【投資戦略ウィークリー 2021年12月20日号(2021年12月17日作成)】”中銀でも異質な日銀、自社株買いガイドライン発言”
■”中銀でも異質な日銀、自社株買いガイドライン発言”
- 本日12/17の日銀の金融政策決定会合では、現行の長短金利操作付き量的・質的金融緩和の維持を賛成多数で決定。来年3月末が期限となる新型コロナ対応の資金繰り支援策の一部について半年間の延長を決めた以外は目新しい話は無かった。
- これに対し、他の主要中央銀行は様相が異なった。①米連邦準備理事会(FRB)は、15日まで開いた会合で量的緩和策を終わらせる時期について従来予定の来年6月から来年3月へと前倒しすることを決定。焦点となる最初の利上げにつきパウエル議長は、量的緩和の終了後、「それほど長く遅れることはないだろう」と述べた。②欧州中央銀行(ECB)も16日に開いた理事会で、コロナ危機で導入した緊急買い取り制度による新規資産購入を2022年3月末で打ち切ると決めた。同制度の終了により、22年4月以降の資産購入額は現在の半分以下に減る見込みだ。③英中央銀行のイングランド銀行は16日、主要中銀としては初めて利上げに踏み切り、政策金利を1%から0.25%に引き上げた。オミクロン変異株への不安は残るものの中期的なインフレ動向を懸念しているとした。
- 11月の消費者物価上昇率は、米国が前年同月比2%と約30年ぶり、ユーロ圏が速報値で同4.9%と25年前の統計開始以来、イギリスが同5.1%と約10年ぶりの高い伸び率となった。これに対して、日本の10月の消費者物価上昇率(総合)は、同0.1%と漸く2ヵ月連続のプラスとなったところだ。日銀政策決定会合は、米FRB・欧州ECB・英イングランド銀のようなインフレに対する警戒感とは異質な空気が流れる会議だったのかもしれない。グローバルマネーの観点では、中央銀行がインフレに対する警戒で緊張が漂う会議を行う市場で不確実性リスクを見積もるより、警戒の薄い相対的に低ボラティリティ(変動性)が見込まれる市場を選好し易いだろう。
- 一方で、日本市場がグローバルマネーから忌避されかねない事態も発生した。岸田首相は14日の衆院予算委員会で、企業の自社株買いに関連してガイドラインを作る可能性に言及。一般的に株主資本はリスクプレミアムが上乗せされた資本コストが掛かる、株主から付託された資本であることから、利益に結びつかない余分な株主資本は返還が望ましい。米国に見られるような自信過剰な経営者が過小資本と過大負債で株主資本利益率(ROE)を高めようとするのはやり過ぎの面もあるものの、日本は株価純資産倍率(PBR)の低さからも株主資本が非効率に放置されている。積極的な自社株買いで株主に資本を返還するのが妥当だろう。(笹木)
12/20号では、ハウス食品グループ本社(2810)、セキュアヴェイル(3042)、北越コーポレーション(3865)、キヤノン(7751)、BECワールド(BEC)を取り上げた。
■主な企業決算の予定
- 12月20日(月): (米)マイクロン・テクノロジー、ナイキ
- 12月21日(火): アークランドサカモト、日本オラクル、ツルハホールディングス
- 12月22日(水):(米)ペイチェックス、シンタス
- 12月23日(木):大光
- 12月24日(金):ニイタカ、平和堂、ミタチ産業、象印マホービン、三益半導体工業、壱番屋、ニトリホールディングス
■主要イベントの予定
- 12月20日(月)
・グローバルセキュリティエキスパート・ JDSC・HYUGA PRIMARY CAREが東証マザーズに新規上場、資金循環統計(7-9月期速報)
・中国ローンプライムレート(LPR、12月)、EU環境相理事会
・米景気先行指標総合指数(11月)
- 12月21日(火)
・日本自動車部品工業会会長が会見(都内)、ライフドリンク カンパニーと湖北工業が東証2部に新規上場、ラバブルマーケティンググループが東証マザーズに新規上場、臨時国会会期末、月例経済報告(12月)
