投資戦略ウィークリー 2022年5月23日号(2022年5月20日作成)】”バイデン米大統領訪日、韓国・インド関連への注目”
■バイデン米大統領訪日と韓国、インド関連への注目
- バイデン米大統領が日韓歴訪に向けて19日に米国を出発した。北朝鮮による核実験や長距離ミサイル発射の兆候、ロシアのウクライナ侵攻に対する経済制裁の強化、および中国による台湾などに対する軍事力を背景とした現状変更阻止など、アジアの結束を打ち出したい思惑があるものとみられる。また、日本では日米にオーストラリアとインドを加えた協力枠組み「クアッド」の首脳会談が開催されるほか、新経済圏構想「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」の発足の発表も予定されている。IPEFを中国に対抗する経済安全保障政策の柱に位置付け、半導体の供給や環境配慮型のインフラ整備などを加盟国間で補完し合う狙いがあるとされる。
- 北朝鮮問題に対しては、韓国で「親日派」と言われるユン大統領の就任に伴い、日韓関係改善が優先されよう。日本は2019年、軍事転用への懸念が拭えないとして超高純度のフッ化水素、レジスト(物理的・化学的処理に対する保護膜およびその形成に使用される物質)などの半導体材料、および有機ELディスプレイ用パネルに使うフッ化ポリイミドの韓国向け輸出管理手続きを厳格化。それ以来、日韓の関係は悪化していた。半導体洗浄用の超高純度のフッ化水素は、ステラケミファ(4109)、ダイキン工業(6367)を含む日本企業3社が世界市場7割を占め、フォトレジストは、東京応化工業(4186)とJSR(4185)の2強に信越化学工業(4063)、住友化学(4005)、富士フィルム(4901)を合わせた5社で世界シェアの9割を占める。フッ化ポリイミドも三菱ガス化学(4182)をはじめとした日本企業が世界シェアの約9割だ。
- ロシアへの経済制裁強化の観点からは、日本政府が事業継続を表明するロシア極東の合弁プロジェクトであるサハリン1および2に関し、サハリン1では米エクソン・モービルが、サハリン2では英シェルが撤退を表明。サハリン1に参加する伊藤忠商事(8001)、丸紅(8002)、石油資源開発(1662)、および、サハリン2に参加する三井物産(8031)、三菱商事(8058)への影響も考えられよう。
- 本においてこれからインドの存在感が増してくる展開も考えられるだろう。自動車メーカーのスズキ(7269)がインドで高シェアのほか、セブン&アイHD(3382)傘下のセブン・イレブンは昨年10月に現地大手財閥によるインド1号店をムンバイに開店。壱番屋(7630)のカレー専門店CoCo壱番屋も三井物産との合弁で2020年にインドに1号店を開店している。また、亀田製菓(2220)では今年4月、インド出身CEOが誕生。投資対象として中国からインドへの大きなシフトが起こる可能性も考慮されよう。(笹木)
5/23号では、東レ(3402)、王子ホールディングス(3861)、ステラケミファ(4109)、西武ホールディングス(9024)、タイ・オイル(TOP)を取り上げた。
■主な企業決算の予定
- 5月23日(月):(米)ズーム・ビデオ・コミュニケーションズ
- 5月24日(火):(米)インテュイット、網易[ネットイース]
- 5月25日(水):タカショー、穴吹興産、(米)スプランク、エヌビディア
- 5月26日(木):芝浦機械、ダイドーグループHD、フジミインコーポレーテッド、(米)ワークデイ、ゼットスケーラー、マーベル・テクノロジー、オートデスク、コストコホールセール、百度[バイドゥ]、ダラー・ツリー、メドトロニック
- 5月27日(金):SBIホールディングス 、(米)ピンドゥオドゥオ
■主要イベントの予定
- 5月23日(月)
・日米首脳会談、首都圏新築分譲マンション(4月)
