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投資戦略ウィークリー 2022年12月19日号(2022年12月16日作成)】”欧米景気懸念、増税、航空機需要、物流2024年問題”

 

■欧米景気懸念、増税、航空機需要、物流2024年問題

  •  年末に向けて株価上昇の期待感を込めて「掉尾の一振」という言葉が使われる時期となった。12月は節税対策の売りが出やすい一方、それが一巡して9月中間配当の受け取り金や冬のボーナス、あるいはNISAの年間投資枠の消化など需給面からの買い要因があることも事実だろう。ところが、今年は現地14日に発表された米FOMC(連邦準備制度理事会)で2023年の金利見通しが引き上げられ、欧州中央銀行(ECB)もラガルド総裁が「金利は大幅かつ安定したペースで引き上げられなければならいと判断」と述べた。市場の願望は「インフレ抑制はもういいから、景気のことも考慮してほしい」といったところか。
  •  それに加え、日本で旧統一教会問題で被害者救済法が成立後、防衛費増額の財源を賄う増税策を巡り自民党の税制調査会が15日、法人税、所得税、たばこ税の3つの項目を組み合わせる案を了承。法人税は納税額に4%~5%の付加価値税を課すとしている。EPS(1株当たり純利益利益)の将来期待値も減少することから、今年6月以降に東証マザーズ市場の堅調な推移など日本株相場をけん引してきたグロース銘柄へのダメージが懸念される。
  •  防衛費増額の議論は来年4月投開票予定の統一地方選挙などに向けて政局の火種となり、日本株相場を揺さぶることが想定されるなか、その防衛費増額の恩恵は、三菱重工業7011川崎重工業7012IHI7013新明和工業7224ナブテスコ6268東京計器7721ほか防衛関連企業に集中することとなる。防衛関連銘柄の多くは航空エンジンなどで航空機需要が大きく業績に関わっている。航空機メーカー世界大手の米ボーイングBAが13日、米ユナイテッド航空UALから中型機787ドリームライナーを100機追加発注・100機追加発注オプション契約も締結。インド航空会社エア・インディアも正式発注が近いとされている。国境を跨ぐ人の移動がこれから活発化しそうなアジア地域を中心に同様の動きが相次ぐと期待される。上記銘柄に加えて炭素繊維複合材の東レ3402日機装6376、航空機用の厨房設備・化粧室を提供のジャムコ7408などへ追い風が期待されよう。
  •  「物流の2024年問題」期限(2024年4月1日)まであと1年3ヵ月強を残すこととなった。トラック運転手の時間外労働の上限規制適用により輸送能力不足が顕在化し、物流コストの大幅上昇にとどまらず一部で貨物が運べなくなる事態の発生も懸念される。ドローン専業のACSL6232は6日、日本郵便などと共同開発による大型物流ドローンの新機体を発表。有人地帯での目視外飛行「レベル4」を前提に23年度以降の配送実用化を目指すとのこと。(笹木)
  • 12/19号ではエニグモ(3665)フルヤ金属(7826)パスコ(9232)東京インフラエネルギー投資法人(9285)、テレコムマレーシア(T)を取り上げた。

■主な企業決算の予定

  • 1219日(月): コーセル
  • 1220日(火): 日本オラクル、(米)フェデックス、ナイキ
  • 1221日(水):(米)マイクロン・テクノロジー、シンタス
  • 1222日(木):゙大光、(米)ペイチェックス
  • 1223日(金): ニイタカ、ニトリホールディングス

主要イベントの予定

  • 1219日(月)

・ホンダの青山専務が東京工業大学で講演、トリドリが東証グロースに新規上場、資金循環統計(7-9月速報)、首都圏新築分譲マンション(11月)

・米下院特別委員会で連邦議会議事堂襲撃事件の最終報告書承認採決、EUエネルギー相会合(ブリュッセル)、マレーシア議会でアンワル首相の信任投票

・米NAHB住宅市場指数(12月)、独IFO企業景況感指数(12月)

 

  • 1220日(火)

