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シンガポール銀行セクターレポート・12月-SORAの成長は平坦化の一方、HIBOR水準は記録的な高さに

 

原文:グレン・ツーム(Glenn Thum)

フィリップ証券シンガポール

銀行・金融セクター・リサーチアナリスト

原文公開日:2023年12月22日

本翻訳レポート作成日:2023年12月28日

 

DBSグループ・ホールディングス オーバーシー・チャイニーズ銀行(OCBC) ユナイテッド・オーバーシー銀行 (UOB)
買い(継続) 買い(継続) 買い(継続)
ブルームバーグコード DBS SP ブルームバーグコード OCBC SP ブルームバーグコード UOB SP
最終取引値 (7/1) SGD 33.17 最終取引値 (7/1) SGD 12.97 最終取引値 (7/1) SGD 27.40
予想配当額 SGD 1.86 予想配当額 SGD 0.85 予想配当額 SGD 1.75
目標株価(PSR) SGD 41.60 目標株価(PSR) SGD 14.96 目標株価(PSR) SGD 35.90
配当利回り 5.61% 配当利回り 6.55% 配当利回り 6.39%
トータルリターン 31.02% トータルリターン 21.90% トータルリターン 37.41%

*参考レート 1SGD=107 SGD

【略語リスト】
NIM : 純金利マージン
NII : 純資金運用収入
SIBOR : シンガポール銀行間貸出金利
SORA : シンガポール・オーバーナイト金利平均
SOR : スワップ・オファー・金利
HIBOR : 香港銀行間貸出金利
DDAV(Derivatives Daily Average Volume) : デリバティブ日次平均出来高
SDAV (Securities Daily Average Value): 株式日次平均売買代金
PATMI : 税引き後少数持ち分調整後純利益

■レポートサマリー

  • 3ヶ月複利のシンガポールオーバーナイト金利平均(SORA)は前月比(MoM)で4ベーシスポイント上昇の75%となり、23年第3四半期中の平均値3.69%を上回った。3ヶ月複利の香港銀行間貸出金利(HIBOR)はMoMで22ベーシスポイント増加の5.44%と記録的な水準に達した。
  • シンガポールの国内向け融資額は前年同月比(YoY)で2%低下し、弊社の予想を下回った。この減少幅は過去7ヶ月の内でもっとも小さいものであった。当座預金比率(CASA比率)は僅かに低下して18.7%となった(23年9月23日では18.9%)
  • オーバーウェイトを継続:銀行セクターに対するポジティブな見方を継続する。シンガポール地場銀行の配当性向は7%と魅力的な水準にあり、過剰資本是正によるROE向上の動きがあれば配当サプライズが期待できる。シンガポール証券取引所(SGX)も金利上昇の恩恵を受ける企業の一つと見ている(SGX SP:買い、目標株価11.71 SGD)

3ヶ月複利SORA成長は横ばい、3ヶ月複利HIBORは記録的な高水準に

シンガポール金利は11月に入って緩やかに降下を始めた。11月の3ヶ月複利SORAはMoMで4ベーシスポイント上昇して3.75%となったが、これはYoYでは107ベーシスポイントの上昇となり、23年3QにおけるSORAの平均値3.69%よりも6ベーシスポイント高かった。

香港の金利は上昇を継続しており、23年における下落分を上回る逆転を見せた。11月の3ヶ月複利HIBORはMoMで22ベーシスポイント上昇(YoYでは44ベーシスポイントの上昇)の5.44%となったが、これは22年12月の5.29%を超える記録的な高水準である。この水準は23年3Qにおける3ヶ月複利HIBOR平均値5.01%よりも高水準である。

図1:SORA成長は平坦化した一方で、HIBORは記録的な高水準に達した

引用元:ブルームバーグ、フィリップ・セキュリティーズ・リサーチ(PSR)

シンガポール融資額の推移は横ばい

全通貨建てを含むシンガポール国内居住者向け融資総額は10月においてYoYで4.19%減少して7,920億SGDとなり、2023年を通して一桁台前半パーセンテージでの成長を続けるとした弊社の予想を下回った。その原因は金利上昇が消費者へ浸透してきたことによるものである。そうはいっても、この下落幅は過去7カ月で最も小さいものである。

事業者向け融資額は10月にYoYで6.06%減少した。単独で最も大きい事業融資セグメントである建築事業はYoYで0.07%減少して1,680億SGD、一方で製造業向け融資額は20.16%減少の215億SGDとなった。

