投資戦略ウィークリー 2022年2月28日号(2022年2月25日作成)】”ウクライナ「遠くの戦争」化、日本インバウンド復活か?”
■”ウクライナ「遠くの戦争」化、日本インバウンド復活か?”
- ロシアのウクライナ侵攻が株式市場においても猛威を振るっている。2/21にロシアがウクライナ東部のドンバス地方でドネツク共和国とルガンスク共和国の独立を承認し、24日には住民保護目的の「平和維持軍」と称して特別部隊を派遣。実質的な侵攻を開始し、軍事作戦を展開した。24日の午後にはロシア軍による首都キエフへの攻撃も伝えられ、日経平均株価は2万5,775円まで下落する場面もあった。その時点で株式市場はバイデン米大統領がロシアへの経済制裁として同国をSWIFT(国際銀行間通信協会)の国際決済ネットワークからの排除シナリオを想定し、それに伴うロシア向け与信のデフォルトによる金融システムのパンデミックなど、リスクのスパイラル的拡大懸念まであり得ることを織り込もうとしていたのかも知れない。日本株市場の取引時間終了後には、WTI原油先物価格が2014年以来となる1バレル100ドル超えまで急騰し、CMX金先物価格も1オンス1,976ドルまで高騰した。
- これに対し、バイデン大統領から発表された経済制裁はロシアのSWIFTからの排除は含まれず、ハイテク製品の輸出規制やロシア第2位銀行のVTB銀行を含む新たな4行への制裁措置にとどまったこと、およびロシア軍のキエフ制圧により短期的に事態が沈静化するのではないかといった思惑などから流れが反転。25日の日本時間朝5時頃には、WTI原油先物価格が92ドル台まで、CMX金先物価格も1900ドル前後まで下落するなど荒い値動きとなった。現時点で株式市場は、ウクライナ情勢をユーロ圏を中心とする問題とみなし、当事国として利害関係を有さない日本やアジア、米国では「遠くの戦争」として来週以降、売り先行からの買戻しの機会を探る展開となる可能性が高まったかもしれない。
- イギリスは21日、イングランドでの新型コロナ関連規制を全面的に解除すると発表。感染者へ隔離を義務付ける規制も24日より無くなった。ジョンソン首相は、住民の免疫力が十分な水準に達したことで政府の介入を主軸とした感染対策から、ワクチン接種と治療を中心とした方針に完全移行することが可能となったと宣言。欧米の年末休暇シーズンの好調な宿泊需要を受けて、マリオット・インターナショナルやハイアット・ホテルズ、ヒルトン・ワールドワイドHDといった米国大手ホテルチェーン3社の2021年10-12月期は売上高が軒並み前年同期の2倍以上。日本でも新規感染者数が減少してくれば、旅行・レジャー関連銘柄を中心に海外からのインバウンド需要復活などを先回りする動きが出る可能性もあろう。日本政策投資銀行と日本交通公社との共同調査によれば、アジア、欧米豪ともにコロナ収束後に訪れたい国の1位は日本である。(笹木)
2/28号では、日水製薬(4550)、東和薬品(4553)、ラウンドワン(4680)、出光興産(5019)、カシコーン銀行(KBANK)を取り上げた。
■主な企業決算の予定
- 2月28日(月):SBIホールディングス、(米)ワークデイ、ズーム・ビデオ・コミュニケーションズ、Lucid Group Inc
- 3月1日(火):伊藤園、(米)セールスフォース・ドットコム、ロス・ストアーズ、ターゲット、百度(バイドゥ)
- 3月2日(水):(米)オクタ、スプランク、ダラー・ツリー
- 3月3日(木):タカショー、ロック・フィールド、日本ハウスホールディングス、泉州電業、(米)マーベル・テクノロジー、ブロードコム、コストコホールセール
- 3月4日(金): ラクーンホールディングス、ティーライフ、内田洋行、日本駐車場開発、ダイドーグループホールディン、アインホールディングス、ファースト住建、ダイドーグループホールディン、カナモト
■主要イベントの予定
- 2月28日(月)
・鉱工業生産(1月)、鉱工業生産(1月)、小売売上高(1月)、百貨店・スーパー売上高(1月)、住宅着工件数(1月)
