投資戦略ウィークリー 2023年3月27日号(2023年3月24日作成)】”AT1債、国内地銀の下方修正、外債と円高・債券高”
■AT1債、国内地銀の下方修正、外債と円高・債券高
- 米国地方銀行の相次ぐ破綻による銀行経営不安は欧州に飛び火し、スイスではクレディ・スイスがUBSに買収されることで合意。その際、中核的自己資本拡充のためクレディ・スイスが発行していた劣後債の一種である「追加的ティア1債(AT1債)」の約2兆円相当額が無価値とされるなど社債市場に衝撃が走った。このAT1債は、偶発転換社債(CoCo債)としても知られ、「手りゅう弾が付いた高利回り投資」と言われることもある。CoCo債は本質的に債券と株式のハイブリッドであり、銀行破綻時に納税者に負担を強いることがないよう、かつ既存株主の株式希薄化を避けつつ金融機関を窮地から引き上げる手段とされる。銀行の資本レベルが一定の水準を下回ると、銀行の株式(資本)に転換できる場合もあれば、債券の元本の一部または全部の価値が引き下げられる場合もある。
- 米シリコンバレー銀行は急増する預金に対して残存期間が長期の米国債や不動産担保証券で投資・運用することで金利上昇に伴う債券含み損が自己資本の大半を食い潰すような事態に陥ったといわれている。その意味で特殊例外的なケースであり、日本の地銀にあてはまるものではない。それでも2023年3月期決算を前にして通期業績見通しを下方修正する地銀が目立ち始めた。ふくおかフィナンシャルG(8354)は米国債運用で含み損が拡大し損切りを実行と報じられた。常陽銀行と足利銀行を傘下に擁するめぶきフィナンシャルG(7167)も海外金利上昇で収益性が悪化している外国債券を売却してポートフォリオの改善を進めるとしている。奈良の南都銀行(8367)、名古屋銀行(8522)、広島銀行を中核とするひろぎんHD(7337)も同様の理由で下方修正している。
- 足元で23日終値の国内債券市場は指標となる新発10年国債利回り3%近辺と、日銀のYCC(イールド・カーブ・コントロール)で許容変動幅の上限である0.5%を大きく下回る水準で推移。海外債券市場と歩調を合わせている面が大きいものの、外債売却による資金を国内に引き揚げて国内債を購入する場合も多いと考えられ、円高・国内債券高(=長期金利低下)を後押ししている面もあるだろう。国内長期金利低下は日本株相場を支えやすいことから3月年度末までは日経平均株価も底堅く推移すると考えられよう。
- 24日発表の2月の消費者物価指数(CPI)は総合(除く生鮮食品)が前年同月比1%上昇と13ヵ月ぶり鈍化も、生鮮食品とエネルギーを除く総合が同3.5%上昇と1月(3.2%上昇)から加速。22日発表の1月1日時点の公示地価は、全用途の全国平均が前年比1.6%と2年連続上昇。国内インフレ動向は注視されよう。(笹木)
- 3/27号では、ダイセキ環境ソリューション(1712)、ステラケミファ(4109)、ライフコーポレーション(8194)、エヌ・ティ・ティ・データ(9613)、STエンジニアリング(STE)を取り上げた。
■主な企業決算の予定
- 3月27日(月): 大光
- 3月28日(火):(米)ウォルグリーン・ブーツ・アライアンス、マイクロン・テクノロジー、ルルレモン・アスレティカ
- 3月29日(水): (米)シンタス、ペイチェックス
- 3月30日(木): ハニーズホールディングス、キユーソー流通システム、アルテック、ファーマライズホールディングス、ERIホールディングス、マルマエ
- 3月31日(金): クラウディアホールディングス、ヤマシタヘルスケアホールディ、スター・マイカ・ホールディン、ミタチ産業、TAKARA& COMPAN、三益半導体工業
■主要イベントの予定
- 3月27日(月)
・カバーが東証グロースに新規上場、景気一致指数・景気先行CI指数 (1月)、企業向けサービス価格指数(2月)
・英中銀総裁が講演、NZ中銀総裁が2期目スタート(任期5年)、台湾の馬英九前総統が訪中
・ユーロ圏マネーサプライ(2月)、独IFO企業景況感指数(3月)、中国工業利益(2月)
- 3月28日(火)
