投資戦略ウィークリー 2022年6月13日号(2022年6月10日作成)】”「骨太の方針」閣議決定、インバウンド再開・もっとTokyo”
■「骨太の方針」閣議決定、インバウンド再開・もっとTokyo
- 先週号(2022年6月6日号)で述べたように、政府は経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)を7日に閣議決定した。
- その中で、岸田首相が「新しい資本主義」の実行計画で掲げる「人への投資」に重点を置き、3年間で4000億円を投じるとした。社会人のリスキリング(学び直し)、デジタルなど成長分野への労働移動、兼業・副業の促進、生涯教育の環境整備などが主な課題になるとみられる。8日には東証グロース上場で個人向けオンライン資格講座「スタディング」を柱とするKIYOラーニング(7353)、経営指導・人材育成教育を行うビジネス・ブレークスルー(2464)などが買われるなど、株式市場にも動きが出た。ビジネス・ブレークスルーは昨年12月に「プライム市場選択申請および新市場区分の上場維持基準の適合に向けた計画書提出のお知らせ」を公表しており、主に流通株式時価総額の上場維持基準100億円の達成に向けた動向が注視される。また、通信教育の「進研ゼミ」のほか有料老人ホーム運営などを行うベネッセホールディングス(9783)も、東京都の「DX人材リスキリング支援事業」を受託し、都内の中小企業250社を対象に学習プログラムを提供予定だ。同社は米ナスダック上場の世界最大級の教育プラットフォームを提供する米ユーデミー(UDMY)の日本における事業パートナーとしてオンライン学習プラットフォーム「Udemy Business」を運営してきたなか、2020年にユーデミーと資本提携を行っている。
- 岸田首相の「新しい資本主義」実行計画には、スタートアップも投資の柱とされている。東証グロース上場でスタートアップ企業向け人材紹介業と企業向け採用コンサルを展開するフォースタートアップス(7099)も8日に株価上昇。岸田首相の「新しい資本主義」実行計画は、グロース銘柄への起爆剤になることが期待される。
- 10日より米国や中国など98の国・地域からの観光客を対象に受入れ手続きが開始されるなど、日本の観光政策も規制緩和・正常化に向けて動き出した。当ウィークリー2022年3月28日号の「銘柄ピックアップ」で紹介したソースネクスト(4344)のAI自動翻訳機「ポケトーク」は5/26よりスマホアプリ版が提供開始となった。インバウンドの本格化に向けて需要が益々高まると期待される。また、東京都も10日の正午より東京都民の都内旅行を補助する「もっとTokyo」(都民割)を開始。ワクチンの3回接種などを条件に1人1泊あたり5000円を補助し、18歳までの子どもは補助額を1000円上乗せする。ホテル・観光業界、交通機関、空運業など関連銘柄の株価上昇への強い支援材料になると期待されよう。(笹木)
6/13号では、ミクシィ(2121)、クボタ(6326)、ヤマハ発動機(7272)、良品計画(7453)、ゲンティン・マレーシア(GENM)を取上げた。
■主な企業決算の予定
- 6月13日(月):Hamee、JMホールディングス、アイ・ケイ・ケイHD、アセンテック、エイチ・アイ・エス、グッドコムアセット、ジェイ・エス・ビー、トーエル、トルク、ナイガイ、ブラス、学情、神戸物産、正栄食品工業、萩原工業、(米)オラクル
- 6月14日(火):Link-U、イートアンドHD、エニグモ、ギフトHD、ザッパラス、ファーストロジック、プロレド・パートナーズ、マネジメントソリューションズ、ミサワ、ヤーマン
- 6月15日(水):コーセル
- 6月16日(木):西松屋チェーン、(米)アドビ、クロ―ガー
■主要イベントの予定
- 6月13日(月)
・日立インベスターデー、景況判断BSI大企業全産業・製造業 (2Q)
・米下院特別委員会・議事堂襲撃事件公聴会
・英鉱工業生産 (4月)、中国経済全体のファイナンス規模、新規融資、マネーサプライ(5月、15日までに発表)
