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シンガポール銀行レポート②ー決算ハイライト&シンガポール銀行関連ニュース

 

23年3Qシンガポール地場銀行・決算ハイライト

1.NIIとNIMの継続成長が利益を増大

DBS銀行の23年3Qの調整済み最終利益は26億3千万SGDとなり、弊社の予想を上回るものであった。23年中の過去3四半期(9ヶ月)累積(23年9M)の税引き後少数持ち分調整後純利益(PATMI)は、弊社による23年通期予想の78%の到達に相当する。23年3Qの一株当たり配当(DPS)はYoYで14%増の0.48 SGDとなった。DBSは23年通期業績における現在会社予想を継続するものとしており、同行はさらに24年決算期における会社予想として、ウェルスマネジメントとクレジットカード手数料収益に牽引された手数料収益の2桁パーセンテージ成長を予想。今後も継続することが期待される高金利により、純金利マージン(NIM)上昇が見込まれるが、一方で融資額成長が低下することにより相殺され、引当金が融資額に対する17-20bpsに標準化される見通しであることなどを総合して、純資金運用収益(NII)は安定的に推移するという会社予想を出している。24年決算期のPATMIについては23年当期業績の水準で維持される見通しである。

OCBC銀行の23年3Qの最終利益は18.1億SGDとなり、弊社の予想を僅かに上回った。これは高いNIIと手数料収益によるものである一方、保険関連収益の低下と引当金の上昇により幾分相殺された結果となった。PATMIの23年9Mは、弊社による同行の23年通期予想の77%の達成に相当する。NIMがYoYで21bps改善したことにより2.27%となったことが貢献してNIIの成長はYoYで17%増となった。NIMの改善は同グループの主要な市場におけるマージンの上昇によるものである。OCBCは23年通期会社予想におけるNIM予想値を、従来2.20%以上としていたものを2.25%近傍まで引き上げた。

UOB銀行の23年3Q調整済み最終利益は14.8億SGDとなり、弊社予想をわずかに上回った。23年9MのPATMIは、弊社による23年通期予想の77%に達している。NIIはYoYで9%増、手数料収益は14%増となった。一方で非金利収益の成長は横ばいであり、引当金はYoYで12%増となった。経営陣は23年通期業績の現在の会社予想を維持するものとしており、一方24年通期業績の会社予想については、個人向け融資の営業拡大および高い信用力の顧客への集中に牽引され、NIMは1桁台半ばパーセンテージの融資成長率が見込まれる。さらにNIMは現在の水準を維持するとみられ、資金調達コストの推移は安定化し、24年半期までは現在の金利予想が維持されるものと見ている。

 

【図1】: FY23決算会社予想 vs フィリップ(PSR)予想

DBS銀行予想 PSR予想
NIM (%) 2.15%近傍 2.15%
融資額成長(%) 一桁半ば 2.0%
信用コスト(bps) 10-15 12

 

OCBC銀行 PSR予想
NIM (%) 2.25%近傍 2.22%
融資額成長(%) 1桁台前半 2.0%
信用コスト(bps) 20近傍 20

 

UOB銀行 PSR予想
NIM (%) 2.10-2.15% 2.11%
融資額成長(%) 一桁半ば以下 1.0%
信用コスト(bps) 25 近傍 27

2.各行は引当金を積み増した

DBS銀行の23年3Qの引当金総額はYoYで21%増加したが、その原因となったのは197百万SGDにまで増加した特定引当金であった(22年3Qは25百万SGD)。その結果、23年3Qの信用コストは18bps上昇した。23年の9ヶ月累積信用コストは11bpsである。この特定引当金の増加は最近シンガポール国内で起きたマネーロンダリング事件に対して関連した金額に対して計上されたものである。不良債権比率(NPL比率)は僅かに上昇して1.2%となった(22年3Qは1.1%)。

OCBC銀行の23年3Qの引当金総額はYoYで19%上昇して184百万SGDとなったが、このうち個別貸倒引当金が220百万SGDにまで引き上げられたことが背景にある(23年2Qでは78百万SGD)。個別貸倒引当金の引き上げは複数セクターやアジア地域に跨る複数の企業の口座に紐づいたものであり、単一の企業口座によるものではないと説明されている。同行は、市場全体に及ぶようなシステミックリスクは観測されていないとしている。

