投資戦略ウィークリー 2022年3月28日号(2022年3月25日作成)】”日本株相場の意外な強さの背景、物色材料は豊富”
■日本株相場の意外な強さの背景、物色材料は豊富
- ロシアのウクライナ侵攻に関する情勢が改善しないなか、日経平均株価は3/15-24までの8陽連(終値が初値より高い日足が連続)を達成し、9日に付けた2020年11月来の安値2万4,681円から25日に2万8,338円まで12営業日で3,657円の上昇値幅となった。これは自民党総裁を前にした昨年8/20から9/14にかけて18営業日で3,841円の上昇値幅を記録して以来の強い動きとなった。
- その要因として、3月末決算日前の配当権利取り、昨年9月高値での信用取引に係る最終期日明けの需給改善、新型コロナ対応のまん延防止等重点措置解除後の経済正常化への期待といった様々な好条件が重なった面も大きい。そのような中で強調されるべきは、低インフレで日銀による量的緩和の方針が一貫している日本株市場の相対的な魅力が高まっている点である。3/16に米FRBが25ポイントの利上げに踏み切り、インフレ抑制強化の観点から前回の2015年12月から3年間の利上げ局面を大きく上回るタカ派的なペースでの利上げ・金融引締めを予測する声が市場で高まっていることが背景として挙げられる。この点は、当ウィークリー2021年12月27日(年末・年始特別)号「2022年株式市場予想」として最も株価の上昇要因になると思われるものとして「インフレ忌避マネーの日本買い」を挙げたと通りの相場展開と言えるだろう。
- 実際には、グローバル株式投資の観点で米国株以外の投資先として欧州株、中国株の方が優先順位が高かった可能性も考えられるなか、欧州はウクライナ情勢悪化・長期化に伴うエネルギー価格高騰やロシア関連損失懸念から優先順位が低下。金融緩和・規制緩和が期待された中国も、ワクチン接種普及による重症化リスクの低下を背景としたコロナ規制解除・開国という世界の潮流に反し、厳しい「ゼロコロナ政策」を引き続き実施。経済正常化の遅れから優先順位が低下したように見受けられる。そして、消去法的に日本株の優先順位が上がっていったのが実情に近いだろう。
- 日本株の物色対象として、経済再開が「開国」を伴うインバウンド需要に繋がることへの期待、天然ガスほかエネルギーや肥料など脱ロシア代替需要の受け皿となるプラント関連、福島沖震源の地震で火力発電が止まったことから原発再稼働などの電力安定供給への要請、北朝鮮のICBM(大陸間弾道ミサイル)発射実験を契機とした核シェルター工事関連需要も挙げられる。また、今年1月施行の電子帳簿保存法改正(2年間猶予期間付き)に関し、先週「銘柄ピックアップ」で取り上げたオービックビジネスコンサルタント(4733)のようなクラウド会計ソフト会社も需要増が期待される。(笹木)
3/28号では、ソースネクスト(4344)、日本製鋼所(5631)、東洋エンジニアリング(6330)、第一生命ホールディングス(8750)、ユナイテッド・トラクターズ(UNTR)を取り上げた。
■主な企業決算の予定
- 3月28日(月): 大光
- 3月29日(火): ハニーズホールディングス、ヒマラヤ、(米)マイクロン・テクノロジー、ルルレモン・アスレティカ
- 3月30日(水): クスリのアオキホールディングス、アルテック、マルマエ、ERIホールディングス、西松屋チェーン、(米)ペイチェックス
- 3月31日(木): スター・マイカ・ホールディングス、ニトリホールディングス、ヤマシタヘルスケアホールディングス、クラウディアホールディングス、TAKARA & COMPAN、(米)ウォルグリーン・ブーツ・アライアンス
- 4月1日(金):象印マホービン、北恵
■主要イベントの予定
- 3月28日(月)
・メンタルヘルステクノロジーズ 東証マザーズに新規上場
・米予算教書、英中銀総裁講演
・米卸売在庫 (2月)
- 3月29日(火)
・日銀金融政策決定会合における主な意見(3月17・18日分)、完全失業率 (2月)、有効求人倍率 (2月)
