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SGXシンガポール先端企業銘柄レポート

 

-AIに当てられたスポットライトがもたらしたリターン‐

原文:シンガポール取引所(SGX)

原文公開日:2023年5月29日

翻訳作成日:2023年6月26日

*このレポートはシンガポール取引所が発行した、経済見通しと市場、発行体に関するレポートを日本のフィリップ証券が翻訳して作成しています。

 

■レポートサマリー

  • 過去21週間においてテクノロジー銘柄は、世界的にも地域的にも最も好調なセクターとなった。シンガポールで最も取引されているテクノロジー株10銘柄は、機関投資家属性の資金が6,300万シンガポールドルの純流出となった影響をうけて、平均して前年同期比で6%のトータル・リターン低下となり、10銘柄の大半は過去5年で観測されたPBRと比べてディスカウントされた価格で取引されている。
  • 5月の第4週において、週中で合計1,000万シンガポールドルの機関投資家純流入となったことに伴い、UMSホールディングスとAEMホールディングスは2社合わせての平均8.5%のリターンを記録した。これは、同時期にNvidiaとTSMCがそれぞれ25%と7%上昇したことと重なっている。Nvidiaは5月24日に前四半期比19%の増収を報告したが、コンピューター演算能力の加速的な進化についての予想と自動生成AIが脚光を浴びたことが好感された。翌日のセッションでは、SGX FTSE台湾指数先物の取引高が14ヵ月ぶりの記録を達成した。
  • AEMホールディングスは最近、2023年以降を見据えて、半導体業界の将来はかつてないほど有望であるとし、「ChatGPTのような自動生成AIに対する最近の熱狂が、これらのソリューションを経済的に手に取れるような価格で大衆に提供することを可能にするAIにフォーカスした半導体デバイスへの需要を煽っている」と述べた。
  • UMSはまた、現在の短期的な景気後退にもかかわらず、現在そして今後も、重要な産業における半導体チップの役割はかつてないほど大きくなっていることからも、半導体市場の長期的な見通しは依然として強いとする半導体産業協会(SEMI)による最近の見解に言及した。

 

■半導体産業のメガトレンド

 テクノロジー・セクターは、FTSE All-World Index の 22%、FTSE Taiwan RIC Capped Index の 55%を占め、各インデックスの年初来SGD価格上昇率(9% と 17%)の主要な推進力となっている。 この最近の間、半導体業界は22年下半期に始まったとされる在庫調整の動きと闘ってきている。加えて、持続的なインフレと成長減速が家庭向け電気機器への需要を減退させている。

 最近の半導体企業の市況においては、2023年の生産能力過剰とチップ供給過剰に対する調整と、2024年と2025年の人工知能(「AI」)実装によって拍車がかかると期待される半導体需要および半導体関連サービスへの潜在的需要という、調整期と成長期の対比構造が強くなっている。デロイトの調査では、自動生成AIは「市場調査やメモ取り、顧客サポートの強化といった様々な役割を、あらゆる産業にわたる多様なアプリケーション」であり、「資産管理におけるパーソナライズされたファイナンシャル・プランニング、ヘルスケアにおける医療診断、メディアやエンターテインメントにおける没入型の世界や体験の創造、小売業における衣装コーディネートの無人キュレーションサービスなど、さまざまな分野で具体的なユースケースが特定されている」と主張している。

 コンサルティング会社であるガートナーによれば4月に、「メモリ業界は過剰生産能力と過剰在庫に直面しており、2023年も平均販売価格を大きく圧迫するだろう」とし、「メモリ市場の総額は923億ドルで、2023年には前年比35.5%減少すると予測されるが、2024年には同70%増加し、回復する見通しにある」と指摘した。

 4月28日現在、NvidiaはFTSE All-World Indexの第4位、台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング・カンパニー(TSMC)はFTSE Taiwan RIC Capped Indexの第1位である。

 5月24日、Nvidiaの創業者兼最高経営責任者(CEO)は、「コンピューター業界は、アクセラレーション・コンピューティング(加速的演算処理技術)と自動生成AIという2つの転換期を同時に迎えている」と強調し、「企業が自動生成AIをあらゆる製品、サービス、ビジネスプロセスに適用しようと競争する中、1兆ドル規模の世界のデータセンター・インフラは汎用コンピューティングからアクセラレーション・コンピューティングに移行するだろう」と付け加えた。

