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シンガポール銀行セクターレポート②シンガポール地場銀行23年2Q業績ハイライト&ニュースサマリー

 

原文:グレン・ツーム(Glenn Thum)

フィリップ証券シンガポール

銀行・金融セクター・リサーチアナリスト

原文公開日:2023年8月11日

本レポート作成日:2023年8月22日

業績ハイライト①.NIIとNIMの継続的成長が純利益増加に拍車をかけている

DBS(SGXコード: D05, 目標株価 34.15) の 23 年2Qの調整後純利益は 26.9 億S$で予想を上回り、23 年上半期までの税及び少数株主帰属分控除後の調整後純利益(調整後PATMI)は、フィリップ・セキュリティーズ・リサーチ(PSR)による23年決算通期予想に対する57%の進捗に相当する結果となった。23年2Qの一株当たり配当額(DPS)はYoYで33%増の48セントとなり、23年1H中の配当額は 合計90 セントとなった。これに伴い、我々はDBSの23年通期のDPSの弊社予想額を1.68S$から1.86S$に引き上げる。融資額はYoYで2%減となったが、純金利マージン(NIM)が同58bps増の2.16%に達したことから、純資金運用収益(NII)の実績はYoYで40%増の34.3億S$に達した。DBSの経営陣は、NIMは現在の水準から上方バイアスがかかるとし、NIMは23年下半期に2.15%前後でピークを迎える可能性が高いと述べた。

DBS(会社計画 vs PSR予想)

予想項目 会社計画 PSR
NIM (%) 2.15前後 2.15
融資額成長 (%) 1桁台前半 2.0%
クレジットコスト(bps) 10 – 15 12

引用: 企業公表値, フィリップ・セキュリティーズ・リサーチ

OCBC (SGXコード:O39, 目標株価 13.15)の23年2Qの純利益は17億1,000万S$となり、弊社予想を上回った。これはNIIと保険収益の増加によるものであったが、一方で手数料収入の減少と引当金の増加が足を引っ張った。23年上半期までのPATMIはPSRによる23年決算通期の予想利益の53%の進捗に相当する。また、23年2QのDPSはYoYで43%増の40セントとなった。これを受けて我々は、OCBCの通期DPSの弊社予想額を0.80 S$から0.85 S$に引き上げることとした。融資額残高の成長がYoYで横ばいの推移であったのにもかかわらず、NIMがYoYで55bps改善の2.26%となったことが牽引し、NIIはYoYで41%増となった。NIMの拡大は主に、23年期中における継続的かつ急速な金利上昇によるものである。OCBCは23年通期決算予想におけるNIM水準のガイダンスを引き上げて、2.20%を超過するとした。

OCBC(会社計画 vs PSR予想)

予想項目 会社計画 PSR
NIM (%) 2.20 を超過 2.22
融資額成長 (%) 1桁台前半

~1桁台半ば

2.0
クレジットコスト(bps) 20前後 20

引用: 企業公表値, フィリップ・セキュリティーズ・リサーチ

UOB (SGXコード:U11, 目標株価 29.09)の23年2Qの調整後純利益は15億1,000万S$となり、弊社の予想を上回る結果となった。手数料収益の伸びが予想を下回っており、引当金の増加が足を引っ張ったものの、その他の非金利収益の増加とNIIの増加が寄与した。これにより上半期までの調整後 PATMI は、PSRによる23年決算通期予想の 54%の進捗に相当する。第2四半期のDPSはYoYで42%増の85セント。通期予想DPSを1.65S$から1.75S$に引き上げ。融資額の伸びがYoYで1%減少したものの、NIIはYoYで31%増加した。NIMはYoYで45bpsプラスして2.12%となったが、過剰流動性を投資適格以上の資産に配分したことによりQoQでは2bps低下する結果となった。UOBの会社予想は23年通期の融資額伸び率を1桁台前半(%)から一桁中盤(%)へと変更し、NIMは通期で現在の水準をおおよそ維持するものとした。

UOB(会社計画 vs PSR予想)

予想項目 会社計画 PSR
NIM (%) 2.10 – 2.15 2.11%
融資額成長 (%) 1桁台前半

~1桁台半ば

1.0%
クレジットコスト(bps) Around 25 27

引用: 企業公表値, フィリップ・セキュリティーズ・リサーチ(PSR)

 

業績ハイライト②. 引当金は軒並み増加

DBSの23年2Qの引当金総額はYoYで65%増となったが、これは個別貸倒引当金(SP: IFRSにおける金融資産減損における予想信用損失(ECL)ステージ3に相当)がYoYで65%増加したことが寄与している。一方2Qの一般引当金(GP: General Provision, IFRSにおける金融資産減損におけるECLステージ1,2に相当) の戻し入れ額が4,200万S$増加したため、引当金総額はトータルで相殺された(22年2Qは2,300万S$の戻し入れ額)。結果として、2 Qに引き当てられたクレジットコスト比率はYoYで 2bps 増の 10bps となった。しかしながら、不良資産の新規計上額がYoYで 39%減少したことに伴い、不良債権比率は 1.1%(2Q:1.3%)に低下した。一般貸倒引当金の繰入額は微増して38億S$で着地した。

