投資戦略ウィークリー 2022年9月5日号(2022年9月2日作成)】”24年前のドル高円安と通貨危機、好調な法人企業統計”
■24年前のドル高円安と通貨危機、好調な法人企業統計
- ドル円為替相場のドル高円安が加速し、1日には1998年8月以来24年ぶりに1ドル140円を突破した。ユーロ・円・ポンド・スイスフランなど複数の主要通貨に対する米ドルの価値を指数化したドル指数(ドルインデックス)で見ると、98年は100ポイント台前半までにとどまった後に2001-02年には120ポイント超まで上昇している。1日終値で59ポイントのドル指数の更なる上昇に伴い、ドル円相場が一段高する可能性は残されていそうだ。
- 24年前をふり返ってみよう。1998年は、前年7月よりタイを中心に発生していた「アジア通貨危機」が中南米へ波及し、そして当年8月にはロシア通貨危機へと波及するなど、為替レートを事実上米ドルに連動させていた新興国通貨が急激に売られた時期だった。ロシア通貨危機によって大手ヘッジファンド(ロングターム・キャピタル・マネジメント)が経営破たん。その同じ8月にドル円相場は1ドル147円台までドル高円安が進んだ。
- 日本でも日本長期信用銀行および日本債券信用銀行が経営危機に陥り、10月の金融国会で可決成立した金融再生法と早期健全化法に基づいて両行ともに特別公的管理銀行として国有化された。そのようななか、ドル円相場は147円台の高値を付けた3ヵ月後に110円近辺までドル急落・円急騰となった。
- 米ドル高と米ドル金利上昇が急速に進んだ場合、ドル建て債務で多額の資金調達をしている新興国が財政面で困難をきたすようになり、通貨危機に陥りやすいことが示唆される。欧州でも、インフレ抑制に向けて8日の欧州中央銀行(ECB)理事会で75%ポイントの大幅利上げが実施される可能性がある。その場合、イタリアなど南欧国債利回りとドイツ国債の利回り格差拡大(市場分断)に繋がることでユーロの構造的脆弱性が露呈されるリスクも残る。
- 足元の日本企業を取り巻く環境は悪くない。財務省が1日発表した4-6月期の法人企業統計によると、設備投資(季節変動除く)は前四半期比9%増と2四半期ぶりに増加。特に製造業は同7.6%増と伸びるなど大企業を中心に22年度の積極的な投資が計画されている。経常利益は前年同期比17.6%増の28兆3181億円と過去最高を更新。売上高も同7.2%増と5四半期連続の増収だ。
- 8/27-28にチュニジアでアフリカ開発会議(TICAD)が開催され、岸田首相はオンラインで「2050年に世界人口の4分の1を占めると言われるアフリカは、若く、希望にあふれ、ダイナミックな成長が期待できる大陸」として今後3年間で官民で総額300億ドル規模の寄進投入方針を表明。また、最近の家庭用冷凍食品の売り場面積拡大など「冷食エコノミー」の躍進も投資のヒントとなろう。(笹木)
9/5号では、ニチレイ(2871)、エヌ・ピー・シー(6255)、日本精工(6471)、ヤマハ発動機(7272)、タイ石油開発公社(PTTEP)を取り上げた。
■主な企業決算の予定
- 9月5日(月): 日本ハウスホールディングス、フジ・コーポレーション
- 9月6日(火):不二電機工業、くら寿司、ファーマフーズ
- 9月7日(水): アイル、アイモバイル、モロゾフ、東京楽天地、(米)コパート
- 9月8日(木): Casa、アルトナー、コーセーアールイー、サムコ、スバル興業、トップカルチャー、ビューティガレージ、ミライアル、積水ハウス、(米)ドキュサイン
- 9月9日(金): gumi、HEROZ、エイチーム、オハラ、クミアイ化学工業、シーイーシー、トーホー、トビラシステムズ、フリービット、ベステラ、ポールトゥウィンホールディン、丸善CHIホールディングス、丹青社、鳥貴族ホールディングス、日本駐車場開発、(米)ゼットスケーラー
■主要イベントの予定
- 9月5日(月)
・auじぶん銀行日本サービス業・日本複合PMI (8月)
