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シンガポール銀行セクター月次レポート(4月)

 

オーバーナイト金利の記録的水準の影で低迷する融資額成長

原文:グレン・ツーム(Glenn Thum)

フィリップ証券シンガポール

銀行・金融セクター・リサーチアナリスト

原文公開日:2023年4月17日

本レポート作成日:2023年4月18日

【レポートサマリー】

  • 3月の3ヶ月物のシンガポールオーバーナイト金利平均(SORA)は前月比14bps上昇の35%、3ヶ月物のシンガポール銀行間貸出金利(SIBOR)は前月比2bps下落の4.19%だった。
  • 2月のシンガポール国内融資額は前年同月比10%減と予想を下回り、香港国内融資は同3.28%減となった。当座預金残高比率(CASA)は19.2%であり、1月の20.0%と比べてやや低下した。
  • オーバーウェイトを継続:銀行に対するポジティブな見方を維持。銀行の配当利回りは平均5.7%程度と魅力的な水準で、過剰な自己資本比率とROEの上昇に伴う配当のアップサイドサプライズがある。シンガポール証券取引所も金利上昇から恩恵を受ける企業の一つである [シンガポール証券取引所 SP, 買い, 目標株価 S$11.71]

3ヶ月物SORAは上昇を継続、3ヶ月物SIBORの伸びは3月に低下した

3月中に3ヶ月物SORAは前月比14bps上昇して3.35%に達した。一方で3ヶ月物SIBORは前月比2bps下落して4.19%となった。SORA前月比の上昇は2月の16bps上昇とほぼ同程度だが、それでも2022年5月から続く、金利上昇の連続記録を更新した。SIBOR前月比の低下は、2020年9月以来2度目の低下となった。3月の3ヶ月物SORAは前年同期比310bps改善し、23年1Q中の3ヶ月物SORAの平均値3.20%を15bps上回った。3月中の3ヶ月物SIBORは、前年同月比352bps改善し、23年1Qにおける 3ヶ月物SIBORの平均値4.21%を2bps下回った(図1)

【図1】3月のSORAは上昇を続け、SIBORは横ばいとなった

引用元: ブルームバーグ, フィリップ・セキュリティーズ・リサーチ

 

シンガポール国内融資額の成長率は2月に低下した

2月のシンガポール居住者向け融資(全通貨を集計)は、前年同月比3.10%減の8,040億シンガポールドルとなった。融資額成長率の低下は、金利上昇が消費者にとって身近に感じられるものとなった事に起因していると考えられる。2023年を通じて一桁台半の成長率で融資額が成長するとした我々の予測を現時点では下回っている。

【図 2】 シンガポール融資成長率(前年同月比)推移

2022-2023年 融資額成長率 (YoY)
2023年2月 -3.10%
2023年1月 -1.89%
2022年12月 -0.30%
2022年11月 0.67%
2022年10月 2.13%
2022年9月 4.38%
2022年8月 6.67%
2022年7月 6.28%

引用元: CEIC, フィリップ・セキュリティーズ・リサーチ

 

2月の事業者向け融資は前年同月比4.47%減となり、3月は0.57%減となった。単独で最大の事業セクターである建築・建設セクター向けの融資額は前年同月比0.28%増の1,710億シンガポールドル、製造部門向け融資は2月に同15.06%減の224億シンガポールドルとなった。

消費者ローンは、2月に前年同月比0.86%減の3,110億シンガポールドルとなった。消費者向け融資の落ち込みは、住宅ローンに対する堅調な需要によってわずかに相殺されたものとなった。消費者ローンの約70%を占める住宅ローンは、今年1月に前年同月比2.57%増加して2,223億シンガポールドルとなっていた。

銀行以外の顧客に対する全通貨の預金を対象とした預金・残高合計は、2月に前年同月比6.06%増の1兆7,410億シンガポールドルとなった。高金利環境から定期預金への移行が続いたため、当座預金・普通預金(CASA)の比率は19.2%(23年1月:20.0%)とやや低下し、3350億シンガポールドルとなった。

 

香港国内向け融資額成長率は引き続き減少した

2月の香港国内貸出金伸び率は前年同月比3.28%下落、前月比0.60%下落となった。2月のローン伸び率の前年同月比減少率は2022年1月以降で最も高く、2023年1月の2.56%の減少率を上回り、前月比減少率0.60%は2023年1月の1.26%の伸びからわずかに反転している。

【図 3】香港の融資額成長は2月に低下した。

引用元: CEIC, フィリップ・セキュリティーズ・リサーチ

 

