【投資戦略ウィークリー 2021年7月5日号(2021年7月2日作成)】”ワクチン接種とクリーンエネルギー相場、台湾リスク”
■”ワクチン接種とクリーンエネルギー相場、台湾リスク”
- 日本の新型コロナワクチン接種回数累計が7/1に約4,500万回、ワクチン接種回数の人口比率で約36%に達した。同比率が36%に達したのは、ドイツが5/3、フランスが5/6である。サービス業の景況感指数(PMI)を見ると、ドイツは3月に50を超えた後で4月に50を僅かに割ったものの、5月が8、6月が58.1と伸びが加速。フランスは3月まで7ヵ月連続で50割れだったが、4月に50.3となって以降、5月が56.6、6月が57.4と伸びが加速した。日本のPMI指数である「じぶん銀行日本サービス業PMI」は、6月まで17ヵ月連続50割れだが、ドイツやフランスの例からすると、7月以降に50を超え、その後更に伸びが加速する可能性が考えられる。7/1発表の6月の日銀短観によれば、大企業非製造業の業況判断指数(DI)がプラス1と5四半期ぶりにプラス圏に浮上。新型コロナウイルスのデルタ変異株の感染拡大が懸念されるものの、既に接種が普及しているワクチンのデルタ変異株への有効性が確認されつつある。飲食やレジャー、旅行などの「経済活動正常化」関連銘柄への物色が期待されよう。
- また、6/30、米国でインフラ投資計画に係る第2弾が検討されていることが明らかになった。バイデン大統領が既に超党派の上院議員団と合意した8年間で2兆ドルの「米国雇用計画」とは別に、インフラ投資計画の第2弾として風力や太陽光など再生可能エネルギーや原子力エネルギーの利用によるCO2排出量の削減を目指すため、年内にも「財政調整措置」の手続きを通じて民主党単独での可決を目指す可能性があると報道された。日本でも今夏に「エネルギー基本計画」が改定され、電源構成比率が見直される見通しであることから、米国と歩調を合わせて気候変動問題に係るクリーンエネルギー関連銘柄が再物色される流れとなる可能性があり、現在はそのタイミング待ちの局面と言えるかもしれない。
- 一方、7/1、中国共産党の習近平総書記が同党創立100年の祝賀式典の演説で台湾問題に関し、祖国の完全統一を実現することは共産党の歴史的任務と強調するとともに、軍事力についても世界一流の軍隊をつくりあげ、国家の主権・安全を守ると述べた。米国が軍事面で台湾支援を鮮明にするなか、中長期的に米中対立に日本が引き込まれるリスクの高まりが懸念される。習氏は毛沢東氏が成し得なかった台湾統一を悲願として来年秋以降に前例の無い3期目の総書記ポストを視野に入れるとみられることから、一時的な懸念と片づけることはできないと考えられよう。(笹木)
7/5号では、大日本住友製薬(4506)、三菱重工業(7011)、三井物産(8031)、エネクス・インフラ投資法人(9286)、タイ・ユニオン・グループ(TU)を取り上げた。
■主な企業決算の予定
- 7月5日(月):マルカキカイ、アークス、フジ、ネクステージ、薬王堂HD、ジーフット、キユーソー流通システム、トーセイ
- 7月6日(火):イオンモール、キユーピー、サンエー、ハニーズHD、フェリシモ、ベルク、ユナイテッドスーパーマーケットHD、ヨンドシーHD、わらべや日洋HD
- 7月7日(水):サーラコーポレーション、イオンファンタジー、ディップ、MS&Consulting、大黒天物産、イオンフィナンシャルサービス、ウエルシアHD
- 7月8日(木):SHIFT、TAKARA & COMPANY、Usen-Next HD、オオバ、オンワードHD、クリーク・アンド・リバー社、コジマ、セブン&アイHD、ダイコー通産、トーセ、ヒト・コミュニケーションズ・、ポプラ、マニー、リソー教育、ローソン、久光製薬、竹内製作所、中本パックス、日本フイルコン、乃村工藝社、明光ネットワークジャパン
- 7月9日(金):アステナHD、エコートレーディング、エスクロー・エージェント・ジャパン、エストラスト、オーエスジー、カーブスHD、チヨダ、トランザクション、ナルミヤ・インターナショナル、ビックカメラ、ファーストコーポレーション、ファーストブラザーズ、プレナス、ヤマザワ、ヤマトインターナショナル、ライフコーポレーション、ワキタ、安川電機、技研製作所、吉野家HD、日本毛織
