【投資戦略ウィークリー 2021年5月31日号(2021年5月28日作成)】”MSCIリバランス、法律改正・制度変更、航空機需要”
■”MSCIリバランス、法律改正・制度変更、航空機需要”
- 5/27に東証1部の売買代金が約5兆6千億円と2018年2月以来の高水準となった。国際的な投資指標であるMSCIが5/12に指数の定期入れ替えを発表していたなか、その入れ替えが5/27取引終了後に実施されるとしていたことから、大引けにかけての関連銘柄の動きが市場で注目されていた。MSCI指数のメンテナンスには以下の3点がある。①5月と11月に、サイズ・セグメントやバリュー/グロースの全面的な見直しを行う「セミ・アニュアル・インデックス・レビュー(SAIR)」、②2月と8月に、実際に発生した時点では市場に反映されなかった重要な変化を次回のSAIR前に反映させる「クォータリー・インデックス・レビュー(QIR)」、③合併や買収、スピンオフなどのコーポレート・イベントなどが起きた場合の「随時の変更」である。SAIRとQIRは、実施時期が当該月内受渡し最終日となる営業日終了後であり、通常は実施の最低10営業日前に公表される。また、外国人投資可能浮動株比率(FIF)や組入れ時価総額の変更による売買需要が発生する銘柄がある点にも要注意だろう。
- 5/19に銀行に人材派遣やシステム販売、データ分析や広告などを新たに認める改正銀行法が成立したのに続き、5/26には、テレビ番組を放送と同時にインターネットでも流す「同時配信」の権利処理手続きを簡素化する改正著作権法、および、国や自治体、企業が取り組むべき気候変動対策を定めた改正地球温暖化対策推進法が参議院で可決・成立した。地銀の中には、ふくおかフィナンシャルG(8354)のように、フィンテック事業を展開する「iBankマーケティング」や国内初のデジタルバンク「みんなの銀行」などデジタル事業に先駆的に取り組む金融グループは注目されよう。また、ネット広告に押されて地上波広告の収入減に悩まされていたテレビ局にとって改正著作権法の施行により地上波とネットの垣根が低くなることは恩恵となろう。更に、6/1からは食品を扱う事業所を対象としてHACCP(ハサップ)に沿った衛生管理の運用が全国で義務化される。特に金属をはじめとした異物混入を防ぐ役割を担う金属検出器を扱う新東工業(6339)、および温度制御計測器メーカーのチノー(6850)などへの商機になるとみられる。
- また、当ウィークリー2021年3月1日号で述べた通り、米ボーイング(BA)の受注増や欧州のエアバスの増産計画など株式市場が航空機需要の高まりに焦点を当て始めたように見受けられる。三菱重工業(7011)、川崎重工業(7012)、SUBARU(7270)、東レ(3402)、新明和工業(7224)など「ボーイング関連」の航空機部品需要が増加に転じる時機が到来しつつあると言えそうだ。(笹木)
5/31号では、ハウスドゥ(3457)、宇部興産(4208)、ウェザーニューズ(4825)、TOTO(5332)、バンプー(BANPU)を取り上げた。
■主な企業決算の予定
- 5月31日(月):菱洋エレクトロ、トリケミカル研究所、オリバー
- 6月1日(火): 内田洋行、伊藤園、(米)ズーム・ビデオ・コミュニケーションズ
- 6月2日(水):不二電機工業、(米)スプランク
- 6月3日(木): 泉州電業、(米)ブロードコム、ドキュサイン、ルルレモン・アスレティカ
- 6月4日(金): 日本ハウスHD、モロゾフ、アインHD、日本駐車場開発、ティーライフ、ポールトゥウィン・ピットクルーHD、ファースト住建、ファーマフーズ、カナモト
■主要イベントの予定
- 5月31日(月)
・鉱工業生産(4月)、小売売上高(4月)、百貨店・スーパー売上高(4月)、消費者態度指数(5月)、住宅着工件数(4月)
・米休場(メモリアルデー)・英休場(バンクホリデー)、経済協力開発機構(OECD)経済見通し、「OPECプラス」共同技術委員会(JTC)、コンピュテックス台北(オンライン見本市、6月30日まで)
・ユーロ圏マネーサプライ(4月)、独CPI (5月)、トルコGDP(1Q)、中国製造業PMI (5月)、中国非製造業PMI(5月)、インドGDP (1Q)
- 6月1日(火)
・日銀の債券市場サーベイ(5月調査)、 設備投資・企業利益・企業売上高(1Q)、じぶん銀行日本PMI製造業(5月)、自動車販売台数(5月)
・米ブレイナードFRB理事が講演(オンライン)、英中銀総裁が講演、豪中銀が政策金利発表、国際オリンピック委員会(IOC)、調整委員会(2024年パリ大会)、「OPECプラス」閣僚級会合(オンライン)
