【投資戦略ウィークリー 2019年7月16日号(2019年7月12日作成)】“「人口減少社会」から考える日本株投資戦略”
■「人口減少社会」から考える日本株投資戦略
- 7/8以降の日本株相場は、7/5発表の6月米国雇用統計が好調な米国景気を裏付けたことから米国の利下げ期待が後退したことなどを受けて売り優勢で始まった。国内では参院選挙戦本格化、韓国向け半導体材料の輸出規制による国際情勢の変化が見られ、海外ではイラン情勢緊迫化やドイツ銀行を含む世界の銀行株に対する悲観的見方が台頭する一方、7/11に米国NYダウが27,000ドルを超えるなど様々な動きがあった。それとは対照的に日本株は週を通して薄商いとなり、日経平均は21,500円を下値として意識しつつ総じて小動きとなった。
- 7/10の総務省発表によれば、2019年初の日本人の人口が前年比43万3,239人減となり、前年比減少人数が過去最大となった。「少子化・高齢化」という大きな流れの中で、投資戦略の観点では、特に以下の二点について指摘しておきたい。
- 第一に、人手不足の深刻化による人件費高騰が企業経営に待ったなしの変革を及ぼしている点である。飲食店や小売店では人手をかけないようにキャッシュレス決済やセルフレジ、セルフサービス化へのシステム投資が急速に普及しつつある。また、企業組織内でも副業解禁などの多様な働き方実現や長時間労働の是正といった「働き方改革」から、定型的な事務作業や顧客問い合わせ対応をシステム化しようという「業務効率化」のシステム投資へと比重が移ってきている。月額課金によるグループウェア、ビデオ会議アプリなどのソフトウェア導入も普及が進んでいる。7/1発表の6月日銀短観では、大企業から中堅企業・中小企業に至るまで、製造業・非製造業を問わず、2019年度設備投資計画が3ヵ月前よりも大幅に増額となっている。日本株相場にも、この流れが波及することが期待されよう。
- 第二に、少子高齢化に伴う現行の年金制度に係る持続可能性への懸念である。2019/5末現在で既にiDeCo(個人型確定拠出年金)の加入者は125万人を超え、企業型確定拠出年金の加入者は715万人に達している。自分で自分の年金を運用する「確定拠出年金」制度普及の流れは加速するものと考えられ、この点においてはサービスを提供する金融機関の社会的役割は大きくなるだろう。令和初の国政選挙を前に日本の社会問題から投資戦略を考えてみるのも意義があろう。(笹木)
- 7/16号では、ディップ(2379)、伊藤忠食品(2692)、パルグループHD(2726)、キャピタル・アセット・プラニング(3965)、オーエスジー(6136)、ファーストリテイリング(9983)を取り上げた。
※本レポートは当社が取り扱っていない銘柄を含んでいます。
■主な企業決算 の予定
- 7月15日(月):シティグループ、JBハント・トランスポート・サービシズ
- 7月16日(火):ブロンコビリー、日本国土開発、バロックジャパンリミテッド、TOKYO BASE、ファーマライズホールディングス、ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)、ファースト・リパブリック・バンク、プロロジス、JPモルガン・チェース・アンド・カンパニー、ゴールドマン・サックス・グループ、ウェルズ・ファーゴ、ユナイテッド・エアラインズ・ホールディングス、CSX、シンタス
- 7月17日(水):コメリカ、PNCファイナンシャル・サービシズ・グループ、バンク・オブ・アメリカ、プログレッシブ・コープ、テキストロン、USバンコープ、バンク・オブ・ニューヨーク・メロン、イーベイ、アボットラボラトリーズ、オムニコム・グループ、ネットフリックス、ユナイテッド・レンタルズ、SLグリーン・リアルティ、クラウン・キャッスル・インターナショナル、IBM
- 7月18日(木): BB&T、ダナハー、インテュイティブサージカル、ピープルズ・ユナイテッド・ファイナンシャル、ユニオン・パシフィック、サントラスト・バンクス、アライアンス・データ・システムズ、ジェニュイン・パーツ、PPGインダストリーズ、M&Tバンク、ハネウェルインターナショナル、ユナイテッドヘルス・グループ、スナップオン、ニューコア、ドーバー、フィリップ・モリス・インターナショナル、モルガン・スタンレー、キャピタル・ワン・ファイナンシャル、Eトレード・ファイナンシャル、マイクロソフト
- 7月19日(金):Genky DrugStores、モバイルファクトリー、光世証券、アジュバンコスメジャパン、アルインコ、エンプラス、シチズンズ・フィナンシャル・グループ、ブラックロック、カンザスシティー・サザン、リージョンズ・ファイナンシャル、シンクロニー・ファイナンシャル、シュルンベルジェ、アメリカン・エキスプレス、ステート・ストリート
■主要イベントの予定
- 7月15日(月)
・米ニューヨーク連銀総裁講演
・アリババ株主総会(香港で)-1対8の株式分割の計画を議論・採決
・中国GDP(2Q)、中国小売売上高、工業生産、固定資産投資(6月)、中国経済全体のファイナンス規模、新規投資、マネーサプライ(6月、15日までに発表)、中国新築住宅価格(6月)
