投資戦略ウィークリー 2022年8月15日号(2022年8月12日作成)】”買戻し加速、低PBRの強み、海外展開、半導体供給網”
■買戻し加速、低PBRの強み、海外展開、半導体供給網
- 「山の日」明けの12日、日経平均株価は終値で、前日比727円高の2万8546円と1/12以来の高値まで上昇。先週号で述べたように、直近の四半期決算発表を経て予想PERやPBRなどの株価指標が割安感を強めてきたことを背景に、需給面では売り方の踏み上げ・買戻しも短期的な上昇要因だろう。日経平均と逆の値動きとなり、個人投資家の商い比率が高いとみられる「(NEXT FUNDS)日経ダブルインバースETF(1357)」の信用倍率(買い残÷売り残)も、7/1の6倍から8/5に27.7倍まで上昇。売り方の買戻し圧力は当面続くと想定される。一般的に8月は「夏枯れ」と言われて相場が閑散としがちだが、3年ぶりの行動規制の無い夏を迎えて、日本株相場もやや早めに上昇開始の様相を呈しているかのようだ。
- 8/10日終値時点で市場予想PERがプラスかつ10倍未満、PBRが0倍未満銘柄は、日経平均構成225銘柄で71銘柄、東証株価指数(TOPIX)で全2170銘柄中278銘柄ある。特にPBRが1倍を大きく下回る銘柄は、決算発表毎に1株当たり純資産価格(BPS)が増加することで時価との乖離が拡大することから、増益か減益かにかかわらず株価に上昇圧力が働きやすい面がある点は強みだろう。
- 従来の内需銘柄と言われるような企業も、競争力を高めるため海外展開を積極化していることがファンダメンタルズ改善の背景にある。即席麺の業界では、国内は日清食品HD(2897)が首位だが、東洋水産(2875)は米国やメキシコで他社を圧倒するほか、「サッポロ一番」のサンヨー食品は中国の康師傳(カンシーフ)の3分の1超の株式を保有。米菓業界では、国内は亀田製菓(2220)が首位だが、3位の岩塚製菓(2221)は中華圏最大食品会社と提携している。その亀田製菓も、インド出身CEOの下で海外市場強化に本格的に取り組んでいる。その他にも海外売上比率の高い割安銘柄は、投資対象として優先順位を上げることが望まれよう。
- 半導体のサプライチェーンを構成する原材料、化学薬品、消耗部品、工業用ガスなどを多種多様かつ精密な製造プロセスにおいて必要不可欠な役割を有する独占的地位を有する企業が注目される。SCREEN(7735)が得意な化学薬品による半導体ウエハ洗浄装置についても、バルブ、パイプ、ポンプ、特殊樹脂容器などの部品が不可欠。各々の部品供給業者は世界でも限定される。
- 2021年のキャッシュレス決済比率が前年比8ポイント上昇の32.5%となった。経済産業省はキャッシュレス決済比率を2025年までに4割程度まで上昇させることを目指している。PayPayをはじめとする決済サービス業界は競争激化で採算を取るのは容易ではないものの、決済インフラ提供業者には追い風だろう。(笹木)
8/15号では、日本農薬(4997)、UACJ(5741)、イワキ(6237)、エヌ・ティ・ティ・データ(9613)、マキシス(MAXIS)を取り上げた。
■主な企業決算の予定
- 8月15日(月):And DoHD、Fast Fitness J、JPMC、SBIHD、アイスタイル、アミューズ、アルテリア・ネットワークス、オロ、キュービーネットHD、クロス・マーケティンググループ、スカラ、ダイオーズ、チェンジ、ツナググループ・HD、テスHD、トレックス・セミコンダクター、ノムラシステムコーポレーション、ピアラ、ビーロット、ベルシステム24HD、ユー・エム・シー・エレクトロ、ユニデンHD、ランドコンピュータ、レアジョブ、第一屋製パン、日機装、冨士ダイス、片倉コープアグリ
- 8月16日(火): 東京産業、(米)ウォルマート、ホーム・デポ