OCBC の23年2Qにおける新規の不良資産計上額が 2 億 8,900 万S$(22年2Qでは1 億 7,400 万S$)、不良債権比率が 1.1%と、資産の質の優良性は依然として良好であるにもかかわらず、当行の経営陣は、23 年 2 Qに引き当てるクレジットコストを 31bps(23 年1 Qでは12bps)に引き上げた。これは過去 の6 四半期でみて 2 番目に高い水準となる。23年2Qの引当金総額はYoYで250%増となったが、これは主にリスク・プロファイルの変更、予想信用損失(ECL)モデルにおけるマクロ経済変数の更新や、マネジメント・オーバーレイと呼ばれるECLにおける追加修正(一般貸倒引当金 の 40%相当、あるいは約 10 億S$を上限とする)を反映したことによるものである。

UOB の引当金総額はYoYで 38%増の 2 億 3,800 万S$となった。引当金増額の主な要因は、タイにある某大手法人口座を中心に個別貸倒引当金がYoYで 22%増の 2 億 200 万S$、一般貸倒引当金が 3,600 万S$(第 2 四半期:700 万S$)となったことである。この結果、与信費用は前年同期比8bps増の30bpsとなった。経営陣によると、問題のタイの某大手法人は製造業であり、不正行為による打撃を受けて額を引当金計上しなくてはならなくなった。当行によれば、問題がシステミックリスクに波及する事はないという見解である。

NIIとNIMの継続的成長は、23年2Qに拍車がかかった

23年2Q  vs. 22年2Q DBS OCBC UOB
NIM:純金利マージン 2.16% (+58bps) 2.26% (+55bps) 2.12%

(+45bp)

NII :純資金運用益 +40% +41% +31%
純手数料収益 +7% -10% -8%
一般貸倒引当金 (百万S$) -42mn  200mn 36mn
不良債権比率 1.1%

 (-20bps)

1.1%

 (-20bps)

1.6%

 (-10bps)

不良資産カバレッジ比率 127% 131% 99%
Tier-1普通株式資本 14.1% 15.4% 13.6%
一株当たり中間配当 48 cents (+33%) 40 cents (+43%) 85 cents (+42%)

引用: ブルームバーグ, フィリップ・セキュリティーズ・リサーチ(PSR)

シンガポール銀行関連ニュース

  • 7月19日、シンガポールの2つのデジタル銀行であるGXS Bank(GrabとSingtelのジョイントベンチャー)とMariBank(Seaグループ傘下)は、普通預金口座の預け入れ上限を1口座あたり75,000S$に引き上げると発表した。GXSはまた、先着順でフラッグシップ普通預金口座を新規顧客に開放し、MariBankは今後数週間でより多くの顧客に開放する予定だ。
  • シンガポール金融管理局(MAS)は7月28日、2025年末までに法人向け小切手から小切手を廃止する一方、個人向け小切手は2025年以降も「一定期間」使用できるようにする計画を発表した。DBS、UOB、OCBC、シティバンク、HSBC、メイバンク、スタンダードチャータードの少なくとも7行は、11月1日までに法人・個人を問わず小切手発行者に手数料を課すことになると発表している。
  • 8月4日からOCBCの顧客は同行のデジタルアプリを利用して、OCBCシンガポールの銀行口座から47の決済市場において銀聯QR対応加盟店へのリテール決済ができるようになった。支払いは顧客のOCBCシンガポールの口座から直接行われ、追加の手数料や手数料はかからないため、OCBCの顧客は別途サードパーティ製の決済アプリをダウンロード・セットアップ・入金をする必要がなくなる。

 

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笹木和弘プロフィール笹木 和弘
フィリップ証券株式会社:リサーチ部長
証券会社にて、営業、トレーディング業務、海外市場に直結した先物取引や外国株取引のシステム開発・運営などに従事。その後は個人投資家や投資セミナー講師として活躍。2019年1月にフィリップ証券入社後は、米国・アセアン・日本市場にまたがり、ストラテジーからマクロ経済、個別銘柄、コモディティまで多岐にわたる分野でのレポート執筆などに精力的に従事。公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト(CIIA®)。

 

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世界経済のけん引役と期待されるアセアン(ASEAN:東南アジア諸国連合)。そのアセアン各国で金融・証券業を展開し、マーケットを精通するフィリップグループの一員である弊社リサーチ部のアナリストが、市場の動向を見ながら、アセアン主要国(シンガポールタイマレーシアインドネシア)の株式市場を独自の視点で徹底解説します。

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