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【投資戦略ウィークリー 2021年6月14日号(2021年6月11日作成)】”政局相場とスガノミクス、半導体微細化の進む先”

 

■”政局相場とスガノミクス、半導体微細化の進む先”

  • 日本株を取り巻く見通しは良好さを増して来た。まず、新型コロナワクチン接種回数累計が6/10に2千万回を超えた。1日当たり接種回数では、6/7-10の4日間で1日当たり100万回を下回った日は無かった。6/9、菅首相は10月から11月にかけて希望する全国民に同ワクチン接種を終えたいと表明。そして、6/16の通常国会会期末を控えて、政府・与党内で菅首相が衆院解散に踏み切るとの見方が強まってきたと報じられたほか、石破元幹事長が、次期衆院選で党が勝利すれば総裁選を行わずに菅首相の続投が決まる可能性に言及するなど、政局がにわかに活気づいてきた。新型コロナワクチン接種普及の加速とともに支持率が上昇し、選挙戦を有利に戦うシナリオが現実味を帯びてきたと言えるかも知れない。
  •  4年前の9/28に安倍政権の下で衆議院が解散される前、日経平均株価は9月第2金曜日のメジャーSQ日に付けた19,239円まで下落後に反転上昇。解散・総選挙を挟んで11月上旬の23,000円超えまで上昇を加速。五輪・パラリンピック開催を巡る不透明感は残るが、政局が株価上昇の原動力として浮上する可能性はあろう。
  •  そういったシナリオの下、菅首相が今まで掲げた政策の株式市場への重要性が高まろう。昨年10月の時点で、①携帯電話料金の引き下げ、②地銀再編、③デジタル庁創設(デジタル化)が「スガノミクス3本の矢」と言われた。地銀再編に関して5/19に改正銀行法が成立したほか、デジタル庁の設置が今年9月に迫るなど「スガノミクス」本格展開の基盤が出来つつある。更に、6/9の経済財政諮問会議で少子化対策と子育て支援を加速させるための「こども庁」創設への早期検討着手が「骨太の方針」原案に明記されることとなった。関連銘柄について再度確認しておく必要があろう。
  •  半導体ファウンドリーの世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)が、経産省の支援を得て最先端半導体の開発を目的として日本に研究開発拠点を新設。半導体の性能に係る効率性向上は、半導体プロセス技術の微細化によって進展してきたなか、2次元では2nm(ナノメートル、ナノは10億分の1)で限界が見え始め、微細化の進む先に関して3次元の積層IC(集積回路)のほか、最先端のパッケージング採用といったイノベーションが求められ始めてきたことも主要な背景とされている。半導体関連の物色の矛先も、極端紫外線(EUV)露光の周辺工程で微細化の恩恵を受けてきたレーザーテック6920のような企業から、半導体パッケージングに強みを有する企業にシフトする可能性もあろう。(笹木)

 

6/14号では、イビデン(4062)、クボタ(6326)、ふくおかフィナンシャルグループ(8354)、日本ビルファンド投資法人(8951)、DBSグループ・ホールディングス(DBS)を取り上げた。

■主な企業決算の予定

  • 614日(月):Hamee、Link-U、エニグモ、ギフト、パーク24、ファーストロジック、ブラス、マネジメントソリューションズ、ミサワ、正栄食品工業
  • 615日(火):西松屋チェーン、ザッパラス 、(米)オラクル
  • 616日(水): (米)レナー
  • 617日(木): (米)アドビ、クローガー

 

主要イベントの予定

  • 614日(月)

・金融庁の氷見野長官が「コロナ後の経済と金融」について講演(時事通信社金融懇話会)、鉱工業生産(4月)

・北大西洋条約機構(NATO)首脳会議(ブリュッセル)、英中銀総裁が講演、中国・香港休場(端午節)

・ユーロ圏鉱工業生産 (4月)

 

  • 615日(火)

・第3次産業活動指数(4月)

・米FOMC(16日まで)、米・EU首脳会議(ブリュッセル)、英中銀総裁が講演

・米PPI (5月)、米小売売上高 (5月)、米ニューヨーク連銀製造業景況指数(6月)、米鉱工業生産(5月)、米NAHB住宅市場指数 (6月)、米企業在庫 (4月)、対米証券投資(4月)、独CPI (5月)、英ILO失業率(2-4月)、露GDP(1Q)

