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フィリップ証券シンガポール 2023年セクターリポート(金融部門)

 

金融セクター部門レポート

セクター投資レーティング:オーバーウェイト

原文:ポール・チョー(Paul Chew)

フィリップ証券シンガポール・投資調査部長

(原文公開:1月4日)

翻訳作成日:1月24日

レポートサマリー

  • 2022年に金利は過去最高水準に達し、銀行の純利息マージン(NIM)は連動して上昇した。このNIMの上昇は、貸付金の伸びの鈍化と手数料収入の減少により一部相殺された。
  • マクロ経済の見通しが安定すれば、超過自己資本比率は特別配当につながる可能性がある。
  • 我々は、シンガポールの銀行セクターを引き続きオーバーウェイトとする。

2022年レビュー

金利上昇により、純利息マージン(NIM)および純金利利益(NII)は急増した:2022年のFRBの利上げは過去最高となる合計425bpsで、その結果、シンガポールにおける3ヶ月SORA/3ヶ月SIBORはそれぞれ2.69%/3.99%(前年比+253/355bps)となった(図1)。その結果、銀行の 純利息マージン(NIM) は22年 1Q の 1.53%から 22年3Q では 1.97%へと 44bps 増加し、3Q22 の資金利益(NII)は前年同期比 42%急増した。しかし、NIMの上昇は、ローンおよび預金量の緩やかな減少、手数料およびその他の非金利収入の減少により、若干相殺された。

図1: 銀行の純利息マージン(NIM)は22年中上昇した

引用元:  フィリップ・セキュリティーズ・リサーチ(PSR), 各企業公表値

手数料収入は、21年より減収した:22年第3四半期の手数料収入は前年同期比14%減(図2)であった。世界的に投資マインドがリスクオフとなる中で、顧客の動きは低調だった。主にウェルスマネジメント部門と投資銀行部門で収入が減少した。しかし国境が再開され始めたことによる消費の増加に伴ったクレジットカード手数料の増加やローン関連手数料の増加により、収入の減少は若干相殺された。銀行の一般貸倒引当金(GP)は、総額1億8600万シンガポールドルに増額した。21年決算期における戻入額(3億3400万シンガポールドル相当)から一般貸倒引当金を調整したことが主因だ。しかしながら、与信費用は軒並み改善し、22年3Qの与信費用は12bps(21年決算では20bps)となった(図3)。これは、22年3Qの特定引当金(SP)が前年同期比で32%減額したためである。支払い猶予下にあるローンの影響は僅少であり、22年初頭に猶予が解除されるローンの大半は正常債権であると、銀行は報告している。

図 2: 手数料収入は21年より減収している

引用元:  フィリップ・セキュリティーズ・リサーチ(PSR), 各企業公表値

図 3: 2020年の引当金(赤線)の増加に対して、次期の不良債権処理額(青棒グラフ)は低下した

引用元:  フィリップ・セキュリティーズ・リサーチ(PSR), 各企業公表値

 

SGX有価証券取引出来高減少、一方で派生商品は上昇傾向に:シンガポール証券取引所(SGX)における有価証券取引の出来高は減少傾向にあり、23年決算期5ヶ月間における有価証券の一日平均取引量(SDAV)は、マクロ経済要因による市場心理の低迷が続き、前年比10.5%減の10億9千5百万件の成立となった(図4)となった。出来高は過去最高だった22年決算期から緩やかに減少。しかし、SGXにおけるデリバティブ取引量は増加傾向にあり、23年決算期5ヶ月間のデリバティブ日次平均取引量(DDAV)は前年同期比9.4%増となった(図5)。市場のボラティリティが上昇し続ける中、デリバティブ取引量は23年決算期の残りの期間、上昇する可能性がある。

