投資戦略ウィークリー 2024年3月4日号(2024年3月1日作成)】”半導体から横に広がり始めた日本株上昇の原動力”
■半導体から横に広がり始めた日本株上昇の原動力
- 2/22に史上最高値を更新した日経平均株価は、月末特有の年金ポートフォリオ・リバランスと思われる「株式売り・債券買い」の向かい風を難なく通り抜け、月初1日に4万円に迫った。月末2/29の米国市場でシティ・グループのアナリストがAI(人工知能)半導体チップへの強気スタンスを示し、エヌビディアの競合アドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)を買い推奨したことが日本株の半導体銘柄に火をつけたことがきっかけだが、それだけではない。
- 第1に、3月決算に向けてバリュー銘柄の配当権利取りの動きも出始め、日本製鉄(5401)のように配当増額修正に伴う配当利回り上昇銘柄の魅力が再認識された。グロース銘柄でも、ソフトバンク系ITネット企業のアイティメディア(2148)やポータルサイト運営のエキサイト・ホールディングス(5571)のように、配当方針の変更を行うことで高配当利回り銘柄に様変わりする事例も出始めた。
- 第2に、不動産市場の低迷と景気悪化に苦しむ中国本土市場でも、中国当局による不動産融資推奨プロジェクト「ホワイトリスト」による不動産市場支援策、および株式市場買い支えを担う「国家隊」の出動もあり、日本などにシフトしていた投資資金が戻り始めた。TOTO(5332)や安川電機(6506)、ファナック(6954)など中国経済の影響が相対的に大きいとみられる企業の株価も押し上げられている。国政助言機関の人民政治協商会議(政商)、および国会に相当する全国人民代表者大会(全人代)の「両会」で思い切った積極財政、不動産市場対策、デフレ回避策が打ち出されれば中国関連銘柄への追い風加速となろう。
- 第3に、資本効率改善に向けた政策保有株式および上場子会社・関係者株式売却の動きだ。損保4社が政策保有株ゼロにすると報じられ、三菱電機(6503)も旧子会社の半導体大手ルネサスエレクトロニクス全株を売却して売却資金をデジタル分野などに投資する公表。日本航空電子工業(6807)は親子上場解消に向けて自社株TOB(株式公開買付)を実施し、親会社のNEC(6701)が応募。NECの持株比率(議決権ベース)は79%から33.36%に低下。「物言う株主」として知られる米投資ファンドのエリオット・マネジメントは三井不動産(8801)に対し、オリエンタルランド株を売却したうえで1兆円の自社株買いを行うよう求めている。
- 最後に、生成AIの普及は大手半導体製造・設計関連企業だけでなく、東証スタンダード・グロースに上場する生成AI関連の中小型グロース銘柄の株価も押し上げ始めている。グロース銘柄に見合ったPBR(株価純資産倍率)への水準訂正もあり得よう。(笹木)
3/4号は、ユーザーローカル(3984)、三櫻工業(6584) 、ザインエレクトロニクス(6769) 、ライフコーポレーション(8194) 、CPオール(CPALL)を取り上げた。
■主な企業決算の予定
- 3月4日(月): 内田洋行、ティーライフ、泉州電業
- 3月5日(火):タカショー、ロック・フィールド、(米)クラウドストライク・ホールディングス、ロス・ストアーズ、ターゲット
- 3月6日(水):Casa
- 3月7日(木): アイル、積水ハウス、ビューティガレージ、東京楽天地、(米)ブロードコム、マーベル・テクノロジー、モンゴDB、コストコホールセール
- 3月8日(金):日本駐車場開発、日本ハウスホールディングス、鳥貴族ホールディングス、ミライアル、ベステラ、フリービット、ファースト住建、トビラシステムズ、シーイーシー、クミアイ化学工業、カナモト、オハラ、HEROZ、gumi
■主要イベントの予定
- 3月4日(月)
・日銀の国債買い入れオペ、国内ユニクロ売上推移速報(2月)、08:50 設備投資・企業売上高・企業利益(4Q)、08:50 マネタリーベース(2月)
・米フィラデルフィア連銀総裁講演、米大統領選共和党ノースダコタ州党員集会、中国で人民政治協商会議(政協)開幕(北京)、豪ASEAN首脳会議(豪メルボルン、6日まで)、トルコCPI(2月)
- 3月5日(火)