 

  • 616日(水)

・通常国会会期末、トヨタ株主総会、石油連盟会長会見、日本取引所グループの清田CEO定例会見、全研本社が東証マザーズに新規上場、

・貿易収支(5月)、コア機械受注(4月)、ブルームバーグ 日本経済調査(6月)、訪日外客数(5月)

・米FOMC声明発表・FRB議長記者会見と経済予測、米ロ首脳会談(ジュネーブ)、 「ビバ・テクノロジー」(パリ、ハイブリッド形式、19日まで)・米アップルやフェイスブックのCEOが参加

・米輸入物価指数(5月)、米住宅着工件数 (5月)、英CPI (5月)、中国小売売上高・工業生産・都市部固定資産投資 (5月)、ブラジル中銀が政策金利発表

 

  • 617日(木)

・日本航空株主総会、対外・対内証券投資 (6月6-12日)、東京販売用マンション(前年比) (5月)

・ユーロ圏財務相会合(ユーログループ)、米証券取引委員会(SEC)がビットコイン上場投資信託(ETF)巡る判断、トルコ中銀が政策金利発表、インドネシア中銀が政策金利発表、台湾中銀が政策金利発表

・米新規失業保険申請件数 (12日終了週)、米フィラデルフィア連銀製造業景況指数(6月)、 米景気先行指標総合指数(5月)、欧州新車販売台数(5月)、ユーロ圏CPI (5月)、豪雇用統計(5月)、ニュージーランドGDP (1Q)、中国新築住宅価格(5月)

 

  • 618日(金)

・日銀金融政策決定会合・終了後に結果を公表・黒田総裁が会見、大手商社が株主総会、Zホールディングス株主総会、Enjinが東証マザーズに新規上場

・全国CPI(5月)

・EU財務相理事会、イラン大統領選挙

 

  • 620日(日)

・東京など10都道府県に発令中の緊急事態宣言の期限、アルメニア議会選

(Bloombergをもとにフィリップ証券作成)

 

ナスダック・バイオテクノロジー指数

ナスダック総合指数の日足終値は、昨年来の上昇基調から今年の2/12と4/26でダブル・トップ(二番天井)を付けて5/12まで下落後、戻り上昇を試す展開となっている。2020年3月末以降、NYSE FANGプラス指数構成銘柄である巨大IT企業、およびフィラデルフィア半導体指数の構成銘柄がナスダック指数の上昇を牽引していた一方、ナスダック・バイオテクノロジー指数は出遅れ傾向だった。

6/7にバイオジェンBIIBエーザイ4523が共同開発したアルツハイマー病治療薬を米食品医薬品局が承認して以降、バイオテクノロジー株見直し機運が出始めた。新型コロナワクチンの開発でモデルナMRNAビオンテックBNTXに出遅れたノババックスNVAXも複数国で承認申請を検討中の模様。

【ナスダックバイオテクノロジー指数~ナスダック構成銘柄の出遅れ業種】

■穀物相場の高騰は収まったか?

中国で飼料用作物の需要が増加していること、および南米での干ばつの発生といった天候要因により、トウモロコシや大豆の価格は昨年夏頃から今年5月上旬まで高騰を継続。その後は、5/12に米農務省発表の穀物需給において大豆の8月期末在庫増の見通しが示されたこと、および5月中旬以降、中国での銀行与信の伸び鈍化を受けてコモディティ全般が売られたことなどから軟調に推移。

一方で、温暖化ガス排出量削減が求められるなか、トウモロコシは「バイオエタノール」として化石燃料の代替需要が、大豆は生産過程でCO2の排出が少ない「代替肉」としての需要が高まっている。ディアDEのような農機メーカーやアーチャー・ダニエルズ・ミッドランドADMのような穀物商社の商機は拡大しよう。

