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シンガポール銀行・金融セクターレポート(7月)

 

シンガポール金利推移は平坦化で継続

原文:グレン・ツーム(Glenn Thum)

フィリップ証券シンガポール

銀行・金融セクター・リサーチアナリスト

原文公開日:2023年7月3日

本レポート作成日:2023年7月26日

DBSグループ・ホールディングス オーバーシー・チャイニーズ銀行(OCBC) ユナイテッド・オーバーシー銀行 (UOB)
買い(継続) 買い(継続) 買い(継続)
ブルームバーグコード DBS SP ブルームバーグコード OCBC SP ブルームバーグコード UOB SP
最終取引値 (7/1) SGD 31.51 最終取引値 (7/1) SGD 12.28 最終取引値 (7/1) SGD 28.30
予想配当額 SGD 1.68 予想配当額 SGD 0.80 予想配当額 SGD 1.65
目標株価(PSR) SGD 41.60 目標株価(PSR) SGD 14.96 目標株価(PSR) SGD 35.70
配当利回り 5.33% 配当利回り 6.51% 配当利回り 5.89%
トータルリターン 37.35% トータルリターン 28.34% トータルリターン 33.39%
  • 6月における3ヶ月複利のシンガポール・オーバーナイト金利平均(3M-SORA)は前月比(MoM)で3bps上昇の64%、3ヶ月複利の香港銀行間取引金利(3M-HIBOR)はMoMで43bps上昇の4.84%だった。
  • 5月のシンガポール国内融資額は前年同月比(YoY)88%減となり、予想を下回った。融資額の減少傾向は続くものの。5月における普通預金当座比率(CASA比率)は横ばいの18.8%(4月18.8%)と14ヵ月ぶりに横這いの動きを見せた。
  • オーバーウェイトを継続:シンガポールの地場銀行各行に対しては引き続きポジティブな見方を継続する。銀行の配当利回りは7%と魅力的であり、過剰資本比率の是正によるROEの上昇に向けた動きがあれば、配当還元による上方サプライズもありえる。銀行の配当利回りは5.7%と魅力的な水準である。シンガポール証券取引所(SGX)も金利上昇から恩恵を受ける企業の一つだと考えている。(買いレーティング、目標株価 11.71s$)

 

6月の3M-SORAの伸び率は横ばい、6月の3M-HIBORの回復は継続

シンガポールにおける6月の金利推移は平坦な動きを見せた。3ヶ月複利シンガポール・オーバーナイト金利平均(3M-SORA)は前月比(MoM)3bps上昇の3.64%。3M-SORAは前年同月比(YoY)301bpsの急上昇。23年2Q中の3M-SORA平均は3.62%(23年1Q:3.20%)。

香港の金利は急騰を続け、23年1Qからの低下を逆転した。3ヶ月複利の香港銀行間取引金利(3M-HIBOR)はMoMで43bps上昇の4.84%で、5月におけるMoMでの82bps上昇を下回った。これは3M-HIBORが23年上半期に達した最高値である。

6月の3M-HIBORはYoYで359bps上昇し、23年2Q中における3M-HIBORの平均値4.28%を56bps上回った(図1)

 

図1:SORAはフラット化、HIBORは6月に回復

引用: ブルームバーグ, フィリップ・シンガポール・リサーチ

 

シンガポール融資成長率の低下曲線は5月に平坦化した

5月のシンガポール居住者向け融資額(シンガポール居住者向け全通貨建て貸出)はYoYで4.88%減の7,990億S$となった。金利上昇が消費者に本格的に浸透し始めたことから、2023年の伸び率は1桁台前半~半ば程度とする弊社予想を下回ったが、4月に観測されたYoYで5.86%減から98bps改善した。

5月の法人・事業用途融資はYoYで6.82%減少した。最大の融資先となる事業セグメントである建築・建設業向け融資は同2.48%減の1,700億S$、製造業向け貸出は同13.28%減の245億S$となった。

5月の消費者ローンはYoYで1.63%減の3,090億S$となったが、これは他のセグメントにおける落ち込みが、住宅セグメントにおける旺盛なローン需要によって若干相殺されたためである。こうした消費者向け融資額の約70%を占める住宅ローンは、YoYで 1.46%増の 2,220 億 S$となった。

ノンバンク顧客向けの全通貨建での預金残高合計は、5月にYoYで5.25%増の1兆7,810億S$となった。預金残高の総額3,360億S$に対し、当座預金・普通預金(CASA)比率は横ばいの18.8%(23年4月:18.8%)、YoY推移で低下を観測しなかったのは14ヶ月ぶりである。

 

図2: 年初来シンガポール融資成長率

2022/2023 融資額成長率 (YoY)
2023年5月 -4.88%
2023年4月 -5.86%
2023年3月 -3.98%
2023年2月 -3.10%
2023年1月 -1.89%
2022年12月 -0.30%
2022年11月 0.67%
2022年10月 2.13%
2023年9月 4.38%

引用: CEIC, フィリップ・シンガポール・リサーチ

 

香港の融資額成長率は引き続き低下

香港の5月の国内融資額の成長率はYoYで4.33%減、MoMで0.63%減となった。YoYでは2023年4月におけるYoY成長率3.28%減よりさらに低下したが、MoMでは2023年4月のMoM減少率0.69%減よりも改善した。

