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投資戦略ウィークリー 2022年7月19日号(2022年7月15日作成)】”参院選後の政治安定、格安2回線目需要、コモディティ”

 

■参院選後の政治安定、格安2回線目需要、コモディティ

  •  14日の投資部門別売買動向によると、海外投資家は7月第1週に日本株を現物・先物合計で1兆1850億円買い越しと19年10月以来の高水準となった。米長期金利上昇一服に伴い海外投資家心理が改善したとの見方が根強いが、参院選での与党勝利と岸田政権の安定政権化への期待も窺われる。岸田首相は14日、原子力発電所を今冬に最大9基稼働すると表明した。14日現在、調整運転も含めた稼働原発は関西電力の大飯3号機と4号機、四国電力の伊方3号機、九州電力の玄海4号機、川内原発の1号機と2号機の計6基にとどまる。これに対し、規制員会が13日に新潟県柏崎刈刃原発6・7号機のテロ対策施設について事実上の合格にあたる審査書案を取り纏め、「最大9基」が近づきつつある。
  •  11月上旬の中間選挙を控え、政治的求心力低下が懸念される米バイデン政権と比較すると政治的安定度は日本が米国を上回り、年後半の日本株下支え要因となる可能性もあろう。米シンクタンク(ビュー・リサーチ・センター)の13日発表によれば、バイデン大統領の支持率が37%と低迷。対照的に、岸田首相は高支持率を背景に14日会見で、憲法改正について「できる限り早く発議に至る取り組みを進める」との意向を表明。自民党は選挙公約で対GDP比2%以上も念頭に置いた防衛費増額を主張しており、憲法改正発議期待から防衛関連銘柄が動意付く可能性が高まろう。
  •  通信大手のKDDIが2日に引き起こした通信障害は全面復旧まで86時間かかる史上最大規模となり、携帯電話だけでなく、地域気象観測システムや物流、医療に至るまで幅広い業界に影響を及ぼした。音声通話をデータ通信を用いて行う「VoLTE(ボイス・オーバー・LTE」技術の問題点のほか、様々な「モノ」がネット接続され情報交換を行う「IoT(Internet of Things」の普及により「輻輳(ふくそう)」と呼ばれるデータの混雑が大規模障害に繋がりやすくなっている課題も浮き彫りとなった。大規模通信障害が起こり得ることを前提として利用者が2回線目として格安「SIM」(契約者情報を記録したチップ)および端末内蔵の「eSIM」を求める動きは高まろう。
  •  WTI原油先物価格は、海外先進国の金融引き締めによる石油需要縮小見通し、および制裁対象のロシア産原油の輸入を中国やロシアが増やしていることもあり、ロシアのウクライナ侵攻前の水準まで下落。一方で、米投資家ウォーレン・バフェット氏は米石油炭鉱・生産のオキシデンタル・ペトロリアム株式を買い増しし、今月になって出資比率が7%に達した。エネルギーをはじめとするコモディティ上昇相場は中長期的観点で見る必要があろう。(笹木)

7/19号では、イオンリート投資法人(3292)JMC(5704)三菱重工業(7011)、ヤマダホールディングス(9831)DBSホールディングス(DBS)を取り上げた。

■主な企業決算の予定

  • 718日(月):(米)IBMゴールドマン・サックス・グループ、チャールズ・シュワブ、バンク・オブ・アメリカ
  • 719日(火):ブロンコビリー、(米)ネットフリックス、ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)、ロッキード・マーチン
  • 720日(水):アルインコ、日本電産、ニデックオーケーケー、(米)テスラ、CSX、アボットラボラトリーズ、バイオジェン、ASMLホールディング
  • 721日(木):オービックビジネスコンサルタント、中外製薬、ディスコ、オービック、小松ウオール工業、光世証券、(米)インテュイティブサージカル、キャピタル・ワン・ファイナンシャル、ユニオン・パシフィック、AT&T、ダウ、フィリップ・モリス・インターナショナル、ダナハー
  • 722日(金):岩井コスモホールディングス、東京製鐵、モバイルファクトリー、アジュバンホールディングス、ジャフコグループ、(米)ベライゾン・コミュニケーションズ、アメリカン・エキスプレス、ネクステラ・エナジー