米国の複数の銀行の破綻によりボラティリティが上昇

3月の株式日次平均売買代金(SDAV)は前年同月比22%減の$1,216百万ドル(図4)となり、マクロ経済要因から2023年初頭の市場心理は引き続き冷え込んでいる。3月のS&P500 のVIX平均値は21.6と前月の20.1から上昇、3月のデリバティブ日次平均出来高(DDAV)は前年同月比11%減の1.04百万枚となり、2月の1.01百万枚から前月比3%増という結果となった。1Q23は、SDAVがマクロ経済要因による市場心理の冷え込みから前年同期比21%減となった一方、1Q23のDDAVは比較的安定しており前年同期比4%減となった。

3月の株価指数先物取引高上位5銘柄は、FTSE中国A50指数先物取引とFTSE台湾指数先物取引の取引高減少を主因に、前年同期比19%減の1479万枚(図5)となった。5つの指数先物全てが前月比プラスとなった中で、特筆すべきは、日経平均株価先物は前月比83.6%の大幅な伸びを示したことである。

4】: デリバティブ出来高と株式売買代金の前年比推移

株式

日次平均売買代金

(百万$)

前年同月比 デリバティブ

日次平均取引高

(百万枚)

前年同月比
2023年3月 1,216 -22% 1.04 -11%
2023年2月 1,105 -33% 1.01 -5%
2023年1月 1,159 -4% 1.08 +6%
2022年12月 935 10% 0.92 +8%
2022年11月 1,239 -8% 1.09 +27%
2022年10月 1,154 0% 1.22 +23%
2022年9月 1,171 -5% 1.05 +2%
2022年8月 1,105 -12% 0.92 +2%
2022年7月 901 -25% 0.99 +4%
2022年6月 1,165 -5% 1.10 +24%
2022年5月 1,505 -6% 1.13 +19%
2022年4月 1,271 -1% 1.09 +25%

引用元: シンガポール証券取引所, ブルームバーグ, フィリップ・セキュリティーズ・リサーチ

 

【図 5】株価指数先物の取引高上位5銘柄は前年同期比で低下した

指数先物 22年3月 23年3月 前年同期比
FTSE China A50 Index Futures 11,140,935 7,689,712 -31.0%
Nifty 50 Index Futures 2,652,959 2,666,259 0.5%
Nikkei 225 Index Futures 1,542,739 1,513,607 -1.9%
MSCI Singapore Index Futures 1,200,744 1,338,133 11.4%
FTSE Taiwan Index Futures 1,717,688 1,582,629 -7.9%
各部合計 18,255,065 14,790,340 -19.0%

引用元: シンガポール証券取引所, ブルームバーグ, フィリップ・セキュリティーズ・リサーチ

 

投資行動に対する示唆

オーバーウェイトを継続:銀行に対するポジティブな見方を維持する。銀行の配当利回りは魅力的であり、過剰な自己資本比率の是正とROEの上昇に向けた動きによる上方サプライズが期待できる。安定した経済状況と金利の上昇は、銀行セクターにとって引き続き追い風となる。シンガポール取引所もより高い金利水準による恩恵を受ける企業の一つである。

【図6】 過去5年の各行のPBR推移, OCBC は最も低い水準にある。

 

引用元: ブルームバーグ, フィリップ・セキュリティーズ・リサーチ

【図7】各行の目標PBR

DBS OCBC UOB
過去最高値

過去最低値

1.62

0.81

1.50

0.73

1.43

0.79

5年平均値 1.17 1.09 1.12
現在値 1.34 1.02 0.97
目標値 1.36 1.27 1.17
目標株価(S$) 41.60 14.22 35.70

引用元: ブルームバーグ, フィリップ・セキュリティーズ・リサーチ

 

【図8】: アジア競合金融機関比較

 

 

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笹木和弘プロフィール笹木 和弘
フィリップ証券株式会社:リサーチ部長
証券会社にて、営業、トレーディング業務、海外市場に直結した先物取引や外国株取引のシステム開発・運営などに従事。その後は個人投資家や投資セミナー講師として活躍。2019年1月にフィリップ証券入社後は、米国・アセアン・日本市場にまたがり、ストラテジーからマクロ経済、個別銘柄、コモディティまで多岐にわたる分野でのレポート執筆などに精力的に従事。公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト(CIIA®)。

 

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世界経済のけん引役と期待されるアセアン(ASEAN:東南アジア諸国連合)。そのアセアン各国で金融・証券業を展開し、マーケットを精通するフィリップグループの一員である弊社リサーチ部のアナリストが、市場の動向を見ながら、アセアン主要国(シンガポールタイマレーシアインドネシア)の株式市場を独自の視点で徹底解説します。

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