大が見込まれる。
新明和工業(7224)
1750 円(8/8終値)
・1949年に企業再建整備法に基づき前身の川西航空機の第二会社として設立。輸送機器・産業機械を製造。航空機、特装車、産機・環境システム、パーキングシステム、流体、その他事業を営む。
・7/31発表の2026/3期1Q(4-6月)は、売上高が前年同期比0.4%増の576億円、営業利益が同22.5%減の14億円。受注高は2.5%増の747億円、6月末受注残は8.7%増の3339億円。うち特装車が18%増、流体が17%増、産機・環境システムが12%増、航空機が10%増。パーキングは減少。
・通期会社計画は、受注高を前期比9.8%増の3200億円(従来計画3150億円)へ上方修正、売上高を同7.0%増の2850億円(同2900億円)へ下方修正。営業利益と年間配当は従来計画を据え置いた。豪海軍が次期フリゲート艦に海上自衛隊の「もがみ」型護衛艦の改良型の採用を決定。同社が製造する海上自衛隊運用の国産唯一の水陸両用救難飛行艇「US-2」の海外受注も期待される。
AZ-COM丸和ホールディングス(9090)
1259 円 (8/8終値)
・1973年の現在の埼玉県吉川市で丸和運輸機関を設立。顧客に対し物流コンサルティングを行い、小売・物流業務を包括的に受託する「サードパーティ・ロジスティクス(3PL)」を主力事業として展開。
・8/5発表の2026/3期1Q(4-6月)は、売上高が前年同期比11.2%増の552億円、営業利益が同65.8%増の30億円。ラストワンマイル輸配送(売上比率17%)が減収も、EC常温3PL(同32%)が23%、EC常温輸配送(同25%)が7%、低温食品3PLが10%、医薬・医療3PLが17%とそれぞれ増収。
・通期会社計画は、売上高が前期比5.6%増の2200億円、営業利益が同8.5%増の119億円、年間配当が横ばいの16円。同社は「AZ-COM丸和・支援ネットワーク」という団体を2015年に立ち上げ、中小の業者と一緒に、米Amazonの配送業務で大量の荷物を捌いている。大手運輸会社が物流業界の人手不足対応で共同輸送網の拡大に取り組む中、同社は共同輸送網で優位な展開が見込まれる。
タイ・ユニオン・グループ(TU)
市場:タイ 12.70 THB (8/7終値)
・1977年設立のツナ缶世界最大手。三菱商事(8058)が約6.2%保有の第4位株主。主に魚介類・水産加工品、冷凍シーフード関連製品、ペットフード、高付加価値その他製品の4事業部門を営む。
・8/4発表の2025/12期2Q(4-6月)は、売上高が前年同期比5.4%減の333億THB、撤退した米レッドロブスター株式保有に係る減損損失の影響を除く調整後純利益が同13.2%増の15億THB。純金融費用減少も利益面で寄与した。為替変動の影響を除く既存事業売上高は同0.7%減にとどまった。
・通期会社計画は、米国の相互関税が4-7月に10%、8-12月に19%として、売上高を前期比1-2%増(従来計画1-3%増)、粗利益率を18.5-19.5%(同18.0-19.0%)、設備投資支出額を35-40億THB(同30-35億THB)へ修正。三菱商事(8058)は8/4、株式公開買付(TOB)により同社への出資比率を20%へ引き上げると発表。持ち分法適用会社とし、業務提携による事業への関与を高める方針だ。
■アセアン株式ウィークリーストラテジー
(8/12号「タイとカンボジアの国境紛争について(2)」)
タイとカンボジアの国境地帯に位置するプレアビヘア寺院についてカンボジアが2008年にユネスコ(国連教育科学文化機関)の世界遺産登録を申請した。1962年に国際司法裁判所(ICJ)が同寺院の領有権をカンボジアに認めていたものの、タイは、寺院への主要なアクセス道路がタイ領内にあることから実質的な管理権を主張し、共同管理による世界遺産登録の共同申請を提案した。
カンボジアはこれを拒否して単独申請。ユネスコによる世界遺産登録決定後、タイとカンボジアは寺院周辺に軍を配備し、2008-2011年にかけて断続的な武力衝突が発生。タイは、カンボジアの申請書に添付された地図が1904-1907年のフランス・シャム協定に基づく国境線と異なり、タイが主張する国境線を侵害していると主張。2011年、ユネスコ世界遺産委員会から一時的に脱退を表明した。
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アナリストのご紹介 フィリップ証券リサーチ部
笹木 和弘
フィリップ証券株式会社:リサーチ部長
証券会社にて、営業、トレーディング業務、海外市場に直結した先物取引や外国株取引のシステム開発・運営などに従事。その後は個人投資家や投資セミナー講師として活躍。2019年1月にフィリップ証券入社後は、米国・アセアン・日本市場にまたがり、ストラテジーからマクロ経済、個別銘柄、コモディティまで多岐にわたる分野でのレポート執筆などに精力的に従事。公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト(CIIA®)。