【投資戦略ウィークリー 2021年9月27日号(2021年9月24日作成)】”中国恒大集団危機、タカ派のFOMC、総裁選の影響”
■”中国恒大集団危機、タカ派のFOMC、総裁選の影響”
- 日経平均株価が9/14まで12連続営業日で終値が始値を上回る「12陽連」を1988年2月以来で達成した翌週、過剰債務と資金繰り不安に揺れる中国不動産大手の中国恒大集団の経営の先行き懸念が一段と深まり、三連休明けの9/20-21の日本株相場は、TOTO(5332)、ソフトバンクG(9984)、コマツ(6301)など中国とのビジネス上の繋がりが深い銘柄を中心に売られる展開となった。
- 中国政府は個人データを扱うネット企業への規制、高すぎる教育費に歯止めをかけるための教育産業への規制、青少年のゲーム中毒対策としてのオンラインゲームへの規制など幅広い産業統制を打ち出していたなか、高騰する不動産価格抑制も重要視しており、不動産開発に伴う過剰債務も度々問題として挙げられていた。また、中国の銀行に対して今年3月頃から既に不動産業界を中心に新規融資の伸びを抑制するよう厳しい指導が行われていたことから、過剰融資先が早晩資金繰りに支障を来すことは起こり得るものとして予見されていたと見るべきだろう。その意味では、値下がりした社債投資家の損失穴埋めのための他の保有資産売却の懸念はあるにせよ、過剰に恐れるべきものではないだろう。
- 米国では9/22の連邦公開市場委員会(FOMC)で、テーパリング(量的緩和の縮小)着手が「近く」正当化される公算が大きいとの見解が示されたほか、FOMCメンバーの政策金利見通し分布(ドットチャート)で18人中9人が2022年の利上げが必要と表明するなど「タカ派」色の強いものとなった。パウエルFRB議長は「利上げのハードルはテーパリングよりも遥かに高い」と「ハト派」色の強い認識を示したが、翌23日の米国10年国債利回りが前日比10ベーシス(1%)以上上昇するなど米国債券市場は「タカ派」が優勢だった。テーパリング開始後を見据えれば、新型コロナワクチン接種証明と3回目以降のブースター接種などを伴って海外渡航の再開をはじめとした経済活動正常化を通じて景気敏感株への物色を強めていく相場展開となることが考えられよう。
- 日本では9/29の自民党総裁選の投開票を前に政策論争が繰り広げられている。総裁選前半は再生可能エネルギーや原発政策が争点の中心だったが、後半は年金制度改革が争点として浮上。将来の年金利回り改善のためには現在の黒田日銀総裁の下での異次元金融緩和とマイナス金利政策をいつまでも続けるわけにはいかないという方向に国論が転換する可能性を孕んでいる。仮に「河野総裁」が誕生し、選挙後に年金重視の政権が登場した場合、投資資金の潮流が大きく変わる可能性があろう。(笹木)
9/27号では、レンゴー(3941)、TOTO(5332)、スプリックス(7030)、第一生命ホールディングス(8750)、キャピタランド(CAPL)を取り上げた。
■主な企業決算の予定
- 9月27日(月): しまむら、大光、あさひ
- 9月28日(火):ヒマラヤ、ハローズ、スギHD、ハニーズHD、ピックルスコーポレーション
- 9月29日(水): DCMHD、ケーヨー、西松屋チェーン
- 9月30日(木): ERIHD、TAKARA & COMPAN、アダストリア、サムティ、ジャステック、スター・マイカHD、ニトリHD、ハイデイ日高、パイプドHD、ヤマシタヘルスケアHD、平和堂
- 10月1日(金): キユーソー流通システム、クスリのアオキHD、クラウディアHD、ダイセキ、ダイセキ環境ソリューション、ミタチ産業、象印マホービン、大阪有機化学工業、北恵
■主要イベントの予定
- 9月27日(月)
・企業向けサービス価格指数(8月)、景気一致指数・景気先行CI指数 (7月)
・米ニューヨーク連銀総裁が講演、米シカゴ連銀総裁とブレイナードFRB理事が全米企業エコノミスト協会(NABE)の年次会合で講演、英中銀総裁が講演
・米耐久財受注(8月)、ユーロ圏マネーサプライ(8月)