・モノアイ・テクノロジーとインフォリッチが東証グロースに新規上場、日銀金融政策決定会合・終了後に結果を公表・黒田総裁が会見

・中国1年・5年物ローンプライムレート(LPR)

・米住宅着工件数 (11月)、 ユーロ圏消費者信頼感指数 (12月)

 

  • 1221日(水)

・日本証券業協会の森田会長が定例会見、サンクゼール・アイズ・noteが東証グロースに新規上場、工作機械受注(11月)、訪日外客数(11月)、月例経済報告(12月)

・米下院特別委員会で連邦議会議事堂襲撃事件の最終報告書公表の見込み

・米経常収支 (3Q)、米中古住宅販売件数 (11月)、米消費者信頼感指数・カンファレンスボード(12月)

 

  • 1222日(木)

・ジグジェイピーが東証グロース・ コーチ・エィが東証スタンダードに新規上場、対外・対内証券投資(12月11-17日)、日銀営業毎旬報告(12月20日現在)、景気一致指数・景気先行CI指数(10月)

・インドネシア中銀・トルコ中銀が政策金利発表

・米新規失業保険申請件数 (17日終了週)、米GDP (3Q、確定値)、米景気先行指標総合指数 (11月)、英GDP(3Q)

 

  • 1223日(金)

・ジェノバが東証グロースに、アソインターナショナルが東証スタンダードに新規上場、日銀政策委員会・金融政策決定会合議事要旨(10月27・28日分)、全国CPI(11月)、全国CPI(11月)、全国百貨店売上高(11月)、 東京地区百貨店売上高(11月)

・米債券市場短縮取引

米個人所得・支出 (11)、米個人消費支出(PCE)価格指数 (11)、米耐久財受注 (11月)、米新築住宅販売件数(11月)、米ミシガン大学消費者マインド指数・改定値(12月)

(Bloombergをもとにフィリップ証券作成)

※本レポートは当社が取り扱っていない銘柄を含んでいます。

米企業株価と相対力指数(RSI)

よく使われる株価のテクニカル分析で買われ過ぎか売られ過ぎかを判断するための指標として「相対力指数(RSI)」がある。RSIは直近の一定期間において終値ベースで上昇幅の合計を、その一定期間の上昇幅と下落幅の合計で割った割合であり、30を下抜けるほど売られ過ぎた後に反発し、30を上抜けるような動きとなった場合には買戻しが強まりやすいとされる。反対に相場の上昇基調が続き、RSIが70を上回るほど買われ過ぎた後に70を下抜けるような動きとなった場合は、調整売りが強まりやすいとされる。

米国株に関し個人投資家の間で高い人気のアップルAAPLテスラTSLAを比較すると、足元のテスラの株価は下落基調も14日間RSIが30を下回った後に30を上回りつつあることから、注目されよう。

【米企業株価と相対力指数~株価下落もRSIの下値抵抗線が上向きで注目】

 

■香港株の昨年末来騰落率に異変

香港ハンセン指数またはハンセンテック指数を構成する95銘柄(15日現在)について、13日終値での昨年末来騰落率の上位10銘柄は、中国神華能源1088/HK中国海洋石油883/HKといったエネルギー関連国営企業が引き続き上位を占める一方、今までと異なる逆転現象も起きている。特に5位と6位の阿里健康信息技術241/HK京東健康6618/HKは数ヵ月前まで騰落率で下位だったが、22年4-9月期の業績が堅調だったほか中国当局が新型コロナ感染者の自宅療養を認めたことを受け、解熱剤などのネット購入が急増と報じらたことで株価が上昇した。サンズ・チャイナ1928/HK提程旅行網9961/HK、火鍋のハイディラオ6862/HKの株価堅調もゼロコロナ政策見直しに伴うものだ。

【香港株の昨年末来騰落率に異変~騰落率低順位だった銘柄が一挙逆転】

■NISA制度改正と高配当利回り株

自民党の税制調査会は13日、少額投資非課税制度(NISA)の年間投資枠を360万円に拡げ、生涯通算で1800万円の投資上限枠を設ける税制改正の内容を了承。24年からは配当金・分配金に税金がかからず投資できる期間が無期限となることから、高配当利回り投資を早めにNISAで行うことで非課税配当をできるだけ確保しようとする動きも考えられる。