・黒田日銀総裁がFIN/SUM 2023(金融庁など主催)で挨拶する、Arentとモンスターラボホールディングスとアクシスコンサルティングが東証グロースに新規上場
・米上院銀行委員会で最近の銀行破綻と連邦当局の対応巡る公聴会 、英中銀総裁がシリコンバレー銀行(SVB)巡り証言、EUエネルギー相会合、中国ブラジル首脳会談(北京)、ハンガリー中銀が政策金利発表
・米FHFA住宅価格指数(1月)、米主要20都市住宅価格指数(1月)、米消費者信頼感指数カンファレンスボード(3月)
- 3月29日(水)
・住信SBIネット銀行が東証スタンダード・AnyMind Groupが東証グロース新規上場
・米下院金融委員会で最近の銀行破綻と連邦当局の対応巡る公聴会、第2回民主主義サミット(オンライン、30日まで)、台湾総統がニューヨークに滞在(30日まで)、タイ中銀が政策金利発表
・米中古住宅販売成約指数(2月)
- 3月30日(木)
・ノバシステムが東証スタンダード・ビズメイツが東証グロースに新規上場、国内自動車各社が2月の世界販売・生産実績を公表、キヤノンとルネサスエレクトロニクス定時株主総会、日本取引所グループ清田CEO定例会見、対内証券投資-株式ネット (24日)
・リッチモンド連銀総裁f講演、ECB経済報告、南ア中銀政策金利発表、米大リーグ開幕
・米GDP・確定値(4Q)、米新規失業保険申請件数 (3月25日終了週)、ユーロ圏消費者信頼感指数 (3月)、ユーロ圏景況感指数(3月)、独CPI(3月)
- 3月31日(金)
・Fusicと ココルポートが東証グロースに新規上場、百貨店・スーパー売上高(2月)、 小売売上高(2月)、東京CPI(3月)、失業率・有効求人倍率(2月)、住宅着工戸数・件数(2月)、鉱工業生産(2月)、小売売上高(2月)
・米ニューヨーク連銀総裁とECB総裁が講演
・米個人支出・米個人消費支出(PCE)物価指数(2月)、米個人所得(2月)、米シカゴ製造業景況指数(3月)、米ミシガン大学消費者マインド指数(3月)、ユーロ圏CPI(3月)、ユーロ圏失業率(2月)、独失業率(3月)、英GDP(4Q)、中国製造業・非製造業PMI(3月)
- 4月1-2日(土・日)
・米スターバックスでラクスマン・ナラシムハン氏がCEOに就任、フィンランド議会選挙
(Bloombergをもとにフィリップ証券作成)
※本レポートは当社が取り扱っていない銘柄を含んでいます。
■グローバル・マネーサプライ指数
米FRB(連邦準備制度理事会)は、昨年6月に量的引き締め(QT)を開始してバランスシートを段階的に縮小してきたなか、銀行預金流出対応のため連銀窓口貸出等を通じて民間銀行に大量の流動性を供給していることから17日時点で8.69兆ドルと1週間で約3千億ドル近く増加。これが株価上昇に繋がる期待が高まるも、パウエルFRB議長は22日のFOMC(連邦公開市場委員会)後の定例記者会見で「保有資産の削減という中核的な取り組みについていかなる変更も考えていない」と述べた。
S&P500株価指数、金先物価格を見ると、FRBのバランスシートよりも米欧中日を含む12地域のマネーサプライ(M2)合計額を表す「グローバル・マネーサプライ指数」との相関性が高い。同指数は昨年のドル高反転した昨年10月以降に増加傾向。
【グローバル・マネーサプライ指数~FRBバランスシートよりも説明力が高い】
■温暖化ガス排出権取引の動向
CO2の排出削減に取り組む企業が自主的に参加する「GX(グリーン・トランスフォーメーション)リーグ」が4月に700社規模(日本のCO2排出量の4割以上に相当)で正式に活動を始める予定だ。GXリーグの参加企業は排出量取引市場に参加できる。当面はCO2排出量が年10万トン以上の排出の多い企業を対象とし、企業の排出削減量のうち、政府設定削減目標を上回った分に限り売買可能。本格稼働は26年度の予定だ。
欧州では温暖化ガス排出量取引価格が上昇し、代表的な取引価格が2/21に一時初めて1トン当たり100EURの節目を超えて22年末比2割上昇。エネルギー価格下落により欧州企業が工場の稼働率を高めることで規制対応での排出量の買いが増えるとの見方が強まったとのこと。
