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投資戦略ウィークリー 2022年4月18日号(2022年4月15日作成)】”上場基準適合計画書、コロナ前回復を睨む旅行・レジャー”

 

■上場基準適合計画書、コロナ前回復睨む旅行・レジャー

  •  4/4の東証市場再編でプライム市場に上場した企業の中には上場維持基準に未適合ながらも「新市場区分の上場維持基準の適合に向けた計画書」を提出することによってプライム上場が認められることとされた企業が、今年1/11時点で296社に上っていた。プライム市場への上場維持基準への適合状況としては、「流通株式数」、「流通株式時価総額」、「流通株式比率」、「売買代金」の4項目が各社より開示されている。
  •  流通株式比率が0%に届かない場合は、大株主からの売出しなど株価下落に繋がる要因が警戒される一方、流通株式時価総額が100億円に届かない場合は、流株価収益率(PER)を高めるための市場の評価を上げる必要があることから、株価上昇に繋がり易い経営戦略の積極化が期待されよう。大株主からの売出しや政策保有株式として保有する主体からの売却に対しては、積極的に自社株買い消却で発行済み株式数を減少させることにより、流通株式比率を高めつつ、1株当たり利益(EPS)を高めることで流通株式時価総額を増加させる余地もあるだろう。
  •  「適合に向けた計画書」を提出してプライム市場への上場を選択した企業の中には、流通株式時価総額が基準の半分である50億円に満たない場合も多くみられる。流通時価総額が50億円で市場予想PERが10倍の場合、他の条件が変わらなければPERが20倍以上まで上昇することが必要となる。経営者は「絵に描いた餅」と見られる余地がない具体的な成長戦略を策定し「背水の陣」で目標達成に向けて行動していくことが求められるだろう。投資家の立場からは、プライム市場での生き残りへの真剣度を見極めつつ、成長ポテンシャルを見いだせる企業に対して投資を通じて温かい眼で応援していくことが望まれるのかもしれない。
  •  13日に米航空大手のデルタ航空が2022年1-3月期の決算発表で、4-6月期の売上高が2019年の同時期の93-97%に達する見通しを示したほか、米クルーズ大手カーニバルも3/26-4/3に受け付けたクルーズ予約が過去最高の記録を大幅に更新したと発表。中国・上海市の新型コロナ感染拡大防止に係る都市封鎖も12日以降に緩和の方向に動き出した。日本においても、まん延防止等重点措置が解除されて以降人流が戻ってきており、飲食店や居酒屋、ホテルその他の旅行・レジャー関連は「リベンジ消費」によって米国と同様にコロナ前近くの水準への回復も期待される。新型コロナ飲み薬は、塩野義製薬4507が現在厚労省に承認申請中のなか、使用が普及すれば経済再開を後押ししよう。(笹木)

4/18号では、ニーズウェル(3992)小松製作所(6301)NIPPON  EXPRESSホールディングス(9147)吉野家ホールディングス(9861)GoToゴジェック・トコペディア(GOTO)を取り上げた。

■主な企業決算の予定

  • 418日(月): 東天紅、(米)チャールズ・シュワブ、バンク・オブ・アメリカ、バンク・オブ・ニューヨーク・メロン
  • 419日(火): いちご、(米)IBMネットフリックスロッキード・マーチンジョンソン・エンド・ジョンソン
  • 420日(水): (米)ラムリサーチ、CSX、テスラプロクター・アンド・ギャンブル(P&G)アボットラボラトリーズ、ASMLホールディング
  • 421日(木)ディスコ、日本電産、OKK、オービック、オービックビジネスコンサルタント、光世証券、(米)インテュイティブサージカル、ユニオン・パシフィック、AT&T、ダウ、ダナハー、ネクステラ・エナジー、フィリップ・モリス・インターナショナル
  • 422日(金): KOA、きもと、東京製鐵、岩井コスモホールディングス、アジュバンホールディングス、エレマテック、ジャフコグループ株式会社、モバイルファクトリー、(米)ベライゾン・コミュニケーションズ、アメリカン・エキスプレス

主要イベントの予定

  • 418日(月)

・首都圏新築分譲マンション(3月)

・米セントルイス連銀総裁 オンラインイベントで講演、イースターマンデーで欧州や香港など休場、IMF・世銀 春季会合(24日まで)

・米NAHB住宅市場指数 (4月)、中国GDP (1Q)、中国工業生産・小売売上高・都市部固定資産投資 (3月)

 

