投資戦略ウィークリー 2023年3月6日号(2023年3月3日作成)】”中国経済・日本へ団体旅行解禁期待、「横並び」が鍵”
■中国経済・日本へ団体旅行解禁期待、「横並び」が鍵
- 先週号(2023年2月27日号)で「2/22取引終了時刻で時価総額の大きい銘柄を中心に売買高が膨らんだ。これは年金のような長期資金がファンダメンタルズ面の割安感から押し目買いを入れていることが推察される」と書いた通り、2/22日大引けを押し目の底として日経平均株価が反発し、3日に2万7900円台まで上昇した。
- この背景として大きな要因を占めるのは中国経済の回復期待だろう。中国国家統計局が1日発表の2月の製造業購買担当者景気指数(PMI)が前月比5ポイント高い52.6と12年4月以来の高水準となった。財新/S&Pグローバルが3日発表の2月のサービス部門PMIも55.0と前月比2.1ポイント上昇。ゼロコロナ政策の解除で需要が回復していることが示された。4日開幕の中国人民政治協商会議、5日開幕の全国人民代表大会で中国の経済政策に関する強いメッセージが発せられるとの期待が高まっている。香港ドルの米ドルペッグ制を維持する上でも、資金需要を高めて対米国金利差の拡大を抑える必要もあるだろう。
- 日本政府が中国を対象にした新型コロナ水際対策を1日から緩和して中国本土からの直行便による全入国者への検査を無作為抽出のサンプル検査に切り替えた。中国政府は2/6に20ヵ国に対して海外団体旅行を解禁。日本を含めることへのハードルが下がったと言えるだろう。中国からの海外団体旅行解禁はインバウンド消費拡大とコロナ禍前へ回復に向けての強い追い風となり得るものであり、日本経済回復から日銀が大規模金融緩和を修正するに至る道筋への出発点と位置付けられる余地もあるだろう。
- 「自己資本比率(ROE)10%とPBR(株価純資産倍率)1倍超」を目指すとした次期中期経営計画の基本方針を2/9に発表して市場を驚かせた大日本印刷(7912)が9日に投資家・アナリスト向け「新中期経営計画骨子説明会」を同社社長が出席の上で開催予定。製粉・油脂大手の昭和産業(2004)も2/24に「中期経営計画23-25」を発表。2025年度のROEを2022年度見通し比4ポイント上昇の0%以上とした。このように、東証が「継続的にPBR1倍を割れる会社」に対して今春を実施時期として強い開示要請を行ったことに対して応える動きが相次いでいる。PBRでは約3倍に上る味の素(2802)も2/28、中長期の経営計画を公表。2025年度のROEを2022年度予想比7ポイント上昇の18%まで高め、減配せずに配当を維持・増額する「累進配当」も導入するとした。日本企業の「横並び」体質が良い面に出て同様の取組みを行う企業数が増えることで日経平均株価の「大台」超えが近づく可能性もあろう。(笹木)
3/6号では、日本道路(1884)、ゴルフダイジェスト・オンライン(3319)、さくらインターネット(3778)、三協立山(5932)、ラッフルズ・メディカル・グループ(RFMG)を取り上げた。
■主な企業決算の予定
- 3月7日(火):アイル、ファーマフーズ、(米)クラウドストライク・ホールディングス
- 3月8日(水): ミライアル、ビューティガレージ、東京楽天地
- 3月9日(木): Casa、アイモバイル、トップカルチャー、鎌倉新書、積水ハウス、菱洋エレクトロ、不二電機工業、(米)JDドットコム
- 3月10日(金): gumi、HEROZ、エイチーム、オハラ、クミアイ化学工業、ザッパラス、サムコ、シーイーシー、シルバーライフ、トーホー、トビラシステムズ、フリービット、ベステラ、ラクスル、丹青社、鳥貴族ホールディングス、日東製網、(米)オラクル
■主要イベントの予定
- 3月6日(月)
・国際原子力機関(IAEA)理事会(ウィーン、10日まで)、エネルギー会議CERAウィーク(ヒューストン、10日まで)、フィンランド大統領が訪米(10日まで)
・米製造業受注 (1月)、ユーロ圏小売売上高 (1月)
- 3月7日(火)
・実質賃金総額・毎月勤労統計-現金給与総額(1月)