 

主要イベントの予定

  • 718日(月)

・EU外相会合、英ファーンボロー国際航空ショー(22日まで)

・米NAHB住宅市場指数 (7月)、 対米証券投資 (5月)

 

  • 719日(火)

・米イエレン財務長官がソウルで会合に出席(20日まで)、米中間選挙予備選(メリーランド州)、ロシア大統領がイラン・トルコ首脳と会談(イラン)、ブルームバーグ暗号資産サミット(ニューヨーク)、英中銀総裁がロンドン市長官邸で講演

・米住宅着工件数(6月)、ユーロ圏CPI(6月)、英ILO失業率(3-5月)

 

  • 720日(水)

・首都圏新築分譲マンション(6月)、訪日外客数(6月)

米中古住宅販売件数(6月)、ユーロ圏消費者信頼感指数(7月)、英CPI(6月)

 

  • 721日(木)

日銀金融政策決定会合・終了後に結果と展望リポートを公表・黒田総裁が会見、楽天グループの店舗向けイベント「エキスポ2022」で三木谷社長が講演、貿易収支(6月)、工作機械受注(6月)

ECB政策金利発表・ラガルド総裁記者会見、南ア中銀・インドネシア中銀・トルコ中銀・ウクライナ中銀が政策金利発表、ロシアからドイツに天然ガスを送る「ノルドストリーム」パイプラインが定期保守点検終了し再開の予定

・米新規失業保険申請件数(16日終了週)、米景気先行指標総合指数(6月)、米フィラデルフィア連銀製造業景況指数(7月)

 

  • 722日(金)

・全国CPI(6月)、対外・対内証券投資(7月10-16日)、auじぶん銀行日本複合・製造業・サービス業PMI(7月)、日銀営業毎旬報告(7月20日現在)

・ロシア中銀が政策金利発表、ECB専門家予測調査

・S&Pグローバル米製造業・サービス業・総合PMI[速報値](7月)、S&Pグローバル・ユーロ圏製造業・サービス業・総合PMI[速報値](7月)

(Bloombergをもとにフィリップ証券作成)

 

アーク・イノベーションEFF(ARKK)

Bloombergによると米国の著名投資家キャシー・ウッド氏が運用する運用資産約92億ドルの旗艦ファンド「アーク・イノベーションETFARKK」への今月1日の資金流入額が3億2300万ドルと、5月以来最大となった。同ファンドは「破壊的イノベーション」関連企業への投資に特化するとしており、利上げが逆風となりやすいグロース銘柄への集中投資のため年初来で大きな下落率となっていた。

ウッド氏によれば、米金融当局は既に「スイッチをインフレからデフレに切り替えている」とのこと。金融政策がインフレ退治のための引き締め強化から景気への配慮への転換局面に差し掛かれば、同ファンドおよび組入れ上位銘柄も、下落率が大きかったものほど反発しやすい「リターン・リバーサル」が期待されよう。

【アーク・イノベーションETFARKK)~リターン・リバーサル狙いの資金が流入】

■TSMC決算と半導体業界の行方

半導体受託生産(ファウンドリ)で世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)が14日発表した4-6月期決算は、売上高が前年同期比36.6%増の181.60億ドル、純利益が同76.3%増の79.40億USDで、通期増収率見通しを従来計画の約30%から30%台半ばに上方修正。取引先の米アップルAAPLのiPhoneをはじめ世界のエレクトロニクス需要が懸念されていたほど低迷していないことを示した。

半導体メモリにおけるDRAMのスポット(随意契約)価格下落が続いている。中国・上海市の都市封鎖や世界的なインフレによる先行き不安が取引価格を押し下げているほか、在宅勤務の普及でパソコンやゲーム機の販売が伸びた際に需給ひっ迫の思惑から実需以上に手当てしたことも足元の値下がりに繋がっている。

TSMC決算と半導体業界の行方~4-6月売上高・純利益は市場予想上回る】

■J-REITと日本株海外投資家動向

日本の不動産投資信託(J-REIT)は、5月時点で、6月からのインバウンド(訪日外国人)受入れ拡大への期待でホテルを組み込んだREITを牽引役として堅調に推移していた。その後6月に米FRBがインフレ鎮圧に向けて金融引き締めを加速させたことを受け、東証REIT指数で2000ポイント超えから1900ポイント割れまで下落。平均分配金利回り4%近辺水準が下値として意識されているようにみられる。

