【投資戦略ウィークリー 2021年8月23日号(2021年8月20日作成)】”プライムを巡る需給悪化要因、プロマーケット関連注目”
■”プライムを巡る需給悪化要因、プロマーケット関連注目”
- 当ウィークリー2021年8月16日号「東証の市場再編~プライムを巡る動きとTOPIX見直し」で述べた通り、東証1部企業を中心に、プライム市場入りに向けて流通株式比率35%以上、流通株式時価総額100億円以上の条件を満たすための動きが活発化している。8/17、中小企業向け業務パッケージソフト大手のオービックビジネスコンサルタント(4733)が株式売出の実施を発表。和田社長ら株主6人合計で発行済株式総数の約14%に相当する水準であるため、目先の需給悪化懸念が強まるとして、翌18日は株価が下落した。このような動きが東証1部企業間で広範囲に及ぶことが考えられることから、企業自身が東証に申請する期間である今年9-12月に向けて、需給悪化要因が続くと予想されよう。
- その一方、プライム市場への昇格可能性の有無に限らず、相対的に需給が良いみられる東証2部、ジャスダック、マザーズ企業に投資家物色の矛先が向かいやすくなろう。当ウィークリー2021年8月16日号で東証2部上場の千代田化工建設(6366)およびヨネックス(7906)がプライムへの昇格が有力視されていると述べたが、両社は既に東証からの一次判定結果に関する「新市場区分『スタンダード市場』適合に関するお知らせ」を公表。その可能性は低下している面があるだろう。なお、東証から通知された適合状況の一次判定の内容についての適時開示は企業の任意による。
- 市場再編に係る上場基準の見直しによってスタートアップ企業のIPOのハードルが高くなることも想定され、新規上場の場としてプロ投資家向けの市場であるTOKYO PRO Market(TPM)の注目度が高まる余地がある。この点に関し、業務ワークフローのクラウド大手のエイトレッド(3969)は、TPMの担当J-Adviserとして高いシェアを有するフィリップ証券と提携し、TPM新規上場を目指す新興企業へ、上場準備に当たっての業務プロセスのデジタル化、社内規定および業務フローの策定、決裁プロセスのデジタル化などの内部統制DX(デジタル変革)を支援するサービスを提供している。
- 時価総額国内首位のトヨタ自動車(7203)が8/19、9月世界生産について当初計画から4割程度減少見通しを公表。同社を含む主要自動車株は翌20日に下落幅を拡大。更に、イスラム主義勢力タリバンに制圧されたアフガニスタンからの米軍撤退期限が8月末とされていること、および米FRBの量的緩和の縮小を巡る8/26-28のジャクソンホールでの経済シンポジウムへの警戒が強いことなどから、8月末に向けて投資家の慎重姿勢は続くとみられる。(笹木)
8/23号では、昭和電工(4004)、Zホールディングス(4689)、JMC(5704)、技研製作所(6289)、ジャーディン・サイクル&キャリッジ(JCNC)を取り上げた。
■主な企業決算の予定
- 8月23日(月):(米)JDドットコム
- 8月24日(火):(米)インテュイット、ピンドゥオドゥオ、メドトロニック
- 8月25日(水):タカショー、(米)オートデスク、スプランク、セールスフォース・ドットコム
- 8月26日(木):(米)マーベル・テクノロジー、ペロトン・インタラクティブ、ワークデイ、ダラー・ツリー
- 8月27日(金):ラサ商事
■主要イベントの予定
- 8月23日(月)
・全国百貨店売上高(7月)、東京地区百貨店売上高(7月)、じぶん銀行日本PMIサービス業・製造業・コンポジット (8月)
・「クリミア・プラットフォーム」首脳会議(キエフ)、イスラエル中銀が政策金利発表
・米中古住宅販売件数(7月)、米マークイット製造業・サービス業・総合PMI (8月)、ユーロ圏・マークイット製造業・サービス業・総合PMI (8月)、ユーロ圏消費者信頼感指数(8月)