【穀物相場の高騰は収まったか?~バイオ燃料、植物肉の需要はこれから】

■東証REIT指数および用途別指数

上場投資信託(J-REIT)の指数には東証REIT指数のほか、用途別指数として東証REITオフィス指数、東証REIT住宅指数、東証REIT商業・物流等指数などがある。それらの日足終値を昨年3月末時点を100とした相対指数で見ると、オフィス指数は昨年10月頃までは相対的に出遅れていたが、今年に入ってから住宅指数を上回るパフォーマンスを上げている。

東京都心5区のオフィスビル市況は、今年4月までで、平均空室率が前月比14ヵ月連続上昇のほか、平均賃料単価が同9ヵ月連続下落。それでも、設備などで在宅勤務が進まない中小企業で小規模オフィスの需要が増え始め、中小規模ではテレワークに伴うオフィス需要縮小の動きが一服。テナント解約がピークアウトしたとの見方が優勢となってきたようだ。

【東証REIT指数および用途別指数~平均空室率上昇もオフィス指数は堅調】

■銘柄ピックアップ

イビデン4062

5,550  円(6/11終値)

・1912年創業。プリント配線板・パッケージ基板の電子事業、環境関連・特殊炭素・ファインセラミック・セラミックファイバー製品のセラミック事業、建材・樹脂・設備工事関係等のその他事業を営む。

・4/27発表の2021/3通期は、売上高が前期比9.3%増の3,234.61億円、営業利益が同96.3%増の386.34億円。主力の電子事業は、テレワークおよび遠隔教育の普及拡大に伴うパソコン市場の好調な推移に加え、データセンター向けサーバー市場の成長により同26%増収、同87%営業増益。

・通期会社計画は、売上高が前期比17.5%増の3,800億円、営業利益が同16.5%増の450億円。2020/3期の米インテルINTC向け売上構成比が26%を占めるなか、今年3月にインテルが米アリゾナ州に200億ドルで新工場の建設計画を発表。更に、半導体ファウンドリーの台湾積体電路製造の日本での研究開発のパートナー企業として、半導体パッケージング技術への期待が高まろう。

クボタ6326) 

   2,278  円(6/11終値)

・1890年創業、1930年設立。産業機械、建築材料、鋳鉄管、産業用ディーゼルエンジンのメーカー。農機、鋳鉄管ともに国内首位であり、農機は世界でも3位。環境関連製品を国内外で強化中。

・5/14発表の2021/12期1Q(1-3月)は、売上高が前年同期比22.3%増の5,376.86億円、営業利益が同2.6倍の777.23億円。国内向け農機が消費増税前の駆け込み需要の反動減から回復。北米向けトラクターが郊外移住に伴い需要増の他、アジア向け農機が農産物価格の高騰を背景に堅調。

・通期会社計画は、売上高が前期比10.6%増の2兆500億円、営業利益が同25.5%増の2,200億円。6/10に米農務省発表の6月の穀物需給にて米国のトウモロコシの期末(22年8月)在庫見通しがエタノール需要拡大を映して前月比10%減に引き下げられた。また、大豆もキューピー2809が大豆由来の「代替卵」の開発を発表。穀物需要の拡大に伴い、世界的に農機具需要も高まろう。

ふくおかフィナンシャルグループ(8354  

1,987 円(6/11終値)

・2007年に福岡銀行と熊本ファミリー銀行(現在は熊本銀行に改称)の統合により設立。同年に親和銀行を経営統合。2019年に十八銀行を経営統合後、2020年に長崎県で十八親和銀行を発足。

・5/14発表の2021/3通期は、経常収益が前年同期比3.0%減の2,747.54億円、経常利益が前期の▲52.50億円から604.27億円へ黒字転換。資金運用収益の減少に伴い減収。一方で、貸倒引当金繰入額は前期に貸倒引当金の見積り方法が変更されて667億円に上ったなか、15億円まで減少。

・通期会社計画は、経常利益が前期比19.2%増の720億円、年間配当は前期比10円増配の95.00円。5/28、傘下のモバイル専業銀行「みんなの銀行」がサービスの提供を開始。店舗を持たず、スマホアプリ上で全サービスを完結できる特徴を持つ。今国会で成立した改正銀行法によりアプリ開発やシステム販売への参入も期待されるほか、菅政権が進める地銀再編の観点でも注目されよう。