- 8月17日(水): (米)シスコシステムズ、シノプシス、ターゲット、ロウズ、アナログ・デバイセズ
- 8月18日(木):ウェルネット、(米)アプライド・マテリアルズ、ロス・ストアーズ、網易(ネットイース)
- 8月19日(金): あいHD
■主要イベントの予定
- 8月15日(月)
・GDP・速報値 (2Q)、日銀営業毎旬報告(10日現在)、鉱工業生産・設備稼働率(6月)
・韓国・光復節、北朝鮮・祖国解放記念日
・米ニューヨーク連銀製造業景況指数(8月)、米NAHB住宅市場指数 (8月)、対米証券投資(6月)、中国小売売上高 ・都市部固定資産投資・工業生産(7月)、中国新築住宅価格(7月)、タイGDP (2Q)
- 8月16日(火)
・第3次産業活動指数(6月)
・米中間選予備選挙(アラスカ州、ワイオミング州)
・米住宅着工件数(7月)、米鉱工業生産 (7月)、独ZEW期待指数 (8月)、英ILO失業率(4-6月)
- 8月17日(水)
・貿易収支(7月)、コア機械受注(6月)、訪日外客数(7月)
・米FOMC議事要旨(7月26、27両日開催分)、 NZ中銀・政策金利発表
・米小売売上高 (7月)、米企業在庫 (6月)、ユーロ圏GDP(2Q)、英CPI(7月)
- 8月18日(木)
・対外・対内証券投資(8月7-13日)、ブルームバーグ日本経済調査 (8月)
・ノルウェー中銀・トルコ中銀・フィリピン中銀が政策金利発表
・米フィラデルフィア連銀製造業景況指数(8月)、米新規失業保険申請件数 (13日終了週)、米中古住宅販売件数 (7月)、米景気先行指標総合指数 (7月)、ユーロ圏CPI(7月)、豪雇用統計(7月)
- 8月19日(金)
・全国CPI(7月)
(Bloombergをもとにフィリップ証券作成)
※本レポートは当社が取り扱っていない銘柄を含んでいます。
■賃金インフレは加速の可能性あり
5日発表の7月の米雇用統計は、非農業部門雇用者数が前月比52万8千人増と予想を大きく上回ったほか、失業率も前月比0.1ポイント低下の3.5%。平均時給は6月に引き続き前年同月比5.2%増だった。3月下旬に週16万件強と約53年ぶり低水準だった新規失業保険申請件数は7月下旬に26万件に達し、失業保険継続受給権者数も5月の1300万人から7月下旬に100万人以上増加していることから、雇用の過熱感が和らぐのではないかとの期待もあったものの、人手不足が解消されない現状が浮き彫りとなった。
アトランタ連銀が月次で公表し、若年労働者と高賃金高齢者の退職世代などの人口構成バイアスを調整した「賃金伸び率トラッカー」は今年6月で前年同月比6.7%と伸び率加速を示している。
【賃金インフレは加速の可能性あり~アトランタ連銀の賃金伸び率トラッカー】
■日本に縁の中国食品メーカー2社
「黒豆せんべい」などの米菓で知られる岩塚製菓(2221)は中華圏最大の食品会社である中国旺旺集団(151/HK)に1983年から技術指導を行い、5%超の株式を保有している。その旺旺集団は、中国本土と台湾で米菓市場の過半を押さえ、米菓を世界56ヵ国に輸出。22年3月期の売上構成比は乳製品・飲料部門が54%、米菓部門が23%となっている。
日本人に広く親しまれている「サッポロ一番」や「カップスター」ブランドの即席麺を製造・販売するサンヨー食品(非上場)は、中国食品メーカーの康師傳(カンシーフ)(322/HK)株式の33.43%を保有。康師傳は即席麺の世界需要の約4割を占める中華圏で約46%のシェアを占める。21年12月期の売上構成比は飲料部門が6割、即席麺部門が4割である。
【日本に縁の中国食品メーカー2社~米菓の中国旺旺と即席麺の康師傳】
■日経平均株価のバリュエーション
日経平均株価について過去5年間の構成銘柄時価総額等による加重平均でのバリュエーション指標は、予想PER(株価収益率)が20年3-5月を除き概ね11-15倍、加重平均PBR(株価純資産倍率)は20年3月を除けば1.0-1.4倍で推移。
