投資戦略ウィークリー 2022年3月14日号(2022年3月11日作成)】”コモディティの嵐、LNGプラント、新型コロナ規制緩和相場”
■コモディティの嵐、LNGプラント、新型コロナ規制緩和相場
- ロシアのウクライナ侵攻後、エネルギー・資源・穀物などコモディティ先物相場全般の急騰が引き起こされた。3/4に1トン2万ドル台だったLMEニッケル先物は大口ショートの手仕舞いもあり8日に1トン10万ドルまで急騰し、取引所が取引停止と取引取消しを検討する異例の事態に追い込まれた。先物相場では追証を回避するためにショートを強制的に手仕舞うことで相場は短期急騰するものの、落ち着けば急騰後の高値を維持することは難しい。先物または先物の原資産(現物)の価格が短期的な買われ過ぎかどうかを見るうえでは、先物の限月間の価格差(スプレッド)を見ておく必要がある。特にコモディティで期近物の価格が期先物よりも高い場合は、短期的な相場の過熱に要注意だろう。また、エネルギーや資源・素材関連銘柄についても、日々の株価がコモディティ先物相場の乱高下に巻き込まれやすい点にも注意が必要だろう。
- ロシアによるウクライナ侵攻を受けて10日に実施された臨時のエネルギー相会合(オンライン形式)で、欧州でロシアからの天然ガス依存を減らすことが「特に緊急の課題」と指摘され、LNG(液化天然ガス)分野への投資が必要とされた。LNGプラントに係るプラントエンジニアリング業界は、国内では日揮ホールディングス(1963)、千代田化工建設(6366)、東洋エンジニアリング(6330)が3強とされている。業界最大手の日揮は石油・天然ガス、再生可能エネルギーなど幅広い分野で実績がある業界最大手である。千代田化工建設は、LNGプラントの売上構成比が5割を超えて3強の中で最も高いほか、水素の大量輸送・貯蔵に関する技術開発に定評がある。東洋エンジニアリングは、他の2社と比べるとLNGプラントよりも尿素・アンモニアなど化学肥料関連プラントに強みを有する。アンモニアについても世界各国のロシアへの経済制裁強化により供給不足が懸念されているところである。
- 世界各国が新型コロナ規制撤廃、およびワクチン接種完了を条件として隔離無し入国を外国人に認め始めたなか、日本政府も「まん延防止等重点措置」を巡り、新規感染者数が高止まりでも病床使用率の低下が見込まれれば解除できるとした新たな考え方を11日にも提示する方針。水際対策についても、14日以降に1日当たり入国者数の上限を今の5千人から7千人に拡大して留学生を別枠で1日1千人受入れることに加え、5月末までに日本への入国希望の全留学生の受入れを検討していると報じられた。ウクライナ情勢の混沌の向こう側は「新型コロナ規制緩和相場」に通じているかも知れない。片方の眼で足元の懸念に目くばせしつつ、もう片方の眼で次の道筋を見据える「複眼投資」が求められよう。(笹木)
3/11号では、日揮ホールディングス(1963)、塩野義製薬(4507)、TOTO(5332) 、共立メンテナンス(9616)、IOI(IOI)を取り上げた。
■主な企業決算の予定
- 3月14日(月): ジェイ・エス・ビー、神戸物産、コーセーアールイー、三井ハイテック、正栄食品工業、稲葉製作所、ファーストロジック、ポールトゥウィン・ピットクルーホールディングス、JMホールディングス、アルトナー、巴工業、グッドコムアセット、マネジメントソリューションズ、Hamee、アセンテック、ギフトホールディングス、東建コーポレーション
- 3月15日(火): アスクル、パーク24、Link-U、ブラス、ACCESS、トリケミカル研究所、スバル興業
- 3月16日(水): モロゾフ、トルク、コーセル
- 3月17日(木): エニグモ、TOKYO BASE、ミサワ、ネオジャパン、ナイガイ、ミサワ、エイチ・アイ・エス、プロレド・パートナーズ、(米)フェデックス、アクセンチュア
- 3月18日(金): サツドラホールディングス
■主要イベントの予定
- 3月14日(月)
・日銀営業毎旬報告
・ユーロ圏財務相会合
