シンガポール銀行レポート- クレディ・スイスとシンガポール地場銀行との比較-
原文:グレン・ツーム(Glenn Thum) フィリップ証券シンガポール 銀行・金融セクター・リサーチアナリスト 原文公開日:2023年3月20日 本レポート作成日:2023年4月3日 |
- 3月14日、2022年の年次報告において、クレディ・スイス(CS)は財務報告上の内部統制に「重大な弱点」があり、顧客流出を食い止められていないと発表。15日、最大の支援者であるサウジ国立銀行は、規制上の問題から追加資金提供はできないと述べた。16日、CSはスイス国立銀行から最大540億米ドルを借り入れるオプションを行使。
- シンガポール地場銀行の自己資本比率とレバレッジ比率はクレディ・スイスと同程度である一方、ROEは12.5%程度と高い水準にある(CSは-16%)。シンガポール地場銀行は純資金運用収益(NII)の割合が高く、手数料収益に偏ったCSとは異なる。
- オーバーウエイト(継続):シンガポール金融セクターについて、引き続きポジティブな見方を継続。各行の配当利回りは5.7%程度と魅力的であり、ROE向上や自己資本比率是正を目的に配当するといったサプライズも期待できる。シンガポールの銀行は、NII成長を重視しているため、正のROEを計上し続けるだろう。
【図1】:クレディ・スイスとシンガポール地場銀行の大きな相違点は利益率である
2022年12月31日 | CS | DBS | OCBC | UOB |
資本比率 | ||||
普通株式等Tier -1資本 | 14.1% | 14.6% | 15.2% | 13.3% |
レバレッジ比率(資産/株主資本) | 11.7 | 13.0 | 10.2 | 11.6 |
流動性カバレッジ比率 | 144% | 140% | 152% | 140% |
資本利益率 | ||||
ROE | -16.1% | 14.6% | 11.1% | 11.9% |
その他指標 | ||||
NII (対純利益%) | 35.8% | 66.3% | 65.9% | 72.1% |
手数料収益 (対純利益%) | 59.3% | 18.7% | 15.9% | 18.5% |
不良債権比率(NPL) | 0.6% | 1.1% | 1.2% | 1.6% |
当座預金比率(CASA) | 67.8% | 60% | 51.8% | 47.5% |
引用: 企業公表値, フィリップ・セキュリティーズ・リサーチ
資本比率とレバレッジ比率の水準は類似
CSの普通株式Tier1(CET1)比率は14.1%で、シンガポール地場銀行の14.4%程度と同水準である。レバレッジ比率は 11.7 倍で、シンガポールの銀行の 11.6 倍程度と同水準。CSは、連邦準備制度理事会(FRB)による流動性カバレッジ・レシオ(LCR)ルールの監視下にあり、144%の適切なLCRを維持している。これはシンガポールの銀行の〜144%と同程度にある。CSの問題は自己資本比率に起因するものではないとみられる。
クレディ・スイスは2年連続で純損失を計上
クレディ・スイス(CS)は、投資銀行業務の収益が低迷し、顧客がグループのウェルス・マネジメント事業から資金を引き揚げたため、22年度は72億9000万スイスフラン、21年度は16億5000万スイスフランと2年連続の純損失を計上した。この結果、22年度のROEは-16.1%となった。
クレディ・スイスの焦点は手数料収益
クレディ・スイス(CS)は投資銀行に重きをおいているため、収益源が手数料収益に集中しており、総収入の59%を占めている。一方でNIIは総収益の36%に過ぎない。
他方で、シンガポール地場銀行は主にNIIに重点を置いており、総収入の約68%を占める一方で、手数料収入は総収入の約18%である。保有している融資残高の大半が変動金利であることによる金利見直しが可能であり、資金調達コストの上昇を直接顧客に転嫁することにより、シンガポール地場銀行は金利上昇の恩恵を受けることができた。
図2: クレディ・スイスとリーマン・ブラザーズの比較
10億USD | CS (2022年12月30日) | LB(2008年5月31日) |
総資産 | 574 | 639 |
預金額 | 252 | 29 |
総負債額 | 525 | 613 |
引用: 企業公表値, フィリップ・セキュリティーズ・リサーチ
リーマン・ブラザースと比べて小さい資産規模
興味深いことに、2008年当時のクレディ・スイス(CS)とリーマン・ブラザーズ(LB)を比較すると、CSの総資産は574億米ドルと、LBの総資産639億米ドルに比べて小さく、総負債も525億米ドルとLBの総負債613億米ドルと比べてやや小規模である。ただし、CSの顧客預金残高は2,520億米ドルと、LBの顧客預金残高290億米ドルに比べ、より高い水準にある。
投資行動示唆
オーバーウェイトを継続:シンガポールの銀行に対するポジティブな見方を維持する。銀行の配当利回りは5.7%と魅力的であり、過剰な自己資本比率是正によるROEの向上の動きがあれば、アップサイドサプライズに期待が持てる。シンガポールの銀行はクレディ・スイスとは異なり、NIIの成長に重点を置いているため、プラスのROEを計上していくことが可能である。
【図3】: 過去5年の各行のPBR推移, OCBC は最も低い水準にある。
引用: ブルーム・バーグ, フィリップ・セキュリティーズ・リサーチ
【図4】: 各行の目標PBR
DBS | OCBC | UOB | |
過去最高値
過去最低値 |
1.62
0.81 |
1.50
0.73 |
1.43
0.79 |
5年平均値 | 1.17 | 1.09 | 1.12 |
現在値 | 1.34 | 1.02 | 0.97 |
目標値 | 1.36 | 1.27 | 1.17 |
目標株価(S$) | 41.60 | 14.22 | 35.70 |
引用: ブルーム・バーグ, フィリップ・セキュリティーズ・リサーチ
【図5】: アジア競合金融機関比較
- 上場有価証券等のお取引の手数料は、国内株式の場合は約定代金に対して上限1.265%(消費税込)(ただし、最低手数料2,200円(消費税込)、外国取引の場合は円換算後の現地約定代金(円換算後の現地約定代金とは、現地における約定代金を当社が定める適用為替レートにより円に換算した金額をいいます。)の最大1.10%(消費税込)(ただし、対面販売の場合、3,300円に満たない場合は3,300円、コールセンターの場合、1,980円に満たない場合は1,980円)となります。
- 上場有価証券等は、株式相場、金利水準等の変動による市場リスク、発行者等の業務や財産の状況等に変化が生じた場合の信用リスク、外国証券である場合には為替変動リスク等により損失が生じるおそれがあります。また新株予約権等が付された金融商品については、これらの権利を行使できる期間の制限等があります。
- 国内金融商品取引所もしくは店頭市場への上場が行われず、また国内において公募、売出しが行われていない外国株式等については、我が国の金融商品取引法に基づいた発行者による企業内容の開示は行われていません。
- 金融商品ごとに手数料等及びリスクは異なりますので、お取引に際しては、当該商品等の契約締結前交付書面や目論見書又はお客様向け資料をよくお読みください。
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アナリストのご紹介 フィリップ証券リサーチ部
笹木 和弘
フィリップ証券株式会社:リサーチ部長
証券会社にて、営業、トレーディング業務、海外市場に直結した先物取引や外国株取引のシステム開発・運営などに従事。その後は個人投資家や投資セミナー講師として活躍。2019年1月にフィリップ証券入社後は、米国・アセアン・日本市場にまたがり、ストラテジーからマクロ経済、個別銘柄、コモディティまで多岐にわたる分野でのレポート執筆などに精力的に従事。公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト(CIIA®)。