【温暖化ガス排出権取引の動向~日本でも2023年4月より「GXリーグ」始動】
■国内主要環境(廃棄物処理)企業
廃棄物処理や再資源化など環境関連事業の大栄環境(9336)が昨年12月に東証プライム市場に上場。22年のIPOで半導体素子ソシオネクストに次ぐ433億円を市場から資金調達。東証上場の主要な環境(廃棄物処理)セクターとして、大栄環境のほかDOWAホールディングス(5714)の環境リサイクル部門、ダイセキ(9793)、TREホールディングス(9247)が挙げられる。ダイセキは連結子会社に汚染土壌を手掛けるダイセキ環境ソリューション(1712)を擁している。また、TREホールディングスは21年10月に産業廃棄物のタケエイとリバーHDが統合して設立。M&Aによる収集運搬・中間処理・再資源化・最終処分を一括で行うことおよび規模拡大で売上高および利益率を高めようとする動きが強まると見込まれる
【国内主要環境(廃棄物処理)企業~高利益率企業がM&Aを通じて成長か】
■銘柄ピックアップ
ダイセキ環境ソリューション(1712)
921 円(3/24終値)
・1996年設立。名古屋本拠の産廃大手ダイセキ(9793)傘下で主力土壌汚染調査・処理事業のほか廃石膏ボードリサイクル事業、環境分析事業、PCB事業、BDF(バイオディーゼル燃料)事業も営む。
・1/5発表の2023/2期9M(3-11月)は、売上高が前年同期比10.6%減の118.72億円、営業利益が同48.9%減の9.30億円。廃石膏ボードリサイクル事業は販売量増で増収・営業増益も、主力の土壌汚染調査・処理事業は大規模インフラ整備案件が計画を下回り、同13%減収、48%営業減益。
・通期会社計画は、売上高が前期比13.3%減の148億円、営業利益が同52.4%減の10億円。年間配当金が同2円増配の10円。高付加価値案件への注力で四半期ベースでは営業利益・営業利益率ともに1Q(3-5月)から3Q(9-11月)にかけて回復基調。産廃処理業界は参入障壁が高くM&Aを通じた寡占化傾向が見られるなか、グループ再編による利益率向上が図られやすい面があろう。
ステラケミファ(4109)
2,596 円(3/24終値)
・1916年に堺市で橋本治三郎が創業し硝酸塩を製造。半導体やリチウムイオン2次電池向けフッ化物等高純度薬品事業の他、ステラファーマ(4888)はがん放射線治療用ホウ素医薬品に取り組む。
・2/10発表の2023/3期9M(4-12月)は、売上高が前期比4.2%増の282.70億円、持分法投資利益を含む経常利益が同4.7%減の37.50億円。高純度薬品事業におけるリチウムイオン2次電池用添加剤にて増産目的保有の有形固定資産の減損損失計上により純利益は同47.5%減の16.58億円。
・通期会社計画を下方修正。売上高を前期比4.5%減の356億円(従来計画375億円)、営業利益を同18.2%減の37.50億円(同46億円)とした。年間配当は同横ばいの60円で据え置き。下方修正の主因となった高純度薬品事業の半導体部門売上は日本政府によるフッ化水素について対韓国輸出管理の厳格化措置緩和決定により改善が見込まれる。23日終値で予想PER15.3倍、PBR0.7倍。
ライフコーポレーション(8194)
2,528 円(3/24終値)
・1956年設立の清水実業が1978年にライフを吸収合併。主に食料品販売を中心に生活関連用品・衣料品の総合小売業を営む。三菱商事(8058)の持分法適用会社で首都圏と近畿で集中展開。
・1/11発表の2023/2期9M(3-11月)は、営業収益(収益認識会計基準適用後)が5686億円(前年同期5747億円)、営業利益が前期比31.2%減の135.59億円。新規出店、Amazonプラム会員向けネットスーパー拡大、プライベートブランド強化の一方、水道光熱費・物件費・人件費の増加が響いた。
・通期会社計画は、売上高が7630億円(前期7683億円)、営業利益が同25.9%減の170億円、年間普通配当が同10円増配の70円。同社ほか首都圏に店舗展開のサミット・マルエツ・ヤオコーの食品スーパー大手4社は16日、持続可能な食品物流に向けた取り組みを宣言。トラックドライバー時間外労働の上限規制が適用される「物流2024年問題」に対応。近畿圏でも同様の動きが期待される。
