【投資戦略ウィークリー 2021年12月13日号(2021年12月10日作成)】”需給面で足元膠着も、インフレ忌避マネーを待つ”
■”需給面で足元膠着も、インフレ忌避マネーを待つ”
- 日本株相場は需給面で動きにくくなっているようだ。日経平均株価の「先物売り・現物買い」のポジションを組んだ裁定取引を解消していない現物買いの残高である「裁定買い残」、および「先物買い・現物売り」のポジションを組んだ裁定取引を解消していない現物売りの残高である「裁定売り残」の推移を見ると、12/3時点では裁定買い残が3,568億円、裁定売り残が2,146億円と低水準で推移。裁定買い残は自民党総裁選前の9/24に1兆4千億円台まで拡大したものの、その後は減少トレンドで推移。裁定売り残は昨年5月に2兆5千億円台まで膨らんだ後に減少トレンドで推移し、今年10月下旬にはゼロ近辺まで減少していた。裁定残の水準が低いということは、需給面で相場変動を高める圧力に乏しいことが示唆されるだろう。
- また、日経平均株価の28,500-29,000円のレンジは、週足の一目均衡業において転換線と基準線、更に雲上限の先行スパンが重なる水準であり、相場の均衡点が形成されているように見られる。この点も、日本株相場のボラティリティ(相場変動性)が高まりにくい要因として作用する可能性が高いだろう。
- それでは、何が日本株相場を大きく動かす要因となるのだろうか。ポイントは、日本が世界でも屈指の低インフレの国だということだろう。10月の米消費者物価指数(CPI)は変動の大きいエネルギーと食料品を除いたコア指数で前年同月比6%上昇と1990年12月以来の高い伸びだったのに対し、10月の日本のCPIは変動の大きい生鮮食品を除く総合指数が同0.1%上昇。ようやく2ヵ月連続でプラスとなった。米国の11月の雇用統計で非農業雇用者数が前月比21万人増と低水準の増加にとどまったものの、10月の雇用動態調査(JOLTS)によると、非農業部門の求人件数(季節調整済み、速報値)が前月比43万1千件増の1,103万3千件で、求人数と採用数の差が過去最高となっていることから、より良い賃金・条件を求めるが故のミスマッチによって、雇用統計の非農業雇用者数の増加が低水準となっていることが浮き彫りにされた。
- 12/10発表の11月の米CPI、および15日の米FOMC声明発表とその後のパウエル議長の記者会見の内容次第で米国のインフレ懸念・利上げ前倒し観測の高まりに繋がる可能性がある。資産の逃避先としては相対的に割安で低インフレ国の株式市場が選択されやすいだろう。「インフレ忌避の日本買い」であれば円高を伴う可能性が高く、物色の流れも従来から変化が出て来よう。(笹木)
12/13号では、あいホールディングス(3076)、ディジタルメディアプロフェッショナル(3652)、日本製鋼所(5631)、AOKIホールディングス(8214)、ユナイテッド・オーバーシーズ銀行(UOB)を取り上げた。
■主な企業決算の予定
- 12月13日(月): Hamee、JMHD、アイ・ケイ・ケイHD、エイチ・アイ・エス、シーアールイー、トーエル、ネオジャパン、ファースト住建、稲葉製作所、学情、正栄食品工業、日本ハウスHD、萩原工業
- 12月14日(火): エニグモ、クミアイ化学工業、ジェイ・エス・ビー、トルク、ナイガイ、ファーストロジック、マネジメントソリューションズ、ミサワ、ヤーマン、神戸物産、巴工業
- 12月15日(水):Link-U、オハラ、ギフト、コーセル、パーク24、フジ・コーポレーション、ブラス、プロレド・パートナーズ、(米)携程旅行網[トリップドットコムグループ]
- 12月16日(木):アスクル、(米)アドビ、フェデックス、アクセンチュア
- 12月17日(金):西松屋チェーン、サツドラHD
■主要イベントの予定
- 12月13日(月)
・日銀短観(4Q)、コア機械受注(10月)
・米国務長官が東南アジア歴訪(16日まで)、英中銀が金融安定報告と銀行ストレステスト結果を公表、EU外相理事会、OPEC月報
- 12月14日(火)
・ブルームバーグ日本 経済調査(12月)、鉱工業生産・設備稼働率(10月)
・米FOMC(15日まで)、国際エネルギー機関(IEA)月報、ハンガリー中銀が政策金利発表、ブルームバーグ・テクノロジー・サミット(15日まで)
・米PPI(11月)、ユーロ圏鉱工業生産(10月)、英ILO失業率(8-10月)
- 12月15日(水)
・ネットプロテクションズホールディングスが東証1部に新規上場、半導体業界の展示会「セミコンジャパン」が開幕(17日まで、東京ビッグサイト)、第3次産業活動指数(10月)、訪日外客数(11月)
