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【投資戦略ウィークリー 2021年9月21日号(2021年9月17日作成)】”「12陽連」が示唆するのは円高・株高の日本買いか?”

 

■”「12陽連」が示唆するのは円高・株高の日本買いか?”

  •  日経平均株価は、9/14まで12連続営業日で日足四本値における終値が始値を上回る「陽線」となった。これは1988年2月以来33年7ヵ月ぶりのことである。当時は1987年10月のブラックマンデー後の急落からの戻りの上昇を試す局面であり、ブラックマンデー前の過去最高値だった2万6千円台半ばに対して2万5千円に漸く達した時点だった。現在は今年2月に付けた年初来高値30,714円を取引時間中に超えたところで高値警戒感が台頭し始めたように見受けられるものの、9月に入って買い越しに転じた海外投資家の日本株への資金流入の背景には、ゴールドマン・サックス・グループ、シティ・グループ、モルガン・スタンレーが相次いで米国株相場のリスクに対する脆弱性を指摘し始めたように、今まで他国を凌駕してきた米国株相場の失速懸念の台頭がある。その意味では、日本株の上昇を一時的なものと片づけられない面もあろう。
  • 裁定取引買い残と売り残の推移では、9/10の買い残が前週比2,064億円増加の8,341億円、売り残が同1,239億円減少の1,264億円と買い越しが拡大。買い余力を疑問視する向きもあるなか、2014年以降の裁定買い残は、2014年9月に64兆円、2015年5月に3.84兆円、2018年1月に3.43兆円など、増減を繰り返しつつも3兆円台半ば~後半までの水準まで増加することが珍しくなかった。その意味では、外国人投資家の本格的な買いが発生した場合の日経平均株価の潜在的な上昇余力は大きいと言えるだろう。
  •  また、1ドル110円近辺で膠着状態に陥っているドル円相場も、一目均衡表の週足チャートでは、ローソク足と転換線・基準線が収束するなかで「雲」の先行スパンも上限と下限の捻じれの時期に差し掛かり、相場転換点を示唆しやすい面もある。米FOMC声明発表のほか、バイデン大統領の支持率低下、およびイエレン財務長官が米連邦債務上限問題で「10月にも政府資金が枯渇する可能性が高い」と繰り返し警告している点など、米ドルからの資金シフトを誘発しやすい環境が揃っている点も要注意だろう。その意味では、自民党総裁選および衆院選挙を通じて日本の政治が従来型の派閥主導体制から、国民の高い支持を背景とした強力なリーダーシップの下で改革路線へと変化を遂げるとの期待を高めることがあれば、1980年代後半に見られたような「日本買い」による円高が日本株買いに繋がる可能性もあろう(笹木)

9/21号では、ディー・エヌ・エー(2432)、ヴィンクス(3784)、菱洋エレクトロ(8068)、マネックスグループ(8698)、キャピタランド(CAPL)を取り上げた。

■主な企業決算の予定

  • 920日(月): (米)レナー
  • 921日(火):アークランドサカモト、日本オラクル、ツルハホールディングス、(米) アドビフェデックス
  • 922日(水): ニイタカ
  • 923日(木): (米)携程旅行網[トリップドットコムグループ]、コストコホールセールナイキ、アクセンチュア
  • 924日(金): 三益半導体工業

 

主要イベントの予定

  • 920日(月)

・カナダ総選挙、 国際原子力機関(IAEA)総会(24日まで)、中秋節に伴い中国休場(21日まで)

・米NAHB住宅市場指数 (9月)

 

  • 921日(火)

・工作機械受注(8月)

・国連総会一般討論(27日まで)でバイデン米大統領らが演説、米FOMC(22日まで)、「モーターベラ」プレスデー(22日まで、一般公開は23-26日、米ミシガン州ポンティアック)、スウェーデン中銀とハンガリー中銀が政策金利発表、経済協力開発機構(OECD)経済見通しインドネシア中銀が政策金利発表

米住宅着工件数(8月)、米経常収支(2Q)

 

  • 922日(水)