・米アトランタ連銀総裁 講演・英中銀総裁の講演(ウィーン)、ユーロ圏財務相会合(ユーログループ)、中国の滴滴グローバルが米上場廃止計画巡り臨時株主総会、世界ガス会議(WGC、27日まで、韓国・大邱市)、アフリカ開発銀行グループ年次総会(27日まで、ガーナ・アクラでハイブリッド形式)、世界経済フォーラム年次総会(22-26日、ダボス)
・独IFO企業景況感指数 (5月)
- 5月24日(火)
・日米豪印のクアッド首脳会合、auじぶん銀行日本PMI (5月)、ブルームバーグ日本経済調査 (5月)、全国百貨店売上高(4月)、東京地区百貨店売上高 (4月)
・EU財務相理事会、インドネシア中銀・政策金利発表、台北国際コンピュータ見本市(COMPUTEX)(27日まで)
・米新築住宅販売件数 (4月)、S&Pグローバル米国製造業・サービス業・総合PMI (5月)、S&Pグローバル・ユーロ圏製造業・サービス業・総合PMI (5月)
- 5月25日(水)
・「人とくるまのテクノロジー展2022 YOKOHAMA」(27日まで、パシフィコ横浜)、黒田日銀総裁、「2022年国際コンファランス」で講演(オンライン)、景気一致指数 (3月)、景気先行CI指数 (3月)
・米FOMC議事要旨 (5月3、4日開催分)、ECB金融安定報告、NZ中銀が政策金利発表、ドイツ15年債入札、米ツイッターの年次株主総会、黒人男性ジョージ・フロイドさんが警官に殺害されてから2年
・米耐久財受注 (4月)、独GDP (1Q)、シンガポールGDP(1Q)、台湾GDP(1Q)
- 5月26日(木)
・ソニーグループが2022年度事業説明会を開催(27日まで)、企業向けサービス価格指数 (4月)、対外・対内証券投資 (5月15-21日)
・米下院金融委員会 デジタル資産と今後の金融に関する公聴会、韓国中銀 政策金利発表、トルコ中銀 政策金利発表、NZ首相 米ハーバード大学卒業式でスピーチ
・米新規失業保険申請件数 (21日終了週)、米GDP (1Q、改定値)、米中古住宅販売成約指数 (4月)
- 5月27日(金)
・東京CPI (5月)
・北大西洋条約機構加盟国国会議員会議(NATO-PA)春季大会(30日まで、リトアニア・ビリニュス)、米大統領 海軍兵学校卒業式でスピーチ
・米個人支出・個人所得 (4月)、米ミシガン大学消費者マインド指数改定値 (5月)、ユーロ圏マネーサプライ (4月)、中国工業利益 (4月)
- 5月28日(土)・29日(日)
・コロンビア大統領選挙、第1回投票(決選投票の場合6月19日)
(Bloombergをもとにフィリップ証券作成)
※本レポートは当社が取り扱っていない銘柄を含んでいます。
■米小売大手の粗利率・販管費率
17日発表の4月の米小売売上高(季節調整済み)は前月比0.9%増と高インフレの中でも消費が引き続き堅調であることが示されたものの、同日発表されたウォルマート(WMT)の2-4月期決算は利益が急減、通期利益見通しも下方修正された。翌18日発表のターゲット(TGT)も同様に利益が急減した。燃料価格高騰・人件費拡大のほか、消費者が高インフレを背景に低利益率商品の購入にシフトしていることが響いた。2-4月期決算発表を控える他の小売り大手も粗利益率や販管費率の動向は注意されよう。
一方、コストコ・ホールセール(COST)は会費収入を粗利益の源泉とすることから、商品の利益率に関係なく会費収入の伸びが利益成長の原動力である。インフレ耐性の強い事業モデルと言えよう。
【米小売大手の粗利率・販費費率~コストコは他社と事業モデルが異なる】
■小麦・大豆・トウモロコシ先物
米農務省が3/9に公表した世界農業需給予測によると、2020/21穀物年度の世界全体の穀物輸出量のうちロシア産とウクライナ産を合わせると、小麦が約3割、トウモロコシが約2割を占めており、大豆と比較すると両国のウエイトが高い。そのため、ロシアのウクライナ侵攻長期化見通しが高まるにつれ、小麦とトウモロコシの足元の先物価格は、大豆と異なって期先物も2023年半ば頃まで高止まりしている。2ヵ月前の時点では、小麦先物価格の限月間イールドカーブが期近物からすぐに右下がりとなっており、ウクライナ情勢の長期化は想定されていなかったことが推察される。