・米FOMC声明発表・議長記者会見と経済予測
・米ニューヨーク連銀製造業景況指数(12月)、米小売売上高(11月)、米輸入物価指数(11月)、米NAHB住宅市場指数(12月)、米企業在庫(10月)、対米証券投資(10月)、英CPI(11月)、中国小売売上高・工業生産・都市部固定資産投資(11月)、ロシアGDP(3Q)
- 12月16日(木)
・True Dataとブロードエンタープライズが東証マザーズに新規上場、全銀協会長会見、貿易収支(11月)、貿易収支(11月)、対外・対内証券投資-株式ネット(12月5-11日)、じぶん銀行 日本PMI製造業・サービス業・コンポジット(12月)、首都圏新築分譲マンション(11月)
・ECB政策金利発表・ラガルド総裁記者会見、EU首脳会議、英中銀・スイス中銀・トルコ中銀・メキシコ中銀・フィリピン中銀・インドネシア中銀・台湾中銀が政策金利発表、中国アリババの投資家デー(オンライン、17日まで)
・米住宅着工件数(11月)、米新規失業保険申請件数(11日終了週)、フィラデルフィア連銀景況指数(12月)、米鉱工業生産(11月)、マークイット米製造業・総合・サービス業PMI(12月)、マークイット・ユーロ圏製造業・総合・サービス業PMI(12月)、ニュージーランドGDP(3Q)、豪雇用統計(11月)
- 12月17日(金)
・日銀金融政策決定会合・終了後に結果を公表・黒田総裁が会見、日本取引所グループの清田CEO定例会見
・ロシア中銀が政策金利発表、北朝鮮・金正日総書記死去から10年
・欧州新車販売台数(11月)、ユーロ圏CPI(11月)、独IFO企業景況感指数(12月)
- 12月18日(土)・19日(日)
・香港で立法会(議会)選挙、チリ大統領選挙の決選投票
(Bloombergをもとにフィリップ証券作成)
■ウォルト・ディズニーの事業構成
米娯楽大手ウォルト・ディズニー(DIS)が11/10発表した2021年7-9月期決算は、動画配信サービス「ディズニー・プラス」の新規契約者数の伸び悩みが嫌気されたようだ。同社の事業セグメント別売上高では、売上構成比最大の放送ネットワーク部門が総じて横ばいで推移。テーマパーク部門、劇場での映画放映などコンテンツ販売・ライセンス部門がコロナ禍による落ち込みからの回復過程とみられるのに対し、動画配信ダイレクト・チャネル部門は右肩上がりの成長を継続。
動画配信サービスの有料会員数の伸びは、ディズニー・プラスがヒット作品の有無に左右され易い面がある。また、スポーツ専門チャンネルの動画配信「EPSNプラス」は米国で成長中のスポーツ・ベッティング(賭け)分野を開拓中の模様だ。
【ウォルト・ディズニーの事業構成~テーマパークと動画配信の両面に注目】
■米・香港の取引所の時価総額
米国主要取引所グループのCMEグループ(CME)、NYSEを傘下とするインターコンチネンタル・エクスチェンジ(ICE)、ナスダック(NDAQ)、オプション取引のCBOEグルーバル・マーケッツ(CBOE)の最近の株価動向は、2つの要因の影響を受けているように見受けられる。
第1に、米上場の中国企業が米SECによる監査状況の検査を受け入れない限り近い将来上場廃止となる一方で、中国企業の香港上場が増える見通しの高まりから、香港取引所が時価総額で優位に立ちやすい状況が挙げられる。第2に、暗号資産の取引所を運営するコインベース・グルーバル(COIN)の台頭、および証券取引アプリ運営のロビンフッド・マーケッツ(HOOD)も時価総額でナスダックを一時追い抜くなど、競争激化傾向だ。
【米・香港の取引所の時価総額~暗号資産取引所、株取引アプリとの比較】
■今年ヒット商品番付(上期と年間)
日本経済新聞社が日経MJ上で発表した年末恒例の「2021年ヒット商品番付」では、東の横綱が1990年代半ば以降に生まれた、デジタルネイティブの「Z世代」となった。11月に発表された日経トレンディの2021年ヒット商品第1位「TikTok売れ」で示されたように、テレビCMよりもSNS動画上でインフルエンサーを通じたプロモーションが有効な世代と言えそうだ。
上期のヒット商品番付と併せると、コロナ禍の下での巣ごもり志向から新規感染者減少を受けたアウトドア志向への過渡期の傾向が示されている。その中でも、「冷食エコノミー」が年間通じて上位に来ていること、ノンアルコール飲料からビールへのシフト、およびファッション面で「ユニクロとGUの吸水ショーツ」やAOKI「パジャマスーツ」の躍進が注目される。
【今年ヒット商品番付(上期と年間)~巣籠りからアウトドアとのハイブリッドへ】