 TSMCは3月、現在の業界のメガトレンドには5G、AIの普及、デジタル変革の加速が含まれると強調した。AIにスポットトライトが当たる最近のトレンドは、SGX FTSE台湾指数先物の建玉が2年ぶりの高水準に急騰したことや、23年5月25日に先物の1日の出来高が14カ月ぶりの高水準となったことなどにも反映されている。また、SGX FTSE台湾指数先物の流動性が高まったことで、2023年 のトップオブザブックの取引サイズ(最高ビッド値/最低アスク値)は前年同 期比2倍近くに拡大し、平均買値-売値スプレッドは2.0bps まで縮小した。

 シンガポールのテクノロジー・セクターで最も取引された10銘柄は以下の通り。

 

【図1】UMSとAEMの2社は週平均(5/22-5/26)で8.5%上昇

企業名

銘柄
コード
時価総額
(S$M)
年初来
平均
売買代金
(S$M)
週次
機関投資家属性資金
純流入額
(S$M)
週次
プライス
リターン
(%)
月次
プライス
リターン
(%)
年初来
機関投資家属性資金
純流入額
(S$M)
年初来
プライス
リターン
(%)

年初来
トータル
リターン
(%)

Venture V03 4489.2 13.13 -0.3 0.3 -9.3 -65.5 -9.7 -6.9
UMS 558 716.3 7.01 4.3 8.6 3.9 -7.6 -9.3 -7.5
AEM SGD AWX 1086.5 5.73 5.6 8.4 3.3 21.5 2 3.2
Frencken E28 360.2 4.72 -6.3 -10.1 -18.8 -6.1 -10.6 -7.4
Nanofilm MZH 973.6 4.57 -1.2 -0.7 -2 6.6 5.8 6.5
IFAST AIY 1242.4 1.33 -0.4 -2.3 -8.9 -5 -27.9 -27.5
ISDN I07 202.7 1.05 -0.3 -5.2 -2.1 3.9 5.7 5.7
Aztech Gbl 8AZ 529.2 0.51 -0.8 -0.7 -15.4 -7.5 -17.5 -15.9
TOTM Tech 42F 112.5 0.33 0 2.4 1.2 -2.6 -12.5 -12.5
CSE Global 544 207 0.2 -0.2 -1.5 -5.6 -0.2 -1.5 2.8
 各部合計 9,919.6 38.6 0.4 -62.6
 各部平均 -0.1 -5.4 -7.5 -6

引用:シンガポール証券取引所、リフィニティブ(データは5月26日終値に基づく)

 

 AEMホールディングスは5月11日、2023年以降を見据えて、半導体産業の将来がかつてないほど有望であることを強調した。「ChatGPTのような生成AIに対する最近の盛り上がりが、これらのソリューションを経済的に実現しやすい価格で大衆に提供できるようにするため、AIに特化した半導体デバイスの需要を過熱させている」と述べた。AEMホールディングスはまた、在庫UMSホールディングスとAEMホールディングスは先週、8.6%と8.4%の比較して同一水準のリターンであり、それぞれの銘柄に対して430万Sドルと560万Sドルの機関投資家属性資金の純流入があった。水準が減少しており、在庫修正は2023年後半ないし2024年前半に終了する見込みであると述べている。同社は23年度第1四半期の売上高を1億5,270万シンガポールドルと報告し、過去最高となった22年度の売上高8億7,050万シンガポールドルに続き、23年度の目標ガイダンスである5億シンガポールドルを維持した。

  UMSホールディングスが言及した、業界団体SEMIによる5月10日発表の予測によると、各国の半導体製造における前工程設備への設備投資額の合計は2023年には前年比22%減の760億米ドルになり(2022年には過去最高の980億米ドル)、その後2024年には前年比21%増の920億米ドルになると予想した。加えて同社は、現在の短期的な景気後退にもかかわらず、半導体市場の長期的な見通しは、現在および将来の重要な技術に対してチップが果たす役割がますます大きくなっていることから、引き続き堅調であるとの半導体産業協会(SEMI)の認識を繰り返した。同社の報告によると、23年度第1四半期のグループ売上高は前年同期比5%減の8,080万Sドルと比較的安定している。