日銀金融政策決定会合・終了後に結果を公表・黒田総裁が会見、シンプレクス・ホールディングスが東証1部に新規上場、ユミルリンクとコアコンセプト・テクノロジーが東証マザーズに新規上場、日本船主協会の会長会見

米FOMC声明発表・議長記者会見と経済予測、ブラジル中銀が政策金利発表、米疾病対策センター(CDC)諮問委がブースター接種に関し会合(23日まで)、香港休場

米中古住宅販売件数(8月)、ユーロ圏消費者信頼感指数(9月)

 

  • 923日(木)

・ECB経済報告、英中銀・スイス中銀・ノルウェー中銀・トルコ中銀・南ア中銀・フィリピン中銀・台湾中銀が政策金利発表

米新規失業保険申請件数(18日終了週)、米景気先行指標総合指数(8月)、米家計純資産(2Q)、マークイット米製造業・サービス業・総合PMI(9月)、マークイット・ユーロ圏製造業・サービス業・総合PMI (9月)

 

  • 924日(金)

・レナサイエンスが東証マザーズに新規上場、全国CPI(8月)、じぶん銀行日本PMIコンポジット・I製造業・サービス業(9月)、スーパーマーケット売上高(8月)、全国百貨店売上高(8月)、東京地区百貨店売上高(8月)

米FRBがオンラインイベント開催(パウエル議長、クラリダ副議長、ボウマン理事が参加)、米クリーブランド連銀総裁が講演、日米豪印「クアッド」で初の対面首脳会議(ワシントン)

米新築住宅販売件数(8月)、独IFO企業景況感指数(9月)

 

  • 925日(土)

・米ニューヨーク連銀総裁がスイス中銀主催の会合に参加、アイスランド議会選挙、台湾の最大野党・国民党主席選、英労働党大会(ブライトン、29日まで)

 

  • 926日(日)

・ドイツ連邦議会(下院)選挙

(Bloombergをもとにフィリップ証券作成)

本レポートは当社が取り扱っていない銘柄を含んでいます。

 

噴出する米国株失速懸念

米国株式相場失速懸念が市場に広がり始めた。ゴールドマン・サックスが「高いバリュエーションが市場の脆弱性を高めている」と指摘したほか、シティ・グループは小幅調整でも損失が増幅されるおそれを警告。モルガン・スタンレーは10月末までに経済成長に「特大のリスク」があることを理由に挙げて米国株の投資判断を「アンダーウェイト」に引き下げた。

米国株の時価総額を名目GDPで割ったパーセント表示の「バフェット指数」は、一般に100%を上回ると割高と言われるなか、9/3に史上最高の229%に達した。なお、日本のバフェット指数は9/10で123%にとどまる。また、消費者物価指数(CPI)に対して生産者物価指数(PPI)が急上昇しており、企業の利益率が縮小しやすくなっている点も要注意と言えよう。

【噴出する米国株失速懸念~バフェット指数、CPI-PPI較差が懸念材料】

 

■暗号資産イーサリアムとNFT

暗号資産でイーサリアムがシェアを拡大中だ。イーサリアムは「所有証明付き・偽造不可なデジタルデータ」を意味する非代替性トークン(NFT:ノン・ファンジブル・トークン)を発行するブロックチェーン(正確な取引履歴維持の分散型台帳)のプラットフォームとして、ビットコインには無い機能を有している。2021年初以降の価格上昇率ではビットコインを上回る。

このようなNFTの技術を活用して、中には数億円の価格が付くデジタルアート作品も登場している。アニメや漫画のキャラクターなどのIP(知的財産)はデジタルアート作品と相性が良いことから、イーサリアムの価格上昇とともにアニメ・漫画のIPを数多く保有する企業の株価が上昇傾向にある。東映アニメーション4816はその代表的銘柄と言えるだろう。

