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MT5で極めるテクニカル分析

 

<ローソク足を読む(パターンの意味)>

昨年、今年とマーケットは大きく動きました。日経平均株価とドル円は33年前、つまり1990年の水準に到達したのです。日経平均株価の33,000円台、ドル円は150円台です。そその1990年という年は年初よりバブル崩壊が始まり、8月には湾岸戦争の発端となるイラクによるクウェート侵攻があった年で、筆者の脳裏には当時の右往左往した金融界の動きが深く刻まれています。
当時の筆者はファンドマネージャーとして現在のメガバンクの運用会社でエクイティを中心としたファンドを担当していましたが、運用の世界では初めて経験する大きな暴落を前にしていかに運用成績を上げていく、いや、『上げる』ではなく『戻す』ことが出来るのかということに神経をすり減らしていたと記憶しています。ただ、そういう状況下の中で少しだけ建設的な話が出来るとすれば、1990年前後に海外より多くのテクニカル分析の手法が国内に紹介されたことから、新しいテクニカル分析の研究がなされるとともに90年の大暴落の予測も可能としたインジケーターの開発なども行われました。筆者もその中で当時のパソコン、すなわち5インチのフロッピーディスクを駆使しながら、テクニカル分析の研究に没頭していました。
そして、あれから30年以上の月日が経ちました。5インチのフロッピーディスクを使ってテクニカル分析を行っていた環境は、今や、ボタン一つで便利に操作できる環境へと変身しています。先日も、フィリップ証券でMT5をダウンロードして使ってみたのですが、昔と比べると夢のような環境となっています。これから、テクニカル分析の解説と筆者が培ってきたテクニカル分析のノウハウをこのコラムにて紹介していきたいと思います。

 

ローソク足について

相場における値動きを記録し分析する記録方法にはいくつか種類がありますが、通常、私たちが使っているのは『ローソク足』と呼ばれる記録方法です。このローソク足は日本で開発されたものです。アメリカなどの海外では『バーチャート』と呼ばれる記録方法が主流となっています。筆者はバーチャートでも記録をした経験もありますが、やはり、分析という点を踏まえると、ローソク足の方に軍配を上げたいと思います。
そのローソク足ですが、新入社員の時に先輩に「マーケットの分析を勉強したい」と相談したところ、紹介してもらった本が『酒田五法は風林火山』という本です。この本は50年以上前に出版された本で、当時、チャート分析、テクニカル分析の教科書と呼ばれる本がほとんどない時代ではバイブル的な存在でした。
筆者も5回以上は繰り返して読んではいるのですが、つい読んでいるうちに株価のように体が上下に揺れ動き、深い眠りに入ってしまうことが多かったです。でも、基本部分はしっかりと勉強できたのではないのかな、と思っています。
本の中ではローソク足について多くのパターン等が紹介されていますが、筆者自身は2,3の基本形を覚えてしまえば、あとはたくさんのチャートを読み込むことで身に付くと考えています。
なお、ローソク足の形として是非覚えていただきたいのは2種類です。それは『同事線』と『ヒゲの長い足』です。ヒゲの長い足には、その形状によっていくつかの名前が付けられていますが、『ヒゲの長い足である』という認識だけで充分であると考えています。

同事線は、始値と終値がほぼ同じ水準であるという足です。筆者として、上昇派と下落派がしのぎを削って引き分けになった形と考えています。ですから、力が均衡しているのです。ということは、この先、どちらかの方向に均衡が破られることを意味しています。つまり、同事線というのは『変化の兆し』を表していると解釈することが出来るのです。

ヒゲの長い足というのは、上昇したかったのに力尽きて戻ってきた乃至は下落のパワーが強かったのに売る人が少なくなって事で戻ってきたということを意味しています。つまり、『流れが変わる可能性がある』ということを意味しています。特に、高値水準、安値水準に出現した時には要注意です。