- 7月16日(火)
・日銀、金融政策決定会合議事録等公表(2019年1-6月 開催分)
・米アトランタ連銀総裁がFRBのイベントで司会役、米シカゴ連銀総裁講演
・フェイスブック関係者、米上院銀行委員会の仮想通貨計画巡る公聴会で証言
・米輸入物価指数(6月)、米小売売上高(6月)、米鉱工業生産(6月)、米NAHB住宅市場指数(7月)、米企業在庫(5月)、対米証券投資(5月)
・独ZEW景況感指数(7月)、英失業率(3-5月)
- 7月17日(水)
・米地区連銀経済報告(ベージュブック)、米住宅着工件数(6月)
・米モラー元特別検察官、下院司法・情報特別委員会で証言
・フェイスブック関係者、米下院金融委員会の仮想通貨計画巡る公聴会で証言
・先進7ヵ国(G7)財務 相・中央銀行総裁会議(フランス・シャンティイ、18日まで)
・欧州新車販売台数(6月)、ユーロ圏CPI(6月)、英CPI(6月)
- 7月18日(木)
・ソフトバンクGの孫正義がイベントで講演
・L ink-U、東証マザーズに新規上場
・貿易収支(6月)、首都圏マンション発売(6月)
・米アトランタ連銀総裁講演、米ニューヨーク連銀総裁講演
・米新規失業保険申請件数(7月13日終了週)、米景気先行指標総合指数(6月)
- 7月19日(金)
・消費者物価指数(全国、6月)、対内・対内証券投資(7月7-13日)、全産業活動指数(5月)
・米セントルイス連銀総裁講演、米ボストン連銀総裁パネル討論参加
・米ミシガン大学消費者マインド指数(7月)
- 7月21日(日)
・参院選投開票
(Bloombergをもとにフィリップ証券作成)
■堅調な6月の米雇用統計
米労働省が7/5発表した6月の雇用統計では、景気動向を敏感に反映する非農業部門就業者数が前月比22.4万人増。増加幅は前月の7.2万人から回復し市場予想の同16万人増も上回った。失業率は3.7%と49年ぶりの水準だった前月から0.1pt上昇したものの歴史的な低水準に留まった。労働参加率は62.9%と前月の62.8%から上昇した。平均時給は27.90ドルと同3.1%増と11ヵ月連続で3%台の伸びを維持。米労働市場の堅調さを表す内容といえよう。
7/3発表の6月のADP雇用統計で民間非農業部門就業者数が前月比10.2万人増に留まり、市場予想の同14万人増を下回った。市場では弱い数字が出るとの見方が燻っていたため、景気懸念を払拭する格好となった。(増渕)
【6月の雇用統計では非農業部門就業者数が回復~景気懸念の後退へ】
■パウエルFRB議長の議会証言
パウエル議長は7/10に下院金融委員会での半年に1度の証言で、経済見通しにとって貿易摩擦を巡る不確実性と世界景気への懸念が引き続き重荷となっていると述べた。6月の雇用統計が市場予想を上回る内容だったことは「素晴らしいニュース」だとしながら、インフレ率を押し上げるほど賃金が急ピッチに増加していないと発言。インフレは依然として低過ぎるとの見解を示した。
議長証言について、市場では7/30-31の次回FOMC会合での利下げを裏付けるものと受け止められた。金融市場では依然0.25ptの利下げがコンセンサスであるものの、0.50ptの利下げ観測も増加。ただ、雇用統計では堅調な労働市場の動向が示されており0.50ptの利下げは現実的なシナリオではなさそうだ。(増渕)
【利下げ観測を高めたパウエル氏議会証言~0.5ptの利下げを織り込む市場】
■日銀短観の設備投資計画
中国や欧州の製造業を中心に世界的な景気減速懸念が強まる一方で、7/1発表の日銀短観で日本企業の設備投資計画が、2019年度に入って業種や規模にかかわらずソフトウェアを中心に大幅に増額となっていることが注目される。これは、技術革新を踏まえた成長分野への投資だけでなく、人手不足・人件費高騰に対応した省力化のためのシステム投資意欲の表れでもある。
年度初めの計画が上振れしやすい面と収益環境次第で投資実行が先送りされる懸念はあるが、日本は2019年初の生産年齢人口が前年比63万人減と少子化・高齢化の進展では世界でも先を行っている。省力化の設備投資需要が欧米よりも根強いことが見込まれ、景気下支え効果を期待できよう。(笹木)
【日銀短観の設備投資計画~業種・規模にかかわらず投資額を引上げへ】
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アナリストのご紹介 フィリップ証券リサーチ部
笹木 和弘
フィリップ証券株式会社:リサーチ部長
証券会社にて、営業、トレーディング業務、海外市場に直結した先物取引や外国株取引のシステム開発・運営などに従事。その後は個人投資家や投資セミナー講師として活躍。2019年1月にフィリップ証券入社後は、米国・アセアン・日本市場にまたがり、ストラテジーからマクロ経済、個別銘柄、コモディティまで多岐にわたる分野でのレポート執筆などに精力的に従事。公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト(CIIA®)。