・米経常収支(3Q)、ユーロ圏消費者信頼感指数(12月)
- 12月22日(水)
・THECOO・サインド・網屋・Finatextホールディングス・サクシード・リニューアブル・ジャパン、東証マザーズに新規上場、日銀金融政策決定会合議事要旨(10月27・28日分)
・チェコ中銀・タイ中銀が政策金利発表
・米GDP・確定値(3Q)、米中古住宅販売件数(11月)、米消費者信頼感指数・コンファレンスボード(12月)、英GDP・改定値(3Q)
- 12月23日(木)
・三和油化工業とクルーバーが東証ジャスダックに新規上場、エクサウィザーズとハイブリッドテクノロジーズが東証マザーズに新規上場、黒田日銀総裁が経団連審議員会で講演、対外・対内証券投資(12月12-18日)、景気一致・景気先行CI指数(10月)、全国百貨店売上高(11月)、東京地区百貨店売上高(11月)、工作機械受注 (11月)
・米債券市場が短縮取引、ロシア大統領の年次記者会見
・米耐久財受注(11月)、米新規失業保険申請件数(18日終了週)、米個人所得・支出(11月)、米新築住宅販売件数(11月)、米ミシガン大学消費者マインド指数・確報値(12月)
- 12月24日(金)
・長栄が東証2部に新規上場、ニフティライフスタイル・サスメド・エフ・コード・Green Earth Institute・CS-C・東証マザーズに新規上場、全国CPI (11月)、企業向けサービス価格指数(11月)、住宅着工件数・戸数(11月)
・米株式・債券市場休場、独市場休場、仏市場と英市場短縮取引、リビア大統領選
- 12月25日(土)・26日(日)
・ソ連崩壊から30年
(Bloombergをもとにフィリップ証券作成)
■ファイザーのセグメント別推移
米製薬大手ファイザー(PFE)が11/2に発表した2021年7-9月期(3Q)決算で通期売上高計画が360億USDと従来予想335億USDから上方修正。3Qの新型コロナワクチン売上高は前四半期78億USDから129億USDへ急増。ワクチン売上の75%が米国外であり、同社CEOも今年の生産量30億回分のうち10億回分は中低所得国に供給すると述べるなど地域別で新興市場国への伸びが見込まれる。
12/14、同社開発中の新型コロナ経口治療薬「パクスロビド」が重症化リスクのある患者の入院や死亡の予防で約9割有効との最終分析を発表。更に、急速に感染拡大しているオミクロン変異株に対しても効果がある可能性を示唆。同社はワクチン事業に引き続き、飲み薬の服用に係る内科事業の飛躍も期待されよう。
【ファイザーのセグメント別推移~ワクチンに続き内科(経口)と新興国に注目】
■FRBバランスシート総額と利上げ
12/14-15開催のFOMCの定例会合で、毎月の資産購入について米国債と住宅ローン担保証券合わせて月額300億USDと従来の2倍のペースで縮小させることを決定。経済予測の中央値では、22年にフェデラルファンド(FF)金利誘導目標を0.25%ずつ3回引き上げることが適切と当局者が見ていることが示された。
2017-18年にFF金利誘導目標と長期金利が上昇基調、かつ、米連邦準備制度理事会(FRB)の資産総額が減少した時期でも、18年10-12月を除いて株式市場は堅調に推移。当時の時価総額首位のアップル(AAPL)も時価総額1兆USD超えまで上昇基調を辿った。当時と異なり、現在の大型ハイテク株の時価総額はFRBの資産拡大に伴う流動性供給に支えられてきた面もあることには要注意だろう。
【FRBバランスシート総額と利上げ~テーパリングと利上げの配合加減は?】
■日産とトヨタのEV目標引き上げ