日経平均構成銘柄のうち配当利回りが高い50銘柄の「日経平均高配当株50指数」は9月中間決算に伴う中間配当金からの再投資の寄与もあり、日経平均と比べても足元で堅調に推移。世界景気の悪化懸念からの逃避先需要のほか、市場では、2022年度下期に約5兆円を投資する「大学ファンド」の配当利回り重視方針が貢献との声も聞かれる。

NISA制度改正と高配当利回り株~既に今年1年間も高配当株優位な傾向】

■銘柄ピックアップ

エニグモ(3665)  

 600 円(12/16終値)

・2004年設立。主に海外在住の日本人がパーソナルショッパーとして登録し、現地で話題のアイテムを出品・販売できるソーシャル・ショッピング・サイト「バイマ」を運営。ソニーG6758が筆頭株主。

・12/14発表の収益認識に関する会計基準適用後の2023/1期9M(2‐10月)は、売上高が47.40億円(前年同期52.98億円)、営業利益が8.24億円(同19.74億円)。急速な円安進行と海外インフレに伴う出品価格上昇が消費マインド低下に繋がったなかで、TVCM放映など認知度向上に努めた。

・通期会社計画は、様々な投資を機動的かつ柔軟に実行していく方針の下、営業黒字を前提としながらも減益を許容することから合理的に算定が困難としている。同社は海外に約19万人のパーソナルショッパーを擁し、商品を仕入れる前に購入者からの予約注文を受け付けてから買い付けるため在庫リスクが発生せず、購入者のクレジットカード与信枠を押さえるなど独自スキームを有する。

フルヤ金属7826)  

 9,230 円(12/16終値)

・1951年設立。白金族(プラチナ、イリジウム、パラジウム、ロジウム、ルテニウム)を中心に工業用貴金属製品の製錬・加工販売を行う。電子、薄膜、サーマル、ケミカルの主要4事業セグメントを営む。

・11/7発表の2023/6期1Q(7-9月)は、売上高が前年同期比11.4%増の132.01億円、営業利益が同5.6%減の44.72億円。堅調な貴金属相場を背景に電子事業の同83%増収をはじめ4事業全てが増収も、薄膜と事業ケミカル事業は製品受注に紐づく貴金属原材料販売減により粗利益が減少。

・通期会社計画は、売上高が前期比2.6%増の465億円、営業利益が同5.2%増の137.4億円。英調査機関ワールド・プラチナ・インベストメン・カウンシル8WPIC)によれば2023年の白金の世界需給が3年ぶりに供給不足になるとの見通し。世界生産の約7割の南アフリカで脆弱な電力インフラを背景とした計画停電が頻発。自動車排ガス浄化触媒や水分解による水素製造の触媒など需要増も見込まれる。

パスコ(9232  

 1,352 円(12/16終値)

・1953年設立。空間情報サービ事業(地理空間情報の収集、加工・処理・解析、ICT活用の情報サービス)を行う。「国内部門」(国内公共部門、国内民間部門)および「海外部門」から構成される。

・11/9発表の2023/3期1H(4-9月)は、売上高が前年同期比7.1%増の245.98億円、営業利益が前年同期の▲2.51億円から▲81百万円へ赤字花縮小。2021年度開始の「防災・減災、国土強靭化のための5ヵ年加速化対策」のほか岸田政権の「デジタル田園都市国家構想」等の好環境が持続。

・通期会社計画は、売上高が前期比2.4%増の579億円、営業利益が同1.7%減の40億円、年間配当金が同5円増配の45円。収益は年度末納期に向けて増加の傾向。国内民間部門では2024年4月よりトラック運転手への残業規制適用など働き方改革により発生する「2024年問題」に関し、輸配送管理システムソリューション提供に注力するなど「物流DX(デジタル変革)」推進活動を本格化。

東京インフラ・エネルギー投資法人(9285  

96,000 12/16終値

・半導体事業や再生エネルギー事業を行うアドバンテック傘下の東京インフラHDをメインスポンサーとする。上場時資産5件は全て太陽光発電所だが、投資方針上は再生エネルギー全体を対象。

・8/19発表の2022/6期(1-6月)は、営業収益が前期(21年7-12月)比11.7%増の9.36億円、営業利益が同62.6%増の3.15億円、利益超過分配金含む1口当り分配金が同横ばいの3080円。当期において新たな資産の取得または保有資産の売却はなく、保有資産の保守・メンテナンスに注力。

・2022/12期(7-12月)会社計画は、営業収益が前期比30.5%増の12.21億円、営業利益が同26.8%増の4億円、利益超過分配金含む1口当たり分配金が同63円減配の3017円。15日終値で23年6月期までの会社予想分配金に基づく予想分配金利回りは6.29%。今年は上場インフラファンドに対するTOB(株式公開買付)が相次いだ。また、非課税枠での分配金利回り狙いも注目されよう。

テレコム・マレーシア(T

市場:マレーシア   5.10 MYR 12/15終値)

・イギリス植民地統治再開時の1948年に国営通信会社として設立。部門ごとの分離・分割民営化を経て現在はブロードバンド・データ・固定通信を含む総合的通信サービスとソリューションを提供。

・11/22発表の2022/12期3Q(7-9月)は、総収益が前年同期比12.7%増の31.58億MYR、EBITDAが同22.8%増の12.58億MYR。音声を除くインターネット、データ通信、ICT・インフラシェアリングが好調。純利益は政府による期間限定の超過利潤税およびイスラム税(ザカート)により同2.2%減。

・通期会社計画を上方修正。増収率を前期比1桁台半ば~後半(従来計画1桁台前半~半ば)、EBIT(利払い前税引き前利益)を23億MYR(同18億MYR以上)とした。マレーシア政府は5G通信への移行に向けデジタルインフラ計画「ジェンデラ」を導入する中、今年7月にデジタル経済発展に向けた「マレーシア・デジタル」の立ち上げを発表。国策企業の色彩が強い同社への追い風となろう。

■アセアン株式ウィークリーストラテジー

12/19号「マレーシアやタイのデジタルノマドピビザ」

マレーシア政府が立ち上げた「マレーシア・デジタル(MD)」は、IT産業の発展を進めるべく25年間続けてきた「マルチメディア・スーパー・コリドー(MSC)」の後継戦略に当たる。その中で、IT・デジタル分野で活躍するフリーランサーやリモートワーカーに向けたマレーシアの長期滞在ビザである「デジタルノマドビザ」が注目され、今年10月から運用が開始された。このビザは、3~12ヵ月間で滞在が可能で最長12ヵ月の更新も可能。また、配偶者や扶養家族などの滞在も可能であり、年収条件は2万4千USD以上とされている。

タイでも今年9月、高度な技能を有する外国人専門家、デジタルノマド、およびタイ国で適格投資を行う個人を対象に新たな長期滞在ビザ(LTR)を導入。LTR査証は最長10年間有効とされる。

 

 

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アナリストのご紹介 フィリップ証券リサーチ部

笹木和弘プロフィール笹木 和弘
フィリップ証券株式会社:リサーチ部長
証券会社にて、営業、トレーディング業務、海外市場に直結した先物取引や外国株取引のシステム開発・運営などに従事。その後は個人投資家や投資セミナー講師として活躍。2019年1月にフィリップ証券入社後は、米国・アセアン・日本市場にまたがり、ストラテジーからマクロ経済、個別銘柄、コモディティまで多岐にわたる分野でのレポート執筆などに精力的に従事。公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト(CIIA®)。

 

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世界経済のけん引役と期待されるアセアン(ASEAN:東南アジア諸国連合)。そのアセアン各国で金融・証券業を展開し、マーケットを精通するフィリップグループの一員である弊社リサーチ部のアナリストが、市場の動向を見ながら、アセアン主要国(シンガポールタイマレーシアインドネシア)の株式市場を独自の視点で徹底解説します。

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