 上表の通り、シンガポール上場のテクノロジー・セクターで最も取引量の多い10銘柄の時価総額は合計で100億シンガポールドル近くに達し、1日の平均売買代金は4,000万シンガポールドル近くに達している。この10銘柄の過去21週間のトータル・リターンは平均してー6.0%であり、機関投資家の純流出額は6,260万シンガポールドルだった。一方、ライオンOCBCハンセン・テック ETFは、今年に入ってからシンガポールで最も取引されている上場投資信託である。

 シンガポール上場テクノロジー・セクターの最も取引されている10銘柄の長期5年トータル・リターンおよび平均バリュエーションは以下の通りである。

 

【図2】シンガポールテクノロジー企業の市場リターン

企業名 銘柄
コード
5年
トータル
リターン
(%)
直近
PER
PER
5ヵ年平均
直近
PBR
PBR
5ヵ年平均
市場ベータ
Venture V03 -8 12.1 14.6 1.6 2 0.76
UMS 558 80 7.3 12.6 2.1 2.2 1.46
AEM SGD AWX 175 8.6 11.2 2.2 4.1 1.3
Frencken E28 77 7 10.3 0.9 1.4 1.47
Nanofilm MZH -49 22.2 36.7 2.3 7 0.67
IFAST AIY 346 354.4 64.3 5.4 8 0.74
ISDN I07 123 8.3 12.2 1 1 1.04
Aztech Gbl 8AZ -40 7.9 11.5 1.9 7.4 1.28
TOTM Tech 42F -12 0 0.5 1.2 4.3 0.2
CSE Global 544 -7 36.7 13.4 1 1.3 1.01

注)5年以内の上場会社のトータルリターンは上場初日から起算したもの。

引用:シンガポール証券取引所、リフィニティブ(データは5月26日終値に基づく)

■継続的な成長と地域経済の分断リスク

 先週発表されたシンガポールの23年第1四半期GDP報告で、通商産業省(MTI)はエレクトロニクス産業の下降サイクルが当初の予測よりも深く、長期化する可能性が高いと警告した。エレクトロニクス・サイクルの下降により、シンガポールの非石油品目輸出(NODX)、台湾、韓国の輸出は2022年10月以降、前年同期比で縮小している。

 

 IMFはまた、2023年最初のスタッフ・ディスカッション・ノートで、地政学的緊張の高まりが保護主義を強め、国家安全保障を理由とする国境を越えた規制の使用を増加させていると指摘した。例えば、米国の国家戦略(2022年10月)では、コンピューティング、バイオテクノロジー、クリーンテックなどの特定の技術領域において「可能な限り大きなリードを維持する」ことを目標に掲げ、2022年10月7日に発表された中国関連措置では、軍事分野で使用される可能性のある技術を中心に、これらの技術への中国のアクセスを制限しようとしている。IMFは、このような状況下で、企業はサプライチェーンの復元力と持久性をますます重視するようになっており、企業による生産拠点の決定は、効率性を考慮するよりもむしろ政府の政策に誘導される可能性があると指摘している。

 

 ガートナー社は、COVID-19と米中貿易摩擦がグローバル化の傾向とテクノロジー・ナショナリズムの台頭を促進したと指摘している。同氏は、「今日の半導体は国家安全保障上の問題とみなされている」とし、「各国政府が半導体とエレクトロニクスの供給網において自給自足体制を構築しようと躍起になっており、それが世界各国における技術産業オンショア化を動機づけようとする動きの誘因となっている」と述べている。

 

 

 

 

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笹木和弘プロフィール笹木 和弘
フィリップ証券株式会社:リサーチ部長
証券会社にて、営業、トレーディング業務、海外市場に直結した先物取引や外国株取引のシステム開発・運営などに従事。その後は個人投資家や投資セミナー講師として活躍。2019年1月にフィリップ証券入社後は、米国・アセアン・日本市場にまたがり、ストラテジーからマクロ経済、個別銘柄、コモディティまで多岐にわたる分野でのレポート執筆などに精力的に従事。公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト(CIIA®)。

 

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