  • 419日(火)

・鉱工業生産 (2月)、設備稼働率(2月)

・米シカゴ連銀総裁 講演、インドネシア中銀 政策金利発表、 IMF世界経済見通し(WEO)、東ティモール大統領選決選投票

・米住宅着工件数 (3月)

 

  • 420日(水)

・日本証券業協会の森田会長会見、貿易収支・輸出・輸入(3月)、訪日外客数(3月)

・米サンフランシスコ連銀総裁 講演、米シカゴ連銀総裁 講演、米地区連銀経済報告(ベージュブック)公表、米20年債入札、中国1年・5年物ローンプライムレート(LPR)、博鰲(ボアオ)アジアフォーラム(海南島、22日まで)、20財務相・中央銀行総裁会議(ワシントン)、フランス大統領選、決選投票進出2候補による討論会、クレジットデリバティブ決定委員会会合

米中古住宅販売件数 (3月)、欧州新車販売台数 (3月)、ユーロ圏鉱工業生産 (2月)

 

  • 421日(木)

月例経済報告(4月)、フルハシEPO 東証スタンダードに新規上場、日銀 金融システムレポート(4月号)、対外・対内証券投資(4月10-16日)、工作機械受注 (3月)

米FRB議長とECB総裁 IMFのパネル討論会に参加、英中銀総裁 講演

米新規失業保険申請件数 (16日終了週)、米景気先行指標総合指数 (3月)、フィラデルフィア連銀製造業景況指数(4月)、ユーロ圏CPI (3月)、ユーロ圏消費者信頼感指数 (4月)

 

  • 422日(金)

・全国CPI (3月)、じぶん銀行 日本PMI製造業・サービス業・コンポジット (4月)、営業毎旬報告(4月20日現在)

・ECB総裁 講演

S&Pグローバル米国・ユーロ圏製造業・サービス業・総合PMI速報値 (4月)

(Bloombergをもとにフィリップ証券作成)

※本レポートは当社が取り扱っていない銘柄を含んでいます。

 

■S&P500配当貴族指数構成銘柄

「S&P500配当貴族指数」とは、S&P500指数構成銘柄のうち25年連続して増配している株式を対象とした均等加重型の株価指数で、時価総額30億ドル以上の優良大型株のパフォーマンスを図る目的で設計されている。連続増配年数最長59年の企業を見ると、コカ・コーラ(KOJ&JJNJP&GPGといった日本人にも馴染みの深い企業で株式市場では「ディフェンシブ銘柄」として、景気が冷え込む懸念が強い場合に「業績が景気に左右されにくい」という理由で物色されやすい銘柄が含まれる点は特徴的だ。

増配年数上位の中には成長株投資の観点では好まれない「複合企業」も名を連ねている。事業ポートフォリオ入替えに伴う利益率向上で景気に左右され難い経営体質を構築しているとみられる。

S&P500配当貴族指数構成銘柄~継続は力なり、連続増配年数25年以上】

■米防衛関連企業の株価動向

米国を代表する株価指数のS&P500が年初から1割近く下落して推移するなか、2/24にロシアのウクライナ侵攻が開始されて以降、米防衛関連企業の株価は堅調に推移。地政学リスクの高まりとFRBの金融引き締めによる景気冷え込み懸念に対して軍需を景気下支えの「ディフェンス」として期待する声もある模様だ。

防衛関連企業のなかでも、ロシア侵攻以降の実際の戦況を通じ、ウクライナに自爆ドローン無人機を提供しているエアロバイロンメント(AVAVの株価が高騰したほか、軍事用通信・エレクトロニクスを専門とするL3ハリス・テクノロジーズ(LHXの高い通信傍受技術が見直された。ウクライナの抵抗に貢献している歩兵携帯式ミサイルのジャベリンやスティンガーの開発関連企業の株価も堅調だ。

【米防衛関連企業の株価動向~景気後退へのディフェンスとしての役割も】

■浮動株比率と流通株式比率

東証プライム市場入りの条件として、流通株式比率35%以上、流通株式時価総額100億円以上の条件がある。「流通株式」と、東証がTOPIX(東証株価指数)の算出に使う「浮動株」は類似しているが、両者の主な違いとして、信託銀行や海外カストディ名義で保有されている場合は流通性があると認められて例外的に流通株式として認められる点にある。