■主要イベントの予定
- 7月5日(月)
・日銀支店長会議(テレビ会議形式)黒田総裁あいさつ、日銀の地域経済報告(さくらリポート、7月)、じぶん銀行 日本PMIコンポジット・サービス業(6月)、日銀の需給ギャップと潜在成長率
・米休場(独立記念日の振り替え休日)、 米アマゾン・ドット・コム・ジェフ・ベゾス氏がCEO退任
・ユーロ圏総合・サービス業PMI (6月)、中国財新コンポジット・サービス業PMI (6月)
- 7月6日(火)
・毎月勤労統計-現金給与総額・家計支出(5月)、BCCが東証マザーズに新規上場、東京五輪チケットの再抽選結果発表
・豪中銀が政策金利発表、カンヌ国際映画祭(17日まで)
・米ISM非製造業総合景況指数(6月)、ユーロ圏小売売上高(5月)、 独製造業受注(5月)、独ZEW期待指数(7月)
- 7月7日(水)
・景気一致指数・景気先行CI指数(5月)
・米FOMC議事要旨(6月15-16日開催分)、欧州委員会経済見通し
・米求人件数(5月)、独鉱工業生産(5月)、中国外貨準備高(6月)
- 7月8日(木)
・経常収支・ 貿易収支(5月)、対外・対内証券投資 (6月27日-7月3日)、銀行貸出動向(6月)、東京オフィス空室率(6月)、日銀の生活意識に関するアンケート調査、倒産件数(6月)、景気ウォッチャー調査 現状判断・先行き判断(季調済)(6月)、コラントッテが東証マザーズに新規上場
・ペルー中銀・ポーランド中銀・マレーシア中銀が政策金利発表
・米新規失業保険申請件数(3日終了週)、米消費者信用残高(5月)、独貿易収支(5月)
- 7月9日(金)
・マネーストックM2・M3(6月)
・G20財務相・中央銀行総裁会議(ベネチア、10日まで)
・米卸売在庫(5月)・英鉱工業生産 (5月)、中国CPI・PPI(6月)、中国経済全体のファイナンス規模・新規融資・マネーサプライ (6月、15日までに発表)
- 7月11日(日)
・東京など10都道府県に適用中のまん延防止等重点措置、沖縄県に発令中の緊急事態宣言の期限
(Bloombergをもとにフィリップ証券作成)
※本レポートは当社が取り扱っていない銘柄を含んでいます。
■インフラ投資の米国雇用計画
米バイデン政権は、「米国雇用計画」について当初の規模(2.25兆ドル)を縮小した譲歩案を5/25に共和党に提示。交渉が頓挫していたなか、超党派上院議員団で調整を続け、6/24に合意に至ったとの声明を発表。合意案では輸送部門インフラ整備に3,120億ドル、非輸送部門インフラ整備に2,660億ドルが新規支出として充てられるほか、同分野で毎年度支出される分と合わせた支出規模は8年間で約1.2兆ドルにも及ぶとしている。
道路・橋梁整備で建設骨材製造のバルカン・マテリアルズ(VMC)や設備レンタルのユナイテッド・レンタルズ(URI)が、電力グリッド網整備で太陽電池モジュールのファーストソーラー(FSLR)のほか、電気自動車のテスラ(TSLA)がエネルギー貯蔵設備で見直し余地があろう。
【インフラ投資の米国雇用計画~毎年度支出分と合わせて8年1.2兆ドル】
■水と排出量取引の先物価格
6/28、米国立気象局は40度を超える記録的な高温が続く米西部の州の広い範囲に高温警報を出し、屋外での活動を控えて空調設備のある屋内にとどまるよう呼びかけた。極端な高温は水不足をもたらし、カリフォルニア州で売買する水の使用権に係るCMEナスダック・ヴェレス・カリフォルニア水指数が急騰。空調大手で米国でもシェア上昇中のダイキン工業(6367)への追い風が見込まれる一方、農作物への影響が懸念されよう。
7/14に欧州委員会が発表予定の包括的気候対策の中に排出枠取引制度(ETS)の改革が含まれる見通しだ。取引対象となる業種拡大や排出枠の減少などのほか、排出量取引価格が下落するのを防ぐメカニズムとしてETSの「市場安定準備」を強化すると見込まれている。
