【投資戦略ウィークリー 2025年11月17日号(2025年11月14日作成)】”AI過剰投資とローテーション、高市政権の政策議論本格化 ”
■AI過剰投資とローテーション、高市政権の政策議論本格化
- 日経平均株価は11月第1週に続き第2週も、一部のAI(人工知能)関連の株価動向に左右されて不安定に推移している。その背景には、米巨大ハイテク企業によるAIインフラへの設備投資支出額が過剰ではないかという懸念がある。過剰な設備投資は減価償却費を通じて将来の利益を圧迫する要因となる。また、米国企業の人員削減についても、AIの活用によって業務の効率化が進んだことがその理由とされているが、実際には、設備投資支出の増加によるキャッシュフローのマイナスを賄うために人件費を削減せざるを得なくなっている面もあるように思われる。そのような中、日本株市場においても、寄与度が高い一部の銘柄の株価を通じて日経平均株価がボラティリティ(価格変動性)の高い動きとなっている。その一方、日経平均を東証株価指数(TOPIX)で割った「NT倍率」の下落とともに、好決算が目立つ内需株を中心としたバリュー株への資金シフトも見られる。
- このような一連の動きは、今年1月に発生した「DeepSeekショック」の後の動きと類似している。中国AI新興企業が発表した低コスト生成AIモデルの登場をきっかけに、米エヌビディア(NVDA)製の高性能半導体需要が減るのではないかとの懸念から、AI・半導体関連株が急落した一方、景気敏感株などへ資金がシフトしたことがあった。買われ過ぎたAI・半導体銘柄の調整局面に伴う物色の大きなローテーションが起こっているという点は、最近の動向との共通点だろう。
- 国内では、高市首相が発足させた「日本成長戦略会議」が11/10、初会合を開いた。また、政府は11/12に「経済財政諮問会議」を開催し、総合経済対策について議論するなど、高市政権の日本経済への舵取りが本格的に始まった。
- 高市首相は「心身の健康維持と従業者の選択を前提」としつつも、労働時間の規制緩和を成長戦略の柱に据えている。「働き方改革」に逆行する面があるものの、企業が国際競争で生き残ることへの危機感や賃金を増やす選択肢を拡大することがその目的だ。
- 次に、2026年度予算の編成に向け、社会保障の見直し議論が本格化してきた。現役世代の保険料で高齢者医療を賄う「仕送り」の構図が強まる中、政府は保険適用の見直しや所得がある高齢者の負担拡大を検討している。医療保険や介護保険の保険料は給与や年金といった所得の額に応じて決まる。「特定口座(源泉徴収あり)」のように、確定申告を行わない場合はどれだけ金融所得があっても翌年度の社会保険料に反映されにくく、保険料の負担が軽くなる。また、75歳以上であれば病院などで払う医療費の窓口負担も、申告している人が3割になる場合があるのに対し、1割に抑えられる。このような現状を見直すべく、政府は、金融所得の把握のため証券会社などが国税庁に提出する「支払調書」の活用を想定している模様だ。(笹木)
本日号は、コメダホールディングス(3543) 、BASE(4477) 、ツムラ(4540)、浜松ホトニクス(6965)、サイアムセメント(SCC)を取り上げた。