世界第2位の小麦生産国インドが5/14に小麦の輸出停止を決定したことで国際価格の高止まり長期化が懸念される。
【小麦・大豆・トウモロコシ先物~限月間イールドカーブに形状の違いあり】
■女性が社長かつ大株主上場企業
世界経済フォーラム(WEF)が昨年公表した「ジェンダーギャップ指数2021」によると、日本は156ヵ国中120位。経済分野では女性管理職の割合の低さのほか、パートタイム職につく女性が男性の約2倍、女性の平均所得の低さなどが指摘されている。経済産業省も女性活躍推進に優れた上場企業を「なでしこ銘柄」として選定し、中長期の企業価値向上を重視する投資家に紹介している。
女性がCEOまたは社長を務め、かつ、大株主にもなっている主な上場企業を見ると、株価収益率(PER)や株価純資産倍率(PBR)の観点で割安に放置されている銘柄が多くみられる。新時代のビジネスにとどまらず、伝統的事業についても新たな視点でビジネスを成長させる潜在的可能性が注目されよう。
【女性が社長かつ大株主上場企業~低PER・低PBRの割安企業が多い】
■銘柄ピックアップ
東レ(3402)
649 円(5/20終値)
・1926年設立の基礎素材メーカー。繊維、機能化成品、炭素繊維複合材料、環境・エンジニアリング、ライフサイエンスなどの事業を行う。航空機向け炭素繊維とポリエステルフィルムは世界首位。
・5/13発表の2022/3通期は、売上収益が前期比18.3%増の2兆2,285億円、営業利益から非経常的要因の影響を除いた事業利益が同46.3%増の1,320億円。セグメント別事業利益では、炭素繊維複合材料が風力発電用途や圧力容器途の拡大を受けて黒字転換のほか、全ての事業が増益。
・通期会社計画は、売上収益が前期比12.2%増の2兆5,000億円、事業利益が同6.0%増の1,400億円。事業利益が黒字化した炭素繊維複合材料は更に航空機向け需要増が見込まれる。また、環境・エンジニアリングの水処理事業では5/10、アラブ首長国連邦で世界最大級の海水淡水化プラント向け水処理膜(RO膜)を受注したと発表。同社はサウジアラビアにもRO膜の輸出実績がある。
王子ホールディングス(3861)
566 円(5/20終値)
・1873年創立後、1949年に苫小牧製紙として発足。生活産業資材(段ボール・包装紙等)、機能材(特殊紙等)、資源環境ビジネス(パルプ等)、印刷情報メディア(新聞紙等)を主な事業とする。
・5/13発表の2022/3通期は、売上高が前期比8.2%増の1兆4,701億円、営業利益が同41.7%増の1,201億円。コロナ禍からの経済活動回復で紙需要が増えたほか、パルプの販売価格上昇が寄与したほか、アセアンでEコマース需要増を受けて段ボールや段ボール原紙の販売が好調に推移。
・通期会社計画は、売上高が前期比15.6%増の1兆7,000億円、営業利益が同12.6%減の1,050億円、年間配当が増1円増配の8円。傘下の王子ネピアはティッシュやトイレットペーパー、キッチンタオルなど家庭紙全製品を5/1から10%以上値上げ。また、プラスチック削減の動きを受け、同社の紙包装材は国内で「キットカット」、タイで「ネスカフェ」、マレーシアで「ミロ」の包装用に採用された。
ステラケミファ(4109)
2,361 円(5/20終値)
・1916年に堺市で橋本治三郎が創業し硝酸塩を製造。半導体やリチウムイオン2次電池向けフッ化物等に係る高純度薬品事業のほか、傘下のステラファーマ(4888)を通じてメディカル事業も営む。
・5/10発表の2022/3通期は、売上高が前期比13.4%増の372.96億円、経常利益が同42.3%増の57.07億円。半導体液晶部門向けのフッ化物製品および原発関連の濃縮ホウ素の販売増が増収に寄与。中国の持分法適用会社のリチウムイオン2次電池用電解質の需要増が利益面で貢献した。
・2023/3通期会社計画は、売上高が前期比0.5%増の375億円、経常利益が同1.6%増の58億円。高純度薬品事業に係る半導体液晶部門が業績を牽引するほか、リチウムイオン2次電池向け需要が持分法投資利益を通じて経常増益に繋がる見通し。北朝鮮問題対応からバイデン米大統領の訪日で日本政府が韓国に課しているフッ化水素の輸出管理厳格化が緩和する可能性もあろう。