【水と排出量取引の先物価格~水不足の深刻化、EUの排出量取引改革】
■年末の日経平均株価予想
日経平均株価の加重平均BPS(1株当たり純資産)は23,000円を超え、12年前の約3倍の水準となった。また、6/30終値での加重平均PBR(株価純資産倍率)が1.23倍と、過去12年間で見てもほぼ平均水準となっている。過去12年間の推移を見ると、加重平均PBRは、相場が極端に弱気に傾く時に1.0倍が意識される一方、強気が優勢の時は1.3-1.5倍辺りまで上昇する余地があると言えるだろう。
Bloombergによると日経平均株価の2021年通年予想ROE(株主資本利益率)は9.51%とされている。6/30終値の加重平均BPSが約23,400円より、年末加重平均BPSは約4.75%増の約24,500円程度と予想される。年末予想加重平均PERを1.2-1.3倍と仮定すると年末予想日経平均株価は29,400-31,850円と予想される。
【年末の日経平均株価予想~加重平均BPSの増加率と加重平均PBRが鍵】
■銘柄ピックアップ
大日本住友製薬(4506)
2,282 円(7/2終値)
・1897年設立の大阪製薬が前身。2005/10に住友製薬と合併し、住友化学(4005)が51.6%所有の親会社となった。北米の売上収益構成比が50%を超える。抗精神病、抗がん、再生細胞に重点。
・5/12発表の2021/3通期は、売上収益が前期比6.9%増の5,159.52億円、営業利益から非経常項目を除外したコア営業利益が同3.3%減の695.83億円。2型糖尿病治療剤の販売増が増収に寄与したが、2019年設立の北米子会社スミトバントの費用負担および中国の減収が利益面で響いた。
・2022/3通期会社計画は、売上収益が前期比12.0%増の5,780億円、コア営業利益が同8.0%減の640億円。北米事業において、大幅増収を見込む一方で新製品の販売費用増および特許権償却費増が全体の減益に響く見通し。親会社の住友化学との合弁事業における再生・細胞医薬分野のCDMO(受託開発・製造)事業は、新設の再生・細胞医薬製造施設が今年12月に完成の予定。
三菱重工業(7011)
3,321 円(7/2終値)
・1884年に岩崎弥太郎が長崎造船所を開業して創立。発電システムなどの「パワー」、船舶などの「インダストリー&社会基盤」、航空機などの「航空・防衛・宇宙」を主力の3事業セグメントとする。
・5/10発表の2021/3通期は、売上収益が前期比8.4%減の3兆6,999億円、事業利益が前期の▲295億円から540億円へ黒字転換、当期利益が同53.4%減の406億円。三菱航空機に係るスペースジェット事業の凍結は事業利益の黒字転換に寄与したが、減損損失計上が響き最終減益だった。
・2022/3通期会社計画は、売上高が前期比1.4%増の3兆7,500億円、事業利益が同2.8倍の1,500億円。航空・防衛・宇宙事業セグメントの事業利益を前期の▲948億円から200億円への黒字転換と見込む。7/1、中国共産党の習近平総書記は同党創立100年の祝賀式典で「台湾統一は歴史的任務」と言明。米国が軍事面で台湾支援を鮮明にするなか、防衛産業への需要増が見込まれよう。
三井物産(8031)
2,517 円(7/2終値)
・1947年設立の三井グループ中核の総合商社。鉄鋼製品、金属資源、エネルギー、機械・インフラ、化学品、生活産業、次世代・機能推進の事業セグメントを展開。原油生産権益量は商社首位。
・4/30発表の2021/3通期は、収益が前年同期比5.6%減の8兆102億円、当期利益が同14.3%減の3,354.58億円。事業セグメント別の当期利益は、化学品および次世代・機能推進が増益だったものの、その他のセグメントが減益。4Q(1-3月)の前四半期比は、収益が2.3倍、当期利益が53.5%増。
・2022/3通期会社計画は、当期利益が前期比37.1%増の4,600億円。金属資源事業など前期の減損損失計上からの反動増、および鉄鋼製品事業の稼働率向上や生活産業事業の需要増を見込む。同社が筆頭株主のマレーシアの病院チェーンIHHヘルスケアの患者データ活用、米バークシャー・ハサウェイが筆頭株主の米人工透析企業とアジアで提携するなどヘルスケア分野を推進中。
