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【投資戦略ウィークリー 2021年9月13日号(2021年9月10日作成)】”日経平均3万円近辺で合流、勢いを増す3つの潮流”

 

■”日経平均3万円近辺で合流、勢いを増す3つの潮流”

  •  9/10のメジャーSQ算出日に、日経平均株価は30,300円台まで上昇。当ウィークリー9月6日号で述べたように「年末相場」のスタートが切られたのかもしれない。現在の日本株相場は、いくつかの時代の変化の潮流が日経平均3万円の節目近辺で合流し、勢いを増しつつあるように見受けられる。その変化の潮流として際立つのは主に以下の3点である。
  • 第1に、「2050年までにCO2実質排出量ゼロ」の政府目標に向けた2030年度の電源構成に関するエネルギー基本計画(再生可能エネルギーを約36-38%程度、原子力を約20-22%程度など)が株式市場の主要テーマとして本格浮上してきた点が挙げられる。これは、自民党の総裁選で有力候補の河野大臣が「脱原発」を持論としていたことのほか、米アマゾン・ドット・コムが三菱商事8058と提携して国内で450ヵ所以上の太陽光発電設備網を整備する計画を打ち出したことから、再生可能エネルギーが注目を集めた。これに対し、河野大臣が原発再稼働容認の考えを示したことや総裁選立候補を表明した高市氏が小型モジュール原子炉を国家プロジェクトとして支援することを打ち出したことから、東京電力HD9501助川電気工業7711なども物色されている。
  •  第2に、政府が新型コロナワクチン接種の進展に伴う行動規制の緩和を打ち出したことが挙げられる。今秋をめどに接種証明書や検査の陰性証明書があれば、緊急事態宣言が出ている地域でも飲食店の酒類提供を緩和するほか、イベント、旅行などの社会活動正常化の道筋をつけていくとしたことから、外出により化粧品の需要が活発化しそうな資生堂4911ほか、旅行・レジャー関連銘柄にも物色が活発化する可能性があろう。
  •  第3に、トヨタ自動車7203が、電気自動車(EV)に使用するリチウムイオン電池など車載用2次電池の開発に1兆5千億円を投資する方針を発表したことが挙げられる。電池関連株への物色のほか、リチウムイオン電池の正極材に使われるニッケルやアルミニウムなどに関わる非鉄金属関連にも投資資金が戻りつつある。9/9発表の8月の中国の生産者物価指数が前年同月比5%上昇と13年ぶりの高い伸びだったこともサプライチェーンの上流に位置する非鉄金属や素材などに資金が向かいやすい要因だろう。
  •  モルガン・スタンレーが9/7に米国株の投資判断を「アンダーウエイト」に引き下げたほか、クレディ・スイスも極端なバリュエーションと規制リスクから米国株のアンダーウェイトを維持。米国株から日本株へ投資資金が幾分はシフトする可能性もあろう。(笹木)

 

9/13号では、東洋紡(3101)、鎌倉新書(6184)、アルファポリス(9467)、コニカミノルタ(4902)、オラム・インターナショナル(OLAM)を取り上げた。

 

■主な企業決算の予定

  • 913日(月):Hamee、JMホールディングス、ジェイ・エス・ビー、トーエル、トルク、ナイガイ、稲葉製作所、学情、神戸物産、正栄食品工業、日東製網、(米)オラクル
  • 914日(火): Link-U、エニグモ、ギフト、ネオジャパン、パーク24、ファーストロジック、ブラス、プロレド・パートナーズ、マネジメントソリューションズ、ミサワ、ヤーマン
  • 915日(水): コーセル
  • 916日(木)アスクル
  • 917日(金): サツドラホールディングス

 

主要イベントの予定

  • 913日(月)

・景況判断BSI大企業全産業・製造業(3Q)、国内企業物価指数(8月)

・OPEC月報、国際原子力機関(IAEA)理事会(ウィーン、17日まで)、ノルウェー総選挙

米財政収支(8月)、中国経済全体のファイナンス規模、新規融資、マネーサプライ (8月、15日までに発表)

 

  • 914日(火)

・鉱工業生産・設備稼働率(7月)