- 6月14日(火)
・日銀営業毎旬報告(6月10日現在)、 設備稼働率・鉱工業生産(4月)
・米FOMC(15日まで)、米中間選挙予備選(メーン、ノースダコタ、ネバダ、サウスカロラ
イナ州)、OPEC月報
・米PPI (5月)、 独CPI(5月)、独ZEW期待指数(6月)、英ILO失業率(2-4月)
- 6月15日(水)
・通常国会会期末、トヨタ株主総会(愛知県豊田市のトヨタ本社)、全国地方銀行協会の会長会見、日本証券業協会の森田会長が会見、コア機械受注(4月)、ブルームバーグ日本経済調査(6月)、第3次産業活動指数(4月)、訪日外客数(5月)
・米FOMC声明発表・FRB議長記者会見と経済予測、ECB総裁の講演、ブラジル中銀・政策金利発表、米下院特別委員会・議事堂襲撃事件公聴会、サンクトペテルブルク国際経済フォーラム(18日まで)
・米輸入物価指数(5月)、米小売売上高 (5月)、米NAHB住宅市場指数 (6月)、米 企業在庫(4月)、対米証券投資 (4月)、ユーロ圏鉱工業生産(4月)、中国小売売上高・工業生産(5月)と固定資産投資(1ー5月)、露GDP (1Q)
- 6月16日(木)
・日本取引所グループの清田CEO定例会見、全国銀行協会の高島会長(三井住友銀行頭取)が会見、第二地方銀行協会の会長会見、貿易収支 (5月)、対外・対内証券投資(6月5-11日)
・英中銀が政策金利発表、スイス中銀が政策金利発表、ユーロ圏財務相会合(ユーログループ)
・米新規失業保険申請件数(6月11日終了週)、米住宅着工件数 (5月)、欧州新車販売台数(5月)、 豪雇用統計(5月)、ニュージーランドGDP(1Q)、中国新築住宅価格(5月)
- 6月17日(金)
・日銀が金融政策決定会合を開き終了後に黒田総裁が会見、日本電産が定時株主総会を開催
・EU財務相理事会
・米景気先行指標総合指数(5月)、ユーロ圏CPI(5月)
- 6月18日(土)・19日(日)
・コロンビア大統領選挙・決選投票、フランス国民議会(下院)選挙(決選投票)
(Bloombergをもとにフィリップ証券作成)
※本レポートは当社が取り扱っていない銘柄を含んでいます。
■中国経済再開メリット米企業
中国では新型コロナのオミクロン変異株感染拡大に伴い3月末から実施されてきた都市封鎖が6/1から解除された。北京市でも4/25から厳戒態勢を取ってきたなか、6/6には大半の地域で公共交通機関が運行を開始し、オフィス勤務も可能となった。米国株についても中国の経済再開によるメリットを受けそうな銘柄は投資チャンスが期待される。
直近決算年度における大中華圏(中国本土・香港・台湾・マカオ)の地域売上高比率が高い銘柄(半導体関連を除く)を見ると、マカオでカジノ・リゾート事業を営んでいるラスベガス・サンズ(LVS)やウィン・リゾーツ(WYNN)の株価は5月に漸く底入れの兆しが見え始めた。ナイキ(NKE)、タペストリー(TPR)、VF(VFC)などの消費関連も期待が高まろう。
【中国経済再開メリット米企業~大中華圏の売上構成比が高い銘柄に注目】
■米銀バンカメ提唱「FAANG2.0」
ロシアのウクライナ侵攻長期化が懸念されていた5月上旬、米銀バンク・オブ・アメリカが「米国市場の主役が旧フェイスブック、アマゾン、アップル、ネットフリックス、グーグルの「FAANG」から①燃料、②航空・防衛、③農業、④原子力・再生可能エネルギー、⑤貴金属・鉱物に移行する」という内容のレポートを出した。
「ブルームバーグFAANG2.0価格リターン指数」は、米国株に限らずこれら5業種の世界的代表企業を構成銘柄としており、日本企業で唯一、農業機械のクボタ(6326)が採用されている。昨年末以降、米S&P500株価指数と比較した相対株価でも堅調に推移している。「FAANG2.0」を対象とした指数およびETFなどの組成が今後期待されることから、関連銘柄の有望株について関心が高まるだろう。
【米銀バンカメ提唱「FAANG2.0」~ブルームバーグFAANG2.0価格リターン指数】