・米建設支出 (4月)、米ISM製造業景況指数 (5月)、ユーロ圏製造業PMI (5月)、ユーロ圏CPI (5月)、ユーロ圏失業率 (4月)、独失業率(5月)、中国財新製造業PMI指数(5月)、ブラジルGDP(1Q)
- 6月2日(水)
・メイホーホールディングスが東証マザーズに新規上場、COVAX(コバックス)ワクチンサミット(オンライン形式)・菅首相と茂木外相が出席、日銀の安達審議委員が静岡県金融経済懇談会で講演(オンライン形式)・記者会見、マネタリーベース(5月)
・米地区連銀経済報告(ベージュブック)公表、米ミネアポリス連銀オンラインイベント(フィラデルフィア、シカゴ、アトランタ、ダラス各連銀総裁が参加)、米フィラデルフィア連銀総裁が講演、サンクトペテルブルク国際経済フォーラム(5日まで)、国際決済銀行(BIS)などが主催する金融と気候変動巡る会議「グリーンスワン2021」(オンライン、4日まで)
・米自動車販売 (5月)、ユーロ圏PPI (4月)、豪GDP (1Q)
- 6月3日(木)
・対外・対内証券投資(5月23-28日)、じぶん銀行 日本PMIサービス業・コンポジット(5月)
・米フィラデルフィア連銀総裁米・クオールズFRB副議長(銀行監督担当)が講演、英中銀総裁が講演
・米ADP雇用統計(5月)、米非農業部門労働生産性(1Q)、米新規失業保険申請件数(5月29日終了週)、米ISM非製造業総合景況指数(5月)、ユーロ圏総合・サービス業PMI (5月)、中国財新コンポジット・サービス業PMI (5月)
- 6月4日(金)
・家計支出(4月)
・米FRB議長とECB総裁がグリーンスワン2021の討論会に参加、G7財務相会合(ロンドン、5日まで)、「ビットコイン2021」会議(マイアミ、5日まで)、インド中銀が政策金利発表
・米雇用統計(5月)、製造業受注(4月)、ユーロ圏小売売上高(4月)、台湾GDP(1Q)
(Bloombergをもとにフィリップ証券作成)
※本レポートは当社が取り扱っていない銘柄を含んでいます。
■米中古車価格高騰の影響
米中古車価格の動向を示す「マンハイム指数」は今年4月に194.0と前月比14.8ポイント上昇し、2ヵ月連続で過去最高を更新。前年同月比では54%上昇した。半導体供給不足に伴う自動車生産の減少を受けて、レンタカー会社がオークションで中古車を購入せざるを得ない事態となっていることを反映している。5/12発表の4月の米消費者物価指数が前年同月比4.2%の大幅上昇となった主な要因の一つとして、中古自動車・トラック価格が同21.0%上昇したことが挙げられる。
米国のオンライン中古車販売で知られるカーバナ(CVNA)とブルーム(VRM)のうち、オンライン比率が高いカーバナの株価が相対的に堅調に推移。また、実店舗での販売が中心の老舗カーマックス(KMX)はオンライン販売を拡充中だ。
【米中古車価格高騰の影響~消費者物価上昇に寄与、関連銘柄は跛行色】
■コモディティ市況と米国株の関係
主に現物商品(コモディティ)の銘柄からなり、世界生産量による各銘柄のウエイトで加重平均される「S&P GSCIトータルリターン指数」は、世界経済の全般的な商品価格動向とインフレを示す先行指標とみなされている。これをS&P500指数で割った倍率は、1972年のニフティフィフティ・バブル、2000年のドットコム・バブル時を下回ったままであり、株式に対しコモディティ価格が歴史的な割安水準のままでであることが示されている。
当ウィークリー2021年5月24日号で述べたように、中国人民銀行が中国の銀行に対して新規融資額の伸びを抑制するよう指示していることを受けて、コモディティ市況は短期的に5月に入って上昇一服となっているものの、長期トレンドではまだ上昇が初動である可能性もあろう。
【コモディティ市況の米国株の関係~コモディティの歴史的割安水準は続く】
■水素・アンモニアへ高まる期待
2030年までのCO2排出量削減目標の2013年度比46%減に向けて政府が今夏に2030年度の電源構成見直しを正式決定する見通しの下、5/20、日本商工会議所が「原発の再稼働や建て替えが急務」とする意見書を経産省に提出した。
原発再稼働が政府の想定通りに進まない場合は水素・アンモニアの重要性が高まろう。水素の国際間輸送に関し、企業間連携組織を通じて水素をMCH(メチルシクロヘキサン)やアンモニアに変えるほか、低温で液化して専用船で運ぶ計画も進んでいる。特にアンモニアは既に生産・運搬・貯蔵などの技術やサプライチェーンが確立されているほか、石炭火力にアンモニアを混焼することで既存の石炭火力発電所を活用してCO2排出量を削減できる利点があり、注目されよう。
