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投資戦略ウィークリー 2022年8月29日号(2022年8月26日作成)】”水際対策緩和、原発政策方針転換、半導体不足緩和”

 

■水際対策緩和、原発政策方針転換、半導体不足緩和

  •  岸田首相は21日、PCR検査で新型コロナウイルス陽性と診断されリモート執務となったなか、日本の政治・経済・社会にとって重要な二つの会見をリモートで行った。。
  •  第1に、新型コロナの水際対策について政府が来月以降さらに緩和し、1日当たりの入国者数の上限を今の2万人から5万人に引き上げるとともに、新型コロナワクチン3回目接種を終えている人は、海外の滞在先を出発する前の検査を受けなくても入国を認める方向とした。更に、政府は医療機関や保健所の負担軽減を図るため、新型コロナ感染者の全数把握を見直す方針とした。
  •  このような動きを受け、23日以降、日本航空9201ANAホールディングス9202といった空運株をはじめとする旅行関連、フロントリテイリング3086三越伊勢丹HD3099高島屋8233といったインバウンド消費増加が期待される百貨店株の株価が高騰。外国人の留学生や労働者向けにも学生寮や社員寮の「ドーミー」を運営する共立メンテナンス9616も上昇基調を継続中だ。
  •  第2に、原発の新増設を想定しない東日本大震災以降の方針を転換し、次世代型の原子力発電所について開発・建設を検討するように指示。それに加え、再稼働する原発を現在の最大10基から来年夏以降に最大17基へ増やし、中長期的な電力確保を目指すとした。これを受けて24日以降、原発関連株が動意付いている。現在原発未稼働で、かつ原子力規制委員会の安全審査を通過済みの柏崎刈刃原発6・7号機を擁する東京電力HD9501、熱制御技術に特化した製品で原発向けに高い実績を有する助川電気工業7711、原子力圧力容器用の鋳鍛鋼部材(シェルフランジ)の日本製鋼所5631、核燃料に係る輸送容器・濃縮関連機器や放射性廃棄物処理装置を取り扱う木村化工機6378、原発向けバルブ製造の岡野バルブ製造6492などが物色された。
  •  自動車からスマートフォンに至るまであらゆるメーカーを悩ませる根強い半導体不足が緩み始めている模様だ。欧州自動車メーカーのフォルクスワーゲンが6/28、半導体不足緩和の結果、今年下半期に電気自動車(EV)の生産を増やすとしたほか、日経アジアによれば、売上高で半導体製造世界最大手サムスン電子は6月、在庫が膨らんでいるとして納入業者に出荷を減らすよう要請。半導体メーカーの設備投資増額と中国都市封鎖に伴う需要軟化が、サプライチェーンにおける半導体の供給不足緩和の要因となっている格好だ。部品等の供給不足で減益を余儀なくされた事業には、業績改善の好機が訪れている可能性があろう。(笹木)

8/29号では、ローソン(2651)富士フイルムホールディングス(4901)ニチコン(6996)、任天堂(7974)バンク・セントラル・アジア(BBCA)を取り上げた。

■主な企業決算の予定

  • 829日(月): 元気寿司、(米)ピンドゥオドゥオ
  • 830日(火):(米)クラウドストライク・ホールディングス、百度[バイドゥ]
  • 831日(水): 菱洋エレクトロ、ラクーンホールディングス、トリケミカル研究所、ACCESS、(米)オクタ
  • 91日(木): 伊藤園、内田洋行、(米)ブロードコム、ルルレモン・アスレティカ
  • 92日(金):ファースト住建、ティーライフ、アインホールディングス、ロック・フィールド、泉州電業、カナモト

主要イベントの予定

  • 829日(月)

・景気先行CI指数・景気一致指数 (6月)

・英市場が祝日のため休場、EU防衛相会合(非公式、30日まで)、全米オープンテニス開幕(ニューヨーク、9月11日まで)

 

  • 830日(火)

・有効求人倍率・失業率(7月)

・米ニューヨーク連銀総裁が講演、EU外相会合(非公式、31日まで)、ハンガリー中銀が政策金利発表、ロシア軍事演習「ボストーク2022」(9月5日まで)・中国軍参加

・米主要20都市住宅価格指数(6月)、米FHFA住宅価格指数(6月)、米求人件数(7月)、米消費者信頼感指数・コンファレンスボード(8月)、 ユーロ圏消費者信頼感指数・確定値(8月)、ユーロ圏景況感指数(8月)

