投資戦略ウィークリー 2023年6月5日号(2023年6月2日作成)】”JPXプライム150指数、事業再編、円高株高の背景 ”
■“JPXプライム150指数、事業再編、円高株高の背景”
- 日本取引所グループ傘下のJPX総研は5/26、「JPXプライム150指数」の構成銘柄および算出要領が確定したと発表。7/3より算出を開始するとした。開発の狙いとして「東証プライム市場において将来の価値創造の期待を表すPBR(株価純資産倍率)が1倍を超えている上場企業が約半数にとどまっている状況で、株主資本コストや株価を意識した経営の実現が求められている」としている。
- 構成150銘柄の中には、たとえば出光興産(5019)や東京製鐵(5423)、三菱自動車工業(7211)など、「エクイティ・スプレッド(ES)」基準で価値創造が推定されるとしながらも、足元のPBRが1倍を下回る(PBR基準から見れば価値創造が推定されない)銘柄もある。時価総額国内首位のトヨタ自動車(7203)が含まれないなど問題点を含むものの、今後ETFやデリバティブ取引が備わることでインデックス買いが活発になることで構成銘柄の流動性が高まると見込まれる。構成銘柄中、時価総額が相対的に小さいもの、ES基準とPBR基準の双方を満たすも株価が相対的に割安水準にとどまるものなど投資機会の宝庫になり得る可能性はあるだろう。
- 株主資本コストを意識した経営の観点からは事業の選択と集中も注目される。富士通(6702)は既に昨年、非中核事業と位置付ける新光電気工業(6967)、富士通ゼネラル(6755)、FDK(6955)の保有株売却方針を明らかにしていたなか新光電気工業について交渉進展中であることが明らかとなった。親子上場は企業統治で少数株主保護の観点からも疑問視されやすい。相乗効果が見込まれる中核事業であればTOB(株式公開買い付け)による完全子会社化も選択肢となり得る。非中核事業の売却の場合も売却価格には表に出にくかった潜在的価値が評価される場合もある。特に低PBRの上場子会社であれば投資妙味が増す面もあろう。
- 2日は為替の円高ドル安にもかかわらず日経平均株価が続伸。ドル安の背景には米FRB(連邦準備制度理事会)関係者により利上げ停止を示唆する発言が相次ぐことがある。米国は製造業の景況感はよくないものの雇用関連の指標は強く、インフレの基調も衰えていない。米半導体大手エヌビディア(NVDA)の株価高騰に見られるように、生成AI(人工知能)という新しい技術の普及が株式市場で大きな潮流となりつつある。1998年には金融危機への対応でFRBが3度の利下げを行ったことが「ドットコム・バブル」の要因となった。米国で利上げが停止されて為替のドル安が進む場合、円高であっても生成AIに必要な先端半導体の製造プロセスや複雑な半導体統合チップのSoC(システム・オン・チップ)を含む裾野の広い関連銘柄の株価を更に押し上げる可能性があろう。(笹木)
6/5号では、ニチレイ(2871)、UBE(4208)、AGC(5201)、浜松ホトニクス(6965)、UOL(UOL)を取り上げた。
■主な企業決算の予定
- 6月5日(月): 泉州電業、内田洋行、ファースト住建、ファーマフーズ
- 6月6日(火): 不二電機工業
- 6月7日(水): アイル、東京楽天地
- 6月8日(木): スバル興業、アルトナー、ミライアル、Casa、ビューティガレージ、トップカルチャー、積水ハウス、アイモバイル、コーセーアールイー、シルバーライフ
- 6月9日(金):gumi、HEROZ、エイチーム、クミアイ化学工業、サムコ、シーイーシー、トビラシステムズ、フリービット、ベステラ、ポールトゥウィンホールディン、モロゾフ、ラクスル、ロック・フィールド、鳥貴族ホールディングス、日東製網、日本ハウスホールディングス、日本駐車場開発
■主要イベントの予定
- 6月5日(月)
・じぶん銀行日本サービス業PMI・日本複合PMI(5月)