■銘柄ピックアップ
あいホールディングス(3076)
1,999 円(12/10終値)
・2007年にドッドウェル・ビーエムエスとグラフィックの経営統合で設立。セキュリティ機器、カード機器およびその他事務用機器、コンピュータ周辺の情報機器、建築の設計事業を主な事業とする。
・11/12発表の2022/6期1Q(7-9月)は、売上高が前年同期比4.5%増の114.99億円、営業利益が同13.7%増の25.25億円。セキュリティ機器事業がマンション向け自社更新および新規獲得が好調だったことに加え、カード機器およびその他事務用機器が病院向け営業活動の回復を受けて堅調。
・通期会社計画は、売上高が前期比3.0%増の476億円、営業利益が同6.9%増の101億円。1Qの売上構成比39%を占める主力の情報機器事業は半導体不足が響いて足元の1Qで減収減益。一方で、同社が防犯カメラのBtoB市場で主力を占めるなか、京王線車内で乗客17人が重軽傷を負った事件を受け、国土交通省が今後導入する新車両に防犯カメラ設置を義務付ける方針を固めた。
ディジタルメディアプロフェッショナル(3652)
1,649 円(12/10終値)
・2002年設立。グラフィックスIPコアを開発してゲーム機器、自動車、モバイル通信機器等に組み込まれる半導体IPコアを半導体・最終製品メーカーに提供するほか、LSI製品の製造・販売を行う。
・11/10発表の2022/3期1H(4‐9月)は、売上高が前年同期比29.5%増の6.90億円、営業利益が前年同期の▲1.91億円から▲1.09億円へ赤字幅縮小。分野別売上高は、安全運転支援が同4.5倍の45百万円、ロボティクスが同74%増の1.06億円、アミューズメントが同31%増の4.99億円と伸長。
・通期会社計画を上方修正。売上高を前期比63.4%増の16.50億円(従来計画15億円)、営業利益を前年同期の▲4.25億円から▲2.0億円(同2.5億円)へ赤字幅縮小とした。安全運転支援やロボティクス分野での新規ライセンスおよびリカーリング収益増に加え、アミューズメントでの次世代画像処理半導体「RS1」の量産出荷を開始。米半導体エヌビディアのパートナープログラムにも参画中だ。
日本製鋼所(5631)
3,700 円(12/10終値)
・1907年設立。樹脂製造・加工機械、成形機他の「産業機械事業」、鋳鍛鋼製品やクラッド鋼板・鋼管他の「素形材・エンジニアリング事業」を主な事業とする。火力・原子力向け鋳鍛鋼で世界大手。
・11/15発表の2022/3期1H(4-9月)は、売上高が前年同期比1.2%増の911.99億円、営業利益が同50.4%増の71.13億円。産業機械事業で電気自動車(EV)や家電を中心に設備投資回復が続くほか、素形材・エンジニアリング事業で鋳鍛鋼製品の安定した需要継続など経営環境は総じて堅調。
・通期会社計画は、売上高が前期比14.1%増の2,260億円、営業利益が同56.5%増の160億円。同社はフィルム・シート製造装置を食品やパソコン、自動車業界向けに供給。電気自動車(EV)のリチウムイオン電池の基幹部品のセパレーターフィルムで世界シェア7割を占める。更に、他分野のフィルム製造装置も、人口増で包装需要増が見込まれるアジアの食品業界からの引き合いが増加中。
AOKIホールディングス(8214)
628 円(12/10終値)
・1958年に個人事業で創業後、1976年に設立。主に郊外ロードサイド店舗で紳士服・服飾品の販売を営むほか、複合カフェ「快活CLUB」やカラオケルーム運営、ブライダル事業などを手掛ける。
・11/5発表の2022/3期1H(4-9月)は、売上高が前年同期比11.5%増の623.82億円、営業利益が前年同期の▲118.85億円から▲30.94億円へ赤字幅縮小。コロナ禍の逆風下でも「快活CLUB」を含むエンターテイメント事業が同22%増収・営業黒字転換、不動産賃貸事業も増収・営業増益と健闘。
・通期会社計画について、売上高を新規出店計画の見直しに伴い前期比9.3%増の1,565億円(従来計画1,693億円)へ下方修正の一方、営業利益は前年同期の▲57.93億円から50億円への黒字転換と従来計画を据え置き。日本経済新聞社発表の「2021年ヒット商品番付」で同社の「パジャマスーツ」がランクイン。更に、機能性と着心地を追求した働く女性向けファッションも好評の模様だ。
ユナイテッド・オーバーシーズ銀行(UOB)
市場:シンガポール 26.87 SGD (12/9終値)