■主な企業決算の予定
- 11月17日(月):KeePer技研、ジャパンリアルエステイト投資法人、霞ヶ関ホテルリート投資法人
- 11月18日(火):(米) メドトロニック、ホーム・デポ、PDDホールディングス
- 11月19日(水): MS&ADインシュアランスグループホールディングス、SOMPOホールディングス、東京海上ホールディングス、グローバル・ワン不動産投資法人、(米)エヌビディア、パロアルト・ネットワークス、ターゲット、ロウズ
- 11月20日(木): 大和証券リビング投資法人、(米)ウォルマート、インテュイット、ロス・ストアーズ、コパート
■主要イベントの予定
- 11月17日(月):
・08:50 GDP(7-9月期速報)、13:30 鉱工業生産・設備稼働率(9月)
・米ニューヨーク連銀総裁が会議冒頭のあいさつ、米ミネアポリス連銀総裁がエコラボCEOとの対談で司会
・米ニューヨーク連銀製造業景況指数(11月)、タイGDP(3Q)
- 11月18日(火):
・10月の訪日外客数(JNTO)
・サウジのムハンマド皇太子がトランプ米大統領と会談(ホワイトハウス)、ハンガリー中銀が政策金利発表
・米ADP民間雇用者数(週次)、米輸入物価指数(10月)、米鉱工業生産(10月)、米NAHB住宅市場指数(11月)、対米証券投資(9月)
- 11月19日(水):
・財務省20年利付国債入札、08:50貿易収支・輸出・輸入(10月)、08:50コア機械受注(9月)
・米FOMC議事要旨(10月28、29日開催分)、米ニューヨーク連銀総裁がイベント冒頭のあいさつ、インドネシア中銀が政策金利発表
・米住宅着工件数(10月)、ユーロ圏CPI(10月)、英CPI(10月)
- 11月20日(木)
・日銀国債買い入れオペ、08:50対外・対内証券投資(11月14日)、10:30日銀の小枝淳子審議委員が新潟金融経済懇談会で講演(14:30記者会見)、12:00 首都圏新築分譲マンション(10月)、15:30日本取引所グループの山道CEO定例会見
・米クリーブランド連銀総裁が会議冒頭のあいさつ、米シカゴ連銀総裁が討論会に参加、EU外相理事会(ブリュッセル)、中国1年・5年物ローンプライムレート(LPR)、南ア中銀が政策金利発表
・米新規失業保険申請件数(11月15日終了週)、米フィラデルフィア連銀製造業景況指数(11月)、米中古住宅販売件数(10月)、米景気先行指数(10月)、ユーロ圏消費者信頼感指数(11月)
- 11月21日(金):
・ノースサンドが東証グロースに新規上場、08:30全国CPI(10月)、09:30 S&Pグローバル日本製造業・サービス業・複合PMI(11月)、10:00ブルームバーグ日本経済調査(11月)
・米ニューヨーク連銀総裁がチリ中銀の年次会合で基調講演(サンテ
ィアゴ)、米ダラス連銀総裁が講演(チューリヒ)、ラガルドECB総裁が欧州銀行会議で基調講演(フランクフルト)
・米S&Pグローバル製造業・サービス業・総合PMI(11月)、米ミシガン大学消費者マインド指数(11月)、ユーロ圏製造業・サービス業・総合PMI(11月)
- 11月22日(土):
・主要20カ国・地域(G20)首脳会議(ヨハネスブルク、23日まで)
(Bloombergをもとにフィリップ証券作成)
※本レポートは当社が取り扱っていない銘柄を含んでいます。
■米国主要ハイテク株の設備投資
米国株市場は11/12、米政府閉鎖の解除に伴う経済活動正常化への期待からダウ工業株30種平均が最高値をつけた一方で、ハイテク株が多いナスダック総合指数はAI(人工知能)の過剰投資懸念が根強いことから前日比マイナスで引けた。主要ハイテク株についてキャッシュフローに注目すると、営業キャッシュフローは堅調に推移しているが、アマゾン・ドット・コム(AMZN)やオラクル(ORCL)など、設備投資支出額の営業キャッシュフローに対する比率が上昇しており、投資の持続性や将来の減価償却費用増が懸念される。
今年1月に発生した「DeepSeekショック」の時も、低コスト高性能な生成AIモデルの普及による過剰なAI投資が懸念され、景気敏感株や欧州株への資金シフトがみられた。今回も類似の状況がみられる。
【米国主要ハイテク株の設備投資~対営業キャッシュフロー比率の増加度合】

■株価下落時のリスク回避と金価格
最近1年間の金先物価格の推移に注目すると、中央銀行の金需要や米FRB(連邦準備理事会)の利下げ観測等を背景に概ね堅調に推移。2-4月の米国株市場の下落局面ではリスク回避目的による金買いが活発化した。その後8月中旬にかけての米国株上昇に対し、金価格は横ばい圏で推移。8月下旬から10月中旬までは、米国株市場が上昇基調を維持する中、金価格が上昇を加速。その要因として、トランプ米大統領によるFRB人事への介入などFRBの独立性懸念が高まったことに加え、9月にFRBが6会合ぶりに利下げを実施したことが挙げられる。
S&P500指数のCMX金先物価格に対する倍率を見ると、最近の金価格上昇の行き過ぎが示唆される。株価下落時に金価格が上昇するのかは不透明だ。
【株価下落時のリスク回避と金価格~足元は米国株に対して買われ過ぎも】

