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【投資戦略ウィークリー 2019年7月8日号(2019年7月5日作成)】“日本を取り巻く構造変化を注視すべき時”

 

■日本を取り巻く構造変化を注視すべき時

  •  7/1以降の日本株相場は、6/29の米中首脳会談で関税第4弾の発動取りやめ、およびファーウェイ向け部品供給を認めることで合意したことを好感して日経平均が21,500円を超えて始まり、上値を追う展開となった。ファーウェイへの供給が安全保障に影響しない汎用品に限られることが判明して上値を抑えられたが、NYダウの史上最高値更新もあり、堅調に推移した。
  •  中長期的観点では、以下の2点に注目したい。先ず、トランプ大統領のツイッターによる呼びかけで電撃的に実現した米朝首脳会談である。「北朝鮮の非核化に向けて国際社会で一致して断固とした態度を示すことが必要」で、そのために「日米韓の緊密な連携が不可欠」と言われていたが、日米では、トランプ大統領から日米安保条約が「片務的で不公平な合意」と不満の声が上がった。日韓では、7/4より日本から韓国への半導体など3品目の輸出許可手続き厳密化の規制強化が実施された。今回の米朝首脳会談実現は、北朝鮮問題を軸に成り立ってきた日本を取り巻く国際関係のバランスが根本的に変化したことを明らかにした面もあるだろう。その意味では、米国から日米安保見直し要求が今後強まる可能性があると見るのも理由があることであり、その場合には防衛費負担の大幅増で日本の財政赤字問題がクローズアップされる懸念もあろう。
  •  次に、5/24に財務省発表の2018年末の日本の対外純資産が前年比25兆円増の341.55兆円に達し、過去2番目の純資産規模となったことである。これは一見すると円高要因であるかのように見えるが、内訳を見ると対外証券投資による資産負債差額が減少し、対外直接投資による資産負債差額が拡大している。外国証券投資であれば売却後の円転による「リスク回避の円買い」が発生しやすいが、海外企業買収などの直接投資の場合には証券投資のように容易に売却できるものではない。以上の2点は、日本株相場への影響が大きい外国為替相場においては円安要因に働きやすい側面と言えよう。
  •  投資戦略の面では、ROE(株主資本利益率)やROIC(投下資本利益率)を高める目標に対して、グループ事業の選択と集中の観点から「親子上場」による資本関係の歪みを解消しようとする中長期的な動きを引き続き注視していきたい。(笹木)
  • 7/8号では、くら寿司(2695)、トレンドマイクロ(4704)、宝印刷(7921)、キャノンマーケティングジャパン(8060)、イオンモール(8905)、ニトリホールディングス(9843)を取り上げた。

 

※本レポートは当社が取り扱っていない銘柄を含んでいます。

■主な企業決算 の予定

  • 7月8日(月):フジ、クリエイトSDホールディングス、技研製作所
  • 7月9日(火):ファーストコーポレーション、ヤマザワ、オーエスジー、井筒屋、竹内製作所、パルグループホールディングス、MORESCO、ポプラ、イズミ、ハニーズホールディングス、北興化学工業、エコス、エスクロー・エージェント・ジャパン、リソー教育、ERIホールディングス、吉野家ホールディングス、ペプシコ
  • 7月10日(水):トレジャー・ファクトリー、オンリー、東京個別指導学院、スタジオアリス、エコートレーディング、コジマ、久光製薬良品計画、ライフコーポレーション、アレンザホールディングス、サカタのタネサイゼリヤ、大黒天物産、プレナス、キリン堂ホールディングス、ローツェ、トランザクション、タマホーム、ヨンドシーホールディングス、エーアイテイー、ユニー・ファミリーマートホールディングス、シー・ヴイ・エス・ベイエリア、コシダカホールディングス、近鉄百貨店Usen-Next Hold
  • 7月11日(木):明光ネットワークジャパン、ファーストリテイリング、三協立山、インテリックス、ダイト、進和、大光、津田駒工業、セラク、島忠、ビックカメラ、古野電気、ワッツ、ローソン松屋、ディップ、デザインワン・ジャパン、毎日コムネット、エストラスト、オオバ、いちご、東洋電機製造、セントラル警備保障、小津産業、安川電機、ジンズホールディングス、イワキ、ファスナルデルタ航空
  • 7月12日(金):日置電機、IDOM、コスモス薬品、住江織物、クリエイト・レストランツ・ホールディングス、三栄建築設計、黒谷、松竹、ベクトル、日本毛織、ラクト・ジャパン、東宝、ネオス、大庄、DDホールディングス、ハブ、SFPホールディングス、ヨシムラ・フード・ホールディングス、モリト、北の達人コーポレーション、レナウン、ドトール・レスホールディングス、E・Jホールディングス、テラスカイ、サンヨーハウジング名古屋、ニイタカ、ライク、メディアドゥホールディングス、ベイカレント・コンサルティング、サインポスト、エスケイジャパン、PR Times、三機サービス、佐鳥電機、インターアクション、東天紅、ヤマシタヘルスケアホールディグス、前澤工業、チヨダ、RPAホールディングス、コーナン商事、中本パックス、ダイト、Gunosy、S FOODS、リンガーハット、キャンドゥ、システムインテグレータ、MrMaxHD、パソナグループ、カネコ種苗

 

主要イベントの予定

  • 7月8日(月)

・日銀支店長会議、黒田総裁あいさつ、地域経済報告(7月)

・国際収支(5月)、機械受注(5月)、貸出・預金動向(6月)、景気ウォッチャー調査(6月)