上図の右側では同事線が頻発し変化の兆しを示しながら、下ヒゲの長いローソク足を示現し堅調さを示唆していたのがわかります。

実は、左側に点線で囲った部分が存在しているからです。この点線で囲った部分というのは、大きく値を下げた後に、「この水準で止まるかもしれない」と多くの投資家が様子を伺いながら取引を行った水準なのです。ですから、上昇派と下落派の力が均衡し、同事線が多発しているのです。その後、大きく値を下げたのですが、再び上昇に転じた後に、過去に多くの投資家が迷った水準(点線の水準)で上昇も止まるかもしれないと考えた投資家が存在することで、再び「上昇かな、下落かな」ということで同事線が出現したのです。

そうなのです。価格というのは、過去の値動きの水準に大きく受けることが多いのです。
それが証拠に赤矢印の後に再び大きく値を下げますが、その安値は赤矢印の水準で下げ止まっていますよね(青矢印)。

こうした値動きの特徴があるがゆえに、前回の高値や安値などで動きが止まり、そこからいくつかのパターンというものが生まれてくるのです。

 

パターン

チャート分析やテクニカル分析を勉強したいと思っている投資家は少なくとも、3つのパターンを覚えていただきたいと考えています。

天井を形成するパターン

上昇トレンドの後、高値を示現し下落に転じる時に形成されやすいパターンです。
その代表が、『ダブルトップ』と『トリプルトップ』です。

字の如く、ダブルトップは2回、トリプルトップは3回高値を形成した後に下落していきます。

なぜ、2回同じような水準で高値を形成するのか、なぜ、3回形成するのか。それは前回の高値の水準を意識して取引を行う投資家が多いからなのです。

では、4回高値を付けるケースはあるのでしょうか。4回、5回と同じような高値を形成するケースはあります。ですが、『フォートップ』といった言葉はありません。4回以降は『もち合い』、『レンジ』と呼ばれるのです。

ここで大事なのは赤線で示した水準です。これを『ネックライン』と呼ぶのですが、このネックラインを割り込んで初めて、これらのパターンは完成したと判断します。つまり、このネックラインの水準で流れが変わる可能性が残っているからです。

底値を形成するパターン

下落トレンドの後に安値を確認し、上昇に転じる時に形成されるパターンです。
代表的なパターンは、『ダブルボトム』と『トリプルボトム』です。

上述したダブルトップ、トリプルトップの逆です。2回ないしは3回安値を付けるというパターンです。そして、その安値と安値の間にある高値の水準がネックライン(赤線)となります。この水準を越えて初めて、底値確認となります。

赤矢印の部分がダブルトップ、青矢印の部分がダブルボトムになります。

エネルギーが溜まっているパターン

上昇するのか、下落するのかはわかりませんが、大きく動き出すエネルギーが溜まっているパターンというのもあります。

代表的なのが『三角もち合い』です。上値と上値を結んだ線と下値と下値を結んだ線で三角形が形成されるパターンです。

先端になればなるほどエネルギーが溜まっていると考えられるのです。
そして、どちらかに大きく動き出すと考えられています。

なお、左側の三角もち合いを『下降型』、右側の三角もち合いを『上昇型』とする教科書が多いのですが、下降型で下落する確率は五分五分というのが筆者の経験測です。上昇型で上昇する確率は7割前後と考えられます。

そして、更にエネルギーが溜まっているパターンとして『ペナント型』というのがあります。

これもどちらかの方向に大きく動き出すと考えられます。

なお、こうしたパターンは教科書で紹介するのは簡単ですが、実践でしっかり見つけていくことが重要になります。それには、たくさんのチャートを見る習慣をつけることが大事です。

 

執筆者紹介

川口 一晃(オフィスKAZ代表取締役)

1986 年銀行系証券会社に入社。銀行系投資顧問や国内投信会社で11年間ファンドマネージャーを務める。
2004年10月に独立してオフィスKAZ 代表取締役に就任。