 

  • 831日(水)

・2023年度予算概算要求・税制改正要望の締め切り、百貨店・スーパー売上高(7月)、住宅着工件数・戸数(7月)、消費者態度指数(8月)、小売売上高(7月)、鉱工業生産(7月)

・米クリーブランド連銀総裁と米アトランタ連銀総裁が講演、G20環境・気候変動担当相会合(インドネシア・バリ)、ロシアのガスプロムがパイプライン「ノルドストリーム」停止(9月2日まで)、ベネチア映画祭(9月10日まで)

・ユーロ圏CPI・速報値(8月)、独失業率(8月)、中国製造業・非製造業PMI(8月)、インドGDP (2Q)

 

  • 91日(木)

・日銀の債券市場サーベイ(8月調査)、 対外および対内証券投資(8月26日)、設備投資(2Q)、自動車販売台数(8月)、企業売上高・企業利益(2Q)、auじぶん銀行日本製造業PMI(8月)

・米アトランタ連銀総裁が講演

・米自動車販売(8月)、米新規失業保険申請件数(27日終了週)、米建設支出(7月)、米ISM製造業景況指数(8月)、米非農業部門労働生産性(2Q)、S&Pグローバル米製造業PMI・改定値(8月)、S&Pグローバル・ユーロ圏製造業PMI・改定値(8月)、ユーロ圏失業率(7月)、中国財新製造業PMI指数(8月)

 

  • 92日(金)

・8月分の国内ユニクロ売り上げ速報、マネタリーベース(8月)

・IFA/国際コンシューマ・エレクトロニクス展(ベルリン、6日まで)、英保守党党首選・党員投票締め切り(結果発表は5日)

米雇用統計(8月)、米製造業受注(7月)、ユーロ圏PPI(7月)

(Bloombergをもとにフィリップ証券作成)

※本レポートは当社が取り扱っていない銘柄を含んでいます。

 

ペイパルとピンタレストのマッチ

世界最大のアクティビスト(物言う株主)のエリオット・インベストメント・マネジメントは、1日に画像共有SNSのピンタレストPINSの筆頭株主になったと発表。同社について「大きな成長の可能性を持つ戦略的ビジネス」として経営陣に支持を表明した。翌日の2日、決済サービス大手ペイパル・ホールディングスPYPLはエリオットが20億ドル強相当のペイパル株を取得したと明らかにし、エリオットもペイパルの決済事業について「比類がなく、業界をリードする」と評価した。

ペイパルは越境ECコマースのイーベイEBAYの自社決済への移行に伴う逆風を受けていたが、エリオットを通じ、Eコマースと親和性が高いピンタレストと提携できれば、両社にともに月間稼働ユーザー数の伸び率回復への原動力となろう。

【ペイパルとピンタレストのマッチ~鍵を握るアクティビストのエリオットの動き】

■天然ガス価格高騰とドイツ経済

欧州天然ガス価格は、欧州向けパイプライン「ノルドストリーム」が補修のため31日から3日間稼働が停止されることを背景に、補修後も供給減が長期化すするとの懸念から高騰。6月下旬以降低下していたドイツとイタリアの国債利回りは天然ガス価格高騰を受けて反転上昇し、独伊の国債利回り格差も拡大傾向だ。

欧州経済研究センター(ZEW)が16日発表した8月のドイツ景気期待指数が▲55.3と悪化の一途を辿るなか、ドイツの7月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比7.5%上昇と6月の7.5%上昇からは伸び鈍化も、生産者物価指数(PPI)は前年同月比37.2%上昇、前月比でも5.3%上昇と過去最大の伸び。景気後退リスクに関わらず欧州中央銀行(ECB)は金融引き締めを強化せざるを得ない状況だ。

【天然ガス価格高騰とドイツ経済~金利上昇・物価上昇・景気悪化の三重苦】

■原発再稼働来夏以降7基追加へ

岸田首相は24日、震災後に再稼働したことがある10基に加え、原子力規制委員会の安全審査を通過済み7基を追加で動かす方針を表明。このうち3基は自治体が合意する見通しが立っていない課題が残る。7月の日本の貿易収支はエネルギー価格高騰と円安で1兆4367億円の赤字と12ヵ月連続で赤字となるなか、7基追加稼働によりエネルギーの海外依存度が低下すれば、貿易収支改善を通じて過度な円安修正に寄与しよう。