【水素・アンモニアへ高まる期待~水素の国際間輸送に係る企業間連携へ】
■銘柄ピックアップ
ハウスドゥ(3457)
1,060 円(5/28終値)
・2009年設立。不動産売買・賃貸のFC事業のほか、住みながら家を売却できるハウス・リースバック事業、リバースモーゲージ等の金融事業、不動産売買・仲介事業、リフォーム事業などを営む。
・5/11発表の2021/6期9M(2020/7-2021/3)は、売上高が前年同期比10.4%増の253.51億円、営業利益が同10.9%増の12.66億円。FC事業における新規加盟店数増、不動産ファンド等への売却によるキャピタルゲイン獲得、金融機関との提携によるリバースモーゲージ保証などが業績に寄与。
・通期会社計画は、売上高が前期比3.3-14.2%増の339.76-375.32億円、営業利益が同43.3-85.5%増の27.13-35.12億円。ハウス・リースバック事業での賃貸用保有不動産のファンドへの譲渡が通期業績に寄与する見通し。地域金融機関との連携によるリバースモーゲージ保証事業の累計契約件数は今年4月末で昨年6月末比39%増の502件。4/12時点で提携金融機関は24行に拡大。
宇部興産(4208)
2,342 円(5/28終値)
・1897年の採炭を発祥とし1942年に設立。ナイロン樹脂や合成ゴムなどの化学、セメントや石灰石などの建設資材、成形機などの機械などの事業セグメントを営み、それらに係る製造・販売を行う。
・5/12発表の2021/3通期は、売上高が前期比8.1%減の6,138.89億円、営業利益が同23.9%減の259.02億円。上半期における化学セグメントや機械セグメントの需要の減退、および化学品の市況悪化が減収に響いた。それに加えて、アンモニア工場での定期修理の実施が減益に影響した。
・2022/3通期会社計画は、収益認識に関する会計基準調整後の売上高が前期比5.9%増の5,700億円、営業利益が同42.8%増の370億円。化学・機械セグメントの回復を見込む。来年4月にセメント事業を三菱マテリアル(5711)と統合すると発表。また、国内最大手アンモニア生産者としての知見を活かし舶用アンモニア燃料の供給及び供給拠点の共同開発で伊藤忠商事(8001)等と合意。
ウェザーニューズ(4825)
5,440 円(5/28終値)
・1986年設立。気象を含む自然現象データを顧客と共に収集・加工しコンテンツとして提供。BtoB(法人向け)の気象予測に基づく業務支援、およびBtoS(社会向け)の情報コンテンツ提供を行う。
・4/5発表の2021/5期9M(2020/6-2021/2)は、売上高が前年同期比3.5%増の136.87億円、営業利益が同10.2%増の16.61億円。BtoB事業はコロナ禍に伴い航空気象において海外顧客への影響が継続した一方で、BtoS事業はスマホ向けサービスと広告事業の好調な推移により増収となった。
・通期会社計画は、売上高が前期比4.7%増の188億円、営業利益が同0.8%増の23億円。陸上気象では道路・鉄道市場で気候変動がもたらす極端気象に対応するサービスが伸びたほか、航海気象ではアジア・欧州のバルク船の新規顧客を獲得。陸・海・空を問わず輸送ニーズの高まりが業績回復への原動力になるとみられるなか、航空需要が回復すれば航空気象の伸びが期待されよう。
TOTO(5332)
6,080 円(5/28終値)
・1917年に現在のノリタケカンパニーリミテド(5331)から衛生陶器の製造販売を分離独立。温水洗浄便座「ウォッシュレット」やバス・キッチン・洗面商品を主要製品とするグローバル住設事業が柱。
・4/28発表の2021/3通期は、売上高が前期比2.6%減の5,809.35億円、営業利益が同12.5%増の413.51億円。主力のグローバル住設事業にておい中国が増収増益だったほか、新型コロナウイルス感染拡大を受けた衛生意識の高まりから北米のウォッシュレット販売台数が同約1.8倍となった。
・2022/3通期会社計画は、収益認識に関する会計基準調整後の売上高が前期比9.9%増の6,350億円、営業利益が同11.0%増の440億円。温水洗浄便座は、2020年末の普及率が日本では約80%に上る一方、米国は10%前後にとどまることから、紙節約の意識と共に米国での更なる普及が見込まれる。また、金具に触らなくても水が流れる非接触型水栓の学校への導入加速が期待される。
バンプー(BANPU)
市場:タイ 12.60 THB(5/27終値)
・1983年にタイ北部ランプーン県のバンプー鉱山で石炭採掘のために設立。タイのほか日米中含むアジア太平洋10ヵ国で石炭・天然ガス・電力・総合エネルギーソリューションの4事業を展開。
