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SGXシンガポール株レポート(5月②) -回復モメンタムを享受するシンガポール観光・宿泊銘柄‐

 

原文:シンガポール取引所(SGX)

公開日:2023年5月23日

翻訳作成日:2023年5月30日

*このレポートはシンガポール取引所が発行した、経済見通しと市場、発行体に関するレポートを日本のフィリップ証券が翻訳して作成しています。

■レポートサマリー

  • 売買代金の多さにより観光・宿泊業界を代表する10銘柄は、5月18日まで年初来のトータルリターンでは平均して3%の利益を上げ、ストレーツタイム指数(STI)のパフォーマンス0.3%を上回った。シンガポール株式市場全体では23億シンガポールドルを超える機関投資家属性資金の純流出があったのに対し、この10銘柄は1億8670万シンガポールドルの機関投資家属性資金の純流入を記録した。
  • 観光・宿泊業を代表する当10銘柄は、SGXに上場している全銘柄の1日の売買代金の9%を占めている。10銘柄は資本財セクター、一般消費財、不動産投資信託の(FTSE Russelの産業セクター区分ベンチマークに基づく)3つのセクターにまたがっており、資本財セクターのSingapore Airlines社(SIA)、一般消費財セクターのGenting Singapore社(Genting社)、不動産投資信託(REITs)のCapitaLand Ascott Trust(CLAS)が、それぞれが所属する各セクター内で最も取引された銘柄となった。この3銘柄は、それぞれ1%、7.7%、3.0%の年初来トータルリターンを生み出した。

 

観光客到着数の回復

  世界経済フォーラムは、2022年中においてすでに世界の観光業が力強く回復しており、国際観光客における各国の来訪者数が過去2年間と比較しても2倍以上になったと指摘している。国際的な観光業が回復を続ける中、シンガポールの観光セクターも同様の成長モメンタムを見せている。シンガポール政府観光局(STB)のデータによると、2023年4月のシンガポールの観光客到着数は110万人を突破し、パンデミック以降1カ月で最も多い。2023年の観光客到着数は4月30日現在ですでに400万人を超えており、この結果は、宿泊業シンガポール-REITsに見られる利益と、4月のS-REITのトップパフォーマーの1つとなっている。

シンガポール来訪者数の推移(引用元:シンガポール観光庁より23年4月30日発表データ)

中国の再開に伴う国際便の増便により、STBは、2023年のシンガポールが受け入れることになる国際観光客は1,200万から1,400万人の範囲になると推定しており、観光の完全回復が2024年までに見込まれると予想している。また、観光収入の純額は180億ドルから210億ドルの範囲になると予想されている。

  この予測と同時期に、チャンギ空港グループ(CAG)が提供する航空交通統計の最新版が発表された。この統計データでは、同空港の4月の旅客移動は460万人以上であり、パンデミック前のレベルの約82%に相当、23年4月の航空機移動数は合計26,300であり、2019年4月のレベルの約83%相当まで回復したと報告されている。CAGは今年10月にターミナル2の北ウィングを再開する予定であり、これにより総旅客数は年間9,000万人となり、パンデミック前の年間8,500万人レベルを上回るという予測だ。

観光・宿泊業界における回復の勢い

  株式市場における売買代金の多寡からシンガポールの観光・宿泊業界を代表するとされる10銘柄の年初来から5月18日までのトータルリターンは、銘柄平均で+1.3%となり、STIの年初来トータルリターンの+0.3%を上回った。この10銘柄は合計で1億8,670万シンガポールドルの機関投資家の純資金流入を記録した。こうした傾向はシンガポール株式市場全体で23億シンガポールドルを超える機関投資家属性資金の純流出を記録したのとは対照的であった。この10銘柄のうち、Genting社とSIA社が機関投資家属性資金の、年初来の純流入の増加を牽引した。

  23年初来からの20週間における、この10銘柄の売買代金合計は、同期間のSGX上場全銘柄の日次売買代金の9%を占めている。これら観光・宿泊業にかかわる10銘柄の属するセクターは、「資本財セクター」「一般消費財セクター」「不動産投資信託」といった(FTSE Russel の産業セクター区分に基づく) 3つのセクターにまたがっている。それらセクター毎における観光・宿泊業に属する代表企業をみていくと、資本財セクターではSingapore Airlines社(SIA)、Genting Singapore(Genting社)、不動産投資信託:REITsではCapitaLand Ascott and Trust(CLAS)が各セクターで最も取引された銘柄であった。この3銘柄は、5月18日までの年初来でそれぞれトータルリターンで10.1%(SIA)、7.7%(Genting)、3.0%(CLAS)のパフォーマンスを記録した。

Singapore Airlines社(SIA)