・中国経済全体のファイナンス規模・新規融資・マネーサプライ (3月15日までに発表)
- 3月15日(火)
・米FOMC(16日まで)、 EU財務相理事会、OPEC月報
・米PPI (2月)、ニューヨーク連銀製造業景況指数(3月)、対米証券投資 (1月)、ユーロ圏鉱工業生産 (1月)、 独ZEW期待指数 (3月)、英失業率 (11-1月)、中国小売売上高・工業生産・都市部固定資産投資 (1-2月)
- 3月16日(水)
・春闘、主要企業の集中回答日、全国地方銀行協会の柴田会長(静岡銀行頭取)定例会見、日本証券業協会の森田会長定例会見、貿易収支 (2月)、鉱工業生産(1月)、設備稼働率(前月比) (1月)、 訪日外客数(2月)
・米FOMC声明発表、パウエル議長記者会見と経済予測、ブラジル中銀 政策金利発表、北大西洋条約機構(NATO) 臨時国防相会合
・米小売売上高 (2月)、米輸入物価指数 (2月)、米NAHB住宅市場指数 (3月)、米企業在庫 (1月)、中国新築住宅価格(2月)
- 3月17日(木)
・守谷輸送機工業が東証2部に新規上場、全国銀行協会の高島会長(三井住友銀行頭取)定例会見、コア機械受注(1月)、資金循環統計(10-12月期速報)、対外・対内証券投資 (3月6-12日)、ブルームバーグ日本経済調査 (3月)、首都圏新築分譲マンション (2月)
・英中銀 政策金利発表、ラガルドECB総裁 講演、トルコ中銀 政策金利発表、インドネシア中銀 政策金利発表
・米住宅着工件数 (2月)、 米鉱工業生産(2月)、米新規失業保険申請件数 (3月12日終了週)、フィラデルフィア連銀製造業景況指数(3月)、欧州新車販売台数 (2月)、ユーロ圏CPI (2月)、豪雇用統計(2月)、NZ GDP(4Q)
- 3月18日(金)
・日銀 金融政策決定会合、Repertoire Genesis(レパトア・ジェネシス)が東証マザーズ新規上場、全国CPI (2月)、第3次産業活動指数(1月)
・ロシア中銀 政策金利発表
・米景気先行指標総合指数 (2月)、米中古住宅販売件数 (2月)
- 3月19日(土)・20日(日)
・全米企業エコノミスト協会(NABE)の経済政策会議(22日まで)
(Bloombergをもとにフィリップ証券作成)
※本レポートは当社が取り扱っていない銘柄を含んでいます。
■クラウド関連グロース企業の動向
大手IT企業による「パブリック・クラウド」のインフラ事業が高成長を継続するなか、複数のクラウドを組み合わせた環境を実現する「マルチクラウド」に関し、クラウド関連データウエアハウス企業のスノーフレーク(SNOW)は、3/2発表の11-1月期決算発表で売上高が前年同期比約2.0倍に達した。ところが、2-4月期の会社予想で売上高を同79-81%増の見通しとしたことに対して成長鈍化と見られて株価が下落。一方、四半期ごと推移で既存顧客が支払う金額の増減率を示す「純売上継続率」などに鈍化は見られない。
顧客関係管理クラウドサービスを提供するセールスフォース・ドットコム(CRM)は11-1月期決算で前受収益が伸長。昨年7月のビジネスチャット大手のスラックを買収した効果が表れ始めている。
【クラウド関連グロース企業の動向~企業のコスト増を生産性向上で支援】
■コンタンゴとバックワーデーション
S&P500株価指数のオプション取引に係るインプライド・ボラティリティから算出するVIX指数先物、WTI原油先物、CMX金先物の限月間スプレッドを見ると、VIX指数先物とWTI原油先物は期近が高くて期先が安い「バックワーデーション」であるのに対し、CMX金先物は期近が安くて期先が高い「コンタンゴ」となっている。
現物受渡し決済を伴うコモディティ先物は在庫保管コストが掛かることから通常はコンタンゴになりやすい面があるのに反し、WTI原油先物はバックワーデーションの傾きが急になって来ている。足元の価格高騰の行き過ぎが示唆されよう。また、株式投資も通常、長期のほうが短期より価格変動率が高くなりやすいことからVIX指数先物はバックワーデーションの時期が長くなりにくい面があろう。