- 9月28日(火)
・日銀金融政策決定会合議事要旨(7月15・16日分)、ジィ・シィ企画・ROBOT PAYMENT・デジタリフト・リベロの4社が東証マザーズに新規上場
・米シカゴ連銀総裁が会議冒頭でスピーチ、米アトランタ連銀総裁がオンライン会議で講演、米セントルイス連銀総裁がパネル討論会に参加(オンライン形式)、NABEの年次会合最終日、ECBフォーラム (オンライン、29日まで)・ラガルドECB総裁が開会の辞、北朝鮮の最高人民会議
・米卸売在庫(8月)、米FHFA住宅価格指数(7月)、米主要20都市住宅価格指数(7月)、米消費者信頼感指数・コンファレンスボード(9月)、 中国工業利益(8月)
- 9月29日(水)
・自民党総裁選の投開票、セーフィーとプロジェクトカンパニーが東証マザーズに新規上場
・米アトランタ連銀総裁がオンライン会議で講演、米EUの貿易・技術協議会(TTC)初会合(ペンシルベニア州ピッツバーグ)、ECBフォーラム(最終日)・日銀総裁・英中銀総裁・ECB総裁・FRB議長がパネル討論会に参加、タイ中銀が政策金利発表
・米中古住宅販売成約指数(8月)、ユーロ圏景況感指数・消費者信頼感指数(9月)
- 9月30日(木)
・東京など19都道府県に発令中の緊急事態宣言の期限、アスタリスクが東証マザーズに新規上場、全国証券大会
・鉱工業生産(8月)、小売売上高(8月)、百貨店・スーパー売上高(8月)、対外・対内証券投資(9月12-25日)、住宅着工件数・戸数(8月)
・米2021会計年度末・10月1日からの政府機関閉鎖回避に向けた暫定予算案可決期限、米下院金融委員会でFRBと財務省のパンデミック対応に関する公聴会、米ニューヨーク連銀総裁がFRBのパンデミック対応に関するウエビナーで開会の辞、米アトランタ連銀総裁・米シカゴ連銀総裁・米セントルイス連銀総裁裁・ 米フィラデルフィア連銀総裁が講演などを行う、メキシコ中銀が政策金利発表
・米新規失業保険申請件数(9月25日終了週)、米GDP・確定値(2Q)、ユーロ圏失業率(8月)、独失業率(9月)、独CPI(9月)、英GDP(2Q)、中国製造業・非製造業PMI(9月)、中国財新製造業PMI(9月)
- 10月1日(金)
・日銀短観(3Q)、完全失業率・有効求人倍率 (8月)、じぶん銀行日本PMI製造業(9月)、消費者態度指数(9月)、自動車販売台数(9月)
・米フィラデルフィア連銀総裁と米クリーブランド連銀総裁がオンライン討論会に参加、中国休場(国慶節、7日まで)、香港休場(国慶節)、ドバイ国際博覧会が開幕(22年3月31日まで)
・米自動車販売(9月)、米個人所得・支出(8月)、米建設支出(8月)、米マークイット製造業PMI(9月)、米ミシガン大学消費者マインド指数(9月)、米ISM製造業景況指数(9月)、ユーロ圏・マークイット製造業PMI(9月)、ユーロ圏CPI(9月)、ロシアGDP(2Q)
(Bloombergをもとにフィリップ証券作成)
※本レポートは当社が取り扱っていない銘柄を含んでいます。
■銘柄ピックアップ
レンゴー(3941)
908 円(9/24終値)
・1909年に井上貞治郎が日本で初めて段ボール事業を開始し創業。板紙や段ボールを扱う板紙・紙加工関連事業のほか軟包装関連事業、重包装関連事業、海外関連事業、その他事業を営む。
・8/3発表の2022/3期1Q(4-6月)は、売上高が前年同期比9.7%増の1,807.78億円、営業利益が同18.1%増の112.62億円。板紙・紙加工関連事業は売上高が同5.0%増、営業利益が同18.0%増、海外関連事業は売上高が同32.4%増、営業利益が同94.5%増と、両事業が業績を牽引した。
・通期会社計画は、売上高が前期比6.2%増の7,230億円、営業利益が同5.2%増の420億円。タイの素材最大手サイアム・セメント(SCC)傘下の梱包素材メーカーのSCGパッケージングとレンゴーの合弁会社は、今年8月にインドネシア同業大手インタングループの株式75%を取得したほか、中国南部への進出も視野に入れてベトナム北部ビンフック省に新工場を建設すると9月に発表した。