・ユーロ圏財務相会合(ユーログループ、ブリュッセル)、独鉱工業生産(5月)

・米消費者信用残高(5月)

 

  • 7月9日(火)

・ブロードバンド推進協議会が「MaaSを日本に実装するための研究会」を開催

毎月勤労統計(5月)、マネーストック(6月)、工作機械受注(6月)

・米セントルイス連銀総裁イベントで開会の挨拶、米アトランタ連銀総裁講演、米クオールズFRB副議長(銀行監督担当)講演

・EU財務相理事会(ブリュッセル)

・米求人件数(5月)

・中国経済全体のファイナンス規模、新規融資、マネーサプライ(6月、9-15日の間に発表)

 

  • 7月10日(水)

・国内企業物価指数(6月)

FRBパウエル議長下院金融委員会での議会証言、米セントルイス連銀総裁講演

FOMC議事要旨(618-19日開催分)

・米卸売在庫(5月)

中国CPIPPI6月)

 

  • 7月11日(木)

・東京オフィス空室率(6月)、第3次産業活動指数(5月)

FRBパウエル議長上院銀行委員会での証言、米クオールズFRB副議長(銀行監督担当)講演、米ニューヨーク連銀総裁講演、米アトランタ連銀総裁講演、米リッチモンド連銀総裁講演、米ミネアポリス連銀総裁講演

・ECB議事要旨(6月5-6日分)、独CPI(6月)、OPEC月報

CPI6月)、米新規失業保険申請件数(6日終了週)、米財政収支(6月)

 

  • 7月12日(金)

・設備稼働率(5月)

・国際エネルギー機関(IEA)月報

・ユーロ圏鉱工業生産(5月)

PPI6月)

中国貿易収支(6月)

(Bloombergをもとにフィリップ証券作成)

 

■リスクオフの円高も変化の兆し?

財務省の「本邦対外資産負債残高(2018年年末時点)」を見ると、日本の企業・政府・個人の海外資産から負債を引いた対外純資産残高は341兆5,560億円に達し、2位ドイツの260兆2,760億円に大差を付けて世界最大の対外債権国となっている。更に、米10年国債利回りが2%を下回り、地政学リスクの懸念が強まる環境では円高が進行しても不思議ではないように見える。

しかし、その内訳を見ると直接投資の資産・負債差額および構成比率が一貫して上昇している。外国証券ならばリスク回避のために売却して円転することは容易だが、買収した海外企業を手放すことは難しい。日本企業の海外企業買収増加が為替相場に構造変化をもたらしている面にも注目したい。(笹木)

【対外純資産は証券投資から直接投資中心へ~リスクオフの円高に変化も】

 

■7月に配当取りを狙える銘柄

今週の日本株はG20での通商交渉の進展を受け上昇して始まったが、後半には円高進行や材料難で軟調に推移。重要イベント通過後の踊り場局面ということもあり、確実なインカムが見込める配当に注目して銘柄を選びたい。月内には7月決算企業の期末配当と1月決算企業の中間配当の基準日がある。

米国の小売企業は年末商戦が終了する1月末を締めとするケースが多く、ウォルマート(WMTホーム・デポ(HDなどの企業が1月決算を選択している。我が国では同月を決算期末に選ぶ企業は比較的少ないが、それでも魅力的な銘柄もあろう。菱洋エレクトロ(8068は5/30の1Q決算発表以降、株価は上昇基調を強めるが、配当利回りは4%台を維持している。(増渕)

【7月決算銘柄の期末配当、1月決算銘柄の中間配当の配当取りのチャンス】

 

■商業捕鯨が31年ぶりに再開

政府は2018/12に国際捕鯨委員会(IWC)の脱退を決定し、6月末に脱退が正式発効。これを受け7/1には31年ぶりに商業捕鯨を再開した。IWCは1982年に商業捕鯨のモラトリアムを決定。遅くとも1990年までに見直すことがIWCの義務とされていたが、捕鯨国と反捕鯨国の対立により膠着状態が続いていた。

かつては学校給食で親しまれた鯨肉だが、身近な食材ではなくなりつつある。ピーク時は年20万トン超の消費量があったが、近年は年3,000‐5,000トンまで減少。ただ、調査捕鯨と異なり船上で血抜き処理ができるため鮮度が向上するほか、健康効果も明らかになっており、需要が回復する可能性もあろう。関連銘柄にはマルハニチロ(1333極洋(1301などがある。(増渕)

【IWC脱退が正式発効し商業捕鯨が再開~鯨肉消費は回復するか!?】

 

 

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アナリストのご紹介 フィリップ証券リサーチ部

笹木和弘プロフィール笹木 和弘
フィリップ証券株式会社:リサーチ部長
証券会社にて、営業、トレーディング業務、海外市場に直結した先物取引や外国株取引のシステム開発・運営などに従事。その後は個人投資家や投資セミナー講師として活躍。2019年1月にフィリップ証券入社後は、米国・アセアン・日本市場にまたがり、ストラテジーからマクロ経済、個別銘柄、コモディティまで多岐にわたる分野でのレポート執筆などに精力的に従事。公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト(CIIA®)。

 

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世界経済のけん引役と期待されるアセアン(ASEAN:東南アジア諸国連合)。そのアセアン各国で金融・証券業を展開し、マーケットを精通するフィリップグループの一員である弊社リサーチ部のアナリストが、市場の動向を見ながら、アセアン主要国(シンガポールタイマレーシアインドネシア)の株式市場を独自の視点で徹底解説します。

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