・財務省10年利付国債入札、13:00 日銀の植田総裁がFIN/SUM 2024であいさつ、08:30 東京CPI(2月)、09:30 auじぶん銀行日本複合・サービス業PMI(2月)
・米大統領選スーパーチューズデー、中国で全国人民代表大会(全人代)開幕(北京)
・米ISM非製造業総合景況指数(2月)、米耐久財受注(1月)、米製造業受注 (1月)、ユーロ圏サービス業・総合PMI(2月)、ユーロ圏PPI(1月)、中国財新サービス業・コンポジットPMI(2月)、南アGDP(4Q)、韓国GDP(4Q)
- 3月6日(水)
・米パウエルFRB議長が下院金融委員会で証言、米サンフランシスコ連銀総裁が基調講演、米地区連銀経済報告(ベージュブック)公表、米ミネアポリス連銀総裁が米紙WSJの討論会に参加、米大統領選挙で民主党ハワイ州党員集会、カナダ中銀とポーランド中銀が政策金利発表、英春季財政報告
・米ADP雇用統計(2月)、米卸売在庫 (1月)、米求人件数 (1月)、ユーロ圏小売売上高(1月)、豪GDP(4Q)
- 3月7日(木)
・財務省が国庫短期証券(6カ月)と30年利付国債入札、10:30 日銀の中川審議委員が島根県金融経済懇談会で講演・14:30 記者会見、連合が24年春闘の要求集計結果公表・記者会見、日銀がCP買い入れオペ・コール市場残高(2月)、08:30 毎月勤労統計-現金給与総額・実質賃金総額(前年比) (1月)、08:50 対外・対内証券投資 (2月25日-3月2日)、11:00 東京オフィス空室率(2月)
・米パウエルFRB議長が上院銀行委員会で証言、米クリーブランド連銀総裁講演、米大統領が一般教書演説、ペルー中銀とマレーシア中銀が政策金利発表、ECB政策金利発表・ラガルド総裁記者会見
- 3月8日(金)
・日銀の国債買い入れオペと財務省の国庫短期証券(3カ月)入札
・08:30 家計支出(1月)、08:50 国際収支:経常収支(1月)、08:50 銀行貸出動向(含信金(2月)、14:00 景気先行CI指数・一致指数(1月)、14:00 景気ウォッチャー調査 先行き判断と現状判断(季調済) (2月)
・米ニューヨーク連銀総裁が討論会に参加、世界最大級の複合イベント「サウス・バイ・サウスウエスト(SXSW)」(米テキサス州、16日まで)、米つなぎ予算失効期限
・米雇用統計 (2月)、ユーロ圏GDP(4Q)、独鉱工業生産(1月)
- 3月9-10日(土・日)
・スペースワン、カイロスロケット初号機打ち上げ予定、中国CPI・PPI (2月)、中国経済全体のファイナンス規模、新規融資、マネーサプライ (2月、15日までに発表)、米夏時間開始、米アカデミー賞授賞式(米ロサンゼルス)、ポルトガル総選挙
(Bloombergをもとにフィリップ証券作成)
※本レポートは当社が取り扱っていない銘柄を含んでいます。
■エヌビディアとアームの収益構造
生成AI(人工知能)の利用に係る機械/深層学習に必要な画像処理半導体(GPU)の市場をほぼ独占するエヌビディア(NVDA)、および世界のスマホ向け半導体設計市場を独占する英アーム・ホールディングス(ARM)は、半導体銘柄投資に欠かせない双璧と言えるろう。両社の収益構造を見ると、エヌビディアの24年1月期4Q(11-1月)はデータセンター事業の売上比率が83.3%と前年同月比23.5ポイントも上昇。「一本足打法」に近付きつつあるなかで、将来的に自前で開発する可能性もあり得る大型ハイテク企業への販売比率の高まりは長期的には懸念されよう。アームはスマホ市場の浮き沈みに左右されやすい点があるものの、半導体チップ累積出荷数に応じたストック型、およびサブスクリプション型課金で手堅い面も際立つ。
【エヌビディアとアームの収益構造~攻めのエヌビディアと堅実なアーム】
■金先物と白金先物の動きに好機
大阪取引所に上場する金先物と白金(プラチナ)先物(期近・標準物)の過去8年の終値推移を見ると、金先物価格を白金先物価格で割った金・白金倍率は8年前の1.2~1.3倍近辺から一貫して上昇。今年2/29の2.29倍はコロナ禍の2020年3/23の2.38倍の過去最高に近接中だ。