UOB銀行の23年3Qの引当金総額はYoYで12%増加して151百万SGDとなった。一般貸倒引当金は36百万SGDの戻し入れがあった一方で、個別貸倒引当金がYoYで80%増加して229百万SGDとなったことが引当金総額の増加につながった。個別貸倒引当金の増加は、米国や中国/香港における担保価値のリバランスに向けた予防的な動きである。同行経営陣によれば、顧客口座は財務困難な状況や不良資産化状態にあるわけではないと説明されている。この引当金による信用コストの上昇はYoYで2bps上昇して19bpsとなった。

【図2】: NIIとNIMの継続的な成長が23年3Q業績の追い風となった

22年3Q vs 23年3Q DBS OCBC UOB
NIM 2.19% 2.27% 2.09%
(+29bps) (+21bps) (+14bps)
NII +16% +17% +9%
純手数料収益 +9% +2% +14%
一般引当金(SGD) 18百万 -.36百万 -78百万
PATMI(最終利益:SGD) 2,633百万

(+18%)

1,810百万

(+21%)

1,497百万

(+5%)

不良債権率(NPL) 1.2%

(+10bps)

1.0%

(-20bps)

1.6%

(+10bps)

不良資産(NPA)カバレッジ比率 125% 139% 102%
普通株(CET-1) 14.1% 14.8% 13.0%

引用:企業公表値、フィリップ・セキュリティーズ・リサーチ(PSR)

*参考レート:1SGD = 111 JPY

シンガポール銀行関連ニュース

  • 10月18日、シティグループはシンガポールにおけるウェルスマネジメント業務の拡大について告知した。すでに同社の競合の多くは、アジア地域各地での消費者向け金融で展開を広げている。米国に本社機能をもつ同社は2拠点の富裕層向けアドバイザリー営業店を開設するとしている。富裕層の関心が、アジア金融の中心であるシンガポールへと向けられており、富裕層のポートフォリオの運用について需要が高まっていることが背景にある。同社の新しい拠点は2024年1Qに開業予定である。
  • 10月15日、DBSとシティバンクは14日土曜日に起きたシステム障害から復旧し、通常通りの営業に戻ったことを発表した。DBSにおいて障害の影響を受けたのは『DBS/POSBデジタルバンク』と『DBS PayLah!』などである。一方シティバンクが影響を受けたのはATMやシティ・クレジットカード、アプリケーション『PayNow』、シティのモバイルアプリやオンライン銀行を経由した投資などである。DBS銀行はこうしたサービス障害の原因となる問題がデータセンターやその他複数の関連組織に発生していたものと説明している。DBSにデータセンターを提供しているEquinixは、シンガポールにおけるデータセンターのいくつかが室内温度上昇による問題が生じたとしており、その際に同社の複数の顧客が影響を受けたものと説明している。
  • 10月6日、増加する金融詐欺に対する対策として、シンガポール地場銀行3行は顧客に対して、口座資金の一部の別個管理や、デジタル送金についての上限枠の設定を可能とするような対策を近く導入する予定であると発表した。DBS銀行、OCBC銀行、UOB銀行の3行はCANの取材に対して、各行独自の「マネーロック機能」のリリースを来月までに行うと発表した。「マネーロック機能」のコンセプトは銀行業界でこれまでも研究されており、その特徴としては、より厳格な認証システム導入にあるといわれている。
  • 10月2日、米国にある最大の暗号通貨取引所であるコインベースは、シンガポールにおけるデジタル資産決済サービスを行うための完全なライセンスを取得したと発表した。デジタル決済を行う金融機関としての認可は、『決済サービス法』に基づき、シンガポール金融管理局(MAS)からの原則承認(IPA)を経て1年後に付与される予定である。

 

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アナリストのご紹介 フィリップ証券リサーチ部

笹木和弘プロフィール笹木 和弘
フィリップ証券株式会社:リサーチ部長
証券会社にて、営業、トレーディング業務、海外市場に直結した先物取引や外国株取引のシステム開発・運営などに従事。その後は個人投資家や投資セミナー講師として活躍。2019年1月にフィリップ証券入社後は、米国・アセアン・日本市場にまたがり、ストラテジーからマクロ経済、個別銘柄、コモディティまで多岐にわたる分野でのレポート執筆などに精力的に従事。公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト(CIIA®)。

 

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世界経済のけん引役と期待されるアセアン(ASEAN:東南アジア諸国連合)。そのアセアン各国で金融・証券業を展開し、マーケットを精通するフィリップグループの一員である弊社リサーチ部のアナリストが、市場の動向を見ながら、アセアン主要国(シンガポールタイマレーシアインドネシア)の株式市場を独自の視点で徹底解説します。

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