西武ホールディングス(9024)
1,387 円(5/20終値)
・2006年に持株会社化。東京北西部と埼玉地盤の西武鉄道お、よびプリンスホテルを中核の傘下企業とする。都市交通・沿線、ホテル・レジャー、不動産、建設、その他の5事業セグメントを営む。
・5/12発表の2022/3通期は、売上高が前期比17.7%増の3,968億円、営業利益が前年同期の▲515.87億円から▲132.16億円へ赤字幅縮小。新型コロナ感染拡大とそれに伴う緊急事態宣言の度重なる発令の厳しい環境の下、休業施設数減と秋口からの外出需要の持ち直しで業績が改善。
・2023/3通期会社計画は、売上高が前期比11.6%増の4,430億円、営業利益が310億円へ黒字転換、年間配当が同5円増配の10円。同社は今年2月、所有するプリンスホテルに加え、国内76施設を9月までにシンガポール系投資ファンドGICに約1500億円での売却を発表。引き続き同社が保有する中に中国で知名度が高い富良野が含まれており、インバウンド復活の際の恩恵が期待される。
タイ・オイル(TOP)
市場:タイ 57.25 THB (5/19終値)
・1961年設立のタイ最大の石油精製業者。政府系のタイ石油公社(PTT)が45%保有の筆頭株主。石油精製事業のほか芳香族・LAB(リニアアルキルベンゼン)、潤滑油、発電、溶媒といった事業を営む。
・5/12発表の2022/12期1Q(1-3月)は、総収益が前年同期比55.9%増の1,145億SGD、純利益が同2.1倍の71.83億SGD。主力の石油精製事業で経済活動再開による需要増、世界的な供給懸念に伴う原油価格上昇を受けた製品販売価格上昇が増収に寄与。在庫評価益を除く粗利率が拡大。
・同社は2022-25年にかけて約16.36億USDの資本的支出を計画。その内、11億USDをクリーン燃料プロジェクト(CFP)へ、2.7億USDをインドネシア石油化学大手チャンドラ・アスリ・ペトロケミカルへ出資の方針。同社はCFPにより新たに約48.25億USDの価値を生み出すと試算している。また、チャンドラ・アスリとの提携により、石化製品需要の7割を輸入に頼るタイで国産化が進むと期待されよう。
■アセアン株式ウィークリーストラテジー
(5/23号「シンガポールの水処理施設」)
隣国のマレーシアから水を輸入してきたシンガポールは、両国関係が悪化した際の供給不安を警戒し、水の時給を目指して海水や下水を飲み水に変える施設の整備を進めてきた。そのような中で日本の日東電工(6988)は下水を飲み水に再生するRO(逆浸透)膜の供給でシンガポールの約7割のシェアを占める。RO膜は、ポンプで海水や下水に圧力をかけながら膜に通し、塩分や不純物を取り除くもの。特に海水淡水化プラントにおける分離膜技術では日本企業が世界的に強い。
また、シンガポールでは水処理施設に必要な電力を供給するためにテンゲ貯水池に東南アジア最大級の太陽光ファームのパネルを設置し、脱炭素に取り組んでいる。このプロジェクトはエンジニアリング企業のセムコープ・インダストリーズ(SEMB)と公益事業庁が進めている。
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アナリストのご紹介 フィリップ証券リサーチ部
笹木 和弘
フィリップ証券株式会社:リサーチ部長
証券会社にて、営業、トレーディング業務、海外市場に直結した先物取引や外国株取引のシステム開発・運営などに従事。その後は個人投資家や投資セミナー講師として活躍。2019年1月にフィリップ証券入社後は、米国・アセアン・日本市場にまたがり、ストラテジーからマクロ経済、個別銘柄、コモディティまで多岐にわたる分野でのレポート執筆などに精力的に従事。公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト(CIIA®)。