日産自動車(7201)とトヨタ自動車(7203)が相次いで2030年までの長期計画で電気自動車(EV)に関する計画を発表。日産が2026年まででEVなど電動車開発に2兆円、トヨタが2030年までに電池を含めたEVへ4兆円規模の投資とした。日産は自社開発の全固体電池を搭載したEVの2028年度での量産に言及した点、トヨタはEVへの投資4兆円のほかにPHEV(プラグインハイブリッドEV)、FCV(燃料電池車)も含む全方位で合計8兆円の投資とした点に特徴が見られた。
トヨタ傘下のデンソー(6902)や豊田通商(8015)への追い風が期待されるほか、リチウムイオン電池から全固体電池への技術進化の下でもセパレータは正極材や負極材、電解液と異なり変化が少ない面もあり、関連企業へ恩恵となろう。
【日産とトヨタのEV目標引き上げ~グループ企業、電池部品企業に恩恵あり】
■銘柄ピックアップ
ハウス食品グループ本社(2810)
2,968 円(12/17終値)
・1947年に浦上糧食工業所として設立。カレールゥなどの「香辛・調味加工食品」、傘下の壱番屋(7630)を中心とする「外食」、「健康食品」、「海外食品」、「その他食品関連」といった事業を営む。
・11/5発表の2022/3期1H(4-9月)は、売上高が前年同期比0.4%増の1,241.27億円、営業利益が同8.8%減の90.32億円。香辛・調味加工食品は巣籠り特需の反動減があったが、米国豆腐、中国カレー、タイ機能性飲料が好調だった海外食品事業、およびその他食品関連事業が増収に貢献。
・通期会社計画を修正。売上高を前期比2.4%増の2,560億円(従来計画2,590億円)に引き下げた一方、経常利益を同11.9%増の222億円(同215億円)とし。営業利益は同3.0%増の200億円に据え置いた。ディフェンシブ銘柄に資金シフトの動きが目立つなか、同社の米国事業は環境問題から大豆が注目されて生産能力を増強。健康食品事業に係る「ウコンの力」の巻き返しも期待される。
セキュアヴェイル(3042)
325 円(12/17終値)
・2001年設立。コンピュータセキュリティの運用・監視・ログ分析や製品開発・販売に係る情報セキュリティ事業ほか、人材派遣事業を営む。野村総合研究所(4307)のグループ企業が第2位の株主。
・11/12発表の2022/3期1H(4‐9月)は、売上高が前年同期比27.9%減の4.51億円、営業利益が前年同期の7百万円から▲63百円へ赤字転落。セキュリティ運用監視サービスに係る既存顧客との契約更新に注力も、新規案件獲得が計画を下回ったほか受託開発子会社の売却が業績に響いた。
・通期会社計画は、売上高が前期比8.4%減の11億円、営業利益が同3.2倍の1.06億円。複数メディアでサーバーの操作履歴などの記録を残すために使われている「Apache Log4j」と呼ばれるソフトウェアに深刻な脆弱性が見つかり、悪用されると管理者権限を奪われるおそれがある旨が報じられた。同社のセキュリティ運用やシステム監視・運用サービスなどに影響は無かったと確認された。
北越コーポレーション(3865)
721 円(12/17終値)
・1907年に長岡市で北越製紙を創業。紙パルプ事業、パッケージング・紙加工事業、木材事業、エンジニアリング事業、運送・倉庫事業などを営む。大王製紙(3880)を持分法適用関連会社とする。
・11/12発表の2022/3期1H(4-9月)は、売上高が前年同期比22.3%増の1,263.90億円、営業利益が前年同期の▲32.53億円から108.01億円へ黒字転換。前年同期の新型コロナに伴う需要減からの反動増のなか、洋紙と白板紙で販売数量が増加したほか北米パルプ市況高騰が業績に寄与。
・通期会社計画を上方修正。売上高を前期比16.9%増の2,600億円(従来計画2,550億円)、営業利益を同10.6倍の180億円(同150億円)とした。家庭紙向け外販のパルプの好調な推移を見込む。同社保有の大王製紙株について香港の投資ファンドから企業価値を高めるための売却を要請され、企業改革が期待される。また、製紙業界の値上げに関して同社が同調する可能性もあろう。