三菱重工業(7011)が得意とする「加圧水型原子炉(PWR)」、および日立製作所(6501)と米GEの合弁事業である日立GEニュークリア・エナジーが関わる「沸騰水型原子炉(BWR)」のうち、現在稼働しているのはPWRのみ。今後はBWRの稼働が増えていくことが想定されよう。

【原発再稼働来夏以降7基追加へ~許可済みの内4基は自治体合意なし】

■銘柄ピックアップ

ローソン(2651)       

4,715 円(8/26終値)

・1975年設立。三菱商事8058傘下。国内コンビニエンスストア(ローソン、ナチュラルローソン、ローソン100本部)、成城石井、エンタテインメント関連、金融関連、海外(中国、タイ)の事業を営む。

・7/11発表の2023/2期1Q(3-5月)は、売上高が前年同期比40.5%増の2377.56億円、営業利益が同25.1%増の132.79億円。営業総収入構成比約7割を占める国内コンビニエンスストア事業は店舗改装や冷凍食品強化が奏功し、営業総収入が同58.4%増。セグメント利益が同23.2%増と伸長。

・通期会社計画は、営業総収入が前期比46.6%増の1兆240億円、営業利益が同12.5%増の530億円、年間配当が同横ばいの150円。同社はセブンイレブンが強いコンビニ業界において、伊藤忠商事8001が完全子会社化したファミリーマートと同様の課題を抱えているとみられる。「簡易買収倍率」と呼ばれるEV(事業価値)/調整後EBITDA倍率が約2.6倍と割安。親子上場も注目されよう。

富士フイルムホールディングス4901)    

7,324 円(8/26終値)

・1934年設立。画像等のイメージング、メディカルシステムやバイオCDMO(開発製造受託)等に係るヘルスケア、電子材料等のマテリアルズ、デジタル複合機等のビジネスイノベーションの4部門。

・8/10発表の2023/3期1Q(4-6月)は、売上高が前期比7.4%増の6258.60億円、営業利益が同12.0%減の495.50億円。マテリアルズとビジネスイノベーションを中心に全4部門が増収と堅調の一方、ヘルスケア部門の営業利益はメディカルシステムで半導体等部品不足が響き、同47.7%減。

・足元の為替動向等を考慮し通期会社計画を上方修正。売上高を前期比6.9%増の2兆7000億円(従来計画2兆6500億円)、営業利益を同8.8%増の2500億円(同2450億円)とした。17日発表の米ネットワーク機器世界最大手シスコシステムズの5-7月期決算発表でも半導体供給不足の緩和が示された。利益面で業績の足枷となっていたメディカルシステム事業が回復する可能性も高まろう。

ニチコン(6996               

1,466 円(8/26終値)

・1950年に関西二井製作所を大阪で設立し、翌年京都へ移転。アルミ電解、フィルム、小形リチウムイオン2次電池、電力機器等用のコンデンサに加え、家庭用蓄電システムなど回路製品を扱う。

・8/8発表の2023/3期1Q(4-6月)は、売上高が前年同期比31.5%増の410.14億円、営業利益が同4.0倍の25.28億円。コンデンサ事業で、生産自動化目的の投資増を背景に産業機器向けが伸長のほか、電気自動車(EV)用フィルムコンデンサ、および家庭用蓄電システムの需要も堅調に拡大。

・通期会社計画は、売上高が前期比7.6%増の1530億円、営業利益が同21.4%増の78億円、年間配当が同1円増配の28円。保守的に見て従来予想を据え置いたものの、EV用フィルムコンデンサ、5G向け基地局用アルミ電解コンデンサ、小形リチウムイオン2次電池に係るIoT機器への取組み、再生可能エネルギー拡大に必要不可欠な蓄電システムなど複数の成長市場を射程に捉えている。

任天堂(7974                 

57,640 8/26終値

・1889年に花札製造で創業後、1947年にかるた・トランプ類の製造・販売で発足。コンピューター利用の「ゲーム専用機」を主な製品とする。株式会社ポケモンは持株比率32%の持分法適用会社。

・8/3発表の2023/3期1Q(4‐6月)は、売上高が前年同期比4.0%減の3074.60億円、営業利益が同15.1%減の1016.47億円。円安により経常利益は同29.6%増の1667.23億円。4月発売の「Nintendo Swich Sports」ほかソフトが好調も半導体部品供給不足が響き、ハードウェア販売台数が同23%減。