流通株式比率や流通時価総額の基準を満たさない企業は、所定の期間までに既に提出済みの上場維持基準の適合に向けた計画書に沿った措置が求めらる。浮動株比率で下位の東証プライム上場企業には上場親会社を筆頭株主とする場合もみられる。上場維持基準を達成できない場合、親子上場解消のための完全子会社化を選択する余地もあろう。

【浮動株比率と流通株式比率~プライム市場条件は流通株式比率35%以上】

■銘柄ピックアップ

ニーズウェル(3992) 

 683  円(4/15終値)

・1986年設立の独立系システムインテグレータ。金融・物流・通信・流通等向けの業務系システム開発、基盤構築、IoT向けのコネクテッド開発、ソリューション・商品売上の4事業を営む。金融に強み。

・2/10発表の2022/9期1Q(10‐12月)は、売上高が前年同期比15.9%増の15.62億円、営業利益が同25.6%増の1.71億円。コネクテッド開発を除く3事業が2桁台の増収率と堅調に推移。特に売上構成比約10%のソリューション・商品売上は独自のソリューション提供が奏功し同55.5%増収と伸長。

・通期会社計画は、売上高が前期比2.1倍の63.30億円、営業利益が同2.1倍の6.38億円。同社は東証市場再編でプライム市場を選択し、昨年10月に「上場維持基準の適合に向けた計画書」を公表。2023年9月末までの「流通株式時価総額100億円以上」の基準達成に向けて、自社株買いを伴う大株主からの売却のほか、現在の予想PER(約15倍)を約30倍へ引き上げることを目指している。

小松製作所6301) 

 2,966 円(4/15終値)

・1921年設立。油圧ショベルやブルドーザーなどの「建設機械・車両」を主力とするほか、プレス機械などの「産業機械」、建設・鉱山機械に係る販売金融といった「リテールファイナンス」を営む。

・1/31発表の2022/3期9M(4-12月)は、売上高が前年同期比33.1%増の2兆146億円、営業利益が同2.1倍の2,237億円。建設機械・車両部門では、一般機械・鉱山機械ともに中国以外の地域で需要が好調に推移。部品・サービス売上も増加。産業機械他部門も海外での据付工事完了で増収。

・通期会社計画は、売上高が前期比22.5%増の2兆6,830億円、営業利益が同68.5%増の2,820億円。ロシアが世界市場から殆ど締め出されることが予想され、それを補うために資源の生産能力を他の地域に拡大する必要があることから、同社や米キャタピラーのような資源関連大手機械メーカーへの追い風が続こう。また、アセアンでの中国勢の台頭に対し部品・サービス売上強化で対抗。

NIPPON  EXPRESSホールディング(9147  

7,320 円(4/15終値)

・「陸運元会社」を前身として1937年に日本通運を創立。21年12月に持株会社へ移行。国内外で貨物自動車・鉄道・航空・海上輸送・港湾に係る運送業と倉庫業を営むロジスティクス事業が主軸。

・2/14発表の日本通運における2021/12通期(4-12月の9ヵ月間)は、売上高が1兆7,632億円(12ヵ月決算の2021/3通期が2兆791億円)、営業利益が687億円(同781億円)。航空輸送、海運輸送を中心とした国際貨物の輸送需要が伸長。航空・船舶利用費や燃油単価といった費用増を吸収。

・持株会社移行後の2022/12通期会社計画は、売上高が2兆3,600億円、営業利益が1,000億円。年間配当金は記念配当150円を含む400円と持株会社移行前の前期(4-12月)の240円から増配。昨年12月に中国・昆明とラオス・ビエンチャンを結ぶ中国ラオス鉄道が開通。同社は4/12、中国・ラオスを鉄道で輸送し、タイなどアセアン諸国にトラックで運ぶ複合輸送サービスを開始したと発表。

吉野家ホールディングス(9861

 2,445 4/15終値

・1958年に牛丼専門の吉野家を設立。牛丼で国内2位の「吉野家」のほか、セルフ式讃岐うどんの「はなまる」の店舗経営およびFC店舗への経営指導を行う。米国・中国・マレーシア等で海外展開。

・4/13発表の2022/2通期は、売上高が前期比9.8%減の1,536.01億円、営業利益が前期の▲53.35億円から23.65億円へ黒字転換。株式譲渡で京樽を連結の範囲から除外したこによる減収要因を除けば、前期の大規模な営業自粛の反動増およびテイクアウトや宅配需要増を受けて実質増収。