・米フィラデルフィア連銀総裁講演、アトランタ連銀総裁 討論会に参加、豪 2022-23年度予算案発表
・米主要20都市住宅価格指数 (1月)、米FHFA住宅価格指数 (1月)、米消費者信頼感指数・コンファレンスボード (3月)、米求人件数 (2月)
- 3月30日(水)
・ギックス 東証マザーズに新規上場、小売売上高 (2月)、百貨店・スーパー売上高 (2月)
・米リッチモンド連銀総裁 会議で開会の挨拶、タイ中銀 政策金利発表
・米ADP雇用統計 (3月)、米GDP確定値 (4Q)、ユーロ圏景況感指数 (3月)、ユーロ圏消費者信頼感指数 (3月)、独CPI (3月)
- 3月31日(木)
・ノバック 東証2部に新規上場、日本取引所グループの清田CEO定例会見、鉱工業生産 (2月)、住宅着工件数・戸数 (2月)
・米ニューヨーク連銀総裁 会議で開会の挨拶、「OPECプラス」閣僚級会合、チェコ中銀 政策金利発表、ドバイ国際博覧会が閉幕、韓国中銀の李柱烈総裁 任期切れ
・米新規失業保険申請件数 (26日終了週)、米個人所得・支出 (2月)、米シカゴ製造業景況指数 (3月)、ユーロ圏失業率 (2月)、独失業率 (3月)、英GDP (4Q)、中国製造業・非製造業PMI (3月)
- 4月1日(金)
・日銀短観(1Q)、パナソニックが持ち株会社制へ移行 パナソニックホールディングスに社名変更、大日本住友製薬が住友ファーマに、宇部興産がUBEに、日本ユニシスがBIPROGY(ビプロジー)に社名変更、じぶん銀行 日本PMI製造業 (3月)、自動車販売台数 (3月)
・EU中国首脳会議
・米雇用統計 (3月)、S&Pグローバル米・ユーロ圏製造業PMI (3月)、米建設支出 (2月)、米ISM製造業景況指数 (3月)、米自動車販売 (3月)、ユーロ圏CPI (3月)、中国財新製造業PMI (3月)
- 4月2日(土)・3日(日)
・米グラミー賞授賞式、コスタリカ大統領選決選投票、セルビア大統領・議会選挙
(Bloombergをもとにフィリップ証券作成)
※本レポートは当社が取り扱っていない銘柄を含んでいます。
■2004-06年米利上げ局面の米株
米FRBが3/16のFOMCで0.25ポイントの利上げを決定したなか、今回の利上げ局面はエネルギー・非鉄金属などコモディティ相場の高騰を伴うインフレ加速が懸念される点で、2004年6月末から06年6月末までの17回(合計4.25ポイント)の利上げ局面と背景が類似している。
当時の急激な利上げの期間中、利上げと歩調を合わせるようにNYダウ平均株価も1万ドルから1万1,500ドル辺りまで概ね上昇基調で推移し、米10年国債利回りは、4~5%のレンジ圏で相対的に落ち着いた動きで推移した。個別銘柄では、鉄鋼やエネルギー、鉄道輸送関連が堅調な値動きとなったほか、現在の米国株を代表する高時価総額銘柄のアップル(AAPL)やエヌビディア(NVDA)が既に頭角を現していたことが注目される。
【2004-06年米利上げ局面の米株~堅調。アップル・エヌビディアが頭角現す】
■WTI原油先物とNYガソリン先物
原油価格は、ウクライナ侵攻を巡るロシアへの経済制裁としてロシア産原油禁輸措置発動の可能性から高騰。従来ならば原油価格上昇後に掘削装置のリグ数増加と原油生産増に伴う供給増により価格高騰が抑制される面があったが、最近は「脱炭素」の政策的要請からリグ数増加が進まず原油価格上昇に追いつかない。原油価格高止まりが懸念される。
原油価格高騰が消費者の生活への影響が大きいガソリン価格に波及することで、消費者心理を冷やすことが懸念される。米ミシガン大学が3/11に発表した3月の消費者調査(速報)は、1年後の予想インフレ率が5.4%と1981年11月以来の高水準となった。米ガソリン価格が10日に1ガロン4.32ドルと史上最高値を更新。消費・小売関連経済指標は注目されよう。
【WTI原油先物とNYガソリン先物~掘削稼働リグ数、米消費との関係に注目】
■2030年電源構成比率の政府目標