過去5年間の加重平均での日経平均株価の1株当たり純資産(BPS)を見ると、決算発表毎に構成銘柄の純資産が増加するのを受けて堅調に推移。日経平均へのウエイトが高いファーストリテイリング(9983)と東京エレクトロン(8035)のPBR低下による日経平均のBPS減少への影響は大きくないとみられる。昨年10月から日経平均のBPSが急減したのは、キーエンス(6861)、村田製作所(6981)、任天堂(7974)といった相対的に高PBR銘柄への入替えの影響が考えられる。
【日経平均株価のバリュエーション~高ウエイト銘柄の影響度合いを考慮】
■銘柄ピックアップ
日本農薬(4997)
782 円(8/12終値)
・1928年にADEKA(4401)の農薬薬品部と藤井製薬が合併で設立。主に殺虫剤・殺菌剤・除草剤など農薬の製造販売のほか、農薬以外の化学品事業、その他事業(造園緑化工事等)を営む。
・8/9発表の2023/3期1Q(4-6月)は、売上高が前年同期比45.5%増の240.15億円、営業利益が同68.5%増の27.81億円。国内農薬販売で米コルテバ社製品販売が貢献。海外農薬販売では北米で気温上昇を背景にダニ用殺虫剤が伸びたほか欧州で除草剤の拡販が進み業績を押し上げた。
・通期会社計画を上方修正。売上高を前期比22.3%増の980億円(従来計画913億円)、営業利益を同52.7%増の88億円(同69億円)とした。年間配当は同1円増配の16円で据え置き。同社は海外売上構成比が約7割を占める外需型企業で、インドやブラジルなど新興国での需要獲得が進んでいる。世界的物流逼迫懸念で荷動きが早まっている点も足元は好材料。8/10現在、PBRが0.9倍。
UACJ(5741)
2,677 円(8/12終値)
・2013年に古河スカイと住友軽金属工業が経営統合して発足。古河電気工業(5801)が持株比率24.9%の筆頭株主。アルミ圧延品生産能力は国内首位、世界でも米アルコアとノベリスに次ぎ3位。
・8/4発表の2023/3期1Q(4-6月)は、売上高が前年同期比42.3%増の2472.66億円、営業利益が同38.8%増の183.44億円。海外(米国およびタイ)で缶材販売数量増のほかアルミ地金価格上昇が増収に寄与。加えて棚卸資産影響の好転や国内事業の構造改革に伴う操業改善が利益で貢献。
・通期会社計画は、売上高が前期比20.1%増の9400億円、営業利益が同47.9%減の310億円、年間配当が同横ばいの85円。営業利益は1Qで既に通期計画の約6割進捗しており、上方修正期待が高まろう。日本、北米、タイのグローバル3極体制を活用するなか、世界的な自動車生産調整の逆風も、リサイクル容易なアルミ缶材、およびエアコン向けフィン材の堅調な需要が追い風となろう。
イワキ(6237)
1,069 円(8/12終値)
・1956年設立。化学薬品等の薬液移送に使用されるケミカルポンプおよびポンプ専用コントローラ等の周辺機器の開発・製造・仕入・販売を行う。幅広い産業向け多用途・多品種少量生産に強み。
・8/10発表の2022/3期1Q(4-6月)は、売上高が前年同期比10.4%増の83.90億円、営業利益が同98.8%増の7.44億円。市場別では半導体・液晶市場が同22%増収、水処理市場が同19%増収。地域別では米国が同39%増収、欧州が同15%増収のほか、アジア地域・中国ともに同10%増収。
・通期会社計画は、売上高が前期比7.4%増の348.30億円、営業利益が同28.5%増の27.48億円、年間配当が同1.50円増配の35.00円。半導体製造における「化学薬品の高温化対応」や「ポンプ接液部から不純物が出ないクリーン度要求」といった高水準の基準の要求に応えられるポンプ製造は同社が独占的地位を占める。世界的な半導体供給不足解消において重要な役割が求められよう。