・米アトランタ連銀総裁 オンライン討論会に参加、モバイル・ワールド・コングレス(MWC)(3月3日まで)、国連人権理事会(4月1日まで)
・米卸売在庫 (1月)、インドGDP (4Q)
- 3月1日(火)
・じぶん銀行 日本PMI製造業 (2月)、自動車販売台数(2月)、
・バイデン米大統領 一般教書演説、米アトランタ連銀総裁 オンライン討論会に参加、豪中銀 政策金利発表、G7財務相・中央銀行総裁会議
・米自動車販売 (2月)、米ISM製造業景況指数 (2月)、米建設支出 (1月)、マークイット米・ユーロ圏製造業PMI (2月)、中国製造業・非製造業PMI (2月)、中国財新製造業PMI指数 (2月)
- 3月2日(水)
・ビーウィズ 東証1部に新規上場、設備投資(4Q)、企業売上高・利益 (4Q)、マネタリーベース (2月)、営業毎旬報告(2月)
・米FRB議長 下院金融委員会で議会証言、米地区連銀経済報告(ベージュブック)公表、米シカゴ連銀総裁 講演、米セントルイス連銀総裁 講演、カナダ中銀 政策金利発表、「OPECプラス」閣僚級会合
・米ADP雇用統計 (2月)、ユーロ圏 CPI (2月)、独失業率 (2月)、豪GDP(4Q)
- 3月3日(木)
・イメージ・マジック 東証マザーズに新規上場、日産元代表取締役ケリー被告裁判の判決、対外・対内証券投資 (2月20-26日)、じぶん銀行 日本PMIサービス業 (2月)・日本PMIコンポジット (2月)、消費者態度指数 (2月)
・米FRB議長 上院銀行委員会で議会証言、米ニューヨーク連銀総裁 討論会出席、ECB議事要旨 (2月会合)、マレーシア中銀 政策金利発表
・米非農業部門労働生産性(4Q)、米新規失業保険申請件数(2月)、米製造業受注(1月)、米ISM非製造業総合景況指数 (2月)、マークイット米・ユーロ圏サービス業・総合PMI (2月)、ユーロ圏PPI (1月)、ユーロ圏失業率 (1月)、中国財新サービス業・コンポジットPMI (2月)、韓国GDP (4Q)
- 3月4日(金)
・完全失業率 (1月)、有効求人倍率 (1月)
・米アップル 株主総会、中国人民政治協商会議(政協)開幕(北京)、北京冬季パラリンピック(13日まで)
・米雇用統計 (2月)、ユーロ圏小売売上高 (1月)、独貿易収支 (1月)、ブラジルGDP (4Q)
- 3月5日(土)
・中国全国人民代表大会開幕(北京)
(Bloombergをもとにフィリップ証券作成)
※本レポートは当社が取り扱っていない銘柄を含んでいます。
S&P500年初来騰落率ランキング
米S&P500株価指数構成銘柄の2/23終値での年初来騰落率は「油田サービス・設備」や「探鉱・生産」等のエネルギー関連が軒並み上位を占めた。脱炭素で開発投資が長年低迷していたことや最近のウクライナ情勢による天然ガス経由での世界的なエネルギー供給への懸念のほか、予想PERが低い割安バリュー株という点も買われている要因だろう。
一方で、上記の年初来騰落率の下位銘柄は、昨年までは高PERのハイテク・IT関連のグロース株として成長期待を原動力に買われていたが、FRBによる利上げ・金融引き締め観測やウクライナ情勢など地政学リスク下で下落。現在は予想PERが年初来騰落率上位銘柄と同水準または更に割安なものも見られる。「グロースのバリュー銘柄」として注目されよう。
【S&P500年初来騰落率ランキング~下位に「グロースのバリュー銘柄」も】
■ロシアは米国債減・金保有増
ロシアは2/21にウクライナ東部の親ロシア独立派が実効支配する2地域の独立を承認し、両地域に派兵を命令。ロシア国防省は24日、他地域も含めて11空港と74の軍事施設を制圧したと発表した。ウクライナ侵攻に対し欧米は強く反発。バイデン米大統領は24日、ロシア第2位のVTB銀行など新たに4行を制裁対象とし、ロシアがドルや円、ユーロ、ポンドで取引を行う能力を制限するとした。
ロシアは経済制裁を想定していたかのように2018年より米国債売却を進めて保有残高を急減させる一方、金保有量を増加。脱ドル化を進める動きを示していた。ロシアは対外投資ファンドで人民元建て資産を増やし、石油・天然ガスの中国との取引拡大を進めている。今後は人民元による決済の動向が注目される。