■海運株の見通しと倉庫株
主要海運株は、昨年末頃まで「上海発ロサンゼルス向け40フィート・コンテナ運賃」相場に連動して推移していたが、今年に入って同コンテナ運賃がピークアウトを明確化する中でも、低PER、高配当利回りといったバリュー面での割安さもあり、株価は逆行高の傾向を示してきた。足元では中国・上海市が都市封鎖を実施した3月下旬から4月中旬まで株価が調整下落。また、6/9に上海市当局が新型コロナの大規模検査で一部地域を封鎖する計画と報じられると主要海運株は前日比約7%下落するなど、中国の新型コロナ情勢への感応度が高まっている。
一般的に海運の物流が滞ると港湾に貨物が滞留することから倉庫での保管需要が高まりやすい。海運株から倉庫株への資金シフトは一定の合理性があろう。
【海運株の見通しと倉庫株~標準コンテナ運賃低下傾向、倉庫株も要注目】
■銘柄ピックアップ
ミクシィ(2121)
2,187 円(6/10終値)
・1996年設立後SNSサービス「mixi」を運営。2013年よりスマートデバイス向けゲーム「モンスターストライク」を提供。デジタルエンターテイメント事業、スポーツ事業、およびライフスタイル事業を営む。
・5/13発表の2022/3通期は、売上高が前期比1.0%減の1,180.99億円、EBITDAが同25.0%減の203.34億円。主力のデジタルエンターテイメント事業は伸び悩んだものの、スポーツ観戦・公営競技のスポーツ事業が同46%増収、写真・動画共有アプリ等のライフスタイル事業が同39%増収。
・2023/3通期会社計画は、売上高が前期比1.6%増の1,200億円、EBITDAが同38.5%減の125億円、年間配当が同横ばいの110円。モンスターストライクの売上規模縮小および先行投資の影響で減益見通し。同社がスポーツベッティング・アプリ「TIPSTAR」に注力の中、経産省がスポーツの試合結果やプレー内容を賭け対象とする「スポーツベッティング」解禁に向けて素案を取り纏めた模様。
クボタ(6326)
2,452 円(6/10終値)
・1890年創業、1930年設立。産業機械、建築材料、鋳鉄管、産業用ディーゼルエンジンのメーカー。農機、鋳鉄管ともに国内首位であり、農機は世界でも3位。環境関連製品を国内外で強化中。
・5/12発表の2022/12期1Q(1-3月)は、売上高が前年同期比10.3%増の5,932.23億円、営業利益が同14.6%減の663.72億円。海外向け機械部門が増収に寄与したが、原材料価格の上昇や物流費増加が主な減益要因。部門別では、機械部門が同12.4%増収、水・環境部門が同2.1%増収。
・通期会社計画は、売上高が前期比11.5%増の2兆4,500億円、営業利益が同1.5%増の2,500億円、年間配当は未定。米銀バンク・オブ・アメリカが提供する「FAANG2.0」に基づいて組成された「ブルームバーグFAANG2.0価格リターン指数」を構成する49銘柄の中に日本企業として唯一採用された。また、2025年にも水素燃料電池車(FCV)のトラクターを世界で初めて商用化すると報じられた。
ヤマハ発動機(7272)
2,742 円(6/10終値)
・1963年に日本楽器製造(現ヤマハ)より分離独立。二輪車などのランドモビリティ事業、船外機などのマリン事業、サーフェスマウンターなどのロボティクス事業、および金融サービス事業を営む。
・5/13発表の2022/12期1Q(1-3月)は、売上高が前期比8.5%増の4,817.47億円、営業利益が同16.9%減の400.79億円。大型船外機に注力したマリン事業が増収増益、収益性改善のロボティクス事業が減収増益だったが、二輪車事業はプレミアムモデル生産制約が響き増収減益だった。
・通期会社計画は、売上高が前期比10.3%増の2兆円、営業利益が同4.2%増の1,900億円、年間配当が同横ばいの115円。同社は1990年代から産業用無人ヘリコプターを開発し、農薬散布などで活用されてきた老舗ドローン開発メーカー。政府はデジタル社会の実現に向け、法律で義務付けられているインフラ設備の目視点検等アナログ規制を見直し、ドローンを使えるようにする方針。
