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投資戦略ウィークリー 2022年12月5日号(2022年12月2日作成)】”短期的な相場リズム、中小型グロース銘柄堅調の背景”

 

■短期的な相場リズム、中小型グロース銘柄堅調の背景

  •  当ウィークリー先週号で「相場のリズム」として、日経平均株価について「6/20に2万5520円の安値を付けてから反転上昇して8/17に2万9222円の高値を付けるまでが41営業日」であり、2万5621円の安値を付けて反転した10/3から数えて41営業日(12/1)近辺が「折り返し地点」として要注意かもしれないと述べた。実際には、米国時間11/30のパウエル米FRB議長が講演で利上げ幅縮小を示唆したことを受け、1日の寄り付き直後に2万8423円まで上昇したものの強い戻り売り圧力に押され、翌2日は寄り付きの2万8000円割れから大きく売られる展開となった。パウエル議長発言に続き、米国で1日発表の個人消費支出の伸び鈍化や製造業に係る経済活動縮小などの指標が相次いだことからドル安円高が一挙に進んだことが嫌気された面もあるだろう。また、来週9日に指数先物・オプションの最終決済に係る特別清算指数算出の「メジャーSQ」を控えることによる需給面の懸念や、世界的に組織再編を進める欧州大手金融機関クレディ・スイスの経営不振なども年末の資金需要期と重なって不安視されていることも考えられる。
  •  短期的な相場リズムに懸念はあるものの、1日に東証発表の投資部門別売買動向で海外投資家が11月第4週に日本株を現物・先物合計で9826億円買い越しと4ヵ月半ぶり高水準となったほか、日本経済にとってもインバウンド消費の大口先として期待される中国で反「ゼロコロナ」騒動発生後に各地で新型コロナ対策を一部緩和する動きも出るなど、来年に向けて投資環境は悪くない。
  •  主要株価指数の中でもグロース市場上場の国内株を対象とする東証マザーズ指数が堅調に推移。1日終値の6月末終値に対する騰落率は、日経平均株価が9%上昇、TOPIX(東証株価指数)が6.2%上昇であるのに対し、東証マザーズ指数は21.9%上昇だ。中小型のグロース銘柄は昨年11月の第2次岸田政権発足後から大きく売り込まれ、東証マザーズ指数も昨年11月高値から今年6月安値まで約48%の下落となっていた。その反動による平均回帰的な動きも相対的な上昇力の強さに繋がっている面もあろう。
  •  中小型のグロース銘柄の中には、今年4月の東証市場再編で「流通株式比率35%以上、流通株式時価総額100億円以上」などの上場維持基準に未適合ながらも「上場維持基準の適合に向けた計画書」の提出によりプライム上場が認められている企業がある。その中でプライム市場での生き残りをかけて成長戦略の実現に懸命に取り組み、業績向上として結果が出ている例が見られ始めていることも、足元で中小型株の株価が相対的に堅調に推移している背景にあるのかもしれない。(笹木)

12/5号では、ニーズウェル(3992)MRT(6034)日本電気(6701)、信越ポリマー(7970)オーバーシー・チャイニーズ銀行(OCBC)を取り上げた。

 

■主な企業決算の予定

  • 125日(月): ファーマフーズ
  • 126日(火): モロゾフ、不二電機工業
  • 127日(水) アイル、丹青社、東京楽天地
  • 128日(木):Casa、アイモバイル、アルトナー、コーセーアールイー、スバル興業、トップカルチャー、ビューティガレージ、ベステラ、ミライアル、積水ハウス、泉州電業、(米)ブロードコム、ドキュサイン、コストコホールセール、ルルレモン・アスレティカ
  • 129日(金): gumi、HEROZ、エイチーム、カナモト、サムコ、シーイーシー、シルバーライフ、トビラシステムズ、フリービット、ポールトゥウィンホールディン、稲葉製作所、鎌倉新書、丸善CHIホールディングス、三井ハイテック、鳥貴族ホールディングス、日本駐車場開発

 

主要イベントの予定

  • 125日(月)

・米コロンビア大学の伊藤隆敏教授、ESRI政策フォーラムにパネリストとして参加。テーマ「インフレ・ターゲティング10年を振り返って」、11月分の国内ユニクロ売り上げ速報、じぶん銀行日本サービス業・複合PMI (11月)

・ECB総裁の講演、ユーロ圏財務相会合(ユーログループ)、米EU貿易技術評議会(TTC)閣僚級会合(ワシントン)

・S&Pグローバル米サービス業・総合PMI(11月)、米耐久財・製造業受注 (10月)、米ISM非製造業総合景況指数(11月)、ユーロ圏サービス業・総合PMI(11月)、ユーロ圏小売売上高(10月)、中国財新サービス業・コンポジットPMI (11月)

 

  • 126日(火)

・毎月勤労統計(10月)

・米ジョージア州上院選決選投票、EU財務相理事会、 EU・西バルカンサミット(アルバニア)、豪中銀の政策金利発表

・米貿易収支 (10月)、独製造業受注(10月)、南アGDP(3Q)

 

  • 127日(水)

・中村日銀審議委員が長野県金融経済懇談会で講演・記者会見、景気先行CI指数・景気一致指数 (10月)

・ブラジル・ペルー中銀・インド中銀・ポーランド中銀が政策金利発表、ブルームバーグ、サステナブル・ビジネス・サミット(ニューヨーク)

・米消費者信用残高(10月)、米非農業部門労働生産性(7-9月確定値)、ユーロ圏GDP(3Q)、独鉱工業生産(10月)、中国外貨準備高 (11月)、中国貿易収支(11月)、豪GDP(3Q)

 

  • 128日(木)

・GDP(3Q)、経常収支・ 貿易収支(10月)、銀行貸出動向(11月)、対外・対内証券投資(11月27日-12月3日)、東京オフィス空室率(11月)、景気ウォッチャー調査 先行き判断・現状判断(11月)

・ECB総裁が講演、欧州防衛機関(EDA)年次会合(ブリュッセル)

・米新規失業保険申請件数 (12月3日終了週)

 

  • 129日(金)

・スズキの鈴木社長が電気通信大学で講演、マネーストックM2・M3(11月)

・米PPI (11月)、米卸売在庫(10月)、米ミシガン大学消費者マインド指数・速報値(12月)、 米家計純資産変化(3Q)、 中国CPI・ PPI(11月)、中国経済全体のファイナンス規模、新規融資、マネーサプライ(11月、15日までに発表)

(Bloombergをもとにフィリップ証券作成)

※本レポートは当社が取り扱っていない銘柄を含んでいます。

 

■VIX指数とMOVE指数(2000年代)

VIX指数とは、シカゴ・オプション取引所(CBOE)が米S&P500株価指数を元に算出・発表している株価変動率の数値で「恐怖指数」と呼ばれている。これに対し、米国債版の恐怖指数としてインターコンチネンタル取引所(ICE)が米国債先物の2年・5年・10年・30年物を元に加重して算出・公表する「MOVE指数」がある。

2002年11月からリーマン・ショックを経た10年11月までのVIX指数とMOVE指数のそれぞれの恐怖指数をみると、政策金利(FF金利誘導目標上限)が03年6月に1.0%に引き下げられたのち、04年6月末から06年6月までに17回(合計4.25ポイント)の利上げ局面で、株価のVIX指数、債券のMOVE指数ともに低下していた。債券利回り上昇が景気拡大の表れとして株価に好影響を与えていた面もあろう。

VIX指数とMOVE指数(2000年代)~20032007年までともに低下】

 

■VIX指数とMOVE指数(直近8年)

新型コロナ感染拡大で「恐怖指数」と呼ばれるVIX指数、MOVE指数ともに2020年3月に急騰後、それぞれ低下。21年以降、VIX指数は15-35ポイントのレンジの範囲内で推移した一方、MOVE指数は20年9月末の約37ポイントから、米10年国債利回りが4.2%を超えた22年10月下旬に157ポイントと、20年3月の高値水準を超えて一貫して上昇基調を辿った。リーマンショックを含む国際金融システムの危機状況だった08年10月には、MOVE指数が約264ポイントに達していた。

02年11月~06年11月にかけて見られたように金利上昇が必ずしも債券価格の変動性を高めるものではない。米FRB(連邦準備制度理事会)が利上げを継続するとしても、利上げ幅鈍化に伴いMOVE指数の低下に繋がる余地もあるだろう。

VIX指数とMOVE指数(直近8年)~MOVE指数は直近2年間で一貫して高騰】

■WSTS(世界半導体市場統計)

主要半導体メーカーで構成の世界半導体市場統計(WSTS)は11/29、2023年の半導体市場が前年比4.1%減になる見通しを発表。従来予想の同4.6%増から一転して4年ぶりのマイナス成長。落ち込み幅が特に大きいのが市場の2割強を占めるメモリー。メモリーを多く使い需要を下支えしてきたデータセンター向け投資にも陰りが出る兆しとして要注意だろう。

地域別では中国を含むアジア太平洋地域の同7.5%減が響いた。IC(集積回路)製品別でアナログ半導体が同1.6%増と唯一プラス見通し。連続した非数値化情報とデジタル信号との変換を行うアナログ半導体は、「IoT(モノのインターネット)」の増加に伴う需要増が期待される。米テキサス・インスツルメンツ(TXN)が世界市場の約2割を占めて首位だ。

WSTSの世界半導体市場統計~除くアジア太平洋、アナログは底堅いか】

■銘柄ピックアップ

ニーズウェル(3992)       

766 円(12/2終値)

・1986年設立の独立系システムインテグレータ。金融・物流・通信・流通等向けの業務系システム開発、基盤構築、IoT向けのコネクテッド開発、ソリューション・商品売上の4事業を営む。金融に強み。

・11/10発表の2022/9通期は、売上高が前年同期比17.0%増の67.30億円、営業利益が同19.0%増の6.90億円。コネクテッド開発を除く3事業が2桁台の増収率と堅調に推移。特に売上構成比約13%のソリューション・商品売上は独自のソリューション提供が奏功し同37.4%増収と伸長。

・2023/9通期会社計画は、売上高が前期比20.4%増の81.00億円、営業利益が同17.3%増の8.10億円、年間配当金は同3円増配の23円。同社は30日、メルカリ4385からITアウトソーシングサービスの受注を発表。また、東証市場再編で選択したプライム市場が求める「流通株式時価総額100億円以上」の基準達成に向けて企業買収のほか受注・販路先拡大に向けた業務提携を積極化。

MRT6034)   

1,874 円(12/2終値)

・2000年に東大医学部付属病院の医師の互助組織を母体として発足。医師に対するインターネットを活用した非常勤および常勤医師紹介を中心とした医療情報プラットフォーム事業を展開する。

・11/11発表の2022/12期9M(1-9月)は、売上高が前年同期比2.1倍の69.89億円、営業利益が同2.1倍の25.88億円。新型コロナワクチン接種のための医療従事者確保のほか医療人材マッチングアプリ「MRT WORK」の利用者増、自宅療養者へのオンライン診療サービス等が堅調に推移した。

・通期会社計画を上方修正。売上高を前期比79.0%増の80億円(従来計画70億円)、営業利益を同2.1倍の26.5億円(同22億円)とした。従来計画は4回目の新型コロナワクチン接種を想定していなかった。また、年間配当金を無配とするなか11/29に同社にとって初配当となる特別配当30円の実施を発表。新型コロナワクチン特需の反動減懸念も、12/1終値で予想PERは5.7倍と割安水準。

日本電気(6701  

4,830 円(12/2終値)

・1899年創業の官公庁・企業向けITサービス大手。パブリック、エンタープライズ、ネットワークサービス、システムプラットフォーム、グローバルの5事業を営む。通信インフラで国内首位を占める。

・10/28発表の2023/3期1H(4-9月)は、売上収益が前年同期比5.2%増の1兆4553億円、本源的事業業績を測る調整後営業利益が同25.9%減の312億円。旺盛な企業向けITサービス需要増により増収も、基地局向け通信機器の資材価格高騰や海外通信工事の不採算案件が利益面で響いた。

・通期会社計画は、売上高が前期比3.8%増の3兆1300億円、調整後営業利益が同8.2%増の1850億円、年間配当が同10円増配の110円。11/16に月面探査プロジェクト「アルテミス計画」に係る米国の新型ロケット「SLS(スペース・ローンチ・システム)」初号機打上げが成功。ロケット先端に搭載された宇宙船「オリオン」は同社の「AIインバリアント」技術を基に米ロッキード・マーチンと協業で製造。

信越ポリマー(7970 

1,257 12/2終値

・1960年に、現在52%の株式を保有する親会社の信越化学工業4063の全額出資で設立。主に電子デバイス、精密成型品、住環境・生活資材の3事業を営む。半導体ウエハ容器を主力とする。

・10/26発表の2023/3期1H(4-9月)は、売上高が前年同期比20.2%増の525.49億円、純利益が同44.2%増の50.33億円。主力の精密成型品事業は、半導体のシリコンウエハ搬送容器やシリコンゴム成型品の需要が旺盛で売上高が同25%増の243.72億円、営業利益が同55%増の52.52億円。

・通期会社計画は、売上高が前期比16.6%増の1080億円、営業利益が同23.3%増の120億円、年間配当金が同10円増配の36円。信越化学工業は傘下企業として同社の他に半導体ウエハ研磨加工の三益半導体工業8155を38.6%保有する。傘下企業利益のグループ内確保のほか、少数株主保護など企業統治面から親子上場解消が求められるなか、同社PBRは12/1終値で0.96倍水準。

オーバーシー・チャイニーズ銀行(OCBC

市場:シンガポール    12.35 SGD 12/1終値)

・世界恐慌期の1932年に華僑系3銀行が合併して設立。シンガポール地場3大銀行の一角。シンガポールとマレーシアで最大手の保険会社Great Eastern HDや香港のWing Hang銀行などを擁する。

・11/4発表の2022/12期3Q(7-9月)は、総収益が前年同期比23.1%増の31.52億SGD、純利益が同31.1%増。営業収益に占める経費率が同6.1ポイント低下の40.3%、貸倒引当金繰入額が同5.5%減の1.54億SGDと改善のほか、関連会社からの持分法投資利益も同25.5%増の2.56億SGDと伸長。

・10/14にシンガポール通貨庁が主要通貨に対してSGD高へと誘導して金融を一段と引き締める方針を発表。2021年10月から5回連続となる。純金利マージンが3Qに前年同期比0.5ポイント上昇の2.1%のなか、更なるマージン拡大により純金利収益の増加が期待される。また、ブロックチェーンを使った排出権取引を扱う私設取引所「MVGX゙」と戦略的提携を行うなど環境金融の分野に注力。

■アセアン株式ウィークリーストラテジー

12/5号「マレーシア上場企業の『PN17』銘柄」)

マレーシアの格安航空会社大手のキャピタルA(旧エアアジア・グループ)は、2020年7月に大手会計事務所が事業継続のリスクを指摘したことからPN17銘柄の監視対象となり、新型コロナ対応の救済措置として1年半の猶予措置後の今年1月にブルサ・マレーシア(マレーシア証券取引所)から速やかな財務改善が求められる監視銘柄「PN17」に指定されていた。そのようななか、上場廃止の回避のため中距離専門のエアアジアXにグループ内航空事業を集約する事業再編構想を発表。キャピタルAとエアアジアXが来年1月に経営再建計画をを取引所に提出する予定だ。

「PN」とは「Practice Note」のことで、その17番目の条文なので「PN17」。財務状態について上場を維持していくことに疑問符が付いてしまった銘柄であり、上場廃止リスクが高いことを意味する。

 

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アナリストのご紹介 フィリップ証券リサーチ部

笹木和弘プロフィール笹木 和弘
フィリップ証券株式会社:リサーチ部長
証券会社にて、営業、トレーディング業務、海外市場に直結した先物取引や外国株取引のシステム開発・運営などに従事。その後は個人投資家や投資セミナー講師として活躍。2019年1月にフィリップ証券入社後は、米国・アセアン・日本市場にまたがり、ストラテジーからマクロ経済、個別銘柄、コモディティまで多岐にわたる分野でのレポート執筆などに精力的に従事。公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト(CIIA®)。

 

アセアン・米国株、個別銘柄のリサーチレポート承ります
世界経済のけん引役と期待されるアセアン(ASEAN:東南アジア諸国連合)。そのアセアン各国で金融・証券業を展開し、マーケットを精通するフィリップグループの一員である弊社リサーチ部のアナリストが、市場の動向を見ながら、アセアン主要国(シンガポールタイマレーシアインドネシア)の株式市場を独自の視点で徹底解説します。

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