・通期会社計画は、売上高が前期比5.6%減の1兆6000億円、営業利益が同15.6%減の5000億円、年間配当は未定。10/1に1対10の株式分割を予定。半導体不足が世界的緩和に向かっており、年末に向けハード販売回復がソフト販売増にも繋がると期待される。また、2024年にUSJの任天堂エリアにドンキーコングの新エリア開業予定。自社IP(知的財産)活用ビジネス展開も注目される。

バンク・セントラル・アジア(BBCA

市場:インドネシア   8,075 IDR 8/25終値)

・1957年設立の商業銀行。1998年アジア通貨危機時に国有化後、資本増強・リストラを経て2000年再上場。時価総額でアセアン最大であり、金融機関でシンガポールDBSホールディングスを抜く。

・7/27発表の2022/12期1H(1-6月)は、営業収益が前年同期比6.3%増の40.89兆IDR、純利益が同24.9%増の18.04兆IDR。貸出増加に伴い純金利収益が堅調のほか非金利収益も増加。経費率が同0.1ポイント改善の34.3%、経済環境好転に伴い貸倒引当金繰入額が同43.1%減の3.72兆IDR。

・フィンテック事業者の躍進により、預金機能が無い振込専用「バーチャル口座」経由の取引件数が1Hに前年同期比57%増。また、同社は国連の定めるSDGs(持続可能な開発目標)のうち9分野の融資を「サステイナブル・ファイナンシング(SF)」と称し戦略的に拡大。貧困者向け小口金融(マイクロ・ファイナンス)、再生可能エネルギー、労働者人権配慮、女性経営者への融資などを強化。

 

■アセアン株式ウィークリーストラテジー

8/29号「アセアン4ヵ国の第2四半期実質GDP

アセアン主要4ヵ国の第2四半期(4-6月)の実質GDP成長率を前期比・年率換算(季節調整済み)で見た場合、以下の通り。①シンガポールは横ばい(第1四半期は0.9%増)。電子機器製造業減速に加え、石油化学製品の主要市場である中国経済の弱さが響いた。②タイは0.7%増(同1.2%増)。ホテル・レストラン・レジャーなどのサービス支出に支えられ個人消費支出が伸びた一方、高インフレと中国経済鈍化が重しとなった。③マレーシアは3.5%増(同3.8%増)。4月の国境再開以降の力強い回復基調のなか、GDPの6割を占める個人消費に加え、輸出の伸びが牽引している。④インドネシアは3.7%増。コモディティー価格上昇を受けた輸出が追い風となった。4月以降のコロナ行動規制緩和、コモディティ価格上昇の恩恵を受けた輸出の伸びが明暗を分けた形だ。

 

留意事項
  1. 上場有価証券等のお取引の手数料は、国内株式の場合は約定代金に対して上限1.265%(消費税込)(ただし、最低手数料2,200円(消費税込)、外国取引の場合は円換算後の現地約定代金(円換算後の現地約定代金とは、現地における約定代金を当社が定める適用為替レートにより円に換算した金額をいいます。)の最大1.10%(消費税込)(ただし、対面販売の場合、3,300円に満たない場合は3,300円、コールセンターの場合、1,980円に満たない場合は1,980円)となります。
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アナリストのご紹介 フィリップ証券リサーチ部

笹木和弘プロフィール笹木 和弘
フィリップ証券株式会社:リサーチ部長
証券会社にて、営業、トレーディング業務、海外市場に直結した先物取引や外国株取引のシステム開発・運営などに従事。その後は個人投資家や投資セミナー講師として活躍。2019年1月にフィリップ証券入社後は、米国・アセアン・日本市場にまたがり、ストラテジーからマクロ経済、個別銘柄、コモディティまで多岐にわたる分野でのレポート執筆などに精力的に従事。公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト(CIIA®)。

 

アセアン・米国株、個別銘柄のリサーチレポート承ります
世界経済のけん引役と期待されるアセアン(ASEAN:東南アジア諸国連合)。そのアセアン各国で金融・証券業を展開し、マーケットを精通するフィリップグループの一員である弊社リサーチ部のアナリストが、市場の動向を見ながら、アセアン主要国(シンガポールタイマレーシアインドネシア)の株式市場を独自の視点で徹底解説します。

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