米アップルが製品発表イベント、米カリフォルニア州ニューソム知事のリコール選挙、国際エネルギー機関(IEA)月報、国連人権理事会(ジュネーブ、10月9日まで)、第76回国連総会開幕(ニューヨーク)・21日から一般討論演説、中国外相が韓国ソウル訪問(15日まで)

米CPI(8月)、英ILO失業率 (5-7月)

 

  • 915日(水)

・ソニーグループがESG説明会を開催、ソフトバンクが法人向けイベントをオンラインで開催(17日まで)、コア機械受注(7月)、ブルームバーグ日本経済調査(9月)、 第3次産業活動指数(7月)、訪日外客数(8月)

・中韓外相会談(ソウル)

・米ニューヨーク連銀製造業景況指数(9月)、米輸入物価指数(8月)、米鉱工業生産(8月)、ユーロ圏鉱工業生産(7月)、英CPI(8月)、中国小売売上高・工業生産・都市部固定資産投資(8)、中国新築住宅価格(8月)

 

  • 916日(木)

・貿易収支(8月)、対外・対内証券投資 (9月5-11日)、首都圏新築分譲マンション(8月)、月例経済報告(9月)

・上海協力機構(SCO)首脳会議(タジキスタン・ドゥシャンベ、17日まで)

米小売売上高(8月)米新規失業保険申請件数 (11日終了週)、米フィラデルフィア連銀製造業景況指数(9月)、米企業在庫(7月)、対米証券投資(7月)、欧州新車販売台数(8月)、ニュージーランドGDP(2Q)、豪雇用統計(8月)

 

  • 917日(金)

自民党総裁選告示、資金循環統計(4-6月期速報)

・米食品医薬品局(FDA)がファイザー製ワクチンのブースター接種の是非を巡りワクチンおよび関連生物製剤に関する諮問委員会(VRBPAC)開催、南北朝鮮の国連同時加盟から30年

米ミシガン大学消費者マインド指数・速報値(9月)、ユーロ圏CPI(8月)

(Bloombergをもとにフィリップ証券作成)

※本レポートは当社が取り扱っていない銘柄を含んでいます。

 

水関連の銘柄は「沸騰」か?

昨年12月に先物取引所CMEが先物を上場した「ナスダック・べレス・カリフォルニア水指数」は今年に入って約8割上昇。CMEは「地球温暖化や人口増により世界人口の3分の2が2025年までに水不足に陥る」との見方を示している。また、「安全な水とトイレを世界中に」はSDGs(持続可能な開発目標)における目標の一つであり、きれいな水を供給する企業や技術への注目度が高まっている。

米インベスコが運用する「S&Pグローバル・ウォーターETF」および主要組入れ銘柄の昨年末以降の株価パフォーマンスは、NYダウ平均を上回るものが多い。水需要の過半を占める農業向けで干ばつが食料価格を高騰させるほか、半導体製造など工業用水需要の高まりも水供給・水処理企業の業績へ寄与しよう。

【水関連の銘柄は「沸騰」か?~「安全な水とトイレ」はSGDsの目標一つ】

 

■混迷を深めるアフガン情勢

アフガニスタンのイスラム主義組織タリバンが9/7、暫定政権の組閣を発表。米国がテロ組織に指定する組閣の幹部が閣僚入りするなど、米国とタリバン側との協力が難しい面が残った。タリバンが属するハナフィー派はスンナ派の一分派であり、シーア派との妥協を認めず、聖者崇拝の禁止のほか娯楽を否定するという厳格なもの。タリバンも1996-2001年まではコーランに記された原理原則を国民に強制して女性の権利を制限していたことから、その繰り返しが懸念されている。

アフガニスタンは大国からの干渉とイスラム勢力独立の歴史の繰り返しだった。タリバン政権が国際社会と友好関係を築けるかどうか次第で、テロのリスクなどを通じて金融市場の不透明感を強める可能性もあり、要注意だろう。

【混迷を深めるアフガン情勢~大国からの干渉とイスラム勢力独立の歴史】

 

■一目均衡表の雲と相場(週足)