3/16に発生した最大震度6強の福島県沖震源の地震で東京電力HD(9501)と中部電力(9502)が折半出資するJERAの火力発電所が停止。電力不足の場合に他社送電網から融通を受けて調整しても足りない場合の電力需要に対する供給余力(供給予備率)が3%を下回る見通しとなったため、経産省は22日に東電管内で「電力需給逼迫情報」を発令。
政府は2030年までのCO2排出量削減目標の2013年度比46%減に向けて、昨年10月に「第6次エネルギー基本計画」を閣議決定。水素やアンモニア技術普及が不透明ななか、原発再稼働が選択肢となり易い面もある。東京電力HDが多く抱える未稼働原発の大半は新潟県内にあり、5/29の新潟県知事選は電力供給の点からも重要な政治日程となろう。
【2030年電源構成比率の政府目標~鍵を握る原発再稼働、東電への影響大】
■銘柄ピックアップ
ソースネクスト(4344)
172 円(3/25終値)
・1996年設立のPC用ソフト・スマホアプリ・ハードウェアの開発・販売企業。主力の自動翻訳機「ポケトーク」のほか、「筆まめ」や「筆王」などのハガキ、「ZERO」シリーズのセキュリティ対策ソフトが有名。
・2/14発表の2022/3期9M(4‐12月)は、売上高が前年同期比18.0%減の78.00億円、営業利益が前年同期の4.46億円から▲9.20億円へ赤字転落。主力のポケトークは米国での販売台数が同3.5倍と拡大も、コロナ禍に伴う国内の海外旅行者およびインバウンド事業者向け需要消滅が響いた。
・通期会社計画を下方修正。売上高を前期比18.4%減の104.92億円(従来計画150.50億円)、営業利益を前期5.40億円から▲17.69億円へ赤字転落(同+1.04億円)とした。12月以降インバウンド・海外旅行需要の回復という当初計画を見直しも、開発投資強化の方針。インバウンド需要回復が業績の鍵を握るなか、リモート会議で瞬時に翻訳・表示する「ポケトーク字幕」を昨年9月に開始。
日本製鋼所(5631)
3,785 円(3/25終値)
・1907年設立。樹脂製造・加工機械、成形機他の「産業機械事業」、鋳鍛鋼製品やクラッド鋼板・鋼管他の「素形材・エンジニアリング事業」を主な事業とする。火力・原子力向け鋳鍛鋼で世界大手。
・2/7発表の2022/3期9M(4-12月)は、売上高が前年同期比5.2%増の1,470.41億円、営業利益が同15.9%増の101.30億円。産業機械事業で電気自動車(EV)や家電を中心に設備投資回復が続くほか、素形材・エンジニアリング事業で鋳鍛鋼製品の安定した需要の継続など総じて堅調に推移。
・3/22に通期会社計画を下方修正。売上高を前期比9.0%増の2,160億円(従来計画2,160億円)、営業利益を同46.7%増の150億円(同160億円)とした。自動車分野での設備投資回復遅れや半導体供給不足の影響が出る見通し。一方、年間配当金を同20円増配の55円(同45円)とした。同社の鋳鍛鋼製品は原子炉の圧力容器で圧倒的シェアを誇り、原発再稼働の際の恩恵が見込まれる。
東洋エンジニアリング(6330)
667 円(3/25終値)
・1961年に現・三井化学(4183)の工務部門が分離独立して設立。三井物産(8031)が筆頭株主。天然ガスや電力、一般化学その他各種産業のプラントに係るEPC(設計・調達・建設)事業を営む。
・2/10発表の2022/3期9M(4-12月)は、売上高が前年同期比5.2%増の1,399.55億円、営業利益が同33.5%減の14.02億円。受注高が、国内向けの石油化学プラントや複数のバイオマス発電所、インド向けの化学肥料プラントや石油精製プラント等の受注により同9.3%増の1,779億円に上った。
・通期会社計画は、売上高が前期比30.4%増の2,400億円、営業利益が同54.7%増の25億円。米国プラント建設の巨額損失から2019年3月に投資ファンドのインテグラルを引受先として普通株へ転換可能な優先株を740円で発行。同社はLNG(液化天然ガス)プラントを主力とするほか、肥料用製造プラントの実績が世界有数。脱炭素燃料で注目のアンモニア製造プラントも期待が高まろう。