消費者向け融資総額はYoYで1.14%減少の3,110億SGDとなった。住宅ローンへの高い需要が、その他の消費者向け融資セクターの落ち込みを僅かに相殺した。消費者向け融資総額の70%を占める住宅ローンは、10月にYoYで1.14%増加して2240億SGDとなった。

ノンバンク顧客による全通貨建てを対象とした預金総額は10月にYoYで3.08%増加して1兆7,970億SGDとなった。全預金に占める当座預金比率(CASA比率)は僅かに上昇して10月に18.7%(9月18.9%)となり、当座預金総額は3,360億SGDとなった。

【図2】: シンガポール国内融資成長率(YoY)推移 #bbdef2

融資額成長率(YoY)
2023年10月 -4.19%
2023年9月 -6.10%
2023年8月 -6.71%
2023年7月 -6.15%
2023年6月 -5.02%
2023年5月 -4.88%
2023年4月 -5.86%
2023年3月 -3.98%
2023年2月 -3.10%
2023年1月 -1.89%

引用: CEIC, フィリップ・セキュリティーズ・リサーチ(PSR)

香港の融資額成長率は引き続き低下した

香港国内向け融資額は10月にYoYで4.19%の減少、MoMでは0.5%の減少となった。これは23年9月に見られたYoYで4.89%減少と、8月に見られたMoMで0.91%の減少よりも小幅な減少となった。

【図3】:10月において香港の融資成長率の低下はさらに進んだ。

引用:CEIC、フィリップ・セキュリティーズ・リサーチ(PSR)

ボラティリティは市場が安定化するにつれて低下

 11月の株式の日次平均売買代金(SDAV)速報値はYoYで23%減少して9億5,200万USDとなったが、これは過去5か月で2番目に大きい減少である。その一方でデリバティブ日次平均出来高(DDAV)は11月にYoYで5%減、MoMでは5%減の104万枚となった。S&P500を原資産とするVIXは10月に平均して14.0となっており、9月の18.9よりも下落した。これは過去4カ月の中で最も低い水準である。

 株価指数先物取引高上位4銘柄の11月の取引高は、YoYで18%減の1,080万枚となったが、これはFTSE中国A50指数先物と日経225指数先物の取引高減少によるものである。特筆すべきはFTSE台湾指数先物の取引高が11月にMoMで4.2%上昇した一方、日経225指数先物は同月にMoMで21.8%減少したことである。

【図4】:各月の株式売買代金のデリバティブ出来高と前年比推移

株式

日次平均売買代金

(百万USD)

YoY デリバティブ

日次平均取引高

(百万枚)

YoY
2023年11月 952 -23% 1.04 -5%
2023年10月 897 -22% 1.07 -13%
2023年9月 867 -26% 1.07 3%
2023年8月 1,061 -4% 1.04 13%
2023年7月 1,014 13% 0.98 -1%
2023年6月 1,174 1% 1.03 -6%
2023年5月 1,032 -31% 0.98 -13%
2023年4月 969 -24% 0.96 -12%
2023年3月 1,216 -22% 1.04 -11%
2023年2月 1,105 -33% 1.01 -5%
2023年1月 1,159 -4% 1.08 +6%

引用:シンガポール取引所(SGX), ブルームバーグ, フィリップ・セキュリティーズ・リサーチ(PSR)

【図5】: 株価指数先物の取引高上位4銘柄は前年同期比(YoY)で低下した

 

株式指数名/単位:枚数 22年11月 23年11月 YoY 増減
FTSE China A50 Index Futures 9,321,759 7,256,857 -22.2%
Nikkei 225 Index Futures 997,256 782,256 -21.6%
MSCI Singapore Index Futures 1,286,805 1,134,515 -11.8%
FTSE Taiwan Index Futures 1,522,862 1,585,681 4.1%
各部合計 13,128,691 10,759,381 -18%

引用:シンガポール取引所(SGX), ブルームバーグ, フィリップ・セキュリティーズ・リサーチ(PSR)