【コンタンゴとバックワーデーション~VIX指数先物、WTI原油先物、CMX金先物】
■期待インフレ率と日銀の総資産額
物価連動国債の市場参加者が予測する年平均物価上昇率を示す「ブレークイーブンインフレ率(BEI)」に関し、日本国債(10年)のBEIが3/4に0.69%に上った。期待インフレ率が上昇傾向とはいえ、日銀の目標物価上昇率2%に程遠く、2014年5月に記録した黒田総裁就任後の最高水準約1.38%に及ばない。
目標物価上昇率に近づけるために従来のような異次元金融緩和政策を続けるのは困難な面もみられる。コロナ禍前に既に100%を超えてきたに日銀バランスシート額の対名目GDP比率は約134%に達した。これは欧州ECBの約1.9倍、米FRBの約3.5倍に及ぶ。日銀正副総裁人事の議論に伴い、物価上昇率目標の現実的水準への修正に加え、日銀に頼らない資産買付主体の強化も必要だろう。
【期待インフレ率と日銀の総資産額~目標物価上昇率見直しとBS縮小も?】
■銘柄ピックアップ
日揮ホールディングス(1963)
1,373 円(3/11終値)
・1928年に日本揮発油株式会社として設立。各種プラント・施設の設計・調達・建設等を営む総合エンジニアリング事業のほか、触媒・ファイン製品などの製造・販売を行う機能材製造事業を展開。
・2/10発表の2022/3期9M(4‐12月)は、売上高が前年同期比4.8%増の3,194.42億円、営業利益が同11.5%減の153.32億円。イクシスLNGプロジェクトに係る特別損失計上から純利益赤字も、産油・産ガス諸国の設備投資計画再開やアジア地域の再生可能エネルギー発電などの投資が進展。
・通期会社計画は、売上高が前期比8.3%増の4,700億円、営業利益が同12.6%減の200億円。ロシアによるウクライナ侵攻を受けて、主要7ヵ国(G7)は3/10、臨時エネルギー相会合をオンライン形式で開催。欧州で天然ガスのロシア依存度を減らすことを「特に緊急の課題」と指摘し、LNG(液化天然ガス)の供給増加や投資の必要性を盛り込んだ共同声明を纏めた。同社への追い風となろう。
塩野義製薬(4507)
7,011 円(3/11終値)
・1878年に初代塩野義三郎が創業。医薬品の研究開発・製造・販売等を行う。感染症、疼痛・中枢神経領域に強みとするほか、がん治療・ワクチン開発を積極化。抗HIV(エイズ)薬が大型製品化。
・1/31発表の2022/3期9M(4-12月)は、売上収益が前年同期比2.1%減の2,196億円、営業利益が同42.5%減の604億円。抗うつ薬「サインバルタ」の後発医薬品参入、脂質異常症薬「クレストール」のロイヤリティ収入減が響き減収。新型コロナワクチン・治療薬の研究開発費増も減益に影響した。
・通期会社計画は、売上収益が前期比1.1%減の2,940億円、営業利益が同23.4%減の900億円。同社は2/25、「条件付き早期承認制度」の適用を求めて厚労省に新型コロナウイルスの飲み薬について製造承認を申請。既に国内で特例承認されている米ファイザー製「パキロビッド」と比べて併用禁止薬剤が少ない点に利点がある。岸田首相も2/28、国会答弁で必要量の供給に関して答弁。
TOTO(5332)
4,465 円(3/11終値)
・1917年に現在のノリタケカンパニーリミテド(5331)から衛生陶器の製造販売を分離独立。温水洗浄便座「ウォッシュレット」やバス・キッチン・洗面商品を主要製品とするグローバル住設事業が柱。
・1/28発表の2022/3期9M(4-12月)は、売上高が前年同期比14.5%増の4,801.32億円、営業利益が同53.1%増の430.26億円。グローバル住設事業は、中国大陸で売上高が同42%増と全体を牽引。ウォッシュレット販売台数は中国大陸が同33%増、米州が同18%増、欧州が同30%増と拡大。
・通期会社計画は、売上高が前期比12.5%増の6,500億円、営業利益が同26.1%増の500億円。新領域事業で半導体製造装置に欠かせない部材の「静電チャック」の需要増でセラミックの更なる成長が期待される。9Mの中国大陸事業の売上構成比が14%に上り中国不動産開発業界の動向に影響を受けやすいなか、中国政府は金融緩和に舵を切り、不動産規制も部分的に緩和の方針だ。