第一生命ホールディングス(8750)
2,626 円(3/25終値)
・1902年に日本初の相互会社形態での保険会社として設立。2010年に株式会社へ組織変更し東証1部上場。16年に持株会社となり、傘下に国内生命保険、海外保険、その他の3事業を営む。
・2/14発表の2022/3期9M(4-12月)は、経常収益が前年同期比11.6%増の5兆6,737億円、経常利益が55.2%増の4,674億円。新契約年換算保険料は国内が同56%増、海外が同38%増。負債性内部留保法定繰入額超過分や定額保険市場価格を調整したグループ修正利益は同50.8%増。
・通期会社計画は、経常収益が前期比7.6%減の7兆2,320億円、経常利益が同5.9%減の5,200億円。同社傘下の米プロテクティブが3/21、米国で損害保険の事業を手掛けるAULを買収すると発表。カリフォルニア州に本拠を置くAULは中古車の修理費を補償する保険を事業の柱とし金融機関などを通じて販売。利上げ局面に入った米国での金融・保険事業は同社業績へ追い風となろう。
ユナイテッド・トラクターズ(UNTR)
市場:インドネシア 26,600 IDR (3/24終値)
・1972年設立のインドネシア最大の建機リース販売会社。同国のコングロマリット最大手のアストラ・インターナショナルの子会社。建設機械、採掘請負、炭鉱、金鉱、および建設の5事業を営む。
・2/25発表の2021/12通期は、売上高が前期比31.6%増の79.46兆IDR、当期利益が同71.2%増の10.28兆IDR。石炭など資源価格高騰を背景に建設機械事業と探鉱事業が堅調に推移し、粗利益率も同3.2ポイント向上の24.7%。主力のコマツ製建機の販売台数が同97%増と3,088台に伸びた。
・同社は2021年より再生可能エネルギー事業へ参入。太陽光発電設備の開発を進めるほか、2023年には水力発電所も稼働予定。また、インドネシアの建設機械市場は、中国の三一重工が低価格戦略でシェアを拡大するなか、同社主力の建機を製造するコマツ(6301)も従来比1割安で機能を絞った新製品を投入。ブランド力を活かしたアフターサービスの収益の柱への成長が期待される。
■アセアン株式ウィークリーストラテジー
(3/22号「インドネシアIT大手ゴートゥーが上場へ」)
インドネシアの配車大手ゴジェックとネット通販大手トコペディアの統合会社GoTo(ゴートゥー)が3/15、インドネシア証券取引所への上場計画を発表。4/4に上場し、最大約1,500億円相当の資金調達を見込む。東南アジアでは生活に身近なサービスを広範囲に提供する「スーパーアプリ」の利用が拡大。ゴートゥーもスーパーアプリ戦略の要としてモバイル決済の「ゴーペイ」を展開している。ゴートゥーには米グーグルや日本のソフトバンクグループ(9984)も出資。
ゴートゥーのほか、中国テンセントが出資するシンガポールのシー、およびソフトバンクグループ出資のシンガポールのグラブの3強が東南アジアのIT業界で凌ぎを削っている。ゴートゥーは、ネット通販の「ショッピー」も手掛けるシーのインドネシアでの台頭に対抗する意味でも上場による資金調達は必要だろう。
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アナリストのご紹介 フィリップ証券リサーチ部
笹木 和弘
フィリップ証券株式会社:リサーチ部長
証券会社にて、営業、トレーディング業務、海外市場に直結した先物取引や外国株取引のシステム開発・運営などに従事。その後は個人投資家や投資セミナー講師として活躍。2019年1月にフィリップ証券入社後は、米国・アセアン・日本市場にまたがり、ストラテジーからマクロ経済、個別銘柄、コモディティまで多岐にわたる分野でのレポート執筆などに精力的に従事。公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト(CIIA®)。