■債券の利回り変化と価格変動
債券投資の利回りには単利と複利がある。単利は複利と異なり、クーポン収入の再投資収入を考慮せず債券の購入時点から償還時点(満期)までの期間(残存期間)の収益性をみる。日本では通常、単に「利回り」と言う場合、複利ではなく単利ベースの最終利回りを指すことが多い。利回りが上昇する場合、残存期間が長いほど債券価格の下落幅が大きくなり、クーポンが高いほど、債券価格の下落幅が小さくなる。
金融政策による利上げが実施されれば、利回り上昇に伴い保有債券価格の下落が想定される。預貸率の高い金融機関は、貸出金利の上昇によるプラス効果で吸収できる一方、債券運用への依存度が高く、かつ平均残存期間が長い場合は、業績への悪影響が懸念される。
【債券の利回り変化と価格変動~残存期間と利率(クーポン)によって変わる】

■銘柄ピックアップ
コメダホールディングス(3543)
2982 円(11/14終値)

・1968年に創業者の加藤太郎が名古屋で「コメダ喫茶店」を開業。1975年に法人化後、フランチャイズ(FC)展開を本格化。「珈琲所コメダ珈琲店」のほか「おかげ庵」など新業態の店舗ブランドを展開。
・10/8発表の2026/2期1H(3-8月)は、売上収益が前年同期比23.7%増の285億円、営業利益が同5.5%増の46億円。8月末店舗数は、国内事業のコメダ珈琲店が前年同期比9店増の1017店、海外事業が同31店増の79店(うち30店がシンガポールPOON社を3/1に連結子会社化したことによる。)
・通期会社計画は、売上収益が前期比16.6%増の548億円、営業利益が同13.4%増の100億円、年間配当が同6円増配の60円。1HのFC加盟店向け卸売の既存店売上高が前年比12%増。同社は11/14、人気メニューのコーヒーゼリー飲料「ジェリコ」の専門店「ジェリコ堂」の関東1号店を開店。主力の喫茶業態と異なり、テイクアウトに主軸を置く。2024年10月に香港で始めた業態を逆輸入した。
BASE(4477)
345 円 (11/14終値) ※東証グロース上場

・2012年設立。個人・小規模事業者向けのECプラットフォーム「BASE」を運営。BASE事業(ECプラットフォーム)、PAY.JP事業(オンライン決済サービス)、YELL BANK事業(事業資金提供サービス)を営む。
・11/6発表の2025/12期9M(1‐9月)は、売上高が前年同期比24.4%増の140億円、営業利益が同43.5%増の11億円。セグメント利益は、BASE事業(売上比率54%)が70%増の11億円、PAY.JP事業(同34%)が29%増の2.5億円、YELL BANK事業(同6%)が36%増の3.6億円とそれぞれ堅調に推移。
・通期会社計画を上方修正。売上高を前期比30.4%増の208億円(従来計画196億円)、営業利益を同52.7%増の11億円(同10億円)としたほか、年間配当も無配を計画していたが、初の配当(4円)実施を発表。7/18に同業のEストアーを完全子会社化したことを受けて、流通総額(GMV)の拡大が加速。7/1より実施した「Pay ID」のショッピングアプリ有料化と併せて、収益性の向上が見込まれる。
ツムラ(4540)
3908 円(11/14終値)
・1893年に婦人薬中将湯の津村順天堂を創業。医薬品事業を日本・中国・ラオス・米国で展開。医療用漢方薬で国内シェア8割超。高齢者、がん支持療法、女性関連の3領域を重点に市場深耕。
・11/10発表の2026/3期1H(4-9月)は、売上高が前年同期比0.9%増の898億円、営業利益が同18.8%減の171億円。医療用漢方製剤129処方(売上比率85%)が1%減収、中国事業(同12%)が原料生薬と飲片の生薬プラットフォームの伸長を受けて14%増収。販管費率の上昇が利益を圧迫。
・通期会社計画を上方修正。売上高を前期比9.3%増の1980億円(従来計画1880億円)、営業利益を同12.8%減の350億円(同342億円)、年間配当を同8円増配の144円(同136円)とした。中国虹橋飲片の連結子会社化に伴う売上増に加え、加工費の低減や販管費の抑制効果を見込んでいる。売掛金サイト短縮と生薬在庫回転率向上、政策保有株式縮減など財務内容の改善が進展している。
浜松ホトニクス(6965)
1620.5 円 (11/14終値)