・5/10発表の2021/12期1Q(1-3月)は、総収益が前年同期比16.3%増の7.36億USD、EBITDAが同67.1%増の2.74億USD。昨年10月に買収した米テキサス州のバーネット・シェールガス田が新たな収益源となったほか、インドネシア産石炭価格の高騰に伴う石炭販売価格の上昇が業績に貢献。
・同社はタイのほかシンガポール・中国・日本などでグローバルな再生可能エネルギー事業者としてプレゼンスを高めている。傘下のバンプージャパンは、日本での太陽光発電プロジェクトへの取組みが今年1月末で稼働済み11ヵ所、建設中2ヵ所に達したほか、会津若松市との協定によりスマートシティ推進施設で福島県内の再生可能エネルギーを利用したモビリティーの活用を推進中だ。
■アセアン株式ウィークリーストラテジー
(5/31号「アセアン経済共同体(AEC)・その3」)
世界銀行による分類(2016年基準)では、1人当たり国民所得(GNI)が12,235ドル超の国が「高所得国」とされる一方、1,005ドル以下が「低所得国」、1,006-3,955ドルが「下位中所得国」、3,956-12,235ドルが「上位中所得国」とされる。アセアンではシンガポールとブルネイが高所得国である。カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム(CLMV)はこの10年の間に低所得国から卒業して下位中所得国になった後発国であり、当面の目標は上位中所得国に向けて経済発展を遂げることだ。そのためには労働供給の拡大とインフラ投資による資本蓄積が必要だろう。一方で、インドネシア、マレーシア、フィリピン、タイの上位中所得国は「中所得国の罠」から脱却して高所得国に移ることを目指している。これらの国は経済のデジタル化を通じた生産性向上が不可欠だろう。
- 上場有価証券等のお取引の手数料は、国内株式の場合は約定代金に対して上限1.265%(消費税込)(ただし、最低手数料2,200円(消費税込)、外国取引の場合は円換算後の現地約定代金(円換算後の現地約定代金とは、現地における約定代金を当社が定める適用為替レートにより円に換算した金額をいいます。)の最大1.10%(消費税込)(ただし、対面販売の場合、3,300円に満たない場合は3,300円、コールセンターの場合、1,980円に満たない場合は1,980円)となります。
- 上場有価証券等は、株式相場、金利水準等の変動による市場リスク、発行者等の業務や財産の状況等に変化が生じた場合の信用リスク、外国証券である場合には為替変動リスク等により損失が生じるおそれがあります。また新株予約権等が付された金融商品については、これらの権利を行使できる期間の制限等があります。
- 国内金融商品取引所もしくは店頭市場への上場が行われず、また国内において公募、売出しが行われていない外国株式等については、我が国の金融商品取引法に基づいた発行者による企業内容の開示は行われていません。
- 金融商品ごとに手数料等及びリスクは異なりますので、お取引に際しては、当該商品等の契約締結前交付書面や目論見書又はお客様向け資料をよくお読みください。
免責事項
- この資料は、フィリップ証券株式会社(以下、「フィリップ証券」といいます。)が作成したものです。
- 実際の投資にあたっては、お客様ご自身の責任と判断においてお願いいたします。
- この資料に記載する情報は、フィリップ証券の内部で作成したか、フィリップ証券が正確且つ信頼しうると判断した情報源から入手しておりますが、その正確性又は完全性を保証したものではありません。当該情報は作成時点のものであり、市場の環境やその他の状況によって予告なく変更することがあります。この資料に記載する内容は将来の運用成果等を保証もしくは示唆するものではありません。
- この資料を入手された方は、フィリップ証券の事前の同意なく、全体または一部を複製したり、他に配布したりしないようお願いいたします。
アナリストのご紹介 フィリップ証券リサーチ部
笹木 和弘
フィリップ証券株式会社:リサーチ部長
証券会社にて、営業、トレーディング業務、海外市場に直結した先物取引や外国株取引のシステム開発・運営などに従事。その後は個人投資家や投資セミナー講師として活躍。2019年1月にフィリップ証券入社後は、米国・アセアン・日本市場にまたがり、ストラテジーからマクロ経済、個別銘柄、コモディティまで多岐にわたる分野でのレポート執筆などに精力的に従事。公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト(CIIA®)。