TOTO(5332)
5,430 円(9/24終値)
・1917年に現在のノリタケカンパニーリミテド(5331)から衛生陶器の製造販売を分離独立。温水洗浄便座「ウォッシュレット」やバス・キッチン・洗面商品を主要製品とするグローバル住設事業が柱。
・7/30発表の2022/3期1Q(4-6月)は、売上高が前年同期比23.7%増の1,457.29億円、営業利益が同4.8倍の121.13億円。主力のグローバル住設事業は、中国大陸で売上高が同2.0倍、営業利益が同3.4倍と全体業績を牽引。ウォッシュレット販売台数は中国大陸が同32%増、欧州が同66%増。
・通期会社計画は、売上高が前期比9.9%増の6,350億円、営業利益が同11.0%増の440億円。住設事業(日本)と住設事業(海外)に続き、新領域事業では半導体市場の需要増でセラミックの成長が期待される。1Qの中国大陸事業の売上構成比が約12%に上るなか、中国恒大集団の資金繰り懸念に対し中国関連として短期筋のヘッジファンドから売られる局面は投資機会となる面もあろう。
スプリックス(7030)
1,011 円(9/24終値)
・1997年に設立。教育サービス事業を行う。個別学習の「森塾」運営や教育IT活用学習プログラムを提供する「学習塾サービス」、学習塾用教材開発・販売などの「教育関連サービス」から構成。
・8/6発表の2021/9期9M(2020/10-2021/6)は、売上高が前年同期比99.6%増の168.46億円、営業利益が同10.9%増の13.92億円。中核事業の「森塾」の在籍生徒数は、湘南ゼミナールの同社グループ加入分を含めて前年同期末比44.8%増の38,625人。スプリックス単体では同12.0%増だった。
・通期会社計画は、売上高が前期比2.1倍の249.83億円、営業利益が同17.3%減の14.77億円。5/10に業績を上方修正したなか、広告宣伝や研究開発費の増加に伴う営業減益を見込む。同社は中国政府公認の中国語資格「HSK」の公式過去問集・公認テキストなど学習コンテンツを出版・製作。新型コロナワクチン接種普及後にインバウンド需要が回復すれば中国語学習も注目されよう。
第一生命ホールディングス(8750)
2,455 円(9/24終値)
・1902年に日本初の相互会社形態での保険会社として設立。2010年に株式会社へ組織変更し東証1部上場。16年に持株会社となり、傘下に国内生命保険、海外保険、その他の3事業を営む。
・8/11発表の2022/3期1Q(4-6月)は、経常収益が前年同期比8.6%増の1兆9,455億円、経常利益が同2.7倍の2,062億円。新契約年換算保険料は国内3社が同2.8倍、海外5社が同44.9%増。本業のもうけを示すグループ基礎利益は、海外およびアセットマネジメントの貢献により同10.6%増。
・通期会社計画は、経常収益が前期比15.1%減の6兆6,430億円、経常利益が同13.4%減の4,790億円。減収減益見通しは傘下企業における前期の一時的利益計上の反動減や非連結化の影響による。9/29投開票の自民党総裁選における有力候補の河野大臣は年金の抜本的改革を打ち出した。日銀の金融緩和およびマイナス金利政策からの転換に伴う長期金利上昇も視野に入ろう。
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アナリストのご紹介 フィリップ証券リサーチ部
笹木 和弘
フィリップ証券株式会社:リサーチ部長
証券会社にて、営業、トレーディング業務、海外市場に直結した先物取引や外国株取引のシステム開発・運営などに従事。その後は個人投資家や投資セミナー講師として活躍。2019年1月にフィリップ証券入社後は、米国・アセアン・日本市場にまたがり、ストラテジーからマクロ経済、個別銘柄、コモディティまで多岐にわたる分野でのレポート執筆などに精力的に従事。公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト(CIIA®)。