・米FRB議長が上院銀行委員会で半期に1度の議会証言、EU国防相会合(非公式、8日まで)、豪中銀が政策金利決定、ECB消費者予想調査
・米卸売在庫(1月)、米消費者信用残高(1月)、独製造業受注(1月)、中国貿易収支(1-2月)、中国外貨準備高(2月)、南アGDP (4Q)、韓国GDP(4Q)
- 3月8日(水)
・国際収支:経常収支・貿易収支(1月)、銀行貸出動向(2月)、景気ウォッチャー調査 先行き判断・現状判断(2月)、景気先行CI指数・景気一致指数(1月)
・米FRB議長が下院金融委員会で半期に1度の議会証言、ECB総裁講演、カナダ中銀とポーランド中銀が政策金利発表、国際女性デー
・米ADP雇用統計 (2月)、米貿易収支(1月)、米求人件数(1月)、ユーロ圏GDP(4Q)、独鉱工業生産(1月)
- 3月9日(木)
・GDP(4Q)、マネーストックM2・M3(2月)、対外・対内証券投資 (2月26日-3月4日)、東京オフィス空室率(2月)、工作機械受注(2月)
・米大統領が予算教書、米GE投資家会議、EU貿易相会合(非公式、10日まで)、ペルー中銀とマレーシア中銀が政策金利発表
・米新規失業保険申請件数 (3月3日終了週)、中国CPI・PPI(2月)、中国経済全体のファイナンス規模、新規融資、マネーサプライ(2月、15日までに発表)
- 3月10日(金)
・日銀金融政策決定会合・終了後に結果を公表・黒田総裁会見、三菱自動車工業が新中期経営計画を発表、家計支出(1月)、国内企業物価指数(2月)
・フォンデアライエン欧州委員長がバイデン米大統領を訪問、米アップルの年次株主総会、世界最大級の複合イベント「サウス・バイ・サウスウエスト(SXSW)」(米テキサス州、19日まで)
・米雇用統計(2月)、米財政収支(2月)、独CPI(2月)、英鉱工業生産(1月)、ロシアCPI(2月)
- 3月11-12日(土・日)
・世界保健機関(WHO)の新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)宣言から3年、米アカデミー賞授賞式、米夏時間開始
(Bloombergをもとにフィリップ証券作成)
※本レポートは当社が取り扱っていない銘柄を含んでいます。
■エヌビディアのAI向け半導体
米エヌビディア(NVDA)の22年11月-23年1月期決算は、コロナ禍で買替え需要が一巡したゲーム用GPU(画像処理半導体)の在庫調整が続いたことが響き、売上高が前年同期比21%減、純利益が53%減。主力2部門ではゲーム部門が同46%減収、データセンター部門が同11%増収。前四半期比では、ゲーム部門が16%増収、データセンター部門が5%減収。全体の調整後粗利益率が改善傾向だ。
データセンター部門については顧客の間で経済減速を警戒する動きが出ている一方、人工知能(AI)の演算に使う半導体には強い需要があり、同社CEOも「AIは転換点を迎えた」と指摘。チャットボットのChatGPTなどに使われる「生成AI」の活用が様々な産業で広がるとの見通しを示した。押し目買い候補銘柄となり得よう。
【エヌビディアのAI向け半導体~対話型AIのChatGPTがもたらす商機】
■香港ドルの米ドルペッグ下限到達
香港ドルは米ドルへのペッグ制の下で1米ドル(USD)=7.75~7.85香港ドル(HKD)と定められるなか、香港ドルは下限の7.85香港ドル付近での推移が続く。通貨安の直接の原因は米国と香港の市中金利の差が広がっていることだ。米国で利上げ長期化観測が強まる一方、香港経済は弱く資金需要に乏しいことから香港の市中金利は低下圧力がかかっている。香港当局は豊富な介入原資の外貨準備を背景にペッグ制維持に自信を示している。これは日銀が長期金利の変動許容幅上限を0.5%と定めて長期国債の買い入れを行うのと同じ構図だ。
香港ハンセン指数はこのような特別な事情があることから上海総合指数と比べて価格変動性が高まりやすい。米金利動向次第で相場波乱要因となり得よう。
【香港ドルの米ドルペッグ下限到達~対米金利差で日本長期金利と同問題】