一目均衡表は「相場は買い方と売り方の均衡が崩れたときに大きく動く」ことに着目した相場分析手法とされる。週足での基本5本線は、①(過去9週間の最高値+最安値)÷2の「転換線」、②(過去26週間の最高値+最安値)÷2の「基準線」、③{(転換値+基準値)÷2}を26週先行させて表示した「先行スパン1」、④{(過去52週間の最高値+最安値)÷2}を26週先行させて表示した「先行スパン2」、⑤ 当日の終値を26週遅行させて表示した「遅行スパン」である。③と④の間に挟まれた領域は「雲」と呼ばれる。

今年1-2月に付けた年初来高値からの調整局面だった日経平均株価とルネサスエレクトロニクス(6723)は、8月以降実線と上記の①、②が収斂しつつ雲上限に達した時点から上昇に転じている。

【一目均衡表の雲と相場(週足)~日柄調整を経て雲に重なった時点が好機】

 

■銘柄ピックアップ

東洋紡3101) 

1,441 円(9/10終値)

・1882年に渋沢栄一策定の紡績事業計画に基づき大阪紡績会社として発足。主力のフィルム・機能樹脂事業のほか、産業マテリアル、ヘルスケア、繊維・商事、不動産、その他の事業を営む。

・8/5発表の2022/3期1Q(4-6月)は、売上高が前年同期比25.4%増の946.44億円、営業利益が同2.1倍の92.44億円。液晶偏光光子保護フィルム「コスモシャインSRF」の新ライン3号機、およびセラミックコンデンサ用離型フィルム「コスモビール」の新加工設備の本格稼働に伴い販売が伸長した。

・通期会社計画を上方修正。売上高を前期比8.2%増の3,650億円(従来計画3,600億円)、営業利益を同8.8%増の290億円(同270億円)とした。コスモシャインSRFやコスモビールのほか、新型コロナ対応のPCR検査試薬等の販売増を見込む。同社の逆浸透膜(RO膜)を用いた製品は、国連SGDsの目標の一つである「安全な水とトイレを世界中に」へ貢献できる水処理技術として注目されよう。

 

鎌倉新書6184) 

1,006 円(9/10終値)

・1984年設立。仏壇仏具業界向け出版から開始。現在は「葬儀」、「仏壇」、「お墓」ごとにユーザーと取引先を繋ぐプラットフォームを運営する「終活事業」、および「終活関連書籍出版事業」を営む。

・9/9発表の2022/1期1H(2-7月)は、売上高が前年同期比29.3%増の17.92億円、営業利益が前年同期の▲81百万円から2.73億円へ黒字転換。相続事業などの新サービス開拓、および地方自治体と「おくやみハンドブック」の協働刊行による地方自治体の遺族支援へのサポート等に注力した。

・通期会社計画は、売上高が前期比26.3%増の40.90億円、営業利益が同2.7倍の7.20億円。ユーザーの仏壇仏具やお墓等への節約志向や葬祭の低価格化が強まる一方、2020年開始の不動産・保険・介護事業が成長。また、内閣官房IT総合戦略室によるデジタル・ガバメント実行計画の一環として、自治体による遺族向け「死亡・相続ワンストップサービス」の推進が同社への追い風となろう。

 

アルファポリス(9467

3,455 円(9/10終値)

・2000年設立。同社運営の小説・漫画等の投稿サイトで公開されて人気のあるコンテンツを書籍化する事業モデルに特色。ライトノベル、漫画、文庫等のほか、TVドラマ化やTVアニメ化作品も輩出。

・8/12発表の2022/3期1Q(4-6月)は、売上高が前年同期比16.9%増の17.03億円、営業利益が同17.2%増の4.00億円。全国出版協会・出版科学研究所によると2021年1-6月期の紙と電子出版合計推定販売金額は前年同期比8.6%増。内、電子出版が同24.1%増。同社の業績を後押しした。

・通期会社計画は、売上高が前期比20.2%増の93億円、営業利益が同10.9%増の24億円。大和証券が東証2部・東証マザーズ・ジャスダック上場銘柄などを対象とした「東証プライム上場期待銘柄」をスクリーニングしたなか、同社は最高スコアの「8」とされた。また、東映アニメーション(4816)の株価上昇に見られるように、アニメ・漫画のIP(知的財産権)は投資家からの評価が高い模様だ。