投資や宝飾品等多岐にわたる需要がある金に対し、白金は自動車や医療器具など工業用需要が約6割を占めて需要が不安定なことが金より価格が安い理由とされる。他方、供給面で金と比べて産出量が少ないことから白金が金を上回っても不思議はない。「白金先物買建て・金先物売建て」のサヤ取り手法がよく知られるところ、NEXT FUNDS日経・JPX白金指数連動型上場投信(1682)といった証券投資の割安買いも検討されよう。
【金先物と白金先物の動きに好機~金・白金倍率は直近最高水準に近付く】
■日経平均株価の現在位置を確認
23日に約34年2ヵ月ぶりに過去最高値を更新した日経平均株価は27日高値の3万9426円まで値を伸ばした。前人未踏領域で過去データは参考にならないと思いがちだが、記憶に新しい直近のデータで見ても上値余地は十分あり得る。
第1に、第2次安倍政権成立と異次元金融緩和で沸いた2013年近辺との比較だ。2012年の衆院解散前を起点とした上昇相場と2023年大発会日を起点とした直近までの上昇相場を比較すると値上がり率は前者のほうが遥かに勝る。価格水準が高くなると同じ値幅でもパーセンテージが下がるのは盲点だろう。第2に、現物買いと先物売りの裁定取引に係る裁定買い残の水準も、「1.5兆円の壁」は超えたものの2018年の水準と比較しても少なく、拡大余地が大きい面もあろう。
【日経平均株価の現在位置を確認~上昇率、裁定買い残共まだ上には上が】
■銘柄ピックアップ
ユーザーローカル(3984)
2478 円(3/1終値)
・2005年設立。データ解析ツールや人工知能(AI)を使った業務支援ツールを開発・提供。WEBサイト解析「User Insight」、SNS分析「Social Insight」、チャットボット「Support Chatbot」が主なサービス。
・2/7発表の2024/6期1H(7-12月)は、売上高が前年同期比19.5%増の18.76億円、営業利益が同28.1%増の8.57億円。自社アルゴリズム拡充、既存サービスへのAIアルゴリズム実装、AIサービス新規開発などの研究開発活動への注力。ChatGPTなど対話型AI・生成AIとのサービス連携を進めた。
・通期会社計画は、売上高が前期比18.7%増の39.03億円、営業利益が同13.4%増の15.56億円。年間配当は同4円増配の8円(従来計画5円)へ上方修正。米国で生成AI市場拡大を背景に画像処理半導体(GPU)のエヌビディアが業績急拡大。国内もさくらインターネット(3778)がGPUクラウドサービス参入の動き。ChatGPTのOpenAI社が2/15に動画生成AI「SORA」発表と生成AIの技術進化加速。
三櫻工業(6584)
1049 円 (3/1終値)
・1939年に埼玉県大宮市で航空部品製造で創業。二重巻・一重巻のスチールチューブに関して自動車部品のほか電気部品・設備の製造・販売を行う。日本・北南米・欧州・中国・アジアで展開。
・2/9発表の2024/3期9M(4-12月)は、売上高が前年同期比13.8%増の1147億円、営業利益が前年同期の▲2.78億円から54.99億円へ黒字転換。半導体不足、供給網の混乱落ち着きによる生産回復および円安による増収に加え、価格転嫁および稼働状況安定化に伴う採算性向上が利益に貢献。
・通期会社計画を上方修正。売上高を前期比12.6%増の1550億円(従来計画1460億円)、営業利益を同6.1倍の80億円(同40億円)、年間配当を同1.5円増配の26.5円(同25円)とした。生成AIで高性能GPUの発する高熱処理が課題となるなか、2/14、データセンター向け水冷冷却装置を新規開発したと発表。リアドア式冷水熱交換器で日本初。同社は「富岳」で水冷冷却方式配管部品実績あり。
ザインエレクトロニクス(6769)
1002 円(3/1終値) ※東証スタンダード上場
・1991年設立の自社ブランド独自開発ファブレス(工場を持たない)半導体メーカー。ASSP(特定用途向け標準品)に係るLSI(大規模集積回路)事業のほか、人工知能・IoT関連(AIOT)事業を営む。
・2/2発表の2023/12通期は、売上高が前期比8.0%減の50.18億円、営業利益が前期の6.01億円から▲40百万円へ赤字転落。LSI事業は中国アジア市場における在庫調整により売上高が同25%減の31.44億円、EBITDAが▲41百万円へ赤字転落。AIOT事業は売上高が同49%増、EBITDAが同2.7倍。