【暗号資産イーサリアムとNFT~アニメ・漫画のIPがデジタル資産化で流通】

■上場インフラファンドについて

9/17告示の自民党総裁選では政府が掲げた2050年までの温暖化ガス排出実質ゼロ、30年度に13年度比46%削減目標に向けた再生可能エネルギーと原発のあり方が主戦場となる公算だ。そのようななか、太陽光発電など再生可能エネルギー発電施設等に投資するファンドで東証に上場する「上場インフラファンド」は、J-REITと同様、利益の90%以上を分配すれば法人税が免除されることから相対的に高い分配金利回りが期待される。

9/13に2021年7月期の決算を発表した日本再生可能エネルギーインフラ投資法人(9283)は、9/15終値での年予想分配金利回りが5.93%。実績分配金も安定的に推移している。太陽光発電の特徴として、1-2月など冬場の発電量が計画未達となりやすい点に要注意だろう。

【上場インフラファンドについて~日本再生可能エネルギーインフラ投資法人】

■銘柄ピックアップ

ディー・エヌ・エー(2432) 

2,025 円(9/17終値)

・1999年3月設立。モバイル・PC向けインターネットサービスを提供。ゲーム事業、スポーツ事業、ライブストリーミング事業、ヘルスケア事業、および新規事業・その他の5事業セグメントを展開する。

・8/6発表の2022/3期1Q(4-6月)は、売上収益が前年同期比13.4%増の340.54億円、営業利益が同56.5%減の54.71億円。前年同期に子会社売却益や配車アプリ事業移転収益を計上した反動減により営業減益。一方、持分法投資利益が前年同期の▲7.08億円から94.03億円へ黒字転換。

・通期会社計画は合理的数値の算出が困難なため非開示。スポーツ事業の回復とライブストリーミング事業の「ポコチャ」の成長に加え、同社の持分法適用関連会社で、サイバーエージェント4751の子会社のサイゲームスが開発・販売するスマホゲームアプリ「ウマ娘プリティーダービー」が今年2月リリース以降、スマホアプリのセールスランキングで国内首位を続ける大ヒットとなった。

 

ヴィンクス3784)  

1,024 円(9/17終値)

・1991年にマイカル(現イオンリテール)の子会社として設立。2002年に富士ソフト9749の子会社となり、現在は親会社が58.3%を保有。流通・サービス業向けに情報関連サービス事業を展開。

・8/4発表の2021/12期1H(1-6月)は、売上高が前年同期比3.3%増の145.49億円、営業利益が同13.0%増の12.68億円。国内小売業における次世代キャッシュレス対応・セルフレジなどのデジタル化(DX)需要の高まりと既存顧客への深掘りにより増収。利益面では生産性の向上が増益に寄与。

・通期会社計画は、売上高が前期比1.0%増の280億円、営業利益が同1.0%増の21.50億円。「ニューリテール」と呼ばれるAIやIoTの新技術利用の新たな小売業が模索されるなか、ファミリーマートが無人コンビニ店舗を2024年度末までに約1,000店出店すると報じられた。ヴィンクスも無人店舗「ヴィンクス・ストア」を稼働させて実証実験を展開。パナソニック6752とも無人レジを共同開発。

 

菱洋エレクトロ(8068

2,408 円(9/17終値)

・1961年に三菱電機6503の半導体販売商社として設立。エレクトロニクス商社として、三菱電機製のほかインテル(INTC)、エヌビディア(NVDA)、マイクロソフト(MSFT)などの外国製を取り扱う。

・8/31発表の2022/1期1H(2‐7月)は、売上高が前年同期比14.5%増の522.64億円、営業利益が同28.2%増の9.49億円。品目別売上高は、「ICT/ソリューション」が同1.4%減の238.86億円だったが、「半導体/デバイス」がデジタル家電向け半導体の増加により同32.6%増の283.77億円と伸びた。

・通期会社計画は、売上高が前期比4.4%増の1,000億円、営業利益が同57.9%増の20億円。年間配当金は120円で普通配当金では前期から横ばい。電動車シフトという構造変化を受けて主要自動車メーカー間で半導体の在庫水準を増やす動きが相次ぐ一方で、半導体商社が抱える市中在庫の水準が落ち込み、在庫回転月数の短縮化が進んでいる。同社の業績向上を後押ししよう。

 