・米市場休場(レーバーデー)、英保守党党首選・決選投票の結果発表、「OPECプラス」閣僚級会合(オンライン)、EUウクライナ会合(ブリュッセル)、 東方経済フォーラム(8日まで、ロシア・ウラジオストク)
・S&Pグローバル・ユーロ圏総合・サービス業PMI・改定値(8月)、 ユーロ圏小売売上高 (7月)、中国財新サービス業・コンポジットPMI(8月)
- 9月6日(火)
・毎月勤労統計-現金給与総額・ 実質賃金総額・家計支出(7月)
・チリ中銀と豪中銀が政策金利発表、米中間選挙予備選(マサチューセッツ州)、英新首相就任の見通し
・ S&Pグローバル米総合・サービス業PMI・改定値(8月)、 米ISM非製造業総合景況指数(8月)、独製造業受注 (7月)、南アGDP(2Q)
- 9月7日(水)
・景気先行CI指数・景気一致指数(7月)
・米バーFRB副議長(銀行監督担当)講演、米地区連銀経済報告(ベージュブック)公表、英中銀総裁ら議会証言、米アップル新製品発表イベント、カナダ中銀とポーランド中銀が政策金利発表、北朝鮮で最高人民会議招集
・米貿易収支 (7月)、 ユーロ圏GDP(2Q)、独鉱工業生産 (7月)、中国貿易収支(8月)、中国外貨準備高(8月)、豪GDP (2Q)
- 9月8日(木)
・GDP・速報値(2Q)、 国際収支:経常収支・貿易収支(7月)、銀行貸出動向(8月)、対外・対内証券投資(8月28日-9月3日)、東京オフィス空室率(8月)、景気ウォッチャー調査 先行き判断・ 現状判断(8月)
・米パウエルFRB議長が講演、ペルー中銀とマレーシア中銀が政策金利発表、ECB政策金利発表・ラガルド総裁記者会見、、インド太平洋経済枠組み(IPEF)閣僚級会合(ロサンゼルス、9日まで)
・ 米新規失業保険申請件数 (3日終了週)、米消費者信用残高 (7月)
- 9月9日(金)
・マネーストックM2/M3(8月)
・米シカゴ連銀総裁が講演、米大統領がインテル新施設起工式に出席し半導体法について演説(オハイオ州)、EUエネルギー担当相が臨時会合開催(ブリュッセル)、ユーロ圏財務相会合(ユーロG)、EU財務相理事会(非公式、10日まで)
・米卸売在庫 (7月)、 ロシアGDP(2Q)、ロシアCPI(8月)、中国CPI・PPI (8月)、中国経済全体のファイナンス規模・新規融資・マネーサプライ(8月、15日までに発表)
- 9月10-11日(土・日)
・沖縄県知事選 投開票、米同時多発テロから21年、スウェーデン総選挙
(Bloombergをもとにフィリップ証券作成)
※本レポートは当社が取り扱っていない銘柄を含んでいます。
■79年8月・ボルカーFRB議長就任
8/26のジャクソンホール会議での講演でパウエル議長は1970年代の高インフレ時代、およびボルカー議長が急速な利上げでインフレ退治に成功したという経験を引合いに出し、物価安定の回復に強い決意を示した。
ボルカー氏は1979年8月にFRB議長に就任後、金融政策の操作目標をマネーサプライの安定化を目標とし、マネーを管理するために政策金利であるFFレートの大幅な変動を容認。そのため、FFレートが一時20%に達した。急激な金融引き締めによる金利高騰で倒産に追い込まれる中小金融機関が相次ぎ、失業率が大幅に悪化したものの、高いインフレ率は収束し、82年後半から株価も急回復した。株価の下落傾向は、1980年のCPI上昇率ピークアウト後に発生している。
【79年8月・ボルカーFRB議長就任~インフレ抑制最優先ボルカー・ショック】
■マレーシアとインドネシア輸出増
エネルギーや食料価格の上昇の恩恵により、マレーシアやインドネシアといった資源国や食料生産国が輸出を伸ばしている。マレーシアは6月の輸出額が前年同月比39%増で月間輸出額として過去最高を記録し、7月も同38%増。6月は原油・石油、精製石油製品、液化天然ガス(LNG)に加え、木材関連、パーム油関連も伸びた。パーム油最大の輸出国であるインドネシアは、4月下旬にパーム油の禁輸措置を課していたのを緩和した効果もあり、6月の輸出額が同41%増と伸び、7月も同32%増と堅調に推移。6月はパーム油のほか石炭が拡大した。