エネクス・インフラ投資法人(9286)
96,400 円(7/2終値)
・伊藤忠グループの中核エネルギー会社である伊藤忠エネクスを主スポンサーとするインフラファンド。2019年2月上場時資産は、5物件全て太陽光発電所で、取得価額合計が約174億円だった。
・1/14発表の2020/11通期(2019/12-2020/11)は、営業収益が前期比25.0%増の15.70億円、営業利益が同25.9%減の3.16億円、1口当たり分配金が同0.3%増の6,000円。発電設備に関し、賃貸収入は堅調に推移したものの、公租公課や減価償却費が嵩んだことが響き営業減益となった。
・2021/11通期会社計画は、営業収益が前期比3.0倍の46.93億円、営業利益が同4.3倍の13.48億円、1口当たり分配金が同横ばいの6,000円。7/1終値で会社予想年分配金利回りが6.26%。昨年12月に大規模メガソーラーの松阪太陽光発電所を取得。合計7物件、取得価格合計が約587億円に達した。同ファンドの優先売買交渉権取得予定には風力発電所や水力発電所も含まれている。
タイ・ユニオン・グループ(TU)
市場:タイ 19.90 THB(7/1終値)
・1977年設立のツナ缶世界最大手。三菱商事(8058)が7.5%保有の第3位株主。主に魚介類・水産加工品、冷凍シーフード関連製品、ペットフード&高付加価値製品の3事業部門を営む。
・5/10発表の2021/12期1Q(1-3月)は、売上高が前年同期比0.1%増の311.25億THB、純利益が同77.4%増の18.03億THB。巣ごもり消費の追い風を受けて魚介類・水産加工品、およびペットフード&高付加価値製品が成長。高利益率製品の売上構成比を引き上げて粗利率が同1.5ポイント上昇。
・通期会社計画は、売上高が前期比3-5%増、設備投資支出額が同61-74%増。急速に高齢化が進み健康志向が高まるタイで、健康食品と機能性食品に注力。脳の働きを良くするとされるDHA(ドコサヘキサエン酸)を含むマグロ油の精製のほか、タイ飲料最大手のタイ・ビバレッジとの合弁事業で機能性飲料を開発中。また、昆虫食や培養肉などのフードテック企業への出資にも乗り出した。
■アセアン株式ウィークリーストラテジー
(7/5号「インドネシアの中心は製造業」)
インドネシアにとって金融業は、イスラム金融やマイクロファイナンス、フィンテックなどを含む成長産業と位置付けられる一方、政府統計によると、2019年の名目GDPに占める産業構成比は金融・保険が4.5%にとどまる。
同構成比の首位は二輪車などの輸送機器や飲食品などを中心とした製造業であり、19.8%を占める。インドネシアで最大の自動車・二輪車生産台数および販売数を誇るのは、コングロマリットのアストラ・インターナショナルである。また、人口・経済規模で突出し、消費市場として魅力が高まりつつあるインドネシアでは、日用消費財メーカーのユニリーバ・インドネシア、およびインドネシアの国民食とも言われる即席めんの「インドミー」で知られるインドフードCBP・サクセス・マクムールといった食品メーカーが時価総額のウェートを高めていくと期待される。
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アナリストのご紹介 フィリップ証券リサーチ部
笹木 和弘
フィリップ証券株式会社:リサーチ部長
証券会社にて、営業、トレーディング業務、海外市場に直結した先物取引や外国株取引のシステム開発・運営などに従事。その後は個人投資家や投資セミナー講師として活躍。2019年1月にフィリップ証券入社後は、米国・アセアン・日本市場にまたがり、ストラテジーからマクロ経済、個別銘柄、コモディティまで多岐にわたる分野でのレポート執筆などに精力的に従事。公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト(CIIA®)。