- 8月24日(火)
・東京パラリンピックが開幕(9月5日まで)、スーパーマーケット売上高(7月)
・キャシー・ホークル氏が米ニューヨーク州知事に就任(クオモ氏の後任)、ハンガリー中銀が政策金利発表
・米新築住宅販売件数(7月)、独GDP(2Q)
- 8月25日(水)
・中村日銀審議委員が宮崎県金融経済懇談会であいさつ・記者会見(オンライン形式)、工作機械受注(7月)、景気先行CI指数・景気一致指数(6月)
・国際ゲーム見本市「ゲームズコム」(オンライン、27日まで)
・米耐久財受注(7月)、独IFO企業景況感指数 (8月)
- 8月26日(木)
・自民党の総裁選挙管理委員会、対外・対内証券投資 (8月20日)、企業向けサービス価格指数(7月)
・米カンザスシティー連銀主催の年次シンポジウム(ジャクソンホール、28日まで)、イスラエル首相が米大統領と会談(ワシントン)、ECB議事要旨(7月会合)、韓国中銀が政策金利発表
・米GDP改定値(2Q)、米新規失業保険申請件数 (21日終了週)、ユーロ圏マネーサプライ(7月)
- 8月27日(金)
・ジェイフロンティアが東証マザーズに新規上場、東京CPI (8月)
・米カンザスシティー連銀主催の年次シンポジウム(ジャクソンホール、2日目)
・米個人支出・個人所得(7月)、米卸売在庫(7月)、米ミシガン大学消費者マインド指数・確報値(8月)、中国工業利益 (7月)
- 8月28日(土)
・米カンザスシティー連銀主催の年次シンポジウム(ジャクソンホール、最終日)
(Bloombergをもとにフィリップ証券作成)
■米国株信用取引残高の月次推移
米国における証券会社などの行動を監視・規制する非営利の民間組織であるFINRAの月次データによると、個人・機関投資家が信用取引を行うための「マージン口座」の月末借入残高は、今年7月が8,443億ドルと、過去最高だった前月から4.3%減、新型コロナウイルス感染第1波で株式相場が急落した昨年3月以降では初めての減少となった。
当ウィークリー2021年7月12日号における「2018年10月近辺と類似の展開も」で述べたように、金高・原油安・金利低下・ドル高の下では株式市場が調整に見舞われやすいなか、需給面での買い圧力低下は要注意だろう。特に、アフガニスタン情勢に係る地政学リスクの高まりは2018年10月の米中冷戦の深刻化懸念の高まりを彷彿とさせる面があろう。
【米国株信用取引残高の月次推移~7月は2020年3月以降で初めて減少】
■米大手小売・ホームセンター企業
7月の米消費者物価指数が前年同月比5.4%上昇と13年ぶりの高水準となり、消費者の購買力低下への影響が懸念されるなか、8/17発表の7月の米小売売上高は前月比1.1%減少と大幅減。また、ホームセンターの小売りチェーンの業績に影響する住宅関連でも、8/17発表の8月のNAHB(全米ホームビルダー協会)住宅市場指数が1年1ヵ月ぶりの低水準となるなど、米小売りチェーン企業を取り巻く外部環境は悪化傾向を示し始めた。
5-7月決算では小売最大手ウォルマート(WMT)が通年の既存店売上高予想を引き上げたが、ディスカウント大手ターゲット(TGT)ではコロナ禍特需鈍化の可能性が示唆された。ホームセンター大手ホーム・デポ(HD)は国内既存店売上高の伸びが2年ぶりに市場予想を下回った。
【米大手小売・ホームセンター企業~主要経済統計の外部環境は悪化傾向】
■一目均衡表の雲と相場の上放れ
一目均衡表は「相場は買い方と売り方の均衡が崩れたときに大きく動く(放れる)」ことに着目した相場分析手法とされる。基本5本線は、①(過去9日間の最高値+最安値)÷2の「転換線」、②(過去26日間の最高値+最安値)÷2の「基準線」、③{(転換値+基準値)÷2}を26日先行させて表示した「先行スパン1」、④{(過去52日間の最高値+最安値)÷2}を26日先行させて表示した「先行スパン2」、⑤ 当日の終値を26日遅行させて表示した「遅行スパン」である。③と④の間に挟まれた領域は「雲」と呼ばれる。