良品計画(7453)
1,386 円(6/10終値)
・1989年に西友ストアからプライベートブランド「無印良品」を基盤に分離独立。同ブランドおよび「MUJI」の販売を主な業務とし、直営店販売のほかライセンス付与取引先への商品供給を行う。
・4/14発表の2022/8期1H(9-2月)は、売上高が前年同期比7.1%増の2,444.96億円、営業利益が同19.4%減の188.54億円。国内外における新規出店に伴う店舗数の増加が増収に貢献の一方、国内事業における衣類・雑貨の販売苦戦に伴い粗利益率が悪化したことが響いて営業減益。
・通期会社計画を下方修正。売上高を前期比3.6%増の4,700億円(従来計画4,800億円)、営業利益を同10.5%減の380億円(同450億円)とした。年間配当は同横ばいの40円で変わらず。国内事業苦戦に加え、中国におけるゼロコロナ政策の行動規制強化の影響を基に下方修正のなか、今年5月国内既存店売上高が前年同月比12.4%増と2ヵ月連続で前年実績を上回るなど好転の兆し。
ゲンティン・マレーシア(GENM)
市場:マレーシア 3.01 MYR (6/9終値)
・1980年設立のゲンティングループ傘下企業。マレーシアで国内唯一の公認カジノを併設した統合リゾート(IR)を展開するほか、米ニューヨーク市、バハマ、イギリス、エジプトなど世界的にIRを展開。
・5/26発表の2022/12期1Q(1-3月)は、売上高が前年同期比2.7倍の17.21億MYR、一時的要因の影響を除いた調整後純利益が前年同期▲1.10億MYRから4.14億MYRへ黒字転換。前四半期からのコロナ禍対応に伴う移動・営業規制の緩和に伴うレジャー・ホスピタリティ部門回復が継続した。
・マレーシアでは今年4月から新型コロナワクチン接種完了を条件に隔離無しの入国を外国人に認めたほか、飲食店の営業時間規制などの大半の規制を撤廃・縮小。更に5月以降は屋外でのマスク着用義務も撤廃した。同社では、米国・バハマ部門でリゾート・ワールド・カジノ・ニューヨーク・シティ(RWNYC)の機能拡張、および今夏に米オレンジ郡で新たなレジャー施設をオープン予定だ。
■アセアン株式ウィークリーストラテジー
(6/13号「CCSとアンモニア火力発電で日本が貢献」
タイ石油公社(PTT)傘下の探鉱・採掘会社であるPTTEP(タイ石油開発公社)がCO2を回収して地下に貯留する「CCS」を2026年前までに開始すると発表。タイ湾に保有する天然ガス田から発生したCO2を回収して海底に埋め戻すことに関し、昨年から実施の実現可能性調査を終えたところだ。技術分野ではINPEXや日揮HDの日本企業2社と協業する覚書を4月に締結した。
また、日本のIHIがインドネシアの国営電力会社PLNの子会社と組み、燃やしてもCO2が出ないアンモニアを使った火力発電の実用化を目指しており、日本政府が資金支援を検討するなど日本が国をあげて「アジアの脱炭素化」に向けた支援の構えだ。これらの技術は、岸田首相の「アジア・ゼロエミッション共同体構想」で化石燃料を使いながら脱炭素化を達成する切り札と期待されている。
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アナリストのご紹介 フィリップ証券リサーチ部
笹木 和弘
フィリップ証券株式会社:リサーチ部長
証券会社にて、営業、トレーディング業務、海外市場に直結した先物取引や外国株取引のシステム開発・運営などに従事。その後は個人投資家や投資セミナー講師として活躍。2019年1月にフィリップ証券入社後は、米国・アセアン・日本市場にまたがり、ストラテジーからマクロ経済、個別銘柄、コモディティまで多岐にわたる分野でのレポート執筆などに精力的に従事。公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト(CIIA®)。