・米財務長官が推計する「Xデー」、国際原子力機関(IAEA)理事会(ウィーン、9日まで)、米アップル世界開発者会議(WWDC23)(カリフォルニア州クパチーノ、9日まで)
・米S&Pグローバルサービス業・コンポジットPMI(5月)、米ISM非製造業総合景況指数(5月)、米製造業受注(4月)、米耐久財受注(4月)、ユーロ圏総合・サービス業PMI (5月)、ユーロ圏PPI(4月)、中国財新サービス業・コンポジットPMI(5月)
- 6月6日(火)
・実質賃金総額・毎月勤労統計-現金給与総額・家計支出(4月)
・ポーランド中銀政策金利発表、ノルマンディー上陸作戦から79年、クウェート議会選挙、豪中銀政策金利発表、ブルームバーグ・インベスト(ニューヨーク、8日まで)
・ユーロ圏小売売上高(4月)、独製造業受注(4月)、南アGDP(1Q)
- 6月7日(水)
・景気先行CI指数・景気一致指数(4月)
・英首相訪米(8日まで)、米ペンス前副大統領が2024年大統領選出馬表明の予定(アイオワ州)、カナダ中銀政策金利、OECD経済見通し
・米貿易収支(4月)、米消費者信用残高(4月)、独鉱工業生産(4月)、中国貿易収支(5月)、中国外貨準備高(5月)、豪GDP(1Q)
- 6月8日(木)
・GDP・デフレーター・民間消費支出・民間企業設備・民間在庫変動・純輸出寄与度(1Q)、国際収支:経常収支・貿易収支(4月)、銀行貸出動向(5月)、対外・対内証券投資 (5月28日-6月3日)、東京オフィス空室率(5月)、景気ウォッチャー調査 先行き判断・現状判断(5月)
・ペルー中銀・インド中銀が政策金利発表
・米新規失業保険申請件数(6月3日終了週)、米卸売在庫(4月)、ユーロ圏GDP(1Q)
- 6月9日(金)
・マネーストックM3・M2(5月)
・ロシア中銀が政策金利発表
・中国CPI・PPI(5月)、中国経済全体のファイナンス規模、新規融資、マネーサプライ(5月、15日までに発表)
(Bloombergをもとにフィリップ証券作成)
※本レポートは当社が取り扱っていない銘柄を含んでいます。
■ITバブルの1998/1999年の相場
生成AI(人工知能)ブームを追い風にエヌビディア(NVDA)株が賑わっている。背景として25万ドル以上の預金が保護されないと見た富裕層が主要ハイテク株を集中的に買っているとの見方もある。
1998年も前年からのアジア危機、ロシア危機、ヘッジファンドのLTCM(ロングターム・キャピタル・マネジメント)破綻に伴う金融危機への対応として米FRB(連邦準備制度理事会)が3度の利下げを実施。この金融緩和によって溢れたマネーは、当時急速に普及しつつあったインターネット関連企業株に流れ込んで「ドットコムバブル」を生んだ。FRB関係者から6月13-14日開催のFOMC(連邦公開市場委員会)で利上げ見送り示唆発言が相次ぐ。仮にFRBが利上げ躊躇した場合、生成AI関連銘柄への資金流入を後押しする可能性があろう。
【ITバブルの1998/1999年の相場~金融不安後のドル高・金利上昇を伴う】
■コモディティ相場は全般的に低迷
エネルギー(原油・ガソリン)、非鉄金属(銅・ニッケル)、農林業(小麦・木材)の先物相場についての直近1年間の推移は、以下の通り。
ガソリンは米国メモリアルデー祝日から開始のドライビング・シーズンに入りガソリン需要増が期待されるも原油は中国経済の鈍化やOPECプラスで減産したくないロシアと減産したい他の加盟国との思惑のズレが重荷だ。非鉄金属も消費量の多い中国の経済指標悪化傾向に伴って相場下落基調。電気自動車(EV)生産の伸びが市況巻き返しの鍵を握ろう。
小麦はウクライナ産の黒海経由の輸出を可能にする関係国の合意延長に加えてロシアの豊作期待も需給緩和観測に繋がっている。木材価格の下落は米住宅市場の逆風継続が示唆される。
【コモディティ相場は全般的に低迷~エネルギー、非鉄金属、農林業の動向】
■JPXプライム150指数のインパクト