直近の7-8月では、上昇後に横ばいで推移していた富士フィルムHD(4901)と商船三井(9104)が、日足実線と上記の①、②が収斂しつつ、雲の上限に接近または重なった時点から急騰を開始した。
【一目均衡表の雲と相場の上放れ~実線・転換線・基準線の収斂との関連】
■銘柄ピックアップ
昭和電工(4004)
2,737 円(8/20終値)
・1939年に日本電気工業と昭和肥料が合併し発足。石油化学、化学品、エレクトロニクス、無機、アルミニウム、その他事業を営む。2020年4月に日立化成を子会社化。電炉黒鉛電極は国内首位。
・8/10発表の2021/12期1H(1‐6月)は、売上高が前年同期比2.1倍の6,933.58億円、営業利益が前年同期の▲257.95億円から475.66億円へ黒字転換。石油化学製品原料ナフサの市況上昇に加えて、半導体関連製品も好調だった。鉄鋼需要の回復に伴い、黒鉛電極事業でも販売数量が増加。
・通期会社計画は、売上高が前期比43.8%増の1兆4,000億円、営業利益が前期の▲194億円から850億円へ黒字転換。2023年1月に予定される昭和電工マテリアルズ(旧日立化成)との統合に向けて年初以降に相次いで事業・株式の売却を公表。売却だけでなく、半導体材料や自動車部材、再生医療を成長定め、半導体ウエハー用研磨材や半導体材料用高純度ガスなど投資も積極化。
Zホールディングス(4689)
650.2 円(8/20終値)
・1996年に現ソフトバンクG(9984)の子会社として設立。Eコマース事業・メディア事業を営む。祖業のヤフー、2021年3月に経営統合が完了したLINEのほかZOZO、アスクル、PayPay等を傘下とする。
・8/3発表の2022/3期1Q(4-6月)は、売上収益が前年同期比36.3%増の3,733.52億円、調整後EBITDAが同11.2%増の863.55億円。LINEとの経営統合および広告需要回復に伴う広告関連収益の伸長、および傘下企業のアスクルやZOZOを含めたコマース事業の堅調な伸びが業績に貢献。
・通期会社計画は、売上収益が前期比26.1-30.2%増の1.52-1.57兆円、調整後EBITDAが同2.8-6.2%増の3,030-3,130億円。LINEのデジタル銀行サービス「LINE Bank」はタイと台湾に続き、今年6月にインドネシアでも正式開始。日本でも来年のサービス開始を目指すなか、PayPayとLINE-Payの事業統合による国内8千万人規模のスマホ決済サービスが誕生すれば大きな収益基盤となろう。
JMC(5704)
664 円(8/20終値)
・1992年設立。3次元CAD技術を用いて樹脂を素材とする3Dプリンターと金属を素材とする砂型製造の両成型法を基に、幅広い業種の試作品から最終製品まで「ものづくり」の総合サポートを行う。
・8/13発表の2021/12期1H(1-6月)は、売上高が前年同期比6.9%減の10.02億円、営業利益が前年同期の▲1.61億円から▲5,100万円へ赤字幅縮小。3Dプリンター出力事業とCT(コンピュータ断層撮影)事業は減収減益だが、鋳造事業がFA分野や新分野の売上実績により増収・黒字転換。
・通期会社計画は、売上高が前期比4.8%増の25.84億円、営業利益が前期の▲2.20億円から26百万円へ黒字転換。鋳造事業で昨年12月に開始したレストア分野(旧型車両等の老朽化した部品を供給)で同社ブランドが浸透し業績に寄与。また、受託製造が中心だった3Dプリンター出力事業で世界大手の米ストラタシスの日本法人と提携し、ストラタシスの樹脂3Dプリンター装置販売を開始。
技研製作所(6289)