図3:香港における融資額成長率は5月にさらに低下

引用:CEIC, フィリップ・シンガポール・リサーチ

 

6月のボラティリティは市場の混乱からの回復に伴い低下した

6月の株式日次平均売買代金(SDAV)速報値はYoYで1%増の11億7,400万米ドルとなり(図4)、市場センチメントが改善し始めたことから6ヵ月ぶりにYoY成長の増加を観測することができた。6月のVIX(S&P)の平均値は14.0と前月の17.6から低下。5月の株式日次平均売買代金(DDAV)はYoYで13%減の0.98億米ドルとなったが、MoMでは4月の0.96億 米ドルから2%増加した。

株価指数先物取引高上位5銘柄の6月の取引高は、Nifty50指数先物 とMSCIシンガポール指数先物の取引高が減少したことから、YoYで21%減の1,318万枚となった(図5)。日経平均先物はMoMでは61.9%増となったが、Nifty50指数先物は同18.4%減と大幅に減少した。

4: 株式日次平均売買代金 デリバティブ日次平均出来高の前年比(YoY)推移

SDAV

(百万USD)

YoY DDAV

(百万USD)

YoY
2023年6月 1,174 1%
2023年5月 1,032 -31% 0.98 -13%
2023年4月 969 -24% 0.96 -12%
2023年3月 1,216 -22% 1.04 -11%
2023年2月 1,105 -33% 1.01 -5%
2023年1月 1,159 -4% 1.08 +6%
2022年12月 935 10% 0.92 +8%
2022年11月 1,239 -8% 1.09 +27%
2022年10月 1,154 0% 1.22 +23%
2022年9月 1,171 -5% 1.05 +2%
2022年8月 1,105 -12% 0.92 +2%
2022年7月 901 -25% 0.99 +4%

引用: SGX, ブルームバーグ, フィリップ・シンガポール・リサーチ

 

5: 株価指数先物の取引高上位5銘柄は前年同期比(YoY)で低下した

銘柄名 22年6月 23年6月 YoY
FTSE China A50 Index Futures 9,425,115 7,428,145 -21.2%
Nifty 50 Index Futures 2,700,104 1,642,180 -39.2%
Nikkei 225 Index Futures 1,749,208 1,610,393 -7.9%
MSCI Singapore Index Futures 1,258,580 1,032,957 -17.9%
FTSE Taiwan Index Futures 1,559,227 1,467,768 -5.9%
各部合計 16,692,234 13,181,443 -21.0%

引用: SGX, ブルームバーグ, フィリップ・シンガポール・リサーチ

 

シンガポール銀行ニュース

  • シンガポール金融庁は6月27日、預金者1人当たりの保険金額を7万5,000S$から10万S$に引き上げ、制度の明確性と運用効率を向上させるという提案に関する公開協議文書を発表した。
  • 6月22日、OCBCはマレーシア、インドネシア、中国本土、香港在住の個人が同社の個人向けアプリケーションでシンガポール・ドル口座や多通貨口座をリモートで数分以内に開設できるサービスを発表した。
  • 6月21日、シンガポール金融庁は、シティバンク、DBS、OCBC、保険会社のスイス生命らに対して、破綻した決済会社ワイヤーカード(独)-をめぐる詐欺事件における、シンガポールを拠点とする容疑者についてのマネーロンダリング防止対策とテロ資金対策要件に違反していたとしており、各社に対して総額380万シンガポールドルの制裁金を科した。

 

投資行動に対する示唆

オーバーウェイトを維持:シンガポール地場銀行に対するポジティブな見方を維持する。銀行の配当利回りは魅力的であり、過剰な自己資本比率の是正によるROEの上昇を目指す施策が実行されれば、配当によるポジティブサプライズも期待できる。安定した経済情勢と金利上昇は引き続き銀行セクターにとって追い風である。SGXも金利上昇の恩恵を受けている。

図 6: 地場銀行各行の過去5年間のPBR推移

引用: ブルームバーグ, フィリップ・シンガポール・リサーチ

 

図7: 各行の目標となる PBR参考値

単位:倍 DBS OCBC UOB
過去最高値

過去最低値

1.62

0.81

1.50

0.73

1.43

0.79

5年平均値 1.17 1.09 1.12
現在値 1.34 1.02 0.97
目標値 1.36 1.27 1.17
目標株価(S$) 41.60 14.96 35.70

引用: ブルームバーグ, フィリップ・シンガポール・リサーチ

 

【図8】:アジア競合金融機関比較

 

 

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笹木和弘プロフィール笹木 和弘
フィリップ証券株式会社:リサーチ部長
証券会社にて、営業、トレーディング業務、海外市場に直結した先物取引や外国株取引のシステム開発・運営などに従事。その後は個人投資家や投資セミナー講師として活躍。2019年1月にフィリップ証券入社後は、米国・アセアン・日本市場にまたがり、ストラテジーからマクロ経済、個別銘柄、コモディティまで多岐にわたる分野でのレポート執筆などに精力的に従事。公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト(CIIA®)。

 

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世界経済のけん引役と期待されるアセアン(ASEAN:東南アジア諸国連合)。そのアセアン各国で金融・証券業を展開し、マーケットを精通するフィリップグループの一員である弊社リサーチ部のアナリストが、市場の動向を見ながら、アセアン主要国(シンガポールタイマレーシアインドネシア)の株式市場を独自の視点で徹底解説します。

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