・1948年に堀内平八郎が静岡県浜松市で東海電子研究所を創業。主に電子管事業(光電子増倍管、イメージ機器及び光源)、光半導体事業、画像計測機器事業(画像処理・計測装置)を展開。
・11/7発表の2025/9通期は、売上高が前年同期比4.0%増の2120億円、営業利益が同49.7%減の161億円。事業別営業利益は、電子管(売上比率34%)が20%減の189億円、光半導体(同37%)が30%減の125億円、画像計測機器(同15%)が7%減の96億円、レーザ(同10%)が赤字幅拡大。
・2026/9通期会社計画は、売上高が前期比4.7%増の2220億円、営業利益が同6.4%増の172億円、年間配当が同横ばいの38円。光半導体と画像計測機器の両事業とも生成AI(人工知能)向けの高性能な半導体需要の追い風が見込まれる。同社は、核融合発電に関してレーザ装置の技術要件や実現可能性を議論する国際ワーキンググループへ参画が決まった。日本勢の参加は同社だけ。
サイアムセメント(SCC)
市場:タイ 190.50 THB (11/13終値)

・1913年にラーマ6世が設立。タイ王室財産管理局が出資している王室系企業。セメントほか建設資材、住宅設備、ホームセンター、化学製品、包装、クリーンエネルギー、大理石等手広く事業展開。
・10/30発表の2025/12期3Q(7-9月)は、売上高が前年同期比5.0%減の1271億THB、関係会社からの受取配当金を含むEBITDAが同43.6%増の142億THB。原油価格下落とマージン改善を受け、今年8月にベトナム南部のロンソン石油化学コンビナートが約1年ぶりに再稼働したことが利益面で貢献。
・同社は2024年10-12月より不採算事業撤退を中心に構造改革に取り組み、今年9月末で純債務が前年同期比10%減の2797億THB、純債務の対EBITDA倍率が1.6ポイント低下の4.7倍と財務内容が改善。ロンソン石油化学コンビナートはフル稼働時に、年間売上約500億THBの寄与が見込まれる。同コンビナートで低価格の米国製エタンを輸入・調達するためのフィードストックの設備投資を計画。
■アセアン株式ウィークリーストラテジー
(11/17号:配車サービスのグラブとGoToの合併計画)

東南アジア配車サービスの二強、シンガポールのグラブとインドネシアのIT大手GoTo(ゴートゥー)の合併計画が明らかになった。両社は東南アジア最大市場のインドネシアで激しい競争を繰り広げてきた。同国での両社のシェアは9割以上となることから、寡占化が進むことは配車ドライバー保護の観点からは懸念材料だが、インドネシア政府は「配車サービスは重要な労働力を生み出しており、経済をけん引する存在」として、容認する構えだ。また、計画には同国の政府系ファンドであるダヤ・アナガタ・ヌサンタラ(ダナンダラ)が関わり、合併価格の決定に関与するもようだ。
2025年7-9月期の業績は、GoToが最終赤字であるのに対し、東南アジア8ヵ国に進出するグラブは業績が安定しており、業績の差が両社で広がりつつあることが合併を早める要因になっている。
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アナリストのご紹介 フィリップ証券リサーチ部
笹木 和弘
フィリップ証券株式会社:リサーチ部長
証券会社にて、営業、トレーディング業務、海外市場に直結した先物取引や外国株取引のシステム開発・運営などに従事。その後は個人投資家や投資セミナー講師として活躍。2019年1月にフィリップ証券入社後は、米国・アセアン・日本市場にまたがり、ストラテジーからマクロ経済、個別銘柄、コモディティまで多岐にわたる分野でのレポート執筆などに精力的に従事。公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト(CIIA®)。