 

コニカミノルタ(4902  

590 9/10終値

・1873年創業。主力のデジタルワークプレイス事業(複合機等)のほか、プロフェッショナルプリント事業(デジタル印刷等)、ヘルスケア事業(画像診断等)、インダストリー事業(計測機器等)を営む。

・2022/3期1Q(4-6月)は、売上高が前年同期比32.7%増の2,298.60億円、営業利益が前年同期の▲226.39億円から31.03億円へ黒字転換。全事業で増収となるなか、売上高販管費率が同10.9ポイント低下の43.2%と改善したほか、成長事業と位置付けるインダストリー事業が利益面で寄与。

・通期会社計画は、売上高が前期比8.9%増の9,400億円、営業利益が前期の▲162.66億円から360億円へ黒字転換。また、年間配当は同5円増配の30円。オフィス事業の顧客基盤を活用した顧客業務のデジタル化(DX)支援を基本戦略とする。また、新型コロナ感染拡大による自宅療養者急増に伴い、動脈中の酸素飽和度を測定するパルスオキシメーターの増産が追い付かない状況だ。

 

オラム・インターナショナル(OLAM) 

市場:シンガポール    1.630 SGD9/9終値)

・1989年設立の食品・農産物商社。政府系投資会社テマセクHDが過半数株式を所有するほか、三菱商事8058が約17%を保有する。コメダHD3543のコメダ珈琲にコーヒー豆を供給している。

・8/13発表の2021/12期1H(1-6月)は、売上高が前年同期比33.7%増の228.33億SGD、純利益が同26.7%増の3.82億SGD。非中核事業資産の処分関連および米国の香辛料製造・販売会社オールド・トンプソン買収の費用など一時的要因を除くオペレーショナル純利益は同2.2倍の4.36億SGD。

・同社は、非中核事業・新規事業を担う「オラム・インターナショナル部門」を除く「食品原料部門(OFI)」と「グローバル・アグリ部門(OGA)」の各々を分社化して株式上場を目指す計画を表明したていたなか、OFIを2022年半ばまでにロンドンとシンガポールに重複上場させる方針を発表。また、OGAについても2023年前半の上場を予定。IPOで調達する資金を成長投資に振り向ける方針だ。

 

■アセアン株式ウィークリーストラテジー

9/13号「マレーシアの医療ツーリズム」

マレーシアの民間病院は、石油会社ペトロナス傘下のプリンスコート病院のほか、三井物産(8031)が筆頭株主として32.9%を保有するIHHヘルスケア傘下のパンタイ病院およびグレニーグルス病院、更に、マレーシア首位のチェーン病院であるKPIグループが有名だ。私立病院の多くは国際的に医療の質を保証するJCI(ジョイント・コミッション・インターナショナル)認証を保有する。

IHHヘルスケアはマレーシアやシンガポールのほか、中東欧・中東・北アフリカまで事業エリアを有するトルコのアシバデム、インド首位のフォルティス・ヘルスケア、およびグレニーグルスの中国事業など高成長が期待される新興市場を幅広くカバー。三井物産はIHHヘルスケアの世界最大級の約3千万人分の患者データを活用する事業に乗り出して収益源の一つとすることを目指している。

 

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笹木和弘プロフィール笹木 和弘
フィリップ証券株式会社:リサーチ部長
証券会社にて、営業、トレーディング業務、海外市場に直結した先物取引や外国株取引のシステム開発・運営などに従事。その後は個人投資家や投資セミナー講師として活躍。2019年1月にフィリップ証券入社後は、米国・アセアン・日本市場にまたがり、ストラテジーからマクロ経済、個別銘柄、コモディティまで多岐にわたる分野でのレポート執筆などに精力的に従事。公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト(CIIA®)。

 

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世界経済のけん引役と期待されるアセアン(ASEAN:東南アジア諸国連合)。そのアセアン各国で金融・証券業を展開し、マーケットを精通するフィリップグループの一員である弊社リサーチ部のアナリストが、市場の動向を見ながら、アセアン主要国(シンガポールタイマレーシアインドネシア)の株式市場を独自の視点で徹底解説します。

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