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セムコープのMSCIシンガポール指数への復帰

 

-SIMSCI指数の好成績と地場銀行の高配当‐

原文:シンガポール取引所(SGX)

公開日:2023年8月14日

翻訳作成日:2023年8月31日

*このレポートはシンガポール取引所が発行した、経済見通しと市場、発行体に関するレポートを日本のフィリップ証券が翻訳して作成しています。

 

■レポートサマリー

  • Sembcorp Industries (セムコープ・インダストリーズ:以下セムコープ) は、2023年8月31日(木)の終値で、MSCIシンガポール指数(SIMSCI)の構成銘柄に復帰する。Covid19のパンデミック渦中である2020年5月29日にSIMSCIから除外されて以来のことである。

 

  • 同社の2020年5月29日のSIMSCIからの除外から2023年8月11日の終値までの時価総額の推移は、24億シンガポールドルから106億シンガポールドルへと4倍以上に成長。2020年に傘下のSembcorp Marine (セムコープ・マリーン:現シートリウム)の会社分割を完了。純利益の70%を(再生可能エネルギーなどの)持続可能の高い事業から生み出すという2025年の目標に邁進している。

 

  • ストレーツタイム指数(STI)とは異なり、SIMSCIは構成銘柄数の制限を設けておらず、NYSEに上場しているシー・グループやNasdaqに上場しているGrab Holdingsなど、現在22銘柄が含まれている。

 

  • 23年8月11日SIMSCIの年初来トータル・リターンは、配当により3%に上昇した。高配当を出したDBS、OCBC、UOBのトリオはSIMSCIのウェイトの46%を占める。DBSはMSCI ACアセアン高配当利回り指数でも最大のウェイトを占めており、OCBCとUOBは7月31日現在、当指数における第3位と第4位のウェイトに位置する。

 

MSCIシンガポール指数(SIMSCI)は22銘柄で構成される。同指数には、ストレーツタイム指数(STI)の構成銘柄でもある20銘柄に加えて、NYSE上場のSEA Group(シー・グループ:以下シー)とナスダック上場のGrab Holdings(グラブ・ホールディングス)が含まれている。シーは2022年の売上高の3分の2が東南アジアにあり、グラブ・ホールディングスは2022年の売上高のすべてが東南アジア地域にある。グラブ・ホールディングスの売上高の36%はマレーシア、21%はシンガポールである。シー・グループとグラブ・ホールディングスを合わせたSIMSCIウェイトは13%を維持し、前年比3ポイント低下した。STIの構成銘柄であるジャーディン・マセソン・ホールディングスと香港ランド・ホールディングスは現在、MSCI香港の構成銘柄である。

 

■セムコープ・インダストリーズがSIMSCI構成銘柄に復帰

Sembcorp Industries (セムコープ・インダストリーズ:以下セムコープ) は2023年8月31日の終値でSIMSCIの構成銘柄に復帰する。それと入れ替わるように、Venture Corporation(ベンチャー・コーポレーション)は指数から除外される。セムコープは、8月11日までの2023年の1年間で、現在のSIMSCI構成銘柄22社(下記表)をすべて上回り、トータルリターンは77%であった。セムコープの1日平均売買高は、2022年の1,400万シンガポールドルに対し、2023年は2,300万シンガポールドルであった。セムコープは今年、現地市場で最も多くの機関投資家の資金流入を記録し、8月11日現在で1億6,200万シンガポールドルの純資金流入があった。

セムコープはコロナ禍中の2020年5月29日にSIMSCIから除外されたが、同社の時価総額は2023年8月11日の終値までに、除外当時の24億S$から106億S$へと、実に4倍以上に増加した。セムコープは、2020年に傘下のセムコープ・マリーン(現シートリウム)の会社分割を完了した。2025年までにグループの純利益の70%を(再生可能エネルギーなどの)持続可能性の高いソリューション事業から生み出すという目標に邁進している。8月4日、セムコープは23年決算上半期の好業績の要因として、従来型エネルギー部門におけるシンガポール電力市場での価格上昇と、再生可能エネルギー部門の稼働容量が増加したことを上げている。2023年6月時点の自然エネルギーの総発電容量(設置済みおよび開発中のものを含む)は11.9GWに達した。

【図1】UMSとAEMの2社は週平均(5/22-5/26)で8.5%上昇

 

SIMSCI構成銘柄

証券

コード(SGX)

時価総額

(S$)

年初来

トータル

リターン
(S$換算)

8/11

終値

β値
(5ヵ年)
DBSグループ D05 86,709 5% 33.62 1.34
OCBC O39 58,801 11% 13.08 1.13
UOB U11 48,504 0% 28.98 1.23
シー・グループ(ADR) SE 44,178 12% 57.62* N/A
シンガポール・テレコム Z74 40,286 -2% 2.44 0.93
ウィルマー・インターナショナル F34 23,785 -6% 3.81 0.72
シンガポール航空 C6L 21,950 39% 7.38 1.25
グラブ・ホールディングス GRAB 18,312 10% 3.50* N/A
キャピタランド・インベストメンツ 9CI 16,287 -10% 3.18 1.11
ジャーディン・サイクル&キャリッジ C07 13,426 23% 33.97 0.98
キャピタランド・インテグレイテッド・コマーシャルトラスト C38U 12,838 0% 1.93 0.83
ケッペル・コープ BN4 12,529 58% 7.11 1.1
キャピタランド・アセンダス・リート A17U 12,074 6% 2.75 0.46
シンガポール・テック・エンジニアリング S63 11,782 15% 3.78 0.8
ゲンティング・シンガポール G13 11,529 2% 0.955 1.15
シンガポール取引所(SGX) S68 10,242 9% 9.59 0.37
シートリウム S51 9,209 -2% 0.135 1.9
メイプルツリー・パン・アジア・コマーシャル・トラスト N2IU 8,232 -2% 1.57 0.75
メイプルツリー・ロジスティックス・トラスト M44U 8,206 9% 1.66 0.48
シティ・ディべロップメンツ C09 6,221 -15% 6.86 1.33
UOLグループ U14 5,694 3% 6.74 0.96
ベンチャー・コープ V03 4,105 -15% 14.11 0.76