■CPI上昇率が1981年9月来水準
2/24発表の1月の全国消費者物価指数(生鮮食品除くコアCPI)は前年同月比4.2%上昇と、第2次石油危機時の1981年9月(4.2%上昇)以来の41年4ヵ月ぶり高水準となった。1981年9月と2023年1月のそれぞれを取り巻く環境を比べると、81年9月がイランイラク戦争開始から1年経過、23年1月がロシアのウクライナ侵攻から11ヶ月後である点が類似している。他方、81年9月は全国コアCPIが80年5月の同8.4%上昇をピークに減速傾向が続いている最中だったのに対し、23年1月は上昇加速の只中にある点が異なる。
イランイラク戦争は1988年まで続き今のロシア類似でイランが国際的に孤立。今のウクライナ類似でイラクが米国やソ連からも軍事支援を受けていた。多くの面で現在と似ていた面が見られていた。
【CPI上昇率が1981年9月来水準~イランイラク戦争開始1年後、その後7年】
■銘柄ピックアップ
日本道路(1884)
7,090 円(3/3終値)
・1929年に日本ビチュマルス舗装工業で創業。ゼネコン大手の清水建設(1803)子会社。塗装工事を主体とする建設事業、アスファルト合材・乳剤その他舗装用材料の製造・販売事業を主とする。
・1/31発表の2023/3期9M(4-12月)は、売上高が前年同期比1.2%減の1138.75億円、営業利益が同44.5%減の34.46億円。工事受注高は官庁・民間ともに堅調で同5.7%増の954.16億円。建設は減収減益、製造・販売は増収減益。利益面では原材料価格やエネルギー価格の高騰が響いた。
・通期会社計画を下方修正。売上高は前期比1.0%増の1580億円、年間配当が同30円減配の180円で据え置きも、営業利益を同32.9%減の55億円(従来計画77億円)とした。同社は駐車場や歩道に埋め込む太陽光パネルを開発。23年度にも自治体向け販売を目指す。また、2日終値でのPBRは0.65倍。親会社の同PBRも0.66倍であり、企業グループ全体での低PBR脱却が求められよう。
ゴルフダイジェスト・オンライン(3319)
948 円(3/3終値)
・2000年設立のゴルフ専門ITサービス企業。ゴルフ用品販売等、ゴルフ場予約、広告、屋内レッスンスタジオ運営の「国内事業」、およびゴルフレッスン、ゴルフ関連事業開発の「海外事業」を営む。
・2/14発表の2022/12通期は、売上高が前年同期比16.4%増の460.90億円、営業利益が同30.3%減の11.89億円。海外事業における強いゴルフ需要を受けた直営店舗増加が増収に貢献。連結子会社の米国GOLFTEC持分追加取得およびゴルフ弾道測定機のSkyTrak事業取得により営業減益。
・2023/12通期会社計画は、売上高が前期比15.0%増の530億円、営業利益が同72.3%増の20.5億円、年間配当が同横ばいの9.50円。国内事業は売上高が同9%増の300億円、EBITDAが同19%増の31.5億円に対し海外事業は売上高が同24%増の230億円、EBITDAが同88%増の26.5億円を見込む。米国でゴルフ人口が拡大するなか22年にOFFコースがONコースのゴルファー数を超えた。
さくらインターネット(3778)
612 円(3/3終値)
・1999年設立のデータセンター(DC)独立系大手。パブリッククラウドや共有ホスティングなど「クラウドサービス」、DC内でハウジングサービスや専用サーバ利用など「物理基盤サービス」を主に営む。
・1/31発表の2023/3期9M(4-12月)は、売上高が前年同期比2.9%増の150.43億円、営業利益が同58.1%増の6.94億円。主なカテゴリー別売上高は、クラウドサービスが同8%増の87.75億円、物理基盤サービスは、企業ITインフラのクラウドへの移行本格化を受けて同19%減の27.48億円。
・通期会社計画は、売上高が前期比1.7%増の203.50億円、営業利益が同82.1%増の13.90億円、年間配当が同0.50円増配の3.50円。主力2カテゴリーに付随する「その他サービス」の9Mが政府衛星データ関連等が伸びて前年同期比14%増の35.20億円と官公庁向け実績も豊富。政府機関のデジタル化を支えるクラウド分野で国内勢単独の「国産クラウド」としての受注獲得を目指している。