今年1月発効のRCEP(地域的包括的経済連携協定)によりアセアン域内貿易が活発化。マレーシアの6月のシンガポール向け輸出額も前年同月比72%増。
【マレーシアとインドネシアの輸出増~エネルギーと食料価格上昇の恩恵】
■日経平均版「恐怖指数」
米国株でS&P500を元に市場が今後30日間で予想する変動を数値化し、投資家の心理状態を数値化した「VIX指数」があり、「恐怖指数」とも呼ばれている。同様に日経平均株価についても、日経平均株価の今後30日での変動率を推計した数値を表す「日経平均ボラティリティー・インデックス(VI)」がある。
過去1年間の日経平均株価と日経平均VIの日足終値推移を見ると、日経平均株価の短期的なピーク(ボトム)と日経平均VIの短期的なボトム(ピーク)が一致しやすい面が窺われる。また、日経平均VIは概ね20-30ポイントのレンジを意識して推移しているように見受けられる。足元では9月第2週「メジャーSQ」に向けて変動率が高まりやすい時期であるなか、日経平均VIが20割れから上昇に転じている。
【日経平均版「恐怖指数」~日経平均ボラティリティー・インデックスはレンジ下限近辺】
■銘柄ピックアップ
ニチレイ(2871)
2,485円(9/2終値)
・1942年に水産統制令に基づき設立。主として加工食品事業、水産事業、畜産事業、低温物流事業、不動産事業を営む。冷蔵倉庫と冷凍食品で首位のほか、欧州を中心に低温物流が拡大中。
・8/2発表の2023/3期1Q(4‐6月)は、売上高が前年同期比8.6%増の1560.57億円、営業利益が同5.3%減の66.77億円。主力の加工食品事業が同11.9%増収および低温物流事業が同7.5%増収と全体の売上高増加に貢献の一方、原材料・仕入れコストや電力コストなどの高騰が響き営業減益。
・通期会社計画を上方修正。売上高を前期比5.0%増の6330億円(従来計画6180億円)とした。営業利益は同0.3%増の315億円、年間配当は同2円増配の52円と据え置き。同社は家庭用冷凍食品でコロッケと炒飯に強みを有するなか、21年品目別国内生産量でコロッケが第2位(前年比1.1%増)、炒飯が第3位(同1.1%増)。スーパーで家庭用冷凍食品の売り場面積拡張の動きが相次ぐ。
エヌ・ピー・シー(6255)
643 円(9/2終値) ※東証グロース
・1992年に真空包装機事業で設立。現在は太陽電池・自動車・ディスプレイ・電子部品業界等向けFA装置の装置関連事業、および太陽光パネルの検査から廃棄まで含む環境関連事業を営む。
・7/13発表の2022/8期9M(9-5月)は、売上高が前年同期比43.7%減の40.45億円、営業利益が同60.9%減の5.10億円。電装品、機械部品、加工品等の部品不足・長納期化に伴う売上計上の後ろ倒しに加え、顧客工場のフル稼働による現地作業スケジュール変更等が重なったことが響いた。
・通期会社計画は、売上高が44.54億円(収益認識会計基準適用前の前期52.17億円)、営業利益が3.68億円(同6.91億円)、年間配当が前期比横ばいの2円。4/12に下方修正を発表。米国で再生可能エネルギーへの優遇策を盛り込んだ「歳出・歳入法」の成立を受け、同社主要顧客の太陽光パネルメーカーの米ファースト・ソーラー(FSLR)が8/30、新工場建設に最大12億ドル投資を発表。
日本精工(6471)
750 円(9/2終値)
・1916年設立のベアリング(軸受)メーカー。一般産業向け軸受や精密機器関連を取り扱う産業機械事業、自動車およびその部品メーカー向け軸受やステアリングなどを扱う自動車事業を営む。
・7/29発表の2023/3期1Q(4-6月)は、売上高が前年同期比2.8%増の2193.87億円、営業利益が同49.6%減の45.38億円。為替が円安に推移した影響や原材料価格高騰に対して売価への転嫁により増収を確保も、利益面で材料・エネルギー・物流のインフレが一段と進行したことが響いた。
・通期会社計画は、売上高が前期比8.6%増の9400億円、営業利益が同35.9%増の400億円、年間配当が同5円増配の30円。同社は「リアルデジタルツイン(RDT)」と呼ばれる独自解析手法で電気自動車(EV)のモーター部品の開発期間を10分の1に短縮。RDTはカメラやセンサーで物理現象を精緻に分析し、仮想空間(デジタル)で再現して様々な材質・荷重・形状などを素早く試すもの。