 

*注記:8月11日における、シー社のADR株式の価格はドル建てに基づいて算出されており、またシー社ADRおよびグラブ・ホールディングスのベータはSGXの株式スクリーニング機能から算出したものではありません。

引用:シンガポール証券取引所、リフィニティブ(データは8月11日終値に基づく)

■SIMSCIの上位構成銘柄における地場銀行株への比重傾斜が、パフォーマンスと配当によって年初来トータルリターンを押し上げた

SIMSCI指数は、8月11日までの2023年年初来で2.6%の値上がりとなり、配当分配によりトータル・リターンは6.3%に拡大した。直近の四半期決算で配当額を更新したDBSグループ・ホールディングス(以下DBS)、オーバーシーズ・チャイニーズ・バンキング・コーポレーション(以下OCBC)、ユナイテッド・オーバーシーズ・バンク(以下UOB)のトリオは同指数の46%を占めており、SIMSCIの構成銘柄の中では比較的高い配当利回りを維持している。

 7月31日現在、DBSのウェイトは2.3%でMSCI ACアジア・パシフィック高配当利回り指数においても構成銘柄における第7位の比重を占めている。これは同指数の親指数であるMSCI ACアジア・パシフィック指数にしめる同社のウェイト0.4%に対して、実に5倍となる比重である。DBSはMSCI ACアジア・パシフィック高配当利回り指数でも最大のウェイトを占めており、7月31日現在、オーバーシー・チャイニーズ・バンキング・コーポレーションとユナイテッド・オーバーシーズ・バンクが第3位と第4位にランクされている。

MSCI ACアジア・パシフィック高配当利回り指数の構成銘柄は、配当のスクリーニング・プロセスから始まる。一貫した配当支払い実績があり、将来にわたって配当支払いを維持する能力のある証券のみが対象となる。配当基準をクリアしたのちは、株主資本利益率(ROE)、収益の変動性、株主資本に対する負債、直近12ヶ月の株価パフォーマンスなど、特定の「質的な要因」に基づいてスクリーニングされる。

 DBSは23年2Qに19.2%という四半期ベースで過去最高のROEを記録した。DBSのCFOは5月のインベスター・デーで、2015年以降のデジタル・トランスフォーメーションの成功がROEの向上につながったことを強調し、2022年には世界の大手銀行100行の中でROE上位10位以内にランクされた。

■最近の他指数に対する相対パフォーマンスの比較

SIMSCI(S$)は、8月11日終値時点で、MSCI ACアジア・パシフィック指数($)との120日間の相関係数が0.77を維持したのに対し、STIとの相関係数は0.81だった。過去12ヵ月間、SIMSCIのMSCI ACアジア・パシフィック指数に対する120日間のリターンの相関係数は最高0.80から最低0.68の範囲であった。直近の7月28日には、SIMSCI(S$)の、MSCI ACアジア・パシフィック指数に対する価格比スプレッドが、12ヵ月平均の下から上へ移動した。

【図2】:SIMSCI指数(S$)の、(左)MASCI AC アセアン指数($)と、(中央)FTSEチャイナ A50($)、日経225(¥)に対する相対パフォーマンス比率の推移(過去12ヶ月)

引用:SGX(シンガポール証券取引所)

 

 2023年1Qからの32週間にかけて、SIMSCIのパフォーマンスはFTSE中国A50指数を上回ったが、日経平均株価には遅れをとった。このため、SIMSCIのFTSE中国A50指数(米ドル)に対する価格比スプレッドは現在、12ヵ月平均を1σ以上上回っている一方、SIMSCIの日経平均株価(円)に対する価格比スプレッドは12ヵ月平均で1σ以上下回っている。

 

 

 

 

 

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笹木和弘プロフィール笹木 和弘
フィリップ証券株式会社:リサーチ部長
証券会社にて、営業、トレーディング業務、海外市場に直結した先物取引や外国株取引のシステム開発・運営などに従事。その後は個人投資家や投資セミナー講師として活躍。2019年1月にフィリップ証券入社後は、米国・アセアン・日本市場にまたがり、ストラテジーからマクロ経済、個別銘柄、コモディティまで多岐にわたる分野でのレポート執筆などに精力的に従事。公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト(CIIA®)。

 

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世界経済のけん引役と期待されるアセアン(ASEAN:東南アジア諸国連合)。そのアセアン各国で金融・証券業を展開し、マーケットを精通するフィリップグループの一員である弊社リサーチ部のアナリストが、市場の動向を見ながら、アセアン主要国(シンガポールタイマレーシアインドネシア)の株式市場を独自の視点で徹底解説します。

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