・1935年創業。ウィーCEOは創業者一族。中国やタイ、インドネシアなど19カ国・地域に500超の拠点を持つ。アセアンでのビジネス拡大を図る日系企業へのクロスボーダー・ビジネス支援に注力。
・11/3発表の2021/12期3Q(7-9月)は、総収益が前年同期比8.5%増の24.53億SGD、純利益が同56.6%増の10.46億SGD。純金利収益増のほか、ウエルスマネジメント部門の預かり資産増を受けた純手数料収益増が増収に貢献。更に、経費率低下および不良債権関連費用減が利益面で寄与。
・中国とアセアンのクロスボーダーの貿易・投資拡大を受けて同行の1-8月クロスボーダー収益が前年同期比6%増。また、アジア富裕層が香港国家安全維持法の制定に伴って中国政府の影響が強まった香港からシンガポールに資産を移す動きが一部で報道されるなか、同行のウエルスマネジメント業務の1-9月期収益も同22%増。更に、タイとインドネシアではネット専業銀行を展開中だ。
■アセアン株式ウィークリーストラテジー
(12/13号「3つの経済圏に分かれるベトナム経済」)
細長い国土に沿って長い海岸線と多様な気候風土、および南北に分断されて東西冷戦の代理戦争を戦った歴史を持つベトナムは、各地方と国外との経済統合がバラバラに進んできた。
「ハノイ圏(北部)」は日本や韓国の大手電機企業の進出により海外との結びつきをテコに経済成長を加速。ハノイから100km離れ、2018年に完成したハイフォン沖のラックフェン国際港は、大型コンテナ船が寄港してベトナムと欧米を直接結ぶ大型船の就航が可能になった。「ホーチミン圏(南部)」は市場経済が最も進んだベトナム最大の経済圏。現在は消費市場として外国企業の進出が相次ぐ。「ダナン圏(中部)」も道路・空港のインフラ整備が進み経済圏が徐々に拡大。世界遺産など観光資源に恵まれ、空路による観光拠点化とともにソフトウェア企業の集積が進んできている。
- 上場有価証券等のお取引の手数料は、国内株式の場合は約定代金に対して上限1.265%(消費税込)(ただし、最低手数料2,200円(消費税込)、外国取引の場合は円換算後の現地約定代金(円換算後の現地約定代金とは、現地における約定代金を当社が定める適用為替レートにより円に換算した金額をいいます。)の最大1.10%(消費税込)(ただし、対面販売の場合、3,300円に満たない場合は3,300円、コールセンターの場合、1,980円に満たない場合は1,980円)となります。
- 上場有価証券等は、株式相場、金利水準等の変動による市場リスク、発行者等の業務や財産の状況等に変化が生じた場合の信用リスク、外国証券である場合には為替変動リスク等により損失が生じるおそれがあります。また新株予約権等が付された金融商品については、これらの権利を行使できる期間の制限等があります。
- 国内金融商品取引所もしくは店頭市場への上場が行われず、また国内において公募、売出しが行われていない外国株式等については、我が国の金融商品取引法に基づいた発行者による企業内容の開示は行われていません。
- 金融商品ごとに手数料等及びリスクは異なりますので、お取引に際しては、当該商品等の契約締結前交付書面や目論見書又はお客様向け資料をよくお読みください。
免責事項
- この資料は、フィリップ証券株式会社(以下、「フィリップ証券」といいます。)が作成したものです。
- 実際の投資にあたっては、お客様ご自身の責任と判断においてお願いいたします。
- この資料に記載する情報は、フィリップ証券の内部で作成したか、フィリップ証券が正確且つ信頼しうると判断した情報源から入手しておりますが、その正確性又は完全性を保証したものではありません。当該情報は作成時点のものであり、市場の環境やその他の状況によって予告なく変更することがあります。この資料に記載する内容は将来の運用成果等を保証もしくは示唆するものではありません。
- この資料を入手された方は、フィリップ証券の事前の同意なく、全体または一部を複製したり、他に配布したりしないようお願いいたします。
アナリストのご紹介 フィリップ証券リサーチ部
笹木 和弘
フィリップ証券株式会社:リサーチ部長
証券会社にて、営業、トレーディング業務、海外市場に直結した先物取引や外国株取引のシステム開発・運営などに従事。その後は個人投資家や投資セミナー講師として活躍。2019年1月にフィリップ証券入社後は、米国・アセアン・日本市場にまたがり、ストラテジーからマクロ経済、個別銘柄、コモディティまで多岐にわたる分野でのレポート執筆などに精力的に従事。公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト(CIIA®)。