エヌ・ティ・ティ・データ(9613)
1,699 円(3/24終値)
・1988年にNTT(9432)を親会社として設立。ITサービスを核に公共・社会基盤、金融(金融機関の業務効率化)、法人ソリューション(決済など)を展開。北米での買収のほか海外展開にも注力。
・2/9発表の2023/3期9M(4-12月)は、売上高が前年同期比30.2%増の2兆4061億円、営業利益が同9.8%増の1834億円。NTTグループ内の海外事業統合による同社連結範囲拡大が増収・営業増益に寄与。営業利益利率は同1.4ポイント低下の7.6%。受注高が海外事業案件獲得により増加。
・通期会社計画は、売上高が前期比28.1%増の3兆2700億円、営業利益が同11.0%増の2360億円、年間配当が同横ばいの21円。昨年10月に同社55%、NTT45%の共同出資で海外事業会社「NTT DATA」設立。海外事業の成長が見込まれる。国内事業も地銀勘定系システムで採用行数・預金量でも首位をうかがうなか、同社株価は23日終値でPBRが1.6倍台と2020年半ば以来の水準。
STエンジニアリング(STE)
市場:シンガポール 3.52 SGD(3/23終値)
・1967年設立の防衛・総合工学企業。政府系投資会社テマセクHDが過半数の持株比率を有し、主に商業航空宇宙事業、都市化ソリューション・衛星通信事業、防衛・公共セキュリティ事業を運営。
・2/24発表の2022/12通期は、売上高が前期比17.4%増の90.35億SGD、一時的要因を除く基礎的純利益が同39.8%増の5.49億SGD。新規受注高が同12%増の131億SGD、期末受注残も同19%増の230億SGDへ伸長。22年3月に米交通システム大手トランスコアを3000億円相当額で買収完了。
・同社は高い成長が見込まれる都市化ソリューション事業への投資積極化。同社が買収した米トランスコア社は渋滞状況に応じて通行料金を変えるシステムといった最先端ノウハウを有することから渋滞が社会問題化しているアセアンへのシステム輸入が見込まれる。逆に国内実証実験をもとに「街灯スマート化」システムを南米に輸出するなどスマート事業で世界のリーダーを目指している。
■アセアン株式ウィークリーストラテジー
(3/27号「シンガポールのストレーツ・タイムズ指数」)
シンガポール株式市場の代表的指標は、シンガポール地元紙のストレーツ・タイムズ紙が算出するストレーツ・タイムズ(ST)指数である。シンガポール取引所(SGX)において時価総額が大きく最も活発に取引される30銘柄を対象にした時価総額加重型株価指数である。
SGXには海外企業の上場も多く、タイ王国最大のアルコール飲料メーカーであるタイ・ビバレッジ、およびフィリピンのブランデー最大手のエンペラドールが同指数の構成銘柄に含まれている。また、23日終値での同指数構成銘柄のウェート(寄与度)を見ると、DBSグループ・ホールディングスが17.7%、オーバーシー・チャイニーズ銀行(OCBC)が11.4%、ユナイテッド・オーバーシーズ銀行(UOB)が10.1%と主要3銀行グループで約4割を占めている点に特徴がある。
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アナリストのご紹介 フィリップ証券リサーチ部
笹木 和弘
フィリップ証券株式会社:リサーチ部長
証券会社にて、営業、トレーディング業務、海外市場に直結した先物取引や外国株取引のシステム開発・運営などに従事。その後は個人投資家や投資セミナー講師として活躍。2019年1月にフィリップ証券入社後は、米国・アセアン・日本市場にまたがり、ストラテジーからマクロ経済、個別銘柄、コモディティまで多岐にわたる分野でのレポート執筆などに精力的に従事。公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト(CIIA®)。