日本ビルファンド投資法人(8951        

712,000 6/11終値

三井不動産8801を主要スポンサーとするオフィスビル特化型J-REIT。2001年上場のJ-REIT最古参銘柄の一つで資産規模1兆円を果たした最初の銘柄。日本銀行が投資口7%以上を保有する。

・2/15発表の2020/12期(7-12月)は、営業収益が前期(2020/6期)比8.2%増の417.47億円、営業利益が同11.6%増の187.12億円、1口当たり分配金が同0.1%増の11,000円。期中平均稼働率は同0.6%ポイント低下したが、新規物件収益、既存物件賃料増額、および物件売却益が貢献した。

・2021/6期(1-6月)会社計画は、営業収益が前期(2020/12期)比11.1%増の463.96億円、営業利益が同16.3%増の217.53億円、1口当たり分配金が同3.2%増の11,350円。6/10終値での2021/12期までの会社予想年分配金利回りが3.07%。2021/12期(7-12月)に大口テナント退去による減益を見込むも、海外投資家の買越し基調が継続するJ-REIT市場の好調な需給の恩恵が期待されよう。

DBSグループ・ホールディングス(DBS) 

市場:シンガポール      29.89 SGD6/10終値)

・1968年にシンガポール開発銀行として設立。DBS銀行はアセアン最大の資産規模を誇り、18ヵ国で金融サービスを展開。2018年にユーロマネー誌で「世界最高のデジタルバンク」に選出された。

・4/30発表の2021/12期1Q(1-3月)は、総収益が前年同期比4.3%減の38.54億SGD、貸倒引当金繰入額が同99%減の1,000万SGD、純利益が同72.4%増の20.09億SGD。純金利収益の減少が減収に響いたが、域内の景気回復を反映した不良債権関連費用の大幅減少が増益に寄与した。

・通期会社計画は、貸出増加率が前期比1桁台半ば~後半、純手数料・コミッション収益が同2桁台の増加。コロナ禍を受けた行動制限や在宅勤務の普及により、対面取引よりも経費率の低いネット取引の比率が上昇。対面取引客よりも多くの種類の金融商品を買い、売買回数も頻繁となりやすいデジタル取引客の増加は、経費率引き下げのほか、純手数料・コミッション収益増に貢献しよう。

 

■アセアン株式ウィークリーストラテジー

6/14号「インドネシア首都移転計画とシャリア金融」

インドネシアの上位中所得国への早期復帰に向けて痛手となっているのは、2019年にジョコ大統領が打ち出した東カリマンタンへの首都移転計画がコロナ禍の影響により棚上げとなっていることだ。同計画は、建設計画の総工費が330億ドルとされ、2024年に政府機関が移転を行う予定だった。また、ジャカルタの人口過密や交通渋滞、地下水汲み過ぎによる地盤沈下などの問題解決に貢献すると期待されていた。一方で、2/1、国営3銀行のシャリア(イスラム法)部門の合併により国営銀行バンク・シャリア・インドネシアが発足。その式典上でジョコ大統領は「インドネシアは世界で最もイスラム教徒の人口が多い国であり、シャリア経済の面でも先進国となる時が来た」と強調。インドネシアのイスラム経済は、マレーシア、サウジアラビア、アラブ首長国連邦に次ぐ世界4位である。

 

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アナリストのご紹介 フィリップ証券リサーチ部

笹木和弘プロフィール笹木 和弘
フィリップ証券株式会社:リサーチ部長
証券会社にて、営業、トレーディング業務、海外市場に直結した先物取引や外国株取引のシステム開発・運営などに従事。その後は個人投資家や投資セミナー講師として活躍。2019年1月にフィリップ証券入社後は、米国・アセアン・日本市場にまたがり、ストラテジーからマクロ経済、個別銘柄、コモディティまで多岐にわたる分野でのレポート執筆などに精力的に従事。公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト(CIIA®)。

 

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世界経済のけん引役と期待されるアセアン(ASEAN:東南アジア諸国連合)。そのアセアン各国で金融・証券業を展開し、マーケットを精通するフィリップグループの一員である弊社リサーチ部のアナリストが、市場の動向を見ながら、アセアン主要国(シンガポールタイマレーシアインドネシア)の株式市場を独自の視点で徹底解説します。

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