【ロシアは米国債減・金保有増~予め経済制裁想定、決済手段多様化か?】
■東証REIT指数と分配金利回り
2020年3月、新型コロナの影響に年度末特有の金融機関を中心とした決算対策売りが重なったことで上場不動産投資信託のJ-REIT価格が急落。東証REIT指数が同年2月の高値から同年3月安値まで一時50%安となる局面があった。一方で、分配金利回りの観点では東証REIT指数の予想平均分配金利回りが7%近くまで跳ね上がり、今振り返れば絶好の投資チャンスでもあった。
東証REIT指数は、予想分配金利回りの米10年国債利回りとの較差が縮小傾向となるなかで米国債の魅力が相対的に増すことで価格が下落しやすくなっている。一方、予想分配金利回りが4%近辺まで上昇し、利回り面の妙味が増している。決算対策売りが出やすい時期を控え、J-REITへの投資が注目されよう。
【東証REIT指数と分配金利回り~株式配当利回りや米10年債利回りと関連】
■銘柄ピックアップ
日水製薬(4550)
990 円(2/25終値)
・1935年に日本水産(1332)の子会社として設立。診断用薬・検査薬、検査用機器、原料の製造・仕入・販売を行う診断薬事業、および医薬品や健康食品を取り扱う医薬事業の2事業を主に営む。
・1/27発表の2022/3期9M(4‐12月)は、売上高が前年同期比39.0%増の116.09億円、営業利益が同2.2倍の12.09億円。島津製作所(7701)や東ソー(4042)の新型コロナ遺伝子検査薬、および島津製作所のオミクロン変異検出用の遺伝子検査薬のほか、再生医療分野細胞培養関連が堅調。
・通期会社計画は、売上高が前期比19.9%増の143.50億円、営業利益が同57.8%増の12.70億円。青魚の脂に多く含まれ、中性脂肪値を下げる効果がある栄養素のEPA(エイコサペンタエン酸)とDHA(ドコサヘキサエン酸)を配合した機能性表示食品の伸びが見込まれる。また、親会社との取引割合が高いことから企業統治における親子上場問題の観点より資本見直しが期待されよう。
東和薬品(4553)
2,934 円(2/25終値)
・1951年に大阪市で創業。ジェネリック医薬品の製造販売を行う。ジェネリック医薬品では国内3強の一角。ジェイドルフ製薬、原液製造の大地化成、ソフトカプセルのグリーンカプス等が傘下企業。
・2/14発表の2022/3期9M(4-12月)は、売上高が前年同期比9.0%増の1,256.13億円、営業利益が同14.9%増の169.93億円。ジェネリック医薬品最大手の日医工(4541)等の医薬品不正製造に伴う供給停止により注文が生産数量を上回ったほか、12月投入の抗てんかん薬(イーケプラ)が貢献。
・通期会社計画は、売上高が前期比7.6%増の1,667億円、営業利益が同3.1%減の193億円。会社配当予想を同16円増配の60円(従来計画51円)へ引き上げた。ジェネリック医薬品の供給不安が続くなか、新規設備の導入に取り組むほか、山形工場での第三固形製剤棟を建設の方針。海外売上比率が9Mで22%と海外市場拡大の余地のほか、健康関連会社買収の相乗効果が期待される。
ラウンドワン(4680)
1,332 円(2/25終値)
・1980年設立。ボウリング・アミューズメント・カラオケ・スポッチャ(スポーツをテーマとした時間制施設)等を中心に、地域密着の屋内型複合レジャー施設の運営を行う。2010年に米国に進出した。
・2/10発表の2022/3期9M(4-12月)は、売上高が前年同期比65.8%増の665.78億円、営業利益が前年同期の▲181.41億円から▲47.15億円へ赤字幅縮小。休業や時短要請に伴う政府・自治体からの補助金収入が同12.4倍の57.16億円に上ったことにより経常利益および純利益が黒字転換。
・通期会社計画を下方修正。売上高を前期比57.2%増の958.70億円(従来計画990.80億円)、営業利益を前期の▲192.86億円から▲19.10億円(同6.50億円黒字)へ赤字幅縮小とした。1月中旬以降のまん延防止等重点措置に基づく営業時間短縮が響く見通し。イングランドのようなコロナ規制全廃の動き加速が期待されるなか、米国で利用料金値上げのほか10-12月に中国で2店出店。