日本取引所グループのJPX総研は5/26,東証プライム市場の時価総額上位銘柄を対象にした新指数「JPXプライム150指数」の算出ルールと構成銘柄のリストを公表。資本収益性からの「エクイティ・スプレッド(ES)基準」と「株価純資産倍率(PBR)基準」に基づき、それぞれ75社を選定し計150銘柄を構成銘柄とする。
株主資本利益率(ROE)と株主資本コスト(期待リターン)の差であるエクイティ・スプレッド基準では、ROE8%超かつ当期と1期前の推定ESが正値の上位75銘柄が選ばれる。PBR基準はES基準で選ばれた銘柄を除き当期PBR、当期と1期前のPBR平均値の両方が1倍超の銘柄の内、時価総額上位75銘柄を選ぶ。株価が割高であっても、インデックス買い増加により水準訂正が起きにくい面が出てこよう。
【JPXプライム150指数のインパクト~ES基準とPBR基準両方を満たす24銘柄】
■銘柄ピックアップ
ニチレイ(2871)
3,040 円(6/2終値)
・1942年に水産統制令に基づき設立。主として加工食品事業、水産事業、畜産事業、低温物流事業、不動産事業を営む。冷蔵倉庫と冷凍食品で首位のほか、欧州を中心に低温物流が拡大中。
・5/9発表の2023/3通期は、売上高が前期比9.9%増の6622億円、営業利益が同4.9%増の329億円。主力の加工食品事業が同12.9%増収、低温物流事業が同8.8%増収と全体売上増に貢献。為替変動や原材料・エネルギー費用高騰もコスト管理やバイオサイエンス事業好調により営業増益。
・2024/3通期会社計画は、売上高が前期比1.9%増の6750億円、営業利益が同4.8%増の345億円、年間配当が同22円増配の74円。同社は家庭用冷凍食品でコロッケと炒飯に強みを有するなか22年品目別国内生産量でコロッケが第2位、炒飯が第4位。低温物流事業は冷凍食品との相乗効果にとどまらず、長期保存・品質保持・食材再現性等の冷凍技術の世界的注目度が高まっている。
UBE(4208)
2,287 円(6/2終値)
・1897年の採炭を発祥とし1942年に設立。ナイロン樹脂や合成ゴムなどの化学、セメントや石灰石などの建設資材、成形機などの機械などの事業セグメントを営み、それらに係る製造・販売を行う。
・5/12発表の2023/3通期は、売上高が前期比24.5%減の4947億円、営業利益が同63.0%減の162億円。セメント関連事業の持分法適用会社移管等調整額を除けば市況上昇による販売価格上昇により同11%増収。樹脂・化成品の原燃料価格上昇およびアンモニア工場定期修理で営業減益。
・2024/3通期会社計画は、売上高が前期比10.2%増の5450億円、営業利益が同84.2%増の300億円、年間配当が同5円増配の100円。セメント事業に係る持分法投資利益を含む経常利益は前期の▲86億円から385億円へ黒字転換。売上比率6割の樹脂・化成品事業における需要回復と原燃料価格の一定程度の下落、機能品事業の堅調な推移、および持分法投資利益の改善を見込む。
AGC(5201)
5,150円(6/2終値)
・1907年に旭硝子を創立。建築ガラス(アジア、欧米)、オートモーティブ(自動車用)、電子(ディスプレイ、電子部材)、化学品(エッシェンシャル、パフォーマンス)、ライフサイエンスの5事業を営む。
・5/12発表の2023/12期1Q(1-3月)は、売上高が前年同期比3.5%増の4892億円、営業利益が同40.7%減の342億円。塩化ビニルの販売価格下落も建築用ガラスや自動車用ガラス等の販売価格上昇や為替の影響で増収。一方、製造原価の悪化および原燃材料コスト高の影響で営業減益。
・通期会社計画は、売上高が前期比5.6%増の2兆1500億円、営業利益が同3.3%増の1900億円、年間配当が同横ばいの210円。同社は5月、微細化が進む先端半導体の生産拡大に対応してEUV(極端紫外線)露光用フォトマスクブランクスの生産能力を増強すると発表。また、同社の医薬品受託開発・製造(CDMO)は2022/12通期が前期比13%増収、同24%営業増益と堅調に成長中だ。
浜松ホトニクス(6965)
7,150 円(6/2終値)
・1948年に堀内平八郎が静岡県浜松市で東海電子研究所を創業。主に電子管事業(光電子増倍管、イメージ機器及び光源)、光半導体事業、画像計測機器事業(画像処理・計測装置)を営む。
・5/11発表の2023/9期1H(10-3月)は、売上高が前年同期比11.0%増の1116億円、営業利益が同12.2%増の315億円。売上比率39%の電子管は同10%増収、13%営業増益。同比率45%の光半導体は同8%増収、4%営業増益。同比率13%画像計測機器事業は同24%増収、57%営業増益。
・通期会社計画を下方修正。売上高を前期比7.2%増の2239億円(従来計画2362億円)、営業利益を同2.1%減の558億円(同585億円)とし、年間配当は同4円増配76円で据え置き。デンマークのレーザー装置メーカー買収が同国政府に却下された影響も含む。NTT(9432)による5年間で8兆円の投資計画に関し、光技術を用いた新ネットワーク基盤「アイオン」推進は同社へ追い風となろう。
UOL(UOL)
市場:シンガポール 6.48 SGD(6/1終値)
・1963年にフーバーユニオンとして創業のシンガポール拠点不動産会社。創業者のウィー・チョーヨー氏はシンガポール3大銀行の一角ユナイテッド・オーバーシーズ(UOB)とともに同社を拡大。
・2/27発表の2022/12通期は、売上高が前期比27.8%増の32.01億SGD、投資不動産の公正価値変動額等の一時的要因を除く調整後EBITDAが同38.3%増の8.81億SGD。売上比率の半分強を占めるシンガポールと中国の不動産開発案件進捗に加え、ホテル運営事業の収益急回復が貢献。
・同社は国内3大地場銀行の一角UOBと同じグループであることのブランド価値が強み。同社はシンガポール不動産市場の見通しについて、オフィス市場はCBD(中心業務地区)再開発、小売りセクターは観光業および中国からの買い物客、ホスピタリティ(医療関連)は医療ツーリズムによる外国人富裕層の来院増で需給ひっ迫の可能性。住宅は不動産印紙税引上げの影響軽微と想定。
■アセアン株式ウィークリーストラテジー
(6/5号「シンガポールの中央積立基金(CPF)②」)
CPFの加入者は55歳以降、退職口座に最低残高を残しておくことが必要である。不動産を保有する加入者の最低残高(ベーシック・リタイアメント・サム:BRS)は22年現在で9万6千SGDであり段階的に引き上げられる。不動産を保有しない加入者の最低残高(フル・リタイアメント・サム:FRS)はBRSの2倍水準に設定。55歳時点で退職口座に最低残高(BRSまたはFRS)を残せる場合、医療費の支払いに充てる「メディセイブ口座」にも「ベーシック・ヘルスケア・サム:BHS」と呼ばれる一定額を残すことが必要。BHSは2020年現在で6万SGD。メディセイブ口座の残高がBHSを下回る場合、「普通口座」または「特別口座」の積立金をメディセイブ口座に移すことができる反面、メディセイブ口座残高がBHSを上回ればその超過分は普通口座または特別口座に自動的に移管される。
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アナリストのご紹介 フィリップ証券リサーチ部
笹木 和弘
フィリップ証券株式会社:リサーチ部長
証券会社にて、営業、トレーディング業務、海外市場に直結した先物取引や外国株取引のシステム開発・運営などに従事。その後は個人投資家や投資セミナー講師として活躍。2019年1月にフィリップ証券入社後は、米国・アセアン・日本市場にまたがり、ストラテジーからマクロ経済、個別銘柄、コモディティまで多岐にわたる分野でのレポート執筆などに精力的に従事。公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト(CIIA®)。