東証がまとめる月次の投資部門別売買動向によると、海外投資家の買い越しは、今年6月までの過去12ヵ月の内、国内株式では2ヵ月しか無かったのに対し、J-REITでは9ヵ月に上る。為替の円安で割安感が出ていることに加え、日本は超低金利で借入コストを考慮した不動産の投資利回りが高いことも要因だろう。

J-REIT・日本株海外投資家動向~J-REITは日本株と比べると買い越し基調】

■銘柄ピックアップ

イオンリート投資法人(3292) 

152,800  円(7/15終値)

・小売大手イオングループをスポンサーとするJ-REIT。大規模商業施設80%以上、その他商業施設20%以下、物流施設10%以下のポートフォリオ方針。海外でもマレーシアの商業施設2件を所有。

・3/17発表の2022/1期(8-1月)は、営業収益が前期(2021/7期)比12.6%増の199.28億円、営業利益が同14.0%増の76.91億円、1口当たり分配金が同3.6%増の3,283円。「イオンモール高崎」、「イオンモール成田」、「イオンモール新小松」、「イオンモール佐賀大和」の4物件(取得価額系502億円)を取得した。

・2022/7期(2-7月)会社計画は、営業収益が前期(2022/1期)比横ばいの199.33億円、営業利益が同2.4%減の75.05億円、1口当たり分配金が同0.4%減の3,270円。7/14終値で2023/1期までの会社予想年分配金利回りが4.26%。イオンG各社との固定賃料が基本のマスターリース契約により安定賃料を確保。イオン8267の3-5月期は総合スーパー(GMS)事業が9年ぶりに四半期黒字化。

JMC5704) 

839 円(7/15終値)

・1992年設立で東証グロース銘柄。3次元CAD技術を用いて樹脂素材の3Dプリンターと金属素材の砂型製造の両成型法を基に、試作品から最終製品まで「ものづくり」の総合サポートを行う。

・5/13発表の2022/12期1Q(1-3月)は、売上高が前年同期比22.1%増の6.57億円、営業利益が前年同期の▲4百万円から95百万円へ黒字転換。主力の鋳造事業でのFA(工場自動化)協働ロボット量産用鋳造部品、およびCT(コンピュータ断層撮影)事業の品質不具合検査案件対応が堅調。

・通期会社計画は、売上高が前期比24.1%増の30億円、営業利益が同2.7倍の2.73億円。FA機器向け鋳造部品で主に試作品を扱ってきたなか、コロナ禍を背景に自動化・省人化需要が高まり本格量産体制に移行。取引先のトヨタ自動車7203に係る電気自動車(EV)関連の量産部品受注獲得も期待される。CT事業はNHK番組「ギョギョっとサカナスター」等で産業用CTの認知度を拡大中。

三菱重工業(7011

  4,881  円(7/15終値)

・1884年に岩崎弥太郎が長崎造船所を開業して創立。発電システム等の「エナジー」のほか「プラント・インフラ」、「物流・冷熱・ドライブシステム」、「航空・防衛・宇宙」の主力4事業部門を営む。

・5/12発表の2022/3通期は、売上収益が前期比4.3%増の3兆8,602億円、営業利益に持分法投資損益などを加えた事業利益が同3.0倍の1,602億円。売上収益で航空・防衛・宇宙部門が減少したものの、物中・冷熱・ドライブシステム部門、エナジー部門およびプラント・インフラ部門が増加した。

・2023/3通期会社計画は、売上高が前期比1.0%増の3兆9,000億円、事業利益が同24.8%増の2,000億円、年間配当が同20円増配の120円。海外でのGTCC(ガスタービン・コンバイドサイクル)発電プラント受注、原発再稼働に係る原子力事業の伸長継続のほか、航空・防衛・宇宙部門も米ボーイングの6月の納入航空機数が19年3月以来の50機超えとボーイング関連の回復が期待される。