  • SIAの22-23年3月期決算の通期業績は、売上高が前年比4%増の178億シンガポールドル、純利益は31億2000万シンガポールドル増の21億6000万シンガポールドルとなり、2021/22年度の9億6200万シンガポールドルの純損失から76年ぶりに最高益を達成しました。グループ全体の搭乗率は、2021/22年度の30%から、2022/23年度には85%と過去最高となり、この好結果は、2022年4月にシンガポールの国境が完全に開放された後の強い航空需要に起因しています。SIAとScootの両航空会社は、国境開放に伴って一早く就航し、旺盛な需要を取り込んだ。
  • COVID-19以前は、SIA社はFTSEストレーツタイム全銘柄指数の3%のウェイトを占めていた。2020年の大幅な資金調達を実行して以降、23年5月18日現在におけるFTSEストレーツタイム全銘柄指数におけるウェイトは2.2%を維持している。同様にして、ブルームバーグ・アジア太平洋航空指数においても、同社は2019年末の順位から4つ上げて、現在では第2位のウエイトを占めている。
  • COVID-19の社会経済的影響が航空業界に壊滅的な打撃を与える最中、2020年半ばにおけるSIA社は、"変革の旅の次章"と称して、新しい世界における国際的な航空会社のリーダーとしての地位をいかに築き、強化していくかに経営課題の焦点を当てることを決意表明した。SIA は22年中における機関投資家属性資金の純流入額がSGXで取引される株式の中で10 位にランクインしており、23年に入ってからこれまでのところでは、機関投資家属性資金の純流入額で 4 位にランクしている。
  • 経済回復のモメンタムに乗って、SIAは、”23‐24年3月期1Qにおいて東アジアの航空旅行の回復に支えられ、航空需要は引き続き堅調である"と述べた。しかし、「インフレ圧力、地政学的緊張、燃料費の高騰などマクロ経済環境による逆風を乗り切るため、当面の貨物需要は軟調に推移する見込み」とも説明している。

Genting Singapore社

  • 5月18日までの23年初来では、Genting社はシンガポール株式市場全体では機関投資家属性資金の純流入の最高額を記録した。23年1Qにおけるグループの売上高は前年同期比54%増の4億8450万シンガポールドル、EBITDAは同56%増の1億8970万シンガポールドルとなった。Genting社は、地域観光と遊戯場への需要回復が続いているためにもたらされた成長であると強調している。
  • 今後のゲンティン社は、45億シンガポールドルに及ぶ拡張プロジェクトであるRWS(リゾートワールド・セントーサ) 2.0戦略を段階的に進め、流行に敏感で裕福な顧客にアピールするプレミアムな高級デスティネーションとしてのブランドアイデンティティを高めていく予定としている。
  • 当グループにおけるユニバーサル・スタジオ・シンガポールのミニオン・ランドやシンガポール海洋水族館を含むRWSの建設工事は順調に進んでおり、プレオープンを2025年初頭に予定している。また、2023年アジアベストレストラン50や2023年ワインピナクルアワードなどの有名イベントを開催する公式会場となり、富裕層のお客様にアピールするプレミアムライフスタイルイベントの確保にも成功している。

CapitaLand Ascott Trust(CLSA)

  • CLASは、23年1Qのビジネスアップデートにおいて、売上総利益が前年同期比59%増となったことを報告した。これは、営業実績の強化および新規物件の貢献によるものである。また、主要市場であるオーストラリア、日本、シンガポール、米国ではCOVID前の水準かそれ以上の業績を達成し、販売可能客室ユニットあたり収益(RevPAU)は前年同期比90%増となった。特に、日本のRevPAUは、2022年10月の個人旅行者への開放を受け、前年同期比351%増の105%となった。

観光・宿泊業関連企業で最も取引された銘柄10社

 

 

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アナリストのご紹介 フィリップ証券リサーチ部

笹木和弘プロフィール笹木 和弘
フィリップ証券株式会社:リサーチ部長
証券会社にて、営業、トレーディング業務、海外市場に直結した先物取引や外国株取引のシステム開発・運営などに従事。その後は個人投資家や投資セミナー講師として活躍。2019年1月にフィリップ証券入社後は、米国・アセアン・日本市場にまたがり、ストラテジーからマクロ経済、個別銘柄、コモディティまで多岐にわたる分野でのレポート執筆などに精力的に従事。公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト(CIIA®)。

 

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世界経済のけん引役と期待されるアセアン(ASEAN:東南アジア諸国連合)。そのアセアン各国で金融・証券業を展開し、マーケットを精通するフィリップグループの一員である弊社リサーチ部のアナリストが、市場の動向を見ながら、アセアン主要国(シンガポールタイマレーシアインドネシア)の株式市場を独自の視点で徹底解説します。

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