今回は以前に紹介した『RSI』を開発したワイルダー氏(Wilder)が、RSIよりも精度が良いとして発表した『ADX Wilder』を紹介したいと思います。実は、この手法は『DMI』という名称で広く知られている、ということを記しておきたいと思います。
筆者がこの手法に出会ったのは35年前のことです。実際に運用しているファンドで活用していたのを今でも覚えています。当時は株式の運用が主ではありましたが、銘柄ごとに自分のパソコンでDMIの式を登録して計算をしていました。
しかし、このDMI、筆者がセミナーで説明するテクニカル分析の中でも説明の難しいテクニカル分析なのです。
結論だけ示して「ここだけを見るようにしてください」と言えば簡単なのですが、やはり、テクニカル分析を使いこなす、というレベルを考えると公式の裏に潜む考え方などを説明していかなくてはなりません。その過程でいくつかの記号が登場するのが第1関門です。次に、中学生の時に勉強した『絶対値』を使います。ここの理解が第2の関門に近いのかもしれません。
ということで、今回はこのADXに挑戦したいと思います。
まずは、ADXのグラフから見ていただきましょう。
下段に表示された3本の線がADX Wilder です。
3本の線にはそれぞれ名前があります。
と言います。
次に、この3本の線は一体何を表している線なのでしょうか
結論から言うと
DIを求める前に、DMというのを算出しないとなりません。これは「変動幅」のことです。 以下の式によって求めます。
この2つの式で計算をして、値の大きい方を「DM」として採用するのですが、
H(当)-H(前)の方が採用されたのであれば「+DM」とします。
L(前)―L(当)の方が採用されたのであれば「-DM」とします。
ちなみに、採用されなかったDM、例えば、その日は「-DM」が採用され、「+DM」が採用されなかったのであれば、採用されなかった「+DM」の値は「0」として計算します。
なお、このDMの前に付いている「±」の記号は、「正の数」「負の数」を表す記号ではなく、「+」は『上昇力が強い』。「-」は『下落力が強い』ということを意味するだけものです。
ですので、「+DM」が採用されたのであれば、「上昇力が強い値幅なんだ」と認識してください。
上記の内容を図に示すと以下のようになります。
また、+DMと-DMが同じ値の場合もあります。その時は+DMも-DMもお互いに「0」として計算をします。
これを日々計算するのですが、ということは、原則、どちらかが採用されるし、両方が同じ値であれば「0」が採用されるのですから、「正の数」だけが計算されていく、ということなります。
記号の作業は更に進みます。
ここで「TR」を求めます。TRというのは「True Range」の略で「真の変動幅」と考えます。
TRは次の式から求めます。
通常であれば、その日の変動幅というのは一番上の式にあるように、当日の高値から当日の安値を引いた値幅が1日の変動幅となります。しかし、窓が空いた場合はどうでしょうか。以下のケースを見てください。
その日の高値と安値で見る変動幅は小さいのですが、実際には前日の終値から下放れています。前日に比べると、実際には大きく値下がっているのです。こうした場合でもTRの式を使うことで、実際の値幅を算出することが可能になるのです。
このTRの考え方は、的を得た考え方だと筆者も思います。
さあ、「+DI」と「―DI」を求めるために、DMやTRを算出してきました。前述したように、大変多くの記号が登場します。迷わないようにしてください。
そして、ここまで来て、ようやくDIの説明が出来る準備が出来ました。
そうなのです。日々求めたDMをTRで割ることでDIを求めるのです。
次回は、+DI、-DIの説明とADXの説明をしたいと思います。
川口 一晃(オフィスKAZ代表取締役)
1986 年銀行系証券会社に入社。銀行系投資顧問や国内投信会社で11年間ファンドマネージャーを務める。
2004年10月に独立してオフィスKAZ 代表取締役に就任。