ヤマダホールディング(9831         

491  7/15終値

・1978年設立。家電・情報家電等の販売、および住まいに関する商品販売を主な事業とする。2018年にエスバイエルなど傘下住宅関連4社を統合したほか、今年5月に大塚家具を吸収合併した。

・5/6発表の2022/3通期は、売上高が前期比7.6%減の1兆6,193億円、営業利益が同28.6%減の657.03億円。住建事業、環境事業、金融事業が増収・増益で堅調だったものの、売上構成比約8割のデンキ事業がコロナ禍や消費者マインド低下、店舗閉鎖、在庫評価減等の影響で減収減益。

・2023/3通期会社計画は、売上高が前期比4.6%増の1兆6,940億円、営業利益が同12.5%増の739億円。同社は今年5月、発行済株式数の約24%に上る大型自社株買いを発表。更に、同社と動画配信のUSEN-NEXTHLDGS(9418)の共同出資会社が手掛ける格安スマホブランド「Y.U- mobile」は、KDDIで今月2日から発生した大規模通信障害に対し、予備回線の需要が高まっている模様。

DBSグループ・ホールディングス(DBS) 

市場:シンガポール      29.80 SGD 7/14終値)

・1968年にシンガポール開発銀行として設立。DBS銀行はアセアン最大の資産規模を誇り、18ヵ国で金融サービスを展開。2018年にユーロマネー誌で「世界最高のデジタルバンク」に選出された。

・4/29発表の2022/12期1Q(1-3月)は、総収益が前年同期比2.7%減の37.47億SGD、純利益が同10.3%減の18.01億SGD。貸出残高増加に伴い純金利収益が同3.7%増と伸びたものの、ウエルスマネジメント手数料が減少。利益面では賃金引上げが響き経費率が同2.7ポイント悪化の43.9%。

・通期会社計画は、貸出増加率が前期比1桁台半ば。同社は米JPモルガン・チェースおよび筆頭株主テマセクHDSと共にブロックチェーン活用の国際決済「パーティア」に共同出資を行い、昨年10月にUSDとSGDの銀行間取引を僅か2分で完了させた。パーティアは24時間・365日稼働でユーロや円、人民元での決済も視野に入れ、国際的決済ネットワークを支配する「SWIFT」に対抗の構え。

 

■アセアン株式ウィークリーストラテジー

7/19号「世界人口が11月中旬に80億人を突破

国連は11日の「世界人口デー」に合わせ、世界人口が11月中旬に80億人を突破するとの人口推計を発表。23年にインドの人口が中国を上回り、世界最多になるとの見方を示した。

2050年までの人口増加の半分以上はコンゴ民主共和国、エジプト、エチオピア、インド、ナイジェリア、パキスタン、フィリピン、米国の8ヵ国によるもの。現在、2億7千万人の人口を擁し、中国、インド、米国に次いで世界第4位のインドネシアは、2050年にはインド、中国、米国、ナイジェリア、パキスタンに次ぐ第6位となる見通しだ。

IMFによれば、15歳以上65歳未満の人口比率が増加を続けるか、若年人口が老年人口の比率の2倍以上ある状態を指す「人口ボーナス期」に関し、フィリピンが2050年頃、マレーシアが2045年頃、インドネシアが2035年頃、ベトナムが2030年頃まで続く見通しとしている。

 

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アナリストのご紹介 フィリップ証券リサーチ部

笹木和弘プロフィール笹木 和弘
フィリップ証券株式会社:リサーチ部長
証券会社にて、営業、トレーディング業務、海外市場に直結した先物取引や外国株取引のシステム開発・運営などに従事。その後は個人投資家や投資セミナー講師として活躍。2019年1月にフィリップ証券入社後は、米国・アセアン・日本市場にまたがり、ストラテジーからマクロ経済、個別銘柄、コモディティまで多岐にわたる分野でのレポート執筆などに精力的に従事。公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト(CIIA®)。

 

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世界経済のけん引役と期待されるアセアン(ASEAN:東南アジア諸国連合)。そのアセアン各国で金融・証券業を展開し、マーケットを精通するフィリップグループの一員である弊社リサーチ部のアナリストが、市場の動向を見ながら、アセアン主要国(シンガポールタイマレーシアインドネシア)の株式市場を独自の視点で徹底解説します。

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