共立メンテナンス(9616)
4,406 円(3/11終値)
・1979年設立。学生・社員寮の管理運営を行う寮事業、ビジネスホテル「ドーミーイン」とリゾートホテルを全国展開するホテル事業を主力とする。総合ビルマネジメント事業、フーズ事業なども営む。
・2/9発表の2022/3期9M(4-12月)は、売上高が前年同期比15.0%増の1,050.66億円、営業利益が前年同期の▲37.44億円から▲52.53億円へ赤字幅拡大。コロナ禍に伴う政府・自治体の人流抑制策が響いた。3Q(10-12月)の前四半期比は、売上高が1.9%減も営業利益が3.6億円へ黒字転換。
・通期会社計画は、売上高が前期比42.6%増の1,730億円、営業利益が前期の▲90.57億円から20億円へ黒字転換。寮事業で留学生の入国制限緩和、および不動産流動化事業の寄与を見込む。政府は5月末までに外国人留学生全員の受入れを検討中のほか、「まん延防止」解除の考え方を3/11に示す方針。また、3/1より全国の寮を月額定額利用できる「NOMADormy」の販売を開始。
IOI(IOI)
市場:マレーシア 4.30 MYR (3/10終値)
・1969年にインダストリアル・オキシジェン・インコーポレーテッドとして設立。世界有数の総合パーム油企業で、上流のプランテーション事業から下流の資源ベース製造事業まで全体をカバーする。
・2/3発表の2022/6期2Q(10-12月)は、売上高が前年同期比67.5%増の41.12億MYR、営業利益が同2.2倍の6.32億MYR。粗パーム油(CPO)平均価格およびパーム核油(PK)平均価格の上昇に加え油脂化学製造事業の利益率の改善が貢献。前四半期比でも売上高が13%増、純利益が78%増。
・今年1月より世界最大のパーム油生産・輸出国のインドネシアが国内優先から輸出規制を実施したほか、マレーシアでは外国人労働者不足で原料となる果実収穫作業が遅延しパーム油の需給逼迫が続く見通し。また、ロシアのウクライナ侵攻を受けたヒマワリ油の輸出停滞もパーム油への代替需要に拍車をかけよう。下流の製造部門は自社農場を活用した製油所が利益率向上に寄与。
■アセアン株式ウィークリーストラテジー
(3/14号「アセアンは「開国」で観光需要を取り込む)
アセアンの「開国」が着々と進んでいる。タイ、インドネシアのほか、マレーシアもイスマイルサブリ首相が3/8の会見で「4/1より、この国はエンデミック(一定期間で繰り返される流行)への移行段階に入る」と宣言し、4/1から新型コロナワクチン接種完了を条件に隔離無しの入国を外国人に認め、飲食店の営業時間規制など大半の規制も撤廃・縮小するとした。新規感染者数は足元で依然として高水準にあるものの、重症者割合が感染者の1%以下で全人口の半分近くが追加(ブースター)接種も終えたことから規制の緩和に踏み切ることとした。
フィリピンでも2/10にワクチン接種完了を条件に外国人観光客の受入れを再開後、フィリピン航空が3月の国際線と国内線を併せた運航便数をこれまでより1,500便以上増やすと発表。増便を通じて観光需要を高める狙いだ。
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アナリストのご紹介 フィリップ証券リサーチ部
笹木 和弘
フィリップ証券株式会社:リサーチ部長
証券会社にて、営業、トレーディング業務、海外市場に直結した先物取引や外国株取引のシステム開発・運営などに従事。その後は個人投資家や投資セミナー講師として活躍。2019年1月にフィリップ証券入社後は、米国・アセアン・日本市場にまたがり、ストラテジーからマクロ経済、個別銘柄、コモディティまで多岐にわたる分野でのレポート執筆などに精力的に従事。公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト(CIIA®)。