シンガポール銀行関連ニュース

  • シンガポール金融管理局(MAS)は11月27日、最新版の「金融安定性レビュー2023」のにおいて、シンガポールの企業は厳しい経済環境を切り抜け、成長鈍化や金利上昇局面においても健全な財務体質を維持してきたと発表した。同報告書はまた、銀行、投資会社、保険会社などの金融セクターの企業は、過去1年間の複数のショックにもかかわらず健全なバランスシートを維持してきたと報告している。
  • 11月27日、DBS銀行、OCBC銀行、UOB銀行の3行は、詐欺から顧客を守るため、新たなマネーロック機能を発表した。顧客はアプリやインターネット・バンキングを利用して資金をロックすることができ、銀行支店に来店して本人確認が行われた際にロックが解除される。OCBCの顧客はATMにおいても同様の操作を行うことができる。
  • 11月23日、SGXに上場するマレーシアのフィンテック企業であるSilverlake AxisがインドネシアのBank Mandiri Taspen(Bank Mantap)との戦略的提携を発表したことが報じられた。このパートナーシップでは、Silverlake Axisの統合バンキング・ソリューション(SIBS)のシステムバージョン12を、インドネシアの40以上の州をカバーするBank Mantapの390以上の支店にて展開する計画が含まれている。この提携イニシアチブは、地域の金融福祉に貢献することを目的としており、インドネシア金融サービス機構(OJK)の2025年ビジョンに沿ったものであり、同国の金融リテラシーの向上と包括的な金融商品へのアクセス確立に焦点を当てたものである。
  • シンガポール金融庁(MAS)は11月1日、DBSのデジタル・バンキング・サービスの回復に集中するため、DBSのシステムにおける非中核的なITに関する仕様変更を6ヶ月間停止することを決定した。この期間中、DBSは新規事業の買収やシンガポール国内の支店・ATM網の縮小を行うことはできない。MASは、DBSがデジタル・バンキング・サービスの耐久性を高めるための構造改革を実施するには最長で24ヵ月を要し、その間に再び何らかの混乱が生じる可能性がある事を述べた。

投資行動に対する示唆

オーバーウェイトを継続:我々はシンガポール地場銀行に対するポジティブな見方を継続する。各行の配当利回りは魅力的な水準にあり、ROE上昇に向けて過剰資本を是正する動きがあれば、配当による上方サプライズが期待できる。安定した経済情勢と金利上昇は銀行セクターに対する追い風となっている。シンガポール証券取引所(SGX)も金利上昇からの恩恵を受ける企業の一つであると我々は見ている。

【図6】: 地場銀行3行の過去PBR推移

引用: ブルームバーグ, フィリップ・セキュリティーズ・リサーチ(PSR)

【図7】: 地場銀行各行の目標PBR

DBS OCBC UOB
最大PBR(倍) 1.62 1.50 1.43
最小PBR(倍) 0.81 0.73 0.79
5ヵ年平均PBR(倍) 1.17 1.09 1.12
直近PBR(倍) 1.34 1.02 0.97
目標PBR(倍) 1.36 1.27 1.17
目標株価(SGD) 41.60 14.96 35.70

引用: ブルームバーグ, フィリップ・セキュリティーズ・リサーチ(PSR)

*参考レート:1 SGD = 107 JPY

■アジア金融機関比較

引用:ブルームバーグ・フィリップ・セキュリティーズ・リサーチ(23年12月21日の株価に基づく)

 

留意事項
  1. 上場有価証券等のお取引の手数料は、国内株式の場合は約定代金に対して上限1.265%(消費税込)(ただし、最低手数料2,200円(消費税込)、外国取引の場合は円換算後の現地約定代金(円換算後の現地約定代金とは、現地における約定代金を当社が定める適用為替レートにより円に換算した金額をいいます。)の最大1.10%(消費税込)(ただし、対面販売の場合、3,300円に満たない場合は3,300円、コールセンターの場合、1,980円に満たない場合は1,980円)となります。
  2. 上場有価証券等は、株式相場、金利水準等の変動による市場リスク、発行者等の業務や財産の状況等に変化が生じた場合の信用リスク、外国証券である場合には為替変動リスク等により損失が生じるおそれがあります。また新株予約権等が付された金融商品については、これらの権利を行使できる期間の制限等があります。
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アナリストのご紹介 フィリップ証券リサーチ部

笹木和弘プロフィール笹木 和弘
フィリップ証券株式会社:リサーチ部長
証券会社にて、営業、トレーディング業務、海外市場に直結した先物取引や外国株取引のシステム開発・運営などに従事。その後は個人投資家や投資セミナー講師として活躍。2019年1月にフィリップ証券入社後は、米国・アセアン・日本市場にまたがり、ストラテジーからマクロ経済、個別銘柄、コモディティまで多岐にわたる分野でのレポート執筆などに精力的に従事。公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト(CIIA®)。

 

アセアン・米国株、個別銘柄のリサーチレポート承ります
世界経済のけん引役と期待されるアセアン(ASEAN:東南アジア諸国連合)。そのアセアン各国で金融・証券業を展開し、マーケットを精通するフィリップグループの一員である弊社リサーチ部のアナリストが、市場の動向を見ながら、アセアン主要国(シンガポールタイマレーシアインドネシア)の株式市場を独自の視点で徹底解説します。

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