出光興産(5019)
3,055 円(2/25終値)
・1911年に出光佐三が創業後、1940年に設立。2019年に昭和シェル石油と経営統合。燃料油、電力・再生可能エネルギー、基礎化学品、高機能材、資源、およびその他の事業セグメントを運営。
・2/8発表の2022/3期9M(4-12月)は、売上高が前年同期比44.7%増の4兆6,471億円、営業利益が同5.6倍の2,790.40億円。原油および石炭等の資源価格の上昇等により増収。利益面では燃料油事業における原油価格上昇に伴う在庫評価影響や資源事業における資源価格上昇が貢献した。
・通期会社計画は、売上高が前期比44.4%増の6,580億円、営業利益が同2.1倍の3,000億円。同社の業績予想の前提は中東産ドバイ原油で75ドル。相場次第も通期上振れが見込まれる。19年4月の昭和シェルとの経営統合に伴いデジタル変革(DX)を本格化。ガソリンスタンドの「スマートよろずや」構想など石油元売りの新たな役割を開拓中。経産省から「DX銘柄2021」に選定されている。
カシコーン銀行(KBANK)
市場:タイ 163 THB (2/24終値)
・1945年設立の商業銀行。資産規模ではバンコク銀行、クルンタイ銀行、サイアム商業銀行に次いでタイで第4位。かつては農民向けに金融サービスを提供し、「タイ農民銀行」と呼ばれていた。
・1/21発表の2021/12期4Q(10-12月)は、総営業収益が前年同期比2.4%増の425.23億THB、予想クレジット損失が同14.3倍の95.79億THB、純利益が同25.3%減の99.01億THB。経費率が同4.0ポイント改善したが、不良債権処理費用の増加が響いた。前四半期比は6.5%増収、14.7%最終増益。
・LINEのアプリ上で口座開設や振り込み、個人向けローンの申し込みなどができるサービス(LINE BK)を2020年10月に開始。今年2/15現在で預金口座数が480万口座、デビットカードの発行枚数が220万枚に達した。合弁会社のカシコンLINEでは2022年度におけるLINE BKを通じた貸付残高の目標を200億THBとしている。LINEは人口約7千万人のタイでユーザー数4,700万人に上っている。
■アセアン株式ウィークリーストラテジー
(2/28号「アセアン株式市場への資金流入の兆し」)
代表的な株価指数が相次ぎ高値を更新するなどアセアン株式市場への資金流入の兆しがみられる。新型コロナウイルスの感染拡大による悪影響への警戒感が薄れ、外出関連株や割安な金融株などに買いが集まっている。国際通貨基金(IMF)が1月に出した世界経済見通しによれば、シンガポール、タイ、マレーシア、インドネシア、ベトナム5ヵ国の22年の経済成長率は前年比5.6%と21年の3.1%を上回る。アセアンではオミクロン型の重症化率は低いとみて、行動制限の緩和を進めている。また、米欧による金融引き締めの中でも、時価総額が上位の銀行株に対して金利上昇による業績改善を期待した買いが入っている。更に、ウクライナ情勢緊迫化で地理的に遠く、かつエネルギー価格上昇の恩恵を受けやすい点もアセアンへの買いが入りやすい要因となっている。
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アナリストのご紹介 フィリップ証券リサーチ部
笹木 和弘
フィリップ証券株式会社:リサーチ部長
証券会社にて、営業、トレーディング業務、海外市場に直結した先物取引や外国株取引のシステム開発・運営などに従事。その後は個人投資家や投資セミナー講師として活躍。2019年1月にフィリップ証券入社後は、米国・アセアン・日本市場にまたがり、ストラテジーからマクロ経済、個別銘柄、コモディティまで多岐にわたる分野でのレポート執筆などに精力的に従事。公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト(CIIA®)。