三協立山(5932)
729 円(3/3終値)
・立山アルミニウム工業と三協アルミニウム工業が2003年に経営統合のアルミ建材大手。住宅用サッシ市場で国内3位。建材事業、マテリアル事業、商業施設事業、国際事業の4事業で構成される。
・1/12発表の2023/5期1H(6-11月)は、売上高が前年同期比13.4%増の1871.28億円、営業利益が同71.2%減の8.75億円。マテリアル事業が一般機械分野好調とアルミ地金市況上昇で増収増益。主力の建材事業は売上高が同4%増の943億円も資材価格上昇が響きセグメント利益赤字転落。
・通期会社計画は。売上高を前期比11.0%減の3780億円(従来計画3750億円)に上方修正も、価格改定の浸透遅れにより営業利益を同2.2%減の37億円(同50億円)へ下方修正。年間配当は同5円増配の20円で据え置き。住宅についてはローン金利が金融機関で上がる動きからの駆け込み需要が期待される。2日終値でのPBRは0.26倍。住宅用サッシ国内首位のLIXIL(5938)は約1.0倍。
ラッフルズ・メディカル・グループ(RFMD)
市場:シンガポール 1.39 SGD (3/2終値)
・1976年設立のシンガポール唯一の民間医療サービス機関。シンガポールのほか中国、日本(大阪市)、ベトナム、カンボジアの14都市で医療施設を運営。国策の医療ツーリズムの中心的役割。
・2/27発表の2022/12通期は、売上高が前期比5.9%増の7.66億SGD、EBITDAが同47.0%増の2.36億SGD。外国人患者がシンガポールへ治療目的で戻ってきたことが業績を押し上げた。加えて貯蔵・消耗品費が同26%減、人件費が同12%減などコスト管理や人員配置改善が利益に貢献した。
・中国政府が2月から既にシンガポールを含む20ヵ国を対象に海外への団体旅行を解禁。23年外国人訪問者数はシンガポール政府目標が19年比63~73%となるなかで上振れが期待される。シンガポールは周辺国と比べてがん治療などの先進治療の水準が高く、高額な医療費であっても医療目的で訪問する外国人が多い。同社は「国際患者センター」を開設して「医療ツーリズム」に対応。
■アセアン株式ウィークリーストラテジー
(3/6号「インドネシアとマレーシア、タイの動向」)
アセアン主要6ヵ国の1月の新車販売台数は前年同月比3%増と前年同月実績を16ヵ月連続で上回った。天然資源の輸出などで経済が潤っているインドネシアとマレーシアが堅調で、インドネシアが同12%増、マレーシアが同19%増。インドネシアは石炭のほか銅やニッケルなど鉱物資源にも恵まれ、マレーシアも石油や天然ガスに恵まれている。アブラヤシから採れる植物油パーム油は両国で世界の生産の約85%を占める。
これに対し、タイは同3%減と3ヵ月連続で前年同期マイナスとなるなど、工業製品の輸出減速が響き景気回復が相対的に弱い。タイ経済の成長には2019年までGDPの2割を占めていた観光業の復興が欠かせないとみられる。カジノ合法化への世論の拒否反応が強い中でタイ国会が1月、カジノ合法化に向けた関連制度の概要案を承認した。
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アナリストのご紹介 フィリップ証券リサーチ部
笹木 和弘
フィリップ証券株式会社:リサーチ部長
証券会社にて、営業、トレーディング業務、海外市場に直結した先物取引や外国株取引のシステム開発・運営などに従事。その後は個人投資家や投資セミナー講師として活躍。2019年1月にフィリップ証券入社後は、米国・アセアン・日本市場にまたがり、ストラテジーからマクロ経済、個別銘柄、コモディティまで多岐にわたる分野でのレポート執筆などに精力的に従事。公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト(CIIA®)。