キヤノン(7751)
2,858 円(12/17終値)
・1933年に高級小型カメラ研究目的で発足。主に、複合機やプリンターなど「オフィス」、デジタルカメラなど「イメージングシステム」、「メディカルシステム」、および「産業機器その他」の4事業を営む。
・10/26発表の2021/12期9M(1-9月)は、売上高が前年同期比15.5%増の2兆5,579億円、営業利益が同6.0倍の2,065.61億円。オフィス向け複合機やプロ向けプリンター等が半導体不足や生産活動停滞の影響を受けたが、ネットワークカメラや医療機器、半導体・FPDの露光装置が堅調に推移。
・通期会社計画は、10/26時点で売上高を前期比13.9%増の3兆6,000億円で据え置いた一方、営業利益を同2.5倍の2,720億円(従来計画2,830億円)と下方修正。他方で、12/15に業績好転見通しにより年間配当予想を同20円増の100円(同90円)に上方修正した。人権問題の観点から中国製監視カメラが世界市場から締め出されるなか、同社ネットワークカメラの需要が世界的に高まろう。
BECワールド(BEC)
市場:タイ 13.5 THB (12/16終値)
・1967年設立のタイのメディアグループ。アナログ1局とデジタル3局の計4つのテレビ放送チャンネルの「チャンネル3」を運営。地上波テレビとオンラインプラットフォーム上でコンテンツ事業に注力。
・11/12発表の2021/12期3Q(7-9月)は、売上高が前年同期比3.8%減の12.72億THB、純利益が同2.4倍の減収増益。7月からの都市封鎖に伴うテレビ番組規制が響き広告収入が減少も、再放送活用などの効率化やコスト削減により粗利率が同1.6ポイント上昇、販管費率が同6.4ポイント低下。
・主力の広告収入は、コロナ禍対応の行動規制が9月以降に段階的に緩和されたことから回復が見込まれる。また、同社は「サイマル放送」(1つの放送局が同じ時間帯に同じ番組を、異なるチャンネル、方式、媒体で放送すること)の拡大を中心に「シングル・コンテンツ・マルチプラットフォーム」戦略を推進。チャンネル3の人気ドラマを中国テンセントの動画サービスを通じて多くの国に配信。
■アセアン株式ウィークリーストラテジー
(12/20号「ベトナムを席巻する韓国企業」)
ベトナムでは、サムスン・グループほか韓国企業のプレゼンスが拡大している。ハノイ圏の北部では、サムスン電子が2009年にスマートフォン生産に係る大型投資を開始して以来、LGグループなどの韓国企業の投資が相次いだ。サムスン電子のベトナムからの輸出額は2016年でベトナム全輸出額の23%に達し、韓国の対アセアン直接投資の約4割がベトナムとなるなど韓国企業はベトナムにおいて圧倒的な存在感を示している。
ホーチミン圏の南部でも、2014年以降にサムスン電子がアセアン諸国向けの家電製品の生産拠点を建設したのに続き、ロッテグループやCJグループなどの消費・小売関連企業の進出が相次いでいる。ベトナム経済の動向を見ていくうえでは韓国企業の動向が重要であると言えるだろう。
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アナリストのご紹介 フィリップ証券リサーチ部
笹木 和弘
フィリップ証券株式会社:リサーチ部長
証券会社にて、営業、トレーディング業務、海外市場に直結した先物取引や外国株取引のシステム開発・運営などに従事。その後は個人投資家や投資セミナー講師として活躍。2019年1月にフィリップ証券入社後は、米国・アセアン・日本市場にまたがり、ストラテジーからマクロ経済、個別銘柄、コモディティまで多岐にわたる分野でのレポート執筆などに精力的に従事。公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト(CIIA®)。