マネックスグループ(8698 

 596 9/17終値

・2004年設立。金融商品取引業、クリプトアセット事業、有価証券の投資事業を主要な事業とし、日本、米国およびアジア太平洋に主要拠点を有する。2018年にコインチェックを完全子会社化。

・7/28発表の2022/3期1Q(4-6月)は、営業収益が前期比89.7%増の270.60億円、純利益が同5.1倍の72.84億円。事業セグメント別の営業収益では、米国事業が同6.5%増だったほか、暗号資産市場の価格変動性の高まりを受けてコインチェックのクリプトアセット事業が同15.6倍に伸長した。

・通期会社計画は非開示。コインチェックが今年3月、ブロックチェーン上のデジタルアイテムであるNFT(非代替性トークン)を暗号資産と交換できるマーケットプレイス「Coincheck NFT(β版)」をリリース。ゲームのほかアートやスポーツなど幅広い分野に拡大予定。今年8月、メタバース(仮想空間)上で自己表現するアイテムとして人気の「デジタルファッション」をNFT市場で販売すると発表。

 

キャピタランド(CAPL) 

市場:シンガポール   3.6829 SGD9/9終値)

・2000年設立。シンガポール政府所有の投資会社であるテマセクHDSが過半数の持株比率を有する。不動産総合開発事業のほか、REIT(不動産投資信託)の運用に係る金融事業に強みを持つ。

・8/12発表の2021/12期1H(1-6月)は、売上高が前年同期比34.7%増の27.30億SGD、純利益が同9.5倍の9.22億SGD、一時的要因を除く事業運営からの調整後純利益が同66.0%増の4.33億SGD。中国とシンガポールの経済回復の恩恵のほか、テナントへのリベート支払い減少が業績に寄与。

・同社は、日本で東京都の商業施設から撤退して大阪府の物流施設を開発するほか、中国で開発不動産の持分の一部を中国平安保険に売却して物流施設に資金を回すなど、世界的に住宅・商業不動産から成長期待が大きい工業団地や物流、データセンターにシフトする方針。また、不動産投資事業をスピンオフしてSGXに上場させる事業再編計画は9月末までの株主総会承認を目指す。

 

■アセアン株式ウィークリーストラテジー

9/21号「タイの医療ツーリズム」

マレーシアとともにアセアンの「医療ツーリズム」を代表するタイでは、国内最大の民間病院運営会社であるバンコク・ドゥシット・メディカル・サービシズBDMSを中心に、国内富裕層だけでなく、治療や健康改善と合わせてバカンスも楽しみたい中東やアセアン近隣国の富裕層を顧客として最先端の医療を提供。「ウエルネス・クリニック」には高級感溢れる300室のホテルが併設されている。

今年4月以降の新型コロナ感染拡大第3波で観光業への打撃が収まらないなか、国際的リゾート地のプーケットでは、新型コロナワクチン接種済みの外国人観光客は隔離措置が免除され、プーケット県内を自由に旅行できる「プーケット・サンドボックス」がタイ政府によって試験的に開始された。それに加えて、10月より外国人観光客受け入れ再開の第2段階目の政策を実施予定だ。

 

 

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笹木和弘プロフィール笹木 和弘
フィリップ証券株式会社:リサーチ部長
証券会社にて、営業、トレーディング業務、海外市場に直結した先物取引や外国株取引のシステム開発・運営などに従事。その後は個人投資家や投資セミナー講師として活躍。2019年1月にフィリップ証券入社後は、米国・アセアン・日本市場にまたがり、ストラテジーからマクロ経済、個別銘柄、コモディティまで多岐にわたる分野でのレポート執筆などに精力的に従事。公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト(CIIA®)。

 

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世界経済のけん引役と期待されるアセアン(ASEAN:東南アジア諸国連合)。そのアセアン各国で金融・証券業を展開し、マーケットを精通するフィリップグループの一員である弊社リサーチ部のアナリストが、市場の動向を見ながら、アセアン主要国(シンガポールタイマレーシアインドネシア)の株式市場を独自の視点で徹底解説します。

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