図 4:シンガポール証券取引所の23年決算期の5ヶ月間の有価証券取引の日次出来高(SADV)は前年比で低下した。

―有価証券日次出来高および前年比増加率の3ヶ月移動平均値の比較ー

引用元:  フィリップ・セキュリティーズ・リサーチ(PSR), 各企業公表値

図 5: シンガポール取引所の日次デリバティブ取引出来高は上昇傾向にある

-デリバティブ取引日次出来高および前年同期比増加率の3ヶ月移動平均値の比較-

引用元:  フィリップ・セキュリティーズ・リサーチ(PSR), 各企業公表値

2023年見通し

金利は引き続き上昇を続ける:3ヶ月SORA(シンガポール・スワップ・オファー金利)と3ヶ月SIBOR(シンガポール銀行間取引金利)は21年度の過去最低水準から、22年度に過去最高水準をつけた。我々は2023年度後半まで金利が上昇すると予想している(図6)。市場予想では、FRB金利は23年に5%を超える。100ベーシスポイントの変動は10-15%収益上昇になりえる。

図 6: 金利水準は記録的な高さにある

-純利息マージン平均値(%)とベンチマーク金利(3ヶ月SIBORおよびSORA)比較-

引用元:  フィリップ・セキュリティーズ・リサーチ(PSR), 各企業公表値

純利息マージン(NIM)は上昇する見通し:大手地場銀行3行とも純利息マージン(NIM)の見通しを引き上げており、2023年後半まで成長する見込みとなった。これは主に、2023年下期まで続くと予想される利上げによるものである。しかし、NIMとNIIの上昇は、世界的な市場心理の悪化による貸出金の伸びの鈍化(1桁台半ば)と手数料収入の減少によって相殺されることになるであろう。大手地場銀行3行は、22年度決算予想のNIMを1.75-2%とし、23年上期にはこの水準を上回るようにすることを目標としている。

中国へのエクスポージャーを考慮する必要がある:大手地場銀行3行の中国に対するエクスポージャーは依然として小さく、総エクスポージャーの10%未満である。DBS は 22 年上半期に総貸付額の 14%にあたる 620 億シンガポールドルを中国向けに計上し、OCBC は 22 年第 3 四半期に総貸付額の 11%にあたる 340 億シンガポールドルを中国向けに計上している。UOB は 22 年第 3 四半期で 5%の 230 億シンガポールドルを中国国内で貸し出している。これらの顧客の大半は、主に国内銀行や政策性銀行、一流国営企業、現地大手企業、外資系投資会社などである。これら3大行の中国における企業向け不動産ローンへのエクスポージャーは依然として僅少である。

セクター投資レーティング

オーバーウェイト継続:金利が過去最高水準にあり、利益がパンデミック前の水準を上回っている状況は、2023年中継続すると我々は見ている。 金利は23年下期まで上昇を続ける見通しであり、2023年にはNIMとNIIの更なる成長余地があり、それが収益を押し上げると考える。銀行の配当利回りは魅力的であり、過剰な自己資本比率を解消することによる配当額のアップサイドサプライズも期待できる。さらに、安定した経済情勢と金利上昇は、引き続き銀行セクターの追い風となる。

DBS銀行 (DBS, 買い, 目標株価: S$41.60) はローンや取引のパイプラインが充実しており、また、融資資産の信用見通しが良い。OCBC (OCBC, 買い, 目標株価: S$14.22) は現在の株価水準に魅力的があり、Tier1に該当する普通株式のバッファが 14.4% あるため、貸倒引当金の減少に伴い特別配当によるアップサイドの可能性もある。そして シンガポール証券取引所 (SGX SP, 買い, 目標株価: S$11.71) は、デリバティブ取引の手数料が成長を持続し、金利上昇が始まることで財務利益が増加すると考えられる。

 

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アナリストのご紹介 フィリップ証券リサーチ部

笹木和弘プロフィール笹木 和弘
フィリップ証券株式会社:リサーチ部長
証券会社にて、営業、トレーディング業務、海外市場に直結した先物取引や外国株取引のシステム開発・運営などに従事。その後は個人投資家や投資セミナー講師として活躍。2019年1月にフィリップ証券入社後は、米国・アセアン・日本市場にまたがり、ストラテジーからマクロ経済、個別銘柄、コモディティまで多岐にわたる分野でのレポート執筆などに精力的に従事。公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト(CIIA®)。

 

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世界経済のけん引役と期待されるアセアン(ASEAN:東南アジア諸国連合)。そのアセアン各国で金融・証券業を展開し、マーケットを精通するフィリップグループの一員である弊社リサーチ部のアナリストが、市場の動向を見ながら、アセアン主要国(シンガポールタイマレーシアインドネシア)の株式市場を独自の視点で徹底解説します。

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