4,455 円(8/20終値)
・1967年創業。無振動・無騒音の油圧式杭圧入引抜機(サイレントパイラー)に係る開発・製造・販売・保守サービス等の建設機械事業、および圧入技術の新工法を活用した圧入工事事業を行う。
・7/9発表の2021/8期9M(2020/9-2021/5)は、売上高が前年同期比2.7%増の196.11億円、営業利益が同24.3%増の29.88億円。インプラント工法に係る圧入工事事業は国内大型工事減が響き減収減益だが、建設機械事業で橋梁の耐震補強等向けのサイレントパイラーの伸びが業績に寄与。
・通期会社計画は、売上高が前期比10.4%増の272億円、営業利益が同54.1%増の38.5億円。地球と一体化した粘り強い構造物を構築する「インプラント工法」が大規模水害の原因である河川堤防決壊を防止する抜本対策となるとして適用範囲拡大に推進したなか、同工法採用が順調に進展。海外でも、3月完了のセネガル・ダカール港の日本のODA案件を通じて同工法の認知度が上昇。
ジャーディン・サイクル&キャリッジ(JCNC)
市場:シンガポール 19.79 SGD(8/19終値)
・1899年にクアラルンプールで創業。香港拠点の世界的コングロマリットのジャーディン・マセソン・グループが75%を所有する投資持株会社であり、シンガポールを拠点に自動車販売などを行う。
・7/29発表の2021/12期1H(1-6月)は、売上高が前年同期比25.7%増の82.87億USD、非トレード項目を除く基礎的利益が同2.5倍の3.46億USD、上半期末純現金ポジションが黒字転換。基礎的利益では同社が50%超を所有するインドネシアのコングロマリットのアストラが同71%増の2.93億USD。
・親会社が中間持株子会社の非公開化などグループ企業の資本再編を進めるなか、同社も出資先企業の利益を自社グループ内に留めるため傘下企業への出資比率引き上げを活発化。その中でも、子会社のアストラは、その出資先の配車決済大手のゴジェックがEコマース大手のトコペディア(ソフトバンクG出資)と今年5月に統合を発表。統合後新会社のIPOに伴う利益が見込まれる。
■アセアン株式ウィークリーストラテジー
(8/23号「新型コロナ感染拡大のマレーシア」)
アセアンの中でもマレーシアではデルタ変異株の感染拡大のペースがタイやインドネシアなど周辺国を上回り、人口10万人当たりの新型コロナ新規感染者数が8/17に約64人に達した。なお、8/17時点で東京都は32人、全米では41人である。感染拡大に歯止めがかからないなか、政権批判が強まったこともあり、ムヒディン首相は8/15に辞意を表明するに至った。
マレーシアでは6/17に発表された「国家回復計画(National Recovery Plan(NRP))」 に基づき、ステージ毎に4つのフェーズに移行していくとしている。感染拡大に歯止めがかからない中でも、全国的にワクチン接種率が高まってきたことから、州の成人人口に対するワクチン接種完了者の割合が50%以上を条件に、8/16より製造業や流通サービス業の一部について緩和措置を施行した。
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アナリストのご紹介 フィリップ証券リサーチ部
笹木 和弘
フィリップ証券株式会社:リサーチ部長
証券会社にて、営業、トレーディング業務、海外市場に直結した先物取引や外国株取引のシステム開発・運営などに従事。その後は個人投資家や投資セミナー講師として活躍。2019年1月にフィリップ証券入社後は、米国・アセアン・日本市場にまたがり、ストラテジーからマクロ経済、個別銘柄、コモディティまで多岐にわたる分野でのレポート執筆などに精力的に従事。公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト(CIIA®)。