・2023/2通期会社計画は、売上高が前期比9.4%増の1,680億円、営業利益が同43.8%増の34億円。まん延防止等重点措置の解除後の人流の戻りとともに店内飲食が回復する前提の下、売上高が新型コロナ感染拡大前の20年2月期の水準に回復すると見込む。中期経営計画で「牛丼とから揚げの店」を目指すほか、「クッキング&コンフォート」モデルへの店舗改装を進めるとしている。

GoToゴジェック・トコペディア(GOTO)  

市場:インドネシア  376 IDR 4/14終値)

・2021年5月にインドネシア配車大手ゴジェック、およびソフトバンクグループ9984が出資するネット通販大手トコペディアが経営統合。4/11にインドネシア証券取引所に新規上場を果たした。

・上場時目論見書に記載の2021年1-7月の業績は、売上高が前年同期比54.9%増の2兆5,163億IDR、外国為替換算差損益の黒字転換を含む純利益が前年同期の▲10兆565億IDRから▲7兆5,924億IDRへ赤字幅縮小。売上高の約2.8倍に上る販管費を投入するなど営業費用が嵩んだ。

・同社は、①ゴジェックの「オンデマンド」、②トコペディアの「Eコマース」、③キャッシュレス決済アプリの「GoPay」を中心とした「フィンテック」の主要3事業を営む。21年1-7月の外部売上高構成比は、オンデマンドが72%、Eコマースが18%、フィンテックが6%。配車・食品宅配とEコマースを1社で提供する強みを生かし、人口2億7千万人の国内市場で足場を固めて競合を迎え撃つ戦略だ。

 

■アセアン株式ウィークリーストラテジー

4/18号「アセアンの3大ネット企業・その2」

インドネシアのGotoゴジェック・トコペディア(GoTo)の競合相手であるシンガポールのネット企業2強は、配車大手グラブが昨年12/2に米ナスダック市場に上場、ネット通販シーが2017年に米ニューヨーク証券取引所に上場していた。アセアンのネット企業3強のうち、GoToとグラブはともにソフトバンクグループが出資し、GoToにはアリババが出資。それらに対して、シーには中国でアリババのライバルであるテンセントが出資するなど、アセアンにおける3強の争いは、日中の有力ネット企業を巻き込んだ勢力争いの構図となっている。

特に世界4位の人口2億7千万人を擁するインドネシアの金融事業は、シーが地場銀行を買収して「シーバンク」でデジタル化を進めるほか、Gotoが地場ジャゴ銀行に20%超を出資し、グラブも地場アロ・バンクに出資と激戦区化の様相だ。

 

留意事項
  1. 上場有価証券等のお取引の手数料は、国内株式の場合は約定代金に対して上限1.265%(消費税込)(ただし、最低手数料2,200円(消費税込)、外国取引の場合は円換算後の現地約定代金(円換算後の現地約定代金とは、現地における約定代金を当社が定める適用為替レートにより円に換算した金額をいいます。)の最大1.10%(消費税込)(ただし、対面販売の場合、3,300円に満たない場合は3,300円、コールセンターの場合、1,980円に満たない場合は1,980円)となります。
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  3. 国内金融商品取引所もしくは店頭市場への上場が行われず、また国内において公募、売出しが行われていない外国株式等については、我が国の金融商品取引法に基づいた発行者による企業内容の開示は行われていません。
  4. 金融商品ごとに手数料等及びリスクは異なりますので、お取引に際しては、当該商品等の契約締結前交付書面や目論見書又はお客様向け資料をよくお読みください。

 

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アナリストのご紹介 フィリップ証券リサーチ部

笹木和弘プロフィール笹木 和弘
フィリップ証券株式会社:リサーチ部長
証券会社にて、営業、トレーディング業務、海外市場に直結した先物取引や外国株取引のシステム開発・運営などに従事。その後は個人投資家や投資セミナー講師として活躍。2019年1月にフィリップ証券入社後は、米国・アセアン・日本市場にまたがり、ストラテジーからマクロ経済、個別銘柄、コモディティまで多岐にわたる分野でのレポート執筆などに精力的に従事。公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト(CIIA®)。

 

アセアン・米国株、個別銘柄のリサーチレポート承ります
世界経済のけん引役と期待されるアセアン(ASEAN:東南アジア諸国連合)。そのアセアン各国で金融・証券業を展開し、マーケットを精通するフィリップグループの一員である弊社リサーチ部のアナリストが、市場の動向を見ながら、アセアン主要国(シンガポールタイマレーシアインドネシア)の株式市場を独自の視点で徹底解説します。

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