『ADX Wilder』はRSIを考案したワイルダー氏自身がRSIよりもプロ向きのテクニカル分析である、と言っている手法です。一般的には『DMI』と呼ばれていることが多いです。
ADX Wilderにはいくつかの記号が登場するのですが、最終的には『+DI』、『-DI』そして『ADX』という記号を求め、表示します。
しかし、この3つの記号を求める前に、『+DM』、『-DM』、『TR』という記号で表される数値を求めないといけません。そして、前回では、これら3つの記号について解説し、最後に『DI』というのは、『DM』を『TR』で割ることで求められる、と紹介しました。今回はDIについて解説していきます。
DIを求める前にDMを算出しないとなりません。DMというのは上昇ないしは下落の動きが強かった際の値動き、と言い換えても良いでしょう。上昇が強いのであれば、『+DM』、下落が強いのであれば『-DM』となります。そして、そのDMを真の変動幅と呼ばれる『TR』で割って、『DI』を算出します。
例えば、『+DI』であれば、真の変動幅の中で上昇エネルギー(+DM)がどれくらいの割合を占めていたのかが求められるのです(前回コラム参照)。
ただ、毎日算出される数字をそのまま使うのではなく、それぞれ14日間の+DMと-DMの数値を合計して、14日間のTRの合計で割ります。
なぜ、14日というパラメーターを使うのかの理由については、詳細は分かりません。開発したワイルダー氏はRSIのパラメーターも14日を使っています。おそらく、半月にあたる2週間であるとともに、当時、彼自身が分析をしていた対象商品が14日間の計算でうまく分析出来たのではないか、と推察されます。
このように求めた+DIは上昇エネルギーが強いことを示し、-DIは下落エネルギーが強いことを示します。
では、最初に+DIだけをグラフに表してみましょう。
ドル円の価格が上昇した際には、+DIもほぼ同じ歩調で上昇しているのがわかります。
ここで大事なのは、価格が上昇する際には+DIも上昇する、ということです。
次に、-DIだけのグラフを見てみましょう。
ドル円の価格が下落している時に-DIが上昇しているのがわかります。
ここで注意をしていただきたいのは、価格が下落しているからといって-DIの値が下落しているのではない、ということです。
「下落している」、すなわち下落エネルギー自体が高くなるという意味で、-DIの数値は上がるのです。
さあ、ここで2つの線を同時に出してみます。
+DIの数値は価格が上昇している時に歩調を合わせて上昇し(青矢印)、-DIは価格が下落している時に上昇しているのがわかります(赤矢印)。
ここでは教科書として使われている売買シグナルは、+DIと-DIのクロスの箇所です。
つまり、+DIが-DIを下から上に超えていく時は『買いシグナル』-DIが+DIを超えていく時が『売りシグナル』となるのです。
+DIと-DIがクロスをする、つまり上昇と下落のエネルギーが交差するということを考えると、ADX Wilderは買われ過ぎ・売られ過ぎで売買シグナルを点灯させるオシレーター系のテクニカル分析というよりも、+DIと-DIを使った売買シグナルはトレンド系に近いテクニカル分析といえるのではないでしょうか。
新しいトレンドが出たのを確認した後に売買シグナルが点灯する、というのが上図の矢印の箇所を見てもわかります。
なお、上図で黄丸印の箇所は+DIと-DIが連続して交差しています。短期間で売買シグナルが点灯することで『ダマシ』が出やすい局面でもあります。
こういう時の対処法としては考えられるのは、パラメーターの『14』です。RSIを解説した際にも指摘をしたのですが、14というパラメーターは長すぎる(大きすぎる)可能性があるのです。
そこで、パラメーターを『10』に変更すると以下のように変わります。
+DIと-DIのクロスで売買シグナルとする際には、パラメーターの変更も念頭において使用した方が良いと言えるでしょう。
次回は、ADXの説明をします。
川口 一晃(オフィスKAZ代表取締役)
1986 年銀行系証券会社に入社。銀行系投資顧問や国内投信会社で11年間ファンドマネージャーを務める。
2004年10月に独立してオフィスKAZ 代表取締役に就任。