エヌ・ティ・ティ・データ(9613)
2,060 円(8/12終値)
・1988年にNTT(9432)を親会社として設立。ITサービスを核に公共・社会基盤、金融(金融機関の業務効率化)、法人ソリューション(決済など)を展開。北米での買収のほか海外展開にも注力。
・8/5発表の2023/3期1Q(4-6月)は、売上高が前年同期比14.6%増6773.68億円、営業利益が同21.7%増の575.22億円。国内外で好調な企業のデジタル変革(DX)需要を取り込んだほか、前期に構造改革を終えた海外事業が本格回復。受注高では北米が同35%増、その他海外が同46%増。
・通期会社計画は、売上高が前期比28.1%増の3兆2700億円、営業利益が同11.0%増の2360億円。海外事業が伸びるなか、来年7月に向けてのNTTグループ事業再編で海外事業の成長を取り込みやすくなると期待される。また、国内キャッシュレス決済比率の拡大が進むなか、同社運営の接続社数・取引量で日本最大級キャッシュレス決済プラットフォーム「CAFIS」が業績を後押ししよう。
マキシス(MAXIS)
市場:マレーシア 132.0 MYR (8/11終値)
・1995年設立のマレーシアの移動通信サービス会社。経営権を握る筆頭株主はマレーシア人インド系実業家のアナンダ・クリシュナン氏傘下企業。22年6月末の有料登録ユーザー数969万4千人。
・7/28発表の2022/12期2Q(4-6月)は、通信サービス売上高が前年同期比4.3%増の20.84億MYR、EBITDAが同0.8%増の10.14億MYR、純利益が同8.6%減の3.29億MYR。後払いサービスと光ファイバー事業が堅調で営業フリー・キャッシュ・フローが同40.3%増も、資本的支出増と超過利潤税が響いた。
・通期会社計画は、通信サービス増収率が前期比1桁台前半~半ば(1-6月実績3.7%)、EBITDA増益率が同横ばい~1桁台前半(同1.2%)。2Qは超過利潤税のほか周波数帯使用権に係る減価償却費増も利益面で響いた。アシアタ・グループのマレーシア子会社とデジ・ドット・コムが統合予定。実現すれば同国携帯通信最大手となる見通しであり、同社も同業他社との統合が選択肢となろう。
■アセアン株式ウィークリーストラテジー
(8/15号「マレーシアが超過利潤税を導入済み」
マレーシアでは昨年11月、2022年の1年間限定で1億MYR以上の課税年間所得企業に対して、会社計画以上の利益が発生した場合に「超過利潤税(ウィンドフォール・プロフィット・タックス)」を課する法案が成立。そのため、2022年に限ってはマキシスのように業績が好調で増収でも最終利益が減益という場合がみられることとなるので要注意だろう。
超過利潤税については、ハンガリーが今年7月より8業種限定で導入済みのほか、国連のグテレス事務総長も3日、企業がウクライナの危機から利益を得るのは「非倫理的」だとして石油・ガス企業に特別な税を課す必要があると述べた。スペイン政府は7/18、エネルギー部門だけでなく、大手銀行にも「一時的かつ特別な」税金を課すと発表するなど、世界的に拡大の傾向にある。
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アナリストのご紹介 フィリップ証券リサーチ部
笹木 和弘
フィリップ証券株式会社:リサーチ部長
証券会社にて、営業、トレーディング業務、海外市場に直結した先物取引や外国株取引のシステム開発・運営などに従事。その後は個人投資家や投資セミナー講師として活躍。2019年1月にフィリップ証券入社後は、米国・アセアン・日本市場にまたがり、ストラテジーからマクロ経済、個別銘柄、コモディティまで多岐にわたる分野でのレポート執筆などに精力的に従事。公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト(CIIA®)。