・2024/12通期会社計画は、売上高が前期比43.6%増の72.07億円、営業利益が10.24億円へ黒字転換、年間配当が同横ばいの15円。同社開発の使い捨て4K内視鏡が昨年12月、米FDA(食品医薬品局)から認証取得し量産開始。FDAも洗浄リスク根絶のため使い捨て内視鏡へシフト推奨。監視・物流・インフラ等幅広いAI画像処理需要対応クラウド連携可能エッジAIソリューションが期待される。
ライフコーポレーション(8194)
3800 円 (3/1終値)
・1956年設立の清水実業が1978年にライフを吸収合併。主に食料品販売を中心に生活関連用品・衣料品の総合小売業を営む。三菱商事(8058)の持分法適用会社で首都圏と近畿で集中展開。
・1/11発表の2024/2期9M(3-11月)は、営業収益が前年同期比5.9%増の6024億円、営業利益が同41.8%増の192.32億円。新規出店、Amazonプラム会員向けネットスーパー拡大、「BIO-RAL」等プライベートブランド商品強化などの貢献により増収。計画超の生産性向上・コスト最適化が増益に寄与。
・通期会社計画を上方修正、売上高を前期比5.8%増の8098億円(従来計画8010億円)、営業利益を同15.9%増の222億円(同:198億円)、年間配当を同20円増配の90円(同:80円)とした。持続可能な食品物流構築に向けて昨年3月「首都圏SM物流研究会」発足し、賛同企業10社に拡大。また、三菱商事が事業資産売却を進めるなか、同社株が対象となれば企業価値向上への契機となり得よう。
CPオール(CPALL)
市場:タイ 57.50 THB(2/29終値)
・1988年にタイ最大のコングロマリットのチャルーン・ポーカパン・グループが設立。セブンイレブン運営のコンビニ事業のほか「Siam Marko」のキャッシュ&キャリー、「ロータス」の小売・モール賃貸を営む。
・2/23発表の2023/12通期は、総売上高が前期比8.0%増の9211億THB、EBITDAが同8.4%増の795.94億THB。2020年末に英テスコから買収したロータスが増収に貢献のほか、1日当たりのべ来客数増加に伴い既存店売上高も同5.5%増加。12月末店舗数も同5.1%増の1万4545店に拡大した。
・2024/12通期会社計画は、設備投資計画がコンビニ事業120-130億THB、タイ国内コンビニ店舗数が前期末比700店舗増(4.8%増)。海外店舗はカンボジアが同40店舗増の122店、ラオスが同7店舗増の10店。昨年8月に成立したタイ貢献党中心の連立政権であるセター世間のデジタル通貨現金給付景気対策、およびラオスにおけるラオス・中国鉄道を通じた観光需要増の恩恵が見込まれよう。
■アセアン株式ウィークリーストラテジー
(3/4号「タイのタクシン元首相が復権の兆し」)
2001~06年まで首相を務め、低額医療制度の導入等で低所得層から絶大な人気を博していたタクシン元首相に復権の兆しだ。タクシン氏は06年の軍事クーデターで失脚し、08年以降はアラブ首長国連邦ドバイを中心に事実上の亡命生活を続けていた。同氏は昨年8/22に帰国後、汚職などの罪で禁錮10年の実刑を言い渡された後、8/31付で国王による恩赦発令で刑期が1年に短縮された。更に「健康上の理由」で警察病院に移送されたなか、タイ矯正局が12月上旬、治療や職業訓練が必要と判断された受刑者が刑務所外で服役できる新規則を通達。これを受け、タイ政府は1/11に同氏の病院内での服役期間を延長すると発表し、2/18に仮釈放を実施。21日にカンボジアのフン・セン前首相と面会し、24日にセター首相とも面会。政治に関与する国軍からは警戒の動きもみられる。
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アナリストのご紹介 フィリップ証券リサーチ部
笹木 和弘
フィリップ証券株式会社:リサーチ部長
証券会社にて、営業、トレーディング業務、海外市場に直結した先物取引や外国株取引のシステム開発・運営などに従事。その後は個人投資家や投資セミナー講師として活躍。2019年1月にフィリップ証券入社後は、米国・アセアン・日本市場にまたがり、ストラテジーからマクロ経済、個別銘柄、コモディティまで多岐にわたる分野でのレポート執筆などに精力的に従事。公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト(CIIA®)。