ヤマハ発動機(7272)
2,486 円(9/2終値)
・1963年に日本楽器製造(現ヤマハ)より分離独立。二輪車などのランドモビリティ事業、船外機などのマリン事業、サーフェスマウンターなどのロボティクス事業、および金融サービス事業を営む。
・8/5発表の2022/12期1H(1-6月)は、売上高が前期比16.2%増の1兆689億円、営業利益が同6.2%減の1024.19億円。大型船外機に注力したマリン事業が増収増益、二輪車事業は需要回復もコスト上昇により利益は横ばい。ロボティクス事業は上海都市封鎖と半導体不足が響き減収増益。
・通期会社計画を上方修正。経費削減継続と為替の円安傾向を踏まえ、売上高を前期比21.4%増の2兆2000億円(従来計画2兆円)、営業利益を同9.7%増の2000億円(同1900億円)とした。岸田首相はチュニジアで開催のアフリカ開発会議(TICAD)で今後3年で官民合わせて総額300億ドル規模の資金投入方針を表明。同社インド製バイクは価格競争力があり、アフリカでの普及が期待される。
タイ石油開発公社(PTTEP)
市場:タイ 166 THB (9/1終値)
・1985年設立。国営のタイ石油公社(PTT)の子会社であり、タイ国内外の石油探鉱・生産のほか、海外のガスパイプライン輸送、エネルギー事業と戦略的に連携したプロジェクトへの投資を行う。
・8/1発表の2022/12期2Q(4-6月)は、パイプライン輸送からの売上高が前年同期比37.8%増の23.83億USD、一時的要因を除く調整後純利益が同85.4%増の6.47億USD。ガス・液体加重平均販売価格が同32%上昇、販売数量も同5%増。前四半期比は17%増収、調整後純利益が14%増。
・昨年に石油大手の英BPから権益を取得したオマーンの天然ガス田(オマーン・ブロック21)のほか今年4月にタイ東部沖天然ガス田「エラワン鉱区」の操業を米シェブロンと日本の三井石油開発から引き継いだことが貢献。エラワン鉱区については増産工事により24年4月までにガス生産量を現在の2倍とする計画。タイは天然ガスについて割高な輸入LNGの割合引下げを重要国策としている。
■アセアン株式ウィークリーストラテジー
(9/5号「ベトナムとインドネシアのコーヒー生産」
世界のコーヒー豆の生産量の国別ランキングでは、1位:ブラジル、2位:ベトナム、3位:コロンビア、4位:インドネシアと、アセアンの2ヵ国が上位を占めている。ベトナムのコーヒーはロブスタ種で独特のクセの強さがあり、予めコンデンスミルクを入れたカップの上に載せたフィルターに、深煎りして粗めに挽いたコーヒーを入れて湯を注ぐ。インドネシアは、同じロブスタ種でもすっきりした味わいの「ジャワ・ロブスタ」のほか、日本人にお馴染みのアラビカ種では、酸味が少なく苦み成分が強い「マンデリン」、および独特の芳醇な香りと軽やかな酸味のある「トラジャ」が有名。トラジャはその希少性から「幻のコーヒー」と呼ばれていたが、日本のキーコーヒーの援助で生産が復活。ジャコウネコの排出物から採られる未消化コーヒーで特に希少価値が高い「コピ・ルアク」も有名だ。
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アナリストのご紹介 フィリップ証券リサーチ部
笹木 和弘
フィリップ証券株式会社:リサーチ部長
証券会社にて、営業、トレーディング業務、海外市場に直結した先物取引や外国株取引のシステム開発・運営などに従事。その後は個人投資家や投資セミナー講師として活躍。2019年1月にフィリップ証券入社後は、米国・アセアン・日本市場にまたがり、ストラテジーからマクロ経済、個別銘柄、コモディティまで多岐